EP 6
竜王ドラゴラス、襲来
ゴォォォォォォォォォォォッ!!
天を覆う巨大な影が、村の広場へゆっくりと降下してくる。
巻き起こる暴風に、ルナが急造した「世界樹の城壁」がミシミシと悲鳴を上げ、広場の中央にそびえ立つ100メートルの『純金イグニス像』がグラリと揺れた。
「ひぃっ! ぞ、像が倒れるぅぅ!」
「耐えろ! 根元を魔法で固定しろルナ!」
「やってますわー! 物理法則が重すぎますのー!」
俺とルナが裏で必死にハリボテを支える中、広場に「ドズンッ!」という地響きと共に、巨大な漆黒の古竜が降り立った。
鱗の一枚一枚が鋼鉄よりも硬く、吐く息だけで大気がチリチリと焦げる。まさに災害級のモンスター、いや、王の風格だ。
だが、次の瞬間。
古竜の巨体が眩い光に包まれると、シュルシュルと縮んでいき――一人の人型へと姿を変えた。
「ほう。ここが、お前の手紙にあった『ポポロ帝国』か」
光の中から現れたのは、身長2メートル近い、筋骨隆々で渋いロマンスグレーの髪をした『ナイスミドル(角・尻尾付き)』だった。
仕立ての良さそうな漆黒のスーツ(のような貴族服)を着こなし、片眼鏡の奥の鋭い隻眼が、広場をスッと見渡す。
そして、その背後から、ふわりと優雅に降り立つ女性が一人。
「まぁまぁ、素敵なお城ね。緑に溢れていて、空気が美味しいわ」
こちらは対照的に、ほんわかとした空気を纏う美しい竜人の淑女だ。間違いない、イグニスの母親だろう。
「お、親父……お袋……」
迎え撃つ(出迎える)のは、我らがポポロ帝国の『将軍』、イグニス・ドラグーン。
ガンツが徹夜で打ち直した、やたらとトゲトゲしくて無駄に豪華な『将軍の鎧(金メッキ)』を身に纏い、真っ赤なマントを翻している。
見た目だけは、一騎当千の大将軍だ。
……見た目だけは。
ガシャガシャガシャガシャッ!
鎧が凄まじい音を立てていた。
イグニスの足の震えが止まらず、金属パーツがぶつかり合ってカスタネットのように鳴り響いているのだ。
「よ、よ、よく来たな! 歓迎するぜ、ポポロ、て、帝国へ!」
声が裏返っている。威厳ゼロだ。
物陰から見守る俺とニャングルは、同時に頭を抱えた。
(アカン……開始10秒で将軍のメッキが剥がれとる……!)
(イグニスの奴、親父さんの顔見ただけでビビり散らしてるじゃないか!)
竜王ドラゴラスは、ガタガタ震える息子を一瞥すると、ゆっくりと歩み寄った。
ズシン、ズシンと、歩くたびに圧倒的なプレッシャー(覇気)が放たれる。
「立派な鎧だな、イグニス」
「お、おう! 皇帝陛下からの賜り物でな!」
「しかし、将軍ともあろう者が、随分と武者震いが激しいようだが?」
ドラゴラスの鋭い眼光がイグニスを射抜く。
「こ、これはアレだ! 久々の強者(親父)を前にして、俺様の闘争本能がうずいてるんだよ! ハハハハハ!」
苦しい言い訳だが、ドラゴラスはフンと鼻を鳴らしただけで、それ以上は追及しなかった。
代わりに向いた視線の先には――俺たちが用意した『3万の精鋭』が整列している。
「ほう。これが、お前が手塩にかけて鍛え上げたという、3万の軍勢か」
広場に並んでいるのは、ポポロ・マートの常連である村の『おばちゃん』や『農家の親父さん』たち、総勢30名。
ルナの『幻影魔法』によって、彼らの後ろには何重にも同じ姿がコピーされ、地平線の彼方まで軍勢が続いているように「見せかけて」いる。
ドラゴラスは、最前列に立つ『近衛兵(村の肉屋のおばちゃん)』の前に立った。
「……」
「……」
おばちゃんは、ルナ特製の「葉っぱの鎧」を着て、竹槍を握りしめたまま直立不動だ。
額から滝のような冷や汗を流している。
ドラゴラスのプレッシャーは、一般人には即死レベルのストレスだろう。
(耐えろ……! おばちゃん耐えてくれ! 終わったらLチキ2個に増量するから!)
俺が物陰から念を送る中、ドラゴラスがおばちゃんに話しかけた。
「見事な気迫だ。その竹槍の構え……無駄がない。イグニスの厳しい訓練に耐え抜いた目球をしているな」
「は、はひっ! ま、毎朝の仕込み(豚肉の解体)で鍛えてますだ!」
おばちゃんがトンチンカンな敬語で答えたが、ドラゴラスは「なるほど、独特の隠語(暗号)か。軍の練度が高い証拠だな」と勝手に納得してくれた。
……竜王、意外と騙されやすい? いや、息子を信じたい親心フィルターが掛かっているのかもしれない。
「あらあら、イグニスちゃん」
母親が、ニコニコと空を見上げた。
「あちらに見えるのは、手紙に書いてあった像かしら? 太陽に反射して綺麗ねぇ」
「お、おう! 領民たちが俺様を慕って勝手に建てやがったんだ!」
ドラゴラスも、その100メートルの純金像を見上げた。
「……趣味が悪い。だが、これだけの純金を用意できるとは、このポポロ帝国、かなりの財力と魔法技術を持っていると見える」
そりゃそうだ。三日天下のハリボテ魔法と錬金術の結晶だからな。
「イグニスよ」
「は、はいっ!」
ドラゴラスの声が一段低くなり、イグニスが直立不動になった。
「我が息子を将軍に任命し、これほどの軍を任せる『皇帝』。……ただ者ではないはずだ。その皇帝陛下に、ぜひ謁見を申し込みたい」
「えっ」
イグニスが固まる。
物陰で聞いている俺も固まった。
「も、ももも、もちろんご案内するぜ! 皇帝陛下は、城の奥の『玉座の間』でお待ちだ!」
イグニスがロボットのような動きで、ルナのツタで覆い隠されたポポロ・マート(偽装王宮)の方へと歩き出す。
(おいバカ! こっち来るな! 俺まだ心の準備が……!)
「ダイチはん! 腹括りや! アンタがこの村のトップ……いや、帝国の頂点や!」
「ダイチさん、マント歪んでます! 直しますね!」
ニャングルとキャルルに背中をバシバシ叩かれ、俺は慌てて「ダイソー産の金色のカチューシャ(王冠)」を頭に被り直し、赤いベルベットのカーテンを翻した。
コンビニ店長から、帝国皇帝へ。
時給換算不可能な、命懸けの「接客」が今、始まろうとしている。
「あぁ……胃薬(ルチアナ通販)買っとけばよかった……」
呟きながら、俺は即席の玉座(ガンツ作のパイプ椅子・豪華版)に深く腰を下ろしたのだった。




