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72時間ワンオペ死した元球児、女神の『ボッタクリ』通販と『絶対破壊不能』のノートPCで異世界最強のコンビニ・スローライフを始める  作者: 月神世一


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EP 7

皇帝陛下の謁見コント

 ルナの規格外の植物魔法によって、ポポロ・マートの店内は見事な『王宮の謁見の間』へと変貌していた。

 おにぎりや日用品が並ぶ陳列棚は、色鮮やかな花のアーチとツタで完全に隠蔽。

 レジカウンターは純白の大理石(風の魔力壁)で覆われ、その奥にガンツ特製の『超豪華パイプ椅子(金箔張り)』が鎮座している。

 ただ一つ、店内に微かに漂う『ポポロおでん(牛スジ出汁)』の匂いだけは、どうしても消しきれていなかった。

「……来るぞ」

 玉座(パイプ椅子)に深く腰掛けた俺は、ルチアナ通販で買った赤いベルベットのカーテン(マント)を翻し、極限まで顔の筋肉を引き締めた。

 深夜コンビニのワンオペで、たちの悪い酔っ払いやクレーマーの威圧をやり過ごすために身につけた『無の接客スマイル(通称:鉄面皮)』だ。

「両陛下、御成りィィィッ!!」

 扉の前に立つイグニスが、裏返った声で叫ぶ。

 ウィィィン……と、ガンツ特製のスライム粘液駆動・自動ドアが開いた。

 ズシン。

 一歩踏み出しただけで、室内の空気がビリビリと震えた。

 漆黒のスーツ(貴族服)を着こなした隻眼の竜王ドラゴラスが、妻を伴って謁見の間へと入ってくる。

 その後ろには、ガタガタと鎧を鳴らしながら付き従うイグニス。

 俺の隣には、美しいドレスを纏った『帝国の姫君兼・親衛隊長』のキャルルが控え、斜め後ろには『宮廷財務大臣』のニャングルが算盤を隠し持って待機している。

「……面を上げよ、竜王ドラゴラス」

 俺は腹の底から声を出し、ゆっくりと鷹揚に頷いてみせた。

「我がポポロ帝国へようこそ。余が、この国を統べる皇帝、ダイチ・アカギである」

「ご丁寧な歓迎、感謝する。皇帝陛下」

 ドラゴラスは恭しく一礼したが、その隻眼は俺の全身を舐め回すように観察していた。

「……ほう」

 ドラゴラスが微かに目を細める。

「(来た! バレたか!? 王冠がダイソーの100円カチューシャだってバレたか!?)」

「(ダイチはん! 汗かいたらアカン! 堂々とするんや!)」

 内心で冷や汗を滝のように流す俺とニャングルをよそに、ドラゴラスは感心したように顎を撫でた。

「私の『竜王の覇気』を正面から受けて、微塵も動じないとは……。しかも、魔力や闘気を一切表に出さず、まるで『ただの一般人』のように見せかけるほどの完璧な気配遮断。……底が知れんな」

 いや、ただの一般人だからだよ! 覇気とかよく分かんねぇんだよ!

 だが、この勘違いは好都合だ。

「フッ……我が覇道の前には、竜の威圧もそよ風に等しい。で、あろう? キャルル」

「は、はいっ! お兄様……いえ、皇帝陛下のおっしゃる通りですわ!」

 キャルルが真っ赤な顔で、姫君らしい(?)相槌を打つ。

 ドラゴラスは満足そうに頷いた。

「なるほど。この得体の知れない大物感……。我が愚息イグニスが、将軍として忠誠を誓うのも頷ける。イグニスよ、良き主君に巡り会えたな」

「お、おう! 俺様は皇帝陛下のために粉骨砕身働く覚悟だぜ!(だから早く帰ってくれ!)」

 よし、いける!

