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熱気の後の冷静

「俺、なに考えてんの?」


 9時過ぎ。目覚めた俺はポスッと枕に頭を沈める。


 体育祭、やらかし過ぎだろ。菊地の熱意に煽られてメガネ放り投げでガチで走ってしまったし。でもあれはセーフだ。誰も突っ込まなかったから。


 浅見先生の弁当はどうだ。あれも俺の為のような気がしたが、そもそも料理教室に通い始めたのは自分の為だと言っていたし、味見して欲しいってことだったよな。ならあれもセーフ。


 俺に張り付いてずっと写真を取り続けていたのは……ありゃなんだ?


 あ。そうか。浅見先生は根暗な陰キャが好きなんだよな。撮影料を取りたいくらいには写真撮られまくったが、あの陰キャな容姿がお気に召したんだろう。素顔じゃないから、まあ大目に見なくもない。


 後は浅見先生のダンスか?


 あれについては謎が多すぎる。もしかして浅見先生、普段はヒップホップな格好してんのかな。あのセクシー衣装は学校専用? 有り得ない話じゃないな。さすがに教鞭取るのにヒップホップはマズイだろ。


 よしよし、段々考えが纏まってきた。


「いや、違う。纏まらねーわ」


 問題は最後だ。


「あのダンス……」


 菊地は告白タイムだと言っていたが、恋人じゃなくても男女カップルならいいともいってた。現に告白はされてないし、俺もしていない。


「ならセーフ?」


 いや、待て。告白は最終段階だろう。要はあのダンスに参加する意義だ。既に出来上がったカップルとこれから告白してカップル成立を狙う男女。あそこに足を進めるのはその二種類の人間のはずだ。


 ……ってことは?


「浅見先生が俺を……好き?」


 呟いた途端、笑いがでた。


 ないわ。それはない。単純にその場のノリで誘って来たんだろう。それに応じた俺が馬鹿なんだ。断れば良かったのに。本当にあの時はどうかしてた。


 でも……誘った時の浅見先生の顔。あれ、照れてたんじゃ……


 俺はブンブンと顔を振ってビタビタと頬を叩く。それから勢いよくベッドから飛び起きて熱いシャワーを浴び、ランニングに出た。


 んなわけあるか。暗かったし表情なんて分からない。メガネしてたしな。やっぱりアドレナリンだろ。人間の生体ってマジで怖ぇ。


 近所を全速力で三周した頃には、やらかした数々の出来事も浅見先生のこともすっかり頭から抜け落ちていた。本当に俺って単純な。


 だけど忘れたのは俺ひとりだったらしい。月曜日の朝、朝練前に教室に赴いた俺は信じられない光景を目にする。


「おお! 本当にこんなに早く来ているんだな」

「待ってて良かった」

「如月くん、おはよう」


 知らない顔の先輩方が俺の席を取り囲み、ドアを開けた途端一斉に振り返った。


「……おはようございます」


 なんだ? 


 多分、運動部の先輩だと思うが部活に行かないでここで何してんだ?


「先日は大活躍だったね」

「バスケの試合、見たよ。陽平を躱したあのシュートは見事だった。フォームも綺麗だったしさ。もしかして昔やってた?」

「確かにバスケも凄かったけど、やっぱり最後のリレーじゃん? あれはマジで全国狙えるぜ」


 勝手に盛り上がり始める先輩方。で、結局なにしにここに来たんだ。俺、すぐに放送室行かなきゃいけないんですけど。


 ……とりあえず放っておこう。


 そう決めて机の横に鞄を引っ掛け、そそくさをその場を後にしようとしたらポンッと肩に手が乗った。


「待て待て。話は終わってない。浅見先生のストーカー事件から始まり、きみの噂は勝手に独り歩きしているんだと思っていたけど、それは間違いだった。昨日きみは見事に実力を証明してみせた。俺ら部長はきみを本気で勧誘することに決めたよ」

「そうですか。それはご自由に。だけど俺は運動部に入るつもりはないので」

「いまは朗読部だっけ?」

「はい」

「もったいねー! おまえそれ絶対損してる! 確かに浅見先生は綺麗だけど、担任なんだろ。いつでも会えるじゃん」


 イラッ。どこの部長だか知らんが、何があってもおまえの所にだけは入部しねえ。


 朗読部=浅見先生狙いって決めつけるのが腹立つ。おまえら実際入ってみろ。朝から補習があるんだぞ。呪文唱えなきゃならねーんだぞ?


