第28話 糸使い
目の前にあの時の仇。
[99]《S》
「蛇喰…」
噛み締めるように名前を呼ぶ。
「わぁ!覚えてくれたんですね嬉しい♩」
はしゃぐ蛇喰。
俺の気持ちは沸騰するマグマのように熱くなっている。
心臓の鼓動もかつてないほど早い。
戦いに怒りは不要と分かってはいながら抑えきれない。
「あっちもどんぱちやってるっぽいので僕らもやりましょう!」
——ビュン!
蛇喰がナイフを投げる。
様々な角度からのナイフ。
俺は能力は使わず、最小限の動きで躱す。
「あれれ、強くなってますね」
「お前を、殺すためだ」
「いいですね!楽しくなってきました!」
蛇喰は服を広げる。そこには暗器の数々が。
手裏剣や棒手裏剣が飛んでくる。
躱し鉄甲で弾く。
「そんなものじゃ俺は殺せないぞ蛇喰」
一歩、また一歩と近づく。
「これはどうでしょう」
蛇喰が姿を消す。
以前見せた透明化。
俺は目を瞑り流れを読む。
"心眼"心の目で全てを見る。
空気の流れ、動きで相手の位置と動きを特定する。
普段は成功しないこの技も今ならできる気がする。
——俺のすぐ右側の空気が動く
「そこだ!」
読んだ位置に拳を打ちつける。
感触はあった。
しかし、有効打にもならないほど、かすっただけだった。
「本当にわかっちゃうんだ。すごいですね!神城くん!」
楽しそうに笑う
「お前の能力はもう通用しない!」
「僕の能力話しましたっけ?」
不思議そうな顔で問う。
その瞬間。
——スパッ!
頬が切れる。
手裏剣がひとりでに動いている。
さっき投げていた暗器達が勝手に動き、俺を狙う。
「どうなってる」
少し焦りつつも、見えるものは避けられる
「はは!楽しいですね〜」
蛇喰の右指が変に動く。
俺は能力を発動する。
蛇喰の指から薄らと武器に繋がる何かが見える。
「糸…か?」
「なんでも見えるんですね!」
糸で操る暗器が俺に向かう
スローモーションの世界で全てを躱す
「糸が能力だったか。だがタネは割れた。お前の攻撃はもう当たらないぞ!」
「ふふふふ。ふははは」
「何がおかしい…?」
自分の顔に違和感を感じる
鼻血が出ている。平衡感覚も少しおかしい。
まさか…
「毒…?」
「当たりでーす!今回は色々警戒して毒付きの道具持ってきました♩」
あの時頬を切った手裏剣か。
「まぁ1回じゃそんなに効かないですけどいっぱい当たると毒だけでも死んじゃいますよ!」
油断した。
能力は透明化だけだと思っていた。
蛇喰は再び暗器を操り全方位から攻撃を仕掛けてくる
(これで完全に能力は割れた、ここしかない)
俺は能力をフルで使う。
スローモーションの世界で俺だけが動く。
——訓練場
「結局目の能力何が変わったんだ」
「分かんないですけど真さんの動きも見えるようになってました」
「俺にはお前が早く動いたように見えたが?」
うーんと悩んでいると
「俺が殴るのが手っ取り早いか」
……この師匠殴りたいだけだろ…と思いつつ
「やってみましょうか」
雷を纏う真さんが目にも止まらぬ速さで迫る。
能力でスローモーションになる。
以前と違い俺が動けている。
スローモーションの世界で、俺だけが動けていた。
真さんの拳を躱す。
「やっぱりな」
「世界がゆっくりでその中で俺動けました」
「何回使えそうだ?」
「わ、わかんないです」
その後2人で検証しスローモーション中も動けるのは1日3回が限度だった。
——全方位からくる暗器を躱す
そして蛇喰の方に走る
スローモーションが解け、暗器同士が後ろでぶつかる。
「え?早い!」
蛇喰には、俺が高速で移動したようにしか見えない。
構える暇も与えず、俺の拳が蛇喰を捉える。
——ズサー
蛇喰は3mほど後方に吹き飛ぶ。
しばらく起き上がらない。
そのまま距離を詰めるつもりが…
身体が動かない。
(なんだ…毒か?いや…糸?)
見えない程細い糸が俺を縛っている。
「いたたた。本当に強くなってますねー」
蛇喰の白い前髪には血が付き、鼻は少し曲がっていた。
「痛いですけどこれで終わりですね」
俺は指しか動かせない。
吹き飛んだ位置からゆっくりとこちらに向かってくる。
「向こうももう決着でしょう」
風間さんの方も音が止んでいる。
「お前らの…お前らの目的はなんなんだ」
「?知りませんよそんなの〜僕は殺すのが楽しいだけです!」
まるで無垢な少年のような笑顔を向けてくる。
「そんな事だけのために、こんなに人を殺してるのか」
「そうですよ?」
「お前らは壊れてる」
「知ってますよー!」
俺は死を覚悟した。蛇喰のナイフは俺の心臓を突き刺す一歩手前で止まる。
「なんですかデウス」
耳に手を当てて話している。
「えー!そんな僕の楽しみだったのに…」
「了解です…」
まるでおもちゃを奪われた子供のように。
「神城くんは殺しちゃダメらしいです」
理解ができない。
「じゃあ、神城くんにはこっちで」
先ほどのナイフとは別のナイフで腕と足を切り付ける。
俺の意識はすぐに真っ暗になる。
——また、何も出来ないのか…