 竜王は完全に俺の「無の接客顔」を「強者の余裕」と勘違いしている。

 このまま適当に茶を濁して、お引き取り願えれば――。

 ――ウィィィン。

 その時、空気を読まない自動ドアが再び開いた。

「えっ」

 全員の視線が入り口に向く。

 そこに立っていたのは、ポポロ・マートの観光牛舎便で絶賛ボロ儲け中の『幸運の妖精』――全身ピンク色で、触覚と安っぽい羽根の生えた、薄汚れた着ぐるみ(ラッキ君)だった。

「……あの、お邪魔しますだぁ」

 謁見の間(店内)に、40歳の村人Aさんの野太く、そして猛烈に気の抜けた声が響き渡った。

「(なっ!? なんでお前がここに来るんだよ!!)」

「(アカン! さっきの観光客の案内が終わって、休憩室に戻ってきたんや!)」

 俺とニャングルが顔面蒼白になる。

 ラッキ君(村人A)は、目の前にとんでもない威圧感を放つ竜王がいることにも気づかず(着ぐるみの視界が極端に狭いため)、のそのそと歩み寄ってきた。

「あ、そこのお客さんたち。記念写真、撮りましょうか? 今なら妖精同伴プランでプラス3,000円ですだぁ」

 着ぐるみの手が、ピースサインを作った。

 角度はきっちり45度だ。

「…………」

 静寂。

 圧倒的な、静寂。

 ドラゴラスの隻眼が、見開かれていた。

 百戦錬磨の竜王の思考回路が、完全にフリーズしている。

「……皇帝陛下。この、奇妙な生き物は……一体……?」

「えっ、あ、これは……」

 俺が言葉に詰まった瞬間、ニャングルが算盤を放り投げて前に飛び出した。

「て、帝国の守り神ですわ!!」

「守り神?」

「そうでんがな! このお方こそ、我がポポロ帝国に古くから伝わる幸運の化身、『宮廷道化師にして聖獣・ラッキ君』に御座います!!」

 ニャングルがその場で思いついたデタラメを叫ぶ。

 ドラゴラスは、ラッキ君の薄汚れたピンクのボディをマジマジと見つめた。

「聖獣……? だが、この生物からは一切の魔力を感じない。ただの布切れと、加齢臭しかしないが……」

「ははは! お目が高い! それこそが聖獣の証! 完全に気配を消し、自然と一体化しているのですわ!」

「なるほど……。皇帝陛下といい、この国は『虚無』を極めた者ばかりか」

 ドラゴラスが、なぜか深く納得してしまった。

 竜王の隣で、イグニスの母親が「あらあら、可愛い妖精さんねぇ」と微笑んでいる。

「写真、撮りますだぁ? 断ると、帰りの空の旅で乱気流に巻き込まれますぅ」

「ほう、予知能力まであるのか。面白い、一枚頼もう」

 竜王が、ラッキ君の隣に並んだ。

 ポーズはもちろん、角度45度のピースサインだ。

「……何を見せられてるんだ、俺たちは」

「ダイチさん、耐えてください。これも国(村)を守るためです」

 玉座の上で頭を抱える俺を、キャルルが必死に慰める。

「フッ、素晴らしい記念になった。3,000円だったな。これで取っておけ」

 ドラゴラスがポンと投げ渡した金貨を、ニャングルが空中でキャッチしてガッツポーズをした。この状況でまだ稼ぐか、あの守銭奴猫。

「さて、皇帝陛下」

 ドラゴラスが、再び俺に向き直った。

 その顔から先ほどの和やかな空気が消え、武人の顔に戻っている。

「我が息子の主君の器、そして聖獣の神秘。見事なものだ。……しかし、私としては、将軍としての息子の『軍略』もこの目で見届けておきたい」

「……軍略?」

「うむ。外の広場に控えている3万の精鋭たち……あれを使った『模擬戦(演習)』を見せてはもらえまいか?」

 ピキッ。

 イグニスが石像のように固まった。

 演習。

 それはつまり、あの竹槍を持った『村のおばちゃん・おじちゃん(30人)』に、軍隊の動きをさせろということだ。

「(終わった……)」

 俺は心の中で天を仰いだ。

 偽装国家ポポロ帝国、早くも建国半日にして、最大の国難(ボロ発覚の危機)を迎えることになった。

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