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アドレナリンの成せるわざ

 周囲にいた生徒も先生もみな驚いて距離を取り、彼女を注視する。ステージ上のダンス部まで踊りをやめて浅見先生のダンスを食い入るようにみていた。


 俺も同じだ。少し動きがぎこちない。しかし浅見先生のそれは、まさしくヒップホップだった。


 まさか先生にこんな特技があったとは驚きだ。てゆーか浅見先生についてはいつも意外だと思うことしかない。本当にびっくり箱みたいなひとだな。


「すっげー。浅見先生ヒップホップ踊れんの?」

「カッコよすぎ」

「マジで惚れるわ〜」


 つーか、あんなに激しく動いて大丈夫かよ。マジでポロリするんじゃ……


 俺は不安になって浅見先生に近づいた。いったい何を考えているか分からないが、自己陶酔に陥ったように踊り狂う彼女のブラトップが徐々に上にズレてる気がする。


 周囲の連中は浅見先生のダンスに合わせてリズムを取り、手を叩いて大盛り上がりだ。そんな中、激しく揺れる小玉スイカを冷静に注視していると隣の男子が嬉々とした声をあげた。


「おっ、これはもしかして!」


 どうやら俺と同じことに気がついたみたいだ。他の男子も心なしか顔がにやけている気がする。


「はーっ」


 俺は今日一日でもっともデカいため息をつく。男どもの気持ちは痛いほど理解できる。思春期真っ盛りだし、そりゃあ瑞々しい小玉スイカを拝みたいだろう。


 だけどすまん。


 いまかいまかと期待に目を輝かせる男どもの視界を遮って、俺は制服の上着を脱ぎながら真っ直ぐに足を進める。長い黒髪で綺麗な弧を描きながら艶めかしく腰を振り、小玉スイカを何度もバウンドさせて踊る浅見先生がクルッとターンしたのを見計らって。


 バサッ……


 彼女の肩に上着をかけた。


「えっ?」

「肌、見えすぎ。それ着て」


振り返った浅見先生は目を丸くする。かけた上着を胸元で軽く閉じてやると、やっと我に返ったらしい。慌てて袖を通し、胸を覆い隠した。


「ちぇっ、もう少しで見えそうだったのに!」

「邪魔すんなよ、如月ー!」


 期待に目を輝かせていた男子から罵声が飛び交う。

 

顔を真っ赤にして俯いてしまった浅見先生からまわりの奴らに目を向けて、俺は瓶底メガネの下で睨みを効かす。


 浅見先生はおまえらの欲望を解消するために踊っていたわけじゃねーんだよ。きっと場を盛り上げたくて頑張っていたんだろう。それなのに、そんな心ない言葉。


 発せられた罵声に調子づいた他の男子まで声を上げ始め、俺を責める声が大きく膨らんでいく。萎縮してしまった浅見先生と違い、俺の怒りゲージは高速で上昇中。


 黙れ、エロガッパどもが!


