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72時間ワンオペ死した元球児、女神の『ボッタクリ』通販と『絶対破壊不能』のノートPCで異世界最強のコンビニ・スローライフを始める  作者: 月神世一


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EP 9

親父の愛、息子の涙

「……これは、どういうことか、説明してもらえるか?」

 ポポロ・マート(偽装王宮)のバルコニー。

 竜王ドラゴラスの低く、地響きのような声が俺を真っ直ぐに貫いた。

 広場では、帝国最強の将軍イグニスが、反乱軍キャルルの蹴り一発で白目を剥いて転がっている。

 弁解の余地はない。皇帝たる俺の采配ミス、いや、キャスティングの完全な失敗だ。

「えーと、これはですね……我がポポロ帝国の、その……『実戦を想定した究極の抜き打ちテスト』でありまして……」

 俺は必死に顔の筋肉を硬直させ、深夜のクレーム対応で培った『意味不明な言い訳で煙に巻くスキル』を発動させた。

「ふむ。抜き打ちテスト、だと?」

「左様です! 将軍といえど、慢心すれば足元をすくわれる! それを彼に身を以て教えるための、愛のムチ……」

 ――グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ~~~~ッ。

 俺が必死に口八丁で誤魔化そうとした、その時だった。

 バルコニーの隅から、雷鳴のような『腹の虫の音』が響き渡った。

「あぅ……。わたくし、限界ですわ……魔力もカロリーも、スッカラカンですの……」

 ルナだった。

 昨晩から『世界樹の建築魔法』と『純金の錬金術』、さらに『3万人の幻影コピー』という規格外の魔法を維持し続けていたエルフの王女が、ついにガス欠を起こして床にへたり込んだのだ。

「おいルナ!? 今ここで魔力が切れたら——」

 俺が叫ぶより早く、眼下の『ポポロ帝国』に異変が起きた。

 ポンッ、ポンッ、ポンッ!

 広場を埋め尽くしていた『3万の精鋭(幻影)』たちが、シャボン玉のように次々と弾けて消えていく。

 残されたのは、竹槍を持ってオロオロしている30人の村人たちだけ。

 さらに。

 パラパラと音を立てて、豪華絢爛な大理石のツタが枯れ落ち、元の素朴なレンガ造りの『ポポロ・マート』の看板がこんにちはと顔を出した。

 そして極めつけは、広場の中央でギラギラと輝いていた『100メートルの純金イグニス像』だ。

 ボフンッ!!

 鈍い音と共に純金のメッキが剥がれ落ち、元の『廃材と鉄クズで作られた不格好な骨組み』へと戻ってしまった。

「…………」

「…………」

 ドラゴラス夫妻は、一瞬にして『ド田舎の村』へと戻った景色を、無言で見下ろしていた。

 終わった。

 魔法が解けた。ハリボテ国家が、完全に崩壊した。

 ニャングルはすでにバルコニーからロープを垂らして逃げようとしている。

「あ、いってて……顎が外れるかと……ん?」

 広場で気絶していたイグニスが、ようやく目を覚ました。

 彼は周囲の景色を見て、そしてバルコニーから見下ろすドラゴラスと目が合い――全てを悟った。

「ヒッ……!!」

 イグニスは悲鳴を上げ、猛ダッシュでバルコニーへと駆け上がってきた。

 そして、俺とドラゴラスの間に滑り込み、額を床に激しく擦り付ける見事な土下座を決めた。

「お、親父ィィィ! 違うんだ! これは……その……!」

「……何が違うのだ、イグニス」

 ドラゴラスの声は、氷のように冷たかった。

 イグニスはガタガタと震え、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、ついに白状した。

「ご、ごめんなさいィィィ!! 全部、俺様の嘘だぁぁぁ!!」

 イグニスの絶叫が響く。

「帝国なんてねぇ! 将軍でもねぇ! 3万の部下も純金の像も、全部ハリボテだ!! 俺様は昨日まで、公園の隣のボロ小屋に住んでるただのホームレスで……そこにいる兄貴ダイチに拾われて、村の自警団の団長をやってるだけの、ただのトカゲ野郎だぁぁぁっ!!」

