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二人で泊まるコテージの夜

 浅見先生のことが少し気がかりだったが鉄板の上に乗った肉を見た瞬間、そんなことは宇宙の彼方に消えていった。


 さすが読書好きが集まった朗読部。BBQに関する知識も半端ない。実践はしたことがないといいつつ器用に調理する。出来上がった料理は全部文句無しに美味かったし、俺のテンションはうなぎ登りだった。


 BBQが終わった後はホテルに戻って就寝という流れだったが、俺はもう少し残りたいと告げた。


 まだ眠くないし、ホテルに戻ったら先輩方と相部屋だ。多分集中力が切れてしまう。ここは静かだし、読書するにはうってつけだ。


 あまり無理しないでねと声をかけてくれた優里先輩を笑顔で見送る。俺の隣にいる浅見先生も当然の顔をしてみんなに手を振っているのはなぜだ。


「先生は戻らないんですか」

「戻らないわよ。先生だもの。生徒を放っておけません」


 あっちの生徒はどうなるんだよ。そう突っ込んでもいいだろうか。


「分からないところがあったら教えるから。そういうひと、必要でしょう?」

「まあ……そう、ですね」


 相変わらず漢字の弱い俺はスマホを手放せずにいる。いちいち検索して意味を理解するのは正直手間だ。二人きりの朝練を思い出すが、あれはあれで確かに捗る方法だったのは間違いない。


 時間もないし、ここは先生の胸を借りるか。


「じゃあ、お願いします」

「ええ」


 二人きりになったコテージ。浅見先生はキッチンに立ち、珈琲を淹れている。読書に専念しながら、俺は不思議なことに気がついた。


 いままで女と二人きりという空間には恐怖概念があった。女嫌いからきているのだと思うが、物凄く居心地が悪いし逃げ出したくなる。


 初めて浅見先生に呼び出された時もそうだった。なぜ放送室なのか訊ねたのもそのせい。先生なんだから大丈夫だと思っていたが、結果はあれだったしな。


 だけどいまはまったくそんなことがない。散々二人で朝練をしてきたし、慣れたのかもしれない。


 担任であって、顧問でもあって。浅見先生と一緒にいる時間は多い。それに先生は俺の嫌がることをしない。


 先日の早瀬の一件もあって僅かばかりの信頼が生まれたのも確かだ。なんにせよ、先生には素顔もバレているし猫を被る必要もないからホッとできる。


 俺は瓶底メガネをテーブルの上に置いた。


 テーブルの上に並べられた二つの珈琲カップ。芳ばしい香りに包まれた空間で俺たちはそれぞれ分厚い本を手に取る。


 都会の喧騒から離れた自然豊かなこの場所では、さわさわと木々の葉が凪ぐ音や夜鳥の鳴き声が時折聞こえるだけ。ただ穏やかで静かな時間。


 二人の間にはページを捲る音だけが互いを追いかけるように小さく響く。居心地は悪くない。沈黙を破って分からないところを訊ねれば、先生は丁寧に教えてくれる。読書は思った以上に捗った。


 何杯目かの珈琲に手をかけた時、浅見先生が本を手にしたまま目を閉じていることに気づいた。


 いま何時だ?


 ハッとして時計を確認すると、時刻は一時半を回っていた。しまった、熱中し過ぎて時間経つの忘れてた。ヤバイ。先生寝ちゃったか?


「先生?」


 反応がない。


「先生」


 あ。やっぱ寝てるわ。どうすっかな。まさかここに一人で置いて行けないよな。


 側に寄って軽く肩を揺すってみたらカクンと先生の首が落ちた。これ完全に寝てるわ。


 仕方ないので鼻先に引っかかったメガネを外し、先生を抱きかかえてベッドまで運ぶ。露出の多い格好をしているから、どこをどうしても素肌に手が触れる。あらわになった細い足、開いた胸元。すべすべの背中。


 薄く開いた唇の横にあるホクロ。メガネを外した先生の素顔は初めて見るが、力の抜けた寝顔は少しだけ可愛い。


 起こさないようにゆっくりとベッドに下ろして布団をかける。その横に腰を下ろした俺は先生の寝顔を見つめる。


「遅くまで付き合わせてごめん」


 答えは返ってこないと分かっている。でも言わずにいられないだろ? 遠出もしたし、きっと疲れたんだな。途中で切り上げようと声をかけてくれても良かったのに、先生はそうしなかった。


 せっかくあんな豪華なホテルに泊まっているんだから、あっちで寝れば良かったのに。眠いの堪えてずっと俺に付き合って。悪いことしちゃったな。明日は少し遊びに付き合ってやるかなんて、そんな思いが(よぎ)った。


「彰くん……」

「先生?」


 一瞬起きたのかと思ったが違ったらしい。長いまつ毛を閉ざしたまま、むにゃむにゃと口を動かす浅見先生。


「寝言かよ」


 なんで俺の名前なんだよ。なんだかおかしくて、笑いが零れる。


「一緒にお風呂に……入りましょう」

「嫌です」

「ダンス……また一緒に踊りたい…わ」

「機会があればね」

「小さいのが好き……なの?」

「なんの話ですか」

「わたしのこと……すき?」


 意思疎通のない寝言との会話。


 最後の質問に、俺は答えなかった。


 口を閉ざし、部屋の電気を消して隣のベッドに寝転がる。すーすーという先生の寝息を子守唄代わりに目を閉じると、あっという間に意識は落ちていった。

いつもご覧頂きありがとうございます。

浅見先生の寝言、ダダ漏れ過ぎですね。

色々と気になる部分を残しつつ、次回の更新は明日になります。

明日も楽しみにしてるよ!という方はブクマや評価をよろしくお願いします☆彡.。

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― 新着の感想 ―
[一言] 浅見先生可愛い✨✨
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