 つい口を開きかけたその時。


「うるせえ! 如月は優しいんだ! さっさと女でも作れ馬鹿野郎!」


 青筋を立てた俺の前に飛び出してきたのは菊地だった。菊地の声がデカすぎて、怒りがどこかに霧散する。みんな不貞腐れた顔をしたが、それ以上は何もいわなくなった。


「もういいよ、菊地。空気悪くなっちゃったな。踊ろうぜ」

「おう!」


 音楽は流れ続ける。曲調が切り替わり、俺と菊地はアホのように踊り狂った。走り疲れて飛んだり回ったり、そんなことできないと思っていたけど楽しい時は自然と体が動く。


 そのうち俺と菊地のアホな踊りを見つけたクラスメイトが何人か集まってきて、みんなで爆笑しながら踊り続けた。


 この学園に来て腹の底から笑ったのはこの日が初めてだったかもしれない。慣れないダンスを適当なノリでそれらしく踊る俺らは本当におかしくて。楽しくて。


 少し離れた所で制服を着た浅見先生が少し寂しそうにこちらをみてるのに気がついて、俺は手を差し伸べた。


「踊ろうよ。俺らの担任でしょ。先生がいなきゃ始まんない」


 浅見先生は笑った。それはそれは嬉しそうに。そして浅見先生を真ん中に入れて、俺たちはまた大笑いしながら踊る。


 途中で陽平が入ってきて、更に爆笑した。笑いすぎて腹筋が痛い。誰が何をしてもおかしくて、みんな目に涙を浮かべてた。


 そして……


 ラストソングが流れる。ゆったりとした雰囲気のあるバラードで、その曲になった途端みんなが壁際に寄り始めた。


「なんだ?」

「ああ、これな。男女限定の曲なの。別に恋人じゃなくてもいいけど、メインはカップルなんだよ。相手がいない奴は真ん中は避ける決まり」

「いわゆる、告白タイムってやつな〜!」

「俺は誰にも誘われませんでした〜!」


 なるほど。確かにセンターで踊ってるのはみんなカップルだ。告白タイムまで設けてあるのか。そりゃ盛り上がるわ。いない奴はクールダウンだ。


 その中には羨ましそうにカップルのダンスを見つめている女子もいるし、チラチラと壁際の女子に視線を向けてる奴もいる。多分声をかけようか悩んでるんだろな。


 菊地は陽平とバカ笑いをしてるので、好きな女はいないんだろう。


「あっ、彰くん!」

「はい?」


 ふたりのコントを耳にして笑っていた俺は不意にかけられた声に振り返る。


「あっ、あの。一緒に踊らない?」


 制服を着た浅見先生が手を握り締めてモゾモゾとしながら俺をみていた。


 一瞬思考が止まる。


 さっきまでのハイテンションがまだ体から抜け切ってない。そのせいで正常な思考ができないんだと思う。青と白のミラーボールの光に照らされる浅見先生が、なぜか少し可愛く見えてしまって。


「お、お願い……します」


 近くにいなければ聞こえないほど小さな声。きっとこれはアドレナリンのせいだろう。疲れはマックスでリレーも死ぬほど頑張った。ダンスで踊り狂って爆笑した。


 だから。


 俺は無言で浅見先生の手を引く。


 センターに進み出た俺たちはまわりの真似をして両手を繋ぎ合わせ、ゆっくりとステップを踏み始めた。右、左、右、右。そしてターン。運動神経はいいのでステップを覚えるのは簡単だ。俺がリードしてやると浅見先生もついてくる。


 そのヒップホップの格好でバラードもないと思うが、まあいいだろう。輝くミラーボールの下で目を潤ませて俺を見上げる浅見先生が可愛くみえたから。


 バラードが終わると周囲から盛大な拍手が送られた。俺と浅見先生をみつけた菊地は顎が外れそうなほどデカい口をあける。


「いや……今日、如月はマジで頑張った。あれくらいのご褒美はあって当然だな。うん」


 なにやらひとりで納得したようだ。うんうんと頷いてクラスメイトと一緒に手を振り始めた。陽平は調子に乗ってピューッと指を咥えて口笛を吹く。そうして打ち上げダンスパーティーは盛大に幕を閉じた。


「あっ、制服!」

「そのまま着てていいですよ。来週返してくれればいいので」


 バラバラと学校を後にする生徒の中で俺は浅見先生を振り返る。今日は土曜日だから別にいますぐ返さなくていいしな。どうせ月曜日は朝早く会うんだし。


「そ、そう? わかりました。じゃあ、月曜日に返すわね」

「はい。じゃあ……お疲れ様でした」

「お、お疲れ様」

「彰ー! 帰ろうぜ〜!」

「おー」


 遠くから陽平に呼ばれて先生に背を向ける。肩を組んできた陽平とバカ笑いしながら帰路を歩む俺は、もう陰キャのことなどすっかり頭から吹っ飛んでしまっていて。


 アドレナリンって怖いよなと思ったのは、その翌朝だった。


アドレナリンって怖いよね……

でも果たしてこれはアドレナリンだけが理由なのか?

LOVE&コメディです。

徐々にLOVEの色が濃くなっていきますよ!

次回も楽しみにしてるって方はブクマや↓の★で評価をして応援してね。


感想も待ってます(*´ 艸`)

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― 新着の感想 ―
[良い点] アドレナリンの恐怖www どんどん迂闊になってる彰くんwww
[一言] 素晴らしい!\キャー/       ฅ( ̳> ·̫ < ̳ฅ)
[一言] アドレナリン怖っ 今回も面白かったです✨
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