 隠し事なしの、完全な自白。

 俺は無言で、手元にある『絶対破壊不能』のノートPCを構えた。

 ドラゴラスが怒りでブレスを吐いた瞬間、俺が盾になってキャルルたちだけでも守る。その覚悟を決めた。

 ドラゴラスは、土下座して泣きじゃくる息子の頭を、静かに見下ろしていた。

「……イグニス」

「ひぃぃぃっ! ご、ごめんなさ――」

「――ガッハッハッハッハッ!!!」

 突如、ドラゴラスが天を仰ぎ、バルコニーが揺れるほどの豪快な笑い声を上げた。

「え?」

 イグニスが間抜けな声を漏らす。俺も、逃げかけていたニャングルも目を丸くした。

「バカ者め。親が息子の『嘘』に気づかんとでも思ったか」

 ドラゴラスは、目尻に浮かんだ涙を拭いながら笑い続けた。

「お前が手紙に書いた『部下3万人』の時点で、腹を抱えて笑ったわ。お前は昔から、自分の小遣いの計算すら満足にできんかっただろうが」

「あらあら、本当にねぇ。それに純金の像なんて、あの村一番のケチだったイグニスちゃんが建てるわけないもの」

 母親も、コロコロと上品に笑っている。

 バレていた。最初から、完全にバレていたのだ。

「お、親父……お袋……。じゃあ、なんでわざわざ、こんな辺境まで……」

 呆然とするイグニスに、ドラゴラスは優しく、しかし力強い眼差しを向けた。

「お前がどんな馬鹿な暮らしをしているか、この目で確かめてやろうと思ってな。だが……まさかこれほど大掛かりな『馬鹿』をやらかすとは予想外だった」

 ドラゴラスは視線を上げ、俺たちを見た。

 そして、広場でオロオロしている村人たちへと視線を移す。

「……イグニスよ。お前は将軍でも、英雄でもなかった。ただの見栄っ張りの馬鹿息子だ。だがな」

 ドラゴラスは、イグニスの肩にドン、と大きな手を置いた。

「お前の一つの『見栄』を守るために、これだけの人間が、エルフが、ウサギ耳の娘が、そして『皇帝』を演じた異郷の男が……一丸となって、ここまで本気で馬鹿をやってくれた。お前のためにな」

 ドラゴラスの言葉に、俺たちは息を呑んだ。

「数万の兵を従える王など、この大陸にはいくらでもいる。だが、お前のためなら『一日だけの帝国』を本気で作ってくれる……そんな狂った、いや、愛すべき『友』を持つ男は、世界中を探してもお前だけだ」

「親父……」

「誇りに思え、イグニス。お前は国よりも、黄金よりも価値のある『最高の宝物なかま』を手に入れたのだ。……立派になったな、我が息子よ」

 竜王の、深く温かい声。

 イグニスの目から、大粒の涙がボロボロとこぼれ落ちた。

「う、うわぁぁぁぁぁぁん!! 親父いいぃぃぃぃ!!」

 イグニスは子供のように声を上げて泣きじゃくり、ドラゴラスの大きな胸に飛び込んだ。

 ドラゴラスも、我が子の背中を優しく撫でている。

 母親もハンカチで目頭を押さえていた。

 ……なんてこった。

 ただのドタバタ偽装工作が、こんなにも美しい家族の感動巨編にすり替わってしまうなんて。

「ダイチさん……よかったですね」

 キャルルが、俺の袖を引っ張りながら嬉しそうに微笑んだ。彼女の目にも涙が光っている。

 ニャングルも「なんや、調子狂うわ」と照れくさそうに鼻をすぱすぱと擦っていた。

「ああ、そうだな。……まあ、色々と寿命は縮んだがな」

 俺も、柄にもなく心が温かくなるのを感じていた。

 村人たちからも、安堵の歓声と拍手が沸き起こる。

 こうして、ポポロ村の偽装帝国事件は、竜王の寛大な親心によって、誰も傷つくことなく(イグニスの顎以外は)、美しく幕を閉じたのである。

 ……そう。

 この直後、あの『強欲な女神』から、絶望的な請求書が届くことなど、感動に包まれた俺たちは知る由もなかったのだ。

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