9 発見された魔法道具と内部犯の疑い
「今日は疲れていて……、ただ抱きしめて寝てもいいですか?」
「はい、もちろん。遠征お疲れ様でした。ただぎゅっとしてもらえるのも、すごく幸せです」
数日ぶりのシルヴァンだ。嬉しすぎて離したくない。
初めのころと違って、彼の腕の中にいると安心して眠れるようになった。
翌日、本来なら遠征休みになると言われていた日に、彼の職場の人が来た。見たことがない大きな魔法道具を抱えている。
「ノア、すみません。今だけ少し、彼を寝室に入れてもいいですか?」
「えっと……、はい」
よくわからないけれど、必要なことな気がする。
「わたしも一緒にいても?」
「もちろんです」
彼らについて寝室に入る。エミリーがきれいに整えてくれた後だ。
「団長。完全にアウトっすね」
「やはりそうでしたか」
シルヴァンがため息まじりに額に手をあてる。
(アウト……?)
「妨害魔法で無効化したんで、もう話しても平気っす」
「ありがとうございます」
シルヴァンがこちらを向いて説明してくれる。
「盗聴の魔法道具が仕掛けられている可能性が高いと思ったので、調べに来てもらったんです」
「え」
そういうものがあるらしいとはなんとなく知っていたけれど、身近にあるというイメージはなかった。
彼らは持ってきた魔法道具を見ながら相談して、ベッドの下から小さな箱を見つけだした。貼りつけられていて、掃除などでは気づきにくくなっていたようだ。
「待ってください……。盗聴の魔法道具って、声を誰か他人に聞かれるものですよね?」
「そうですね」
「それって、あの、もしかしてもしかしなくても、わたしのあんな声とかこんな声とかも……」
「タイミングによるでしょうが、聞かれている可能性は高いでしょうね」
(きゃあああっっっ!!!)
あやうく叫んでしまうところだった。なんということだ。恥ずかしすぎる。
「まったく。犯人の耳を切り落として、鈍器で殴って記憶も消したいです」
「え」
シルヴァンの発言だとは思えない内容に驚いて、自分の恥ずかしさが霧散する。
「血を見るのは嫌いだと……」
「はい。けれど、今回は別です。何ごとにも例外はありますから」
口元だけしか見えていなくても十分に伝わる、ものすごくいい笑顔だ。逆に怖すぎる。
それから、シルヴァンたちは家の中をくまなく確認して、他にも何ヶ所かで同じものを回収した。
夜、寝室でシルヴァンに抱きしめられ、大切そうにキスをもらう。
「昨夜はすみませんでした。貴女に触れたい気持ちは山々だったのですが、先に盗聴の魔法道具があるかを確かめてからと思い」
「はい……。それは本当、ありがとうございます」
いろいろと聞かれていたなんて思い返しても恥ずかしい。
「家のセキュリティはより強化しますが。内部犯の可能性が高いと思っています」
「え」
「貴女に心労をかけたくはないのですが、明るみに出た時に急なショックを受けるよりは、心の準備をしておいてもらった方がいいかと思いました」
「わかりました」
(内部犯……)
ちらりと浮かぶ顔があった。そんなはずはないと打ち消す間に、彼に触れられて思考が溶けていく。
またしばらくは遠征がないはずだ。一緒に生活できるだけで嬉しい。
盗聴の魔法道具の犯人は誰か。
シルヴァンは内部犯の可能性が高いと言っていた。なら、家にいる自分の方が見つけやすいかもしれない。
(動機は……? シルヴァンの話を聞くため? わたしっていう可能性もある?
盗聴の魔法道具はふつうには売ってないから、手に入れるルートも必要よね……?)
彼を見送ってから考えていると、付き人のエミリーから声をかけられる。
「ノア様」
「!」
今は2人だけなのに、姫様ではなく名前で呼ばれた。初めてではないだろうか。嬉しく思いながら答える。
「はい。なんですか?」
「レイン様より贈り物が届いております」
「ちい兄様!」
家族で唯一、自分に嬉しいものをくれる次兄だ。名前を聞くだけで元気になる。
エミリーから箱を受け取って開ける。
中には、自分が好きな祖国の砂糖菓子が入っている。
「さすが、ちい兄様です。こっちでは作られてなかったんですよね。手紙もありますか?」
「いいえ。今回はこちらだけでした。署名を確認しています」
「ちい兄様もお忙しいですものね。私のことを考えて用意してくれただけで嬉しいです」
ひとくちサイズの砂糖菓子だ。見た目もかわいくて、口に入れるとふわりとほどけるのもいい。
高級品で、自分はなかなかもらえなかった。父と長兄だけが食べていることが多かっただろうか。次兄が手に入れた時に分けてくれていた。
今回もそんな経緯なのだろう。箱に大切そうに、ふたつだけ入っている。
(シルヴァンはきっと、食べたことないわよね?)
ひとりじめするより、2人で分けた方が幸せだと思う。フタを閉めて、わくわくと彼の帰りを待つ。
(やっぱり、エミリーがあんなことをするはずないわよね)
内部犯と言われた時に一瞬浮かんだのは、自分が連れてきた付き人だった。
中でも彼女だったのは、頑なに自分を「姫様」と呼び続けていたからだ。いつだったか、シルヴァンさえいなければというようなことを言っていたこともある。
盗み聞きをして、彼と敵対する相手に情報を流す。その動機がなくはない気がした。相手が有力者なら、魔法道具は手に入れられるだろう。
けれど、エミリーはずっと自分に仕えてきてくれた付き人だ。自分によくしてくれて、気を許してきたうちの一人でもある。彼女ではないと信じたい。
(きっと、私にはシルヴァンが大事なことがもうわかったから、「姫様」じゃなくて「ノア様」になったのよね……?)




