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地雷を踏まれた俺とすっとぼけの浅見先生。

「あ。おはよう、彰くん」

「ちょっと聞きたいことがあるんですけど」


 彼女の言葉に被せた俺の言葉は先ほど先輩方に返した声より格段に低い。


 女のために部活に入ったなんて、よくも言ってくれたな。あいつらは俺の地雷を踏んだ。


 すこぶる機嫌の悪くなった俺の感情がどれほど伝わったのか。浅見先生は数度瞬きを繰り返した。


「なあに? どうしたの?」

「さっき運動部の先輩から聞いたんですけど、文化部には朝練ないってマジですか」

「え、ええ。基本的にはないわね。でもそこは顧問の采配次第だから、状況に応じて変わるのよ」


 そりゃそうだよな。朗読部は大会や遠征もあるっていってたし。大会が近くなれば部活の量も増えるだろうが……でもいまは大会の話なんかないよな? なんで朝練があるんだ?


 微妙に納得のいかない答えだ。ほんの少しだけ冷静さを取り戻した俺は、もう一歩核心に迫る質問を繰り出す。


「じゃあ、いままではこの部活も朝練はなかったんですか?」

「そ、そうね」

「今年から始めたってことですか?」

「そうよ」

「なんで?」


 単純な疑問だ。


 大会が近いわけでもないのに、なぜ今年から朝練を始めたのか。必要性に迫られているのなら、部員のサボりは見逃しちゃいけないはずだ。だけど先生は問い詰めない。


 優しい……のか? 気弱? そんなひとだったか?


 首を傾げる俺の前