EP 5
ルナのハリボテ・キングダム
「えー、皆さんに集まってもらったのは他でもない。明日の昼から夕方にかけての半日間、このポポロ村を『ポポロ帝国』として偽装する。皆には帝国の国民、および精鋭兵士の役をやってもらいたい」
ポポロ・マートの前に集められた村人たち(おばちゃんパートや農家の親父さんたち)は、ぽかんと口を開けて俺を見ていた。
「ダイチはん、なんや急に。帝国って、ウチらただの村人やで?」
「武器の持ち方すら怪しい俺たちに、精鋭兵士の演技なんて無理だべさ」
村人たちから不満の声が漏れる。無理もない。
だが、元・深夜コンビニの夜勤リーダーとして、モチベーションの低いバイト(村人)を動かす術は熟知している。
「もちろん、タダとは言わない。明日の作戦に参加してくれた者には、日当としてポポロ・マートの『おにぎり(ツナマヨ・鮭・昆布から選択可)』を一人三個! さらにホットスナックの『Lチキ』を一個つける!」
「「「やります(やらせてください)!!」」」
村人たちの目の色が変わり、見事な敬礼のポーズをとった。
地球のB級グルメの依存性、恐るべし。
これでサクラ(エキストラ)の確保は完了だ。
「よし。次は舞台装置(大道具)だ。ガンツの爺さん、骨組みはできてるか?」
「当たり前じゃ! 徹夜で組み上げたわい!」
広場の中央には、ガンツ率いるドワーフ工務店が廃材と鉄クズで組み上げた、高さ100メートルの「巨大な人型の塔」と、村を囲う「壁の骨組み」がそびえ立っていた。
ただし、あくまで骨組みなのでスッカスカだ。どう見ても建設中の足場である。
「よし、ルナ! 出番だ! お前の本気を見せてみろ!」
「お任せくださいませ! わたくしの美意識と魔力を総動員して、絢爛豪華な帝都を作り上げてみせますわ!」
ルナが広場の中央に進み出た。
彼女は手にした『世界樹の杖』を天に掲げ、エメラルドグリーンの瞳を輝かせる。
「咲き誇れ、千年の緑! 紡がれよ、王都の幻影! 『大樹海郷・アーキテクチャ』!!」
ルナが杖を地面に突き立てた瞬間。
ズゴゴゴゴゴゴゴォォォォォッ!!
大地が震え、広場の石畳を突き破って、規格外の太さを持つ「世界樹のツタ」が爆発的に伸び始めた。
ツタは生き物のようにうねりながら、ガンツが作った鉄の骨組みに絡みついていく。
さらに、ツタの表面から大理石のように白く滑らかな樹皮が形成され、美しい花々がステンドグラスのように壁面を彩り始めた。
「うおぉっ!? なんじゃこりゃあ!」
「家が……ウチのボロ家が、お城の塔みたいになっとるで!」
村人たちがパニックに陥る。
わずか数分の出来事だった。
木造と土壁の素朴なポポロ村は、ルナの植物魔法によって、純白の城壁と花のアーチに彩られた**「超絶ファンタジー風・大帝都」**へと変貌を遂げたのである。
ポポロ・マートすらも、ツタに覆われてオシャレな「宮廷風・迎賓館」みたいな外観になっている。
「……すげぇ。マジでハリボテ(植物)で城を作りやがった」
俺が呆然としていると、ルナは額の汗を拭いながら、広場の中央にある100メートルの塔――イグニスの骨組みを指差した。
「ふふん! 仕上げはこれですわ! 行きますわよ、錬金術!」
ルナが杖を振ると、100メートルの植物の塔が、眩い閃光に包まれた。
光が収まると、そこには夕日を反射してギラギラと輝く、超巨大な『純金のイグニス像』が建っていた。
ポーズはなぜか、腕を組んでドヤ顔をしている。腹が立つほど無駄にクオリティが高い。
「うおおおおっ!! ま、マジで純金だ!! すげぇ!!」
イグニスが自分の巨大像の足元に駆け寄り、頬ずりをして歓喜の声を上げる。
「ダイチはん! これ、これ削って売ったら国が買えるで!!」
ニャングルが算盤を投げ捨てて純金像によじ登ろうとする。
「待て馬鹿猫! イグニス、お前もさっと思い出せ!」
俺がツッコミを入れると、イグニスはハッとしてルナを指差した。
「そ、そうだった! お前のは3日で元の石ころ(木くず)に戻る『偽金』じゃねぇか! この嘘つきエルフめ!」
「失礼ですわね! 今回は『3日保てばいい』というオーダーでしたから、これで完璧ですわ! 文句があるなら、元の鉄クズに戻しますわよ!?」
「や、やめてくれ! 三日天下で十分だ!」
イグニスが慌ててルナをなだめる。
そうだ、親父殿が来るのは明日。視察は長くて半日だ。3日も保つならお釣りが来る。
「ダイチはん、衣装の準備もできました!」
キャルルが、仕立て直した服を持って走ってきた。
俺が着るのは、ガンツの工房にあった防刃布と、ルチアナ通販で買った「赤いベルベットのカーテン」を雑に縫い合わせた、マント付きの『皇帝衣装』だ。
王冠の代わりに、金色のカチューシャ(ダイソー産)を被る。
「……なんか、文化祭の演劇みたいだな」
俺が苦笑いしながらマントを羽織ると、キャルルが顔を赤らめた。
「そ、そんなことないです! 堂々としていて、本物の皇帝陛下みたいで……すごく、かっこいいです……」
「お、おう。サンキュー」
キャルルの素直な褒め言葉に、俺は少し照れくさくなって視線を逸らした。
彼女も、ウサギ耳にティアラを乗せ、美しいドレス(ルナのお下がり)を着ており、本当にどこかの国の姫君のようだった。
「よし、舞台は整った! サクラの配置も完了だ!」
俺は広場を見渡した。
竹槍を持ったおばちゃんたちが、ルナの魔法で硬質化した「葉っぱの鎧」を着て、それっぽく整列している。
見た目だけは、一騎当千の精鋭部隊(30人)だ。
「いいかイグニス! 明日はお前が主役だ! 堂々と将軍のフリをしろ!」
「お、おう! 任せろ兄貴! 俺様の演技力で、親父の度肝を抜いてやるぜ!」
準備は万端。
偽装国家『ポポロ帝国』は、一夜にして建国された。
そして翌日。
空を覆い尽くすほどの、巨大な影が村の――いや、帝都の上空に現れた。
ゴォォォォォォォォォォォッ!!
暴風が吹き荒れ、巨大な純金像が揺れる。
太陽の光を遮るほどの巨躯を持つ、漆黒の古竜。
竜王ドラゴラスが、ついにその姿を現したのだった。
「ひぃぃぃっ!? き、来たぁぁぁぁっ!!」
「イグニス! 足震えてるぞ! 胸を張れ!!」
胃に穴が空きそうな、ポポロ村最大の捏造イベントが、ついに幕を開ける。




