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願掛けバンジージャンプ!


 翌朝。ゴロンと寝返りを打った俺は差し込む朝日の眩しさに目を覚ます。やたらと寝心地の良いベッド。微かに鼻腔をつく珈琲とバターの匂い。


 腹減った……


 食欲をそそるその匂いに体を起こし、半分寝ぼけた頭で部屋を見渡す。隣のベッドは綺麗に直されていて誰もいなかった。


「おはよう。起きた?」


 奥から聞こえた声に目を向ける。浅見先生は長い髪を大きめのシュシュでゆったりとひとつに纏めてエプロン姿でキッチンに立っていた。


「おはよう、ございます」


 寝ぼけた頭でのそりとテーブルに歩み寄り、視線を落とす。ほかほかに湯気の立ったご飯と味噌汁。そして綺麗な小皿に盛り付けれた沢山のおかず。和洋取りそろえられたおかずは軽く十種類はある。まだ何か作ってるし。


「本当はホテルのビュフェがあったんだけど、彰くん寝てたからこっちで作っちゃったわ」

「ごめん」


 ああ。だからか。ビュフェの代わりに沢山作ったんだな。そんなに気を遣わなくていいのに。


「いいのよ。久しぶりに手料理ふるえて嬉しいもの。それに二人きりの朝ってなんだか新婚みた…」

「頂きます」


 何やら頬を染めて寝ぼけたことを言う先生の言葉を遮って、さっさとテーブルにつく。


 ホテルのビュフェも楽しみではあったが、俺はこっちの方がいい。片っ端から料理を口に放り込みながら、やっとエプロンを畳んで向かいに座った先生にチラッと目を向ける。


「今日は何をしたいですか」

「え?」

「昨日、付き合ってくれたお礼に。午後になったら少し付き合います」

「……」


 カラン……


 先生の手から箸が零れ落ちた。浅見先生は口元を手で覆い隠し、目を潤ませて俺を見た。そんな驚かなくても。いや、驚くよな。昨日あれだけ冷たくしたし。


「いいの?」

「いいですよ。あまり長い時間は無理ですけど」


 読書は先生のお陰で大分進んだが、それでもまだ二冊は残ってる。本当は遊んでる余裕なんてないんだけど。なんかさっと終わる感じのアトラクションがあればいいな。


「じゃあ……バンジージャンプ!!」

「……いいですけど。先生大丈夫なんですか」

「彰くんと一緒なら平気よ!」


 なーんて。息巻いていた先生だったが。


「無理いいいいいいいっ」


 眼下に広がるのは紅く色付き始めた樹々に囲まれた湖畔。ホテルからトロッコバスで15分の場所に位置するそこは、日本でも有数のバンジースポットだった。


 青空を鏡に映し取ったような水面は青く輝いて美しく、ホテル一押しの観光スポットでもある。遠くにはスワンボートを漕ぐカップルも何組か見受けられ、一見するとデートにはうってつけのその場所で。


 俺たちは標高170mという高さにいた。


「高いいいいいいい」

「そうですね」


 浅見先生に抱きつかれてぎゅうぎゅうと首を絞められながら、冷静に景色を堪能する俺。絶景かな〜。今日は天気が良い。早く飛びてえ。


 すでに足腰に固定具は装着済み。あとは飛ぶだけなんだが、言い出しっぺの浅見先生が俺に抱きついたまま泣き叫んで離れない。


 なにを言っても「無理いいいいいい」を繰り返すので、早々に宥めるのは諦めた。真下に広がる澄んだ湖面を見下ろし、淡々と会話を返すのみ。


「それよりなんでスカートで来るんです。飛び降りたらパンツ丸見えですよ」

「だってスカートしか持って来なかったんだもの〜!」

「そうですか」


 なら仕方ないな。バンジーやりたいって言ったのは先生だし。飛び降りた暁には上空の皆様にそのパンツを惜しみなく披露して頂こう。


 ダンスパーティーの時のように突発的なアクシデントで見えそうになるのと、分かっていてやるのとは違う。そこに対して俺はノータッチ。


「怖いならスワンボートにすれば良かったじゃないですか」

「だって、女は度胸っていうじゃない!」

「別にここで度胸スキル使わなくても」

「願掛けなの! 飛べたら……やりたいことがあるから!」


 薄らと涙を浮かべながら恐る恐る湖畔に視線を向ける浅見先生は、だから諦められないのだと何度も訴えかける。


 そうまでして叶えたい望みが何かは分からないけど、諦めろと言っても先生は決して首を縦に振ろうとしない。まったく、なんの願掛けなんだ。

 

「はあ。じゃあ、さっさといきますよ」

「いやあああああああ!」


 どっちだよ。ぎゅうぎゅうと小玉スイカを押しつけられる俺を隣に立つスタッフが羨ましそうに見てる。別に代わってやってもいいぞ?


 いっとくが俺から言い出したんじゃないからな。そんなお化け屋敷で抱きつかれるのを狙って誘うような真似。


 俺的には小玉スイカの感触よりも首を絞められている方が問題だ。いったい何分こうしてるんだ。早く解放して欲しい。


「願い、叶わなくて良いんですか」

「……だめ」

「二人で飛ぶんだから平気ですよ。俺のこと信じて」

「彰くん……」


 潤んだ瞳を俺に向けた浅見先生は、泣き喚くのをやめてキリッとした表情を浮かべる。


「飛ぶわ」

「準備いいですか〜?」


 先生が頷いたのを確認したスタッフがカウントダウンに入る。3…2…1!


 キィャアアァァ……!


 目を固く瞑った浅見先生を胸に抱いて、俺は飛び降りた。風を切る音と胃が浮遊する感覚。声が涸れるほど絶叫する浅見先生の黒髪はバサバサと靡いて俺の顔を叩く。


 それでも高速で流れる景色と浮遊感は楽しくて、俺は大満足だ。何度かバウンドしてスピードが落ち始めた頃。


 ハラリ……と逆さ吊りの先生の胸元に落ちかけたスカートが目に留まり、致し方なくケツの位置で押さえつける。俺ってなんて紳士的なんだろう。


「先生平気?」


 ぶらんぶらん……と小さなバウンドを繰り返しながら、胸の中で顔を埋める先生に問いかける。暫しの沈黙のあと、顔を上げた浅見先生はぱあっと顔を輝かせ、


「楽しかったわ!!」

「あははっ」


 子供みたいに無邪気な笑顔を浮かべた。



いつもご覧頂きありがとうございます。

浅見先生の努力に彰が恩返しをしたこの回。

たまにはこういったほのぼのご褒美があってもいいですね。

気になるのは「願掛け」というワード。

無事にバンジーができた浅見は「願掛け」に向けて動き出します。


今日はもう一話・・・・・・うまくいけば二話。更新予定です。

ぜひお楽しみに。

先が気になる、浅見先生応援してるよ!という方はブクマや評価をお願いします!



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― 新着の感想 ―
[良い点] 代わって欲しい‥‥‥( ´ ཫ ` ) あ、俺高いとこダメだわw
[気になる点] これって、バンジー・・・先生は何もしてない気がする? こんなので願掛け良いのに!? とは、優しい読者は突っ込まない^^
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