 いまは詩という難解問題を解析中だ。これ、本当に同じ日本人が書いたのか? って何度考えると思う。むしろ読めるのが不思議なくらいだ。


 その努力を女のためだと思われるのは納得がいかない。


「別に先生狙いで入った訳じゃないんで」


 目にかかった前髪と瓶底メガネのお陰でムスッとした顔はバレてないはずだが、低くなってしまった声と口調で伝わってしまったらしい。先輩はちょっと意外そうな顔をして笑った。


「そう怒るなよ。だって本当は朝練なんてないのに、きみだけ朝早く行ってるそうじゃないか。それ聞いたらそう思っちゃうだろ?」

「なに言ってるんですか。朝練はありますよ。ただ他の部員がサボってるだけで」

「え? いや、俺のクラスにも朗読部の奴いるんだけどさ。朗読部には朝練なんてないって言ってたよ」

「は?」


 え? どういうことだ? 毎回サボってるから朝練の存在忘れただけじゃねーの?


 顔をしかめたり首を傾げたり。いまいち考えが纏まらずコロコロと表情を変える俺が面白かったらしい。俺の疑問を読んだようで、先輩は笑いだした。


「文化部は基本的に朝練はないよ。あるのは運動部だけ。稀に自主トレで朝に来る奴もいるけど強制じゃないし。朝練って呼ぶほどのものじゃない」

「浅見先生が狙いじゃないんなら、話は簡単だろ。良かったじゃねーか。朗読部やめてうちに来いって」


 朝練が存在しない? そんな馬鹿な。でも……まてよ。


 もしそれが本当なら朝練に俺しか来ないことも納得いく。


 前々から疑問だったんだ。朝練は全員サボるのに放課後の部活にはみんな顔を出す。浅見先生も顔を出すけど、誰にも朝練のことを問い正さないし、みんなも口に出さない。


 普通に和気あいあいとした雰囲気なもんだから、敢えて空気を壊す必要もないと思って黙ってたけど。なにかおかしい。考えるほど胸のモヤモヤが大きくなる。浅見先生に確認しないと。納得のいく答えをもらえれば大丈夫なはずだ。


「とにかく。俺の狙いは浅見先生じゃありません。朝練も先生に言われて出ているだけだし、自主的に行ってる訳じゃないんで。変な勘繰りはやめて下さい。それと何を言われても運動部には入りませんから。じゃ、失礼します」

「あっ、おい!」


 俺は一方的に話を切り上げて教室を飛び出した。また運動部から勧誘が始まったのにはウンザリするが、それ以上に浅見先生狙いって思われたことに腹が立つ。


 放送室に向かう途中、何人か先生方に声をかけられたが全部シカトして横を駆け抜けた。廊下を抜けた先には放送室のプレートを掲げだ分厚いドア。


 バァン!


 少し息を切らしながら走った勢いで重いドアを押し開ける。放送室に突然響いた大きな音。長い足を組んで椅子に腰掛けていた浅見先生は目を丸くして振り返った。



いつもご覧頂きありがとうございます。

先輩方から告げられた真実。それを確かめに彰は走る。

浅見先生はどうするのか。そして彰は?

次回も乞うご期待です。

深夜零時に次話更新かけますのでお楽しみに。


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*活動報告更新しています。ぜひご覧下さい。


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― 新着の感想 ―
[良い点] やっちまった後悔w 俺も酒飲んでどれだけやらかしたことか‥‥‥。゜(゜´ω`゜)゜。 おぉ、そういう展開になっていくのですな (*´ω`*)ニヨニヨしちゃうわ
[良い点] 先生のグイグイ感がそそりますね。 主人公も何気に先生を気にしているところがかわいいです。 [気になる点] 先生は陰キャが好きなのか、イケメンが好きなのか。
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