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72時間ワンオペ死した元球児、女神の『ボッタクリ』通販と『絶対破壊不能』のノートPCで異世界最強のコンビニ・スローライフを始める  作者: 月神世一


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EP 8

演習という名の公開処刑

「これより! ポポロ帝国軍、第一師団による特別演習を開始する!!」

 ルナの魔法で作り出された『帝都の広場』に、イグニスの裏返った声が響き渡った。

 俺(皇帝役)と、ニャングル(財務大臣役)、そして竜王ドラゴラス夫妻は、広場を見下ろすバルコニーの特等席に並んで座っていた。

 眼下には、ガンツ特製の金メッキ鎧を着たイグニスと、その後ろに並ぶ『3万の軍勢(※実態は村のおばちゃん・おじちゃん30名+ルナの幻影魔法)』が陣取っている。

「ほう。あれだけの数を動かすとは、さすが我が息子だ。統率が取れているな」

 ドラゴラスが腕を組み、満足そうに頷く。

 いや、統率も何も、後ろの2万9970人は『ただの立体映像』だから微動だにしないだけなのだが。

 前の30人も、緊張でカチコチに固まっているだけだ。竹槍を持つ手がプルプル震えている。

「しかし皇帝陛下。ただ整列しているだけでは、実戦の練度は分からん。誰か、イグニスの相手となる『仮想敵』はいないのか?」

 ドラゴラスの鋭い指摘に、俺は冷や汗を流しながら咳払いをした。

「……もちろんだ。今回の演習では、我が帝国の親衛隊長であるキャルルに、反乱軍の将役を務めさせている」

 俺が合図を送ると、広場の反対側から、キャルルがトンファーを構えて進み出た。

 今日の彼女は、ウサギ耳の姫様スタイルではなく、動きやすい軽装の武闘家スタイルだ。

(頼むぞキャルル。打ち合わせ通り、『イグニスを立てつつ、わざと負ける』んだぞ)

 俺が心の中で祈る中、広場の中央でイグニスとキャルルが対峙した。

「フハハハハ! 愚かな反乱軍め! このポポロ帝国最強の将軍、イグニス様が相手になってやるぜ!」

「くっ……! いくわよ、イグニス将軍!」

 キャルルが地を蹴り、イグニスに向かって突進する。

 そして、トンファーを振り下ろした。

 ――ぽすっ。

 キャルルのトンファーが、イグニスの鎧に『非常に優しく』触れた。

 蚊が止まるよりも軽い一撃だ。

「……ふむ?」

 バルコニーのドラゴラスが、片眼鏡の奥の目を細めた。

 マズイ。手加減が露骨すぎる!

 キャルルは武術の達人だが、演技力は素人以下(大根役者)だったのだ!

「あー、やられたー」

 キャルルはトンファーを落とし、その場で棒立ちになりながら、感情を一切込めずに言った。

「うわー。さすがイグニス将軍。つよーい。私なんて、手も足も出ないわー。降参、降参ー(棒読み)」

 酷い。学芸会でももう少しまともな演技をする。

 俺とニャングルは、バルコニーの柵に頭を打ち付けたかった。

(アホかキャルルちゃん! 棒読みにも程があるやろ!)

(どう見てもヤラセだ! ドラゴラスにバレる!!)

 俺たちが絶望する中、なぜかドラゴラスは深く頷いていた。

「……なるほど。相手の戦意を根こそぎ奪う『絶望のオーラ』を放っているのだな。刃を交える前に、あの凄腕の戦士キャルルに己の敗北を悟らせるとは……イグニスめ、恐ろしいまでに成長したな」

 ……竜王の親バカフィルター、マジでパネェ!!

 何を見ても肯定的に捉えてくれる! これは助かる!

「見たか反乱軍! これが俺様の実力だァァァッ!!」

 そして、最も最悪なことに、一番調子に乗ったのはイグニス本人だった。

 親父に褒められ(ていると勘違いし)、相手が全く反撃してこない状況に、彼の『見栄っ張りなエゴ』が暴走を始めたのだ。

「フハハ! 降参だと? 甘いぜ! 帝国の将軍に逆らった罪は重い! 仕上げに俺様の必殺技を見せてやる!」

 イグニスが、両手に深紅の炎(闘気)を纏い始めた。

 おいバカ! 演習でなんでガチの魔法を使おうとしてるんだ!

「喰らいやがれ! 『爆炎竜牙撃ドラグーン・フレア・スマッシュ』!!」

 ゴォォォォォォッ!!

 イグニスが本気の炎を纏った拳を、無防備なキャルルに向かって振り下ろした。

 直撃すれば、ただでは済まない熱量だ。

 火の粉が舞い、キャルルの自慢の白いウサギ耳の先が、チリッと焦げる。

「あっ……」

 その瞬間。

 キャルルの赤い瞳から、演技の『え』の字が消え失せた。

 武術家としての本能。

 あるいは、大切なウサギ耳を焦がされたことに対する、純粋な怒り。

 彼女の脳髄が『イグニスを排除せよ』と命令を下した。

「……熱いじゃないのよ、このトカゲ!!」

 ドゴォォォォォォォンッ!!

 キャルルの体がブレたかと思うと、彼女のかかとが、猛スピードで振り下ろされたイグニスの顎を、強烈にカチ上げた。

 月影流・対空迎撃蹴り。

 手加減一切なしの、フルスイング。

「ぎゃべぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!??」

 イグニスの巨体が、見事な放物線を描いて宙を舞った。

 ガンツ特製の金メッキ鎧からパーツを撒き散らしながら、広場を数十メートルもバウンドし、最後に――自分を象った『100メートルの純金像』の足の小指に激突して、白目を剥いて沈黙した。

「…………」

「…………」

 広場に、水を打ったような静寂が落ちた。

 サクラの村人たちも、バルコニーの俺たちも、ポカンと口を開けてその光景を見つめている。

 秒殺。

 圧倒的な、秒殺だった。

「あ……」

 キャルルが我に返り、自分が何をしてしまったかに気づいて、顔面を真っ青に染めた。

「し、しまった……っ! 皇帝陛下ァァァ! 申し訳ありません、つい反射的にフルボッコにしてしまいましたぁぁぁ!!」

 キャルルがその場で土下座する。

「(終わった……)」

 俺は魂が口から抜け出るのを感じた。

 ニャングルはすでに逃亡の準備(荷造り)を始めている。

 将軍(息子)、一撃KO。

 しかも、部下(反乱軍)に。

 これ以上の公開処刑があるだろうか。

 ギギギギ……と、俺は錆びついた機械のように首を動かし、隣に座る竜王ドラゴラスを見た。

 ドラゴラスは、沈黙したまま立ち上がった。

 その隻眼からは、先ほどの温厚な親バカの光は消え失せ、冷酷な『竜の王』としての怒気が立ち上っているように見えた。

「……皇帝陛下。ダイチ・アカギよ」

 ドラゴラスの低く、地を這うような声が響く。

「これは、どういうことか、説明してもらえるか?」

 絶体絶命。

 ポポロ帝国(偽)の建国からわずか数時間、最大の国難がいま、皇帝(元コンビニ店員)の肩に重くのしかかったのだった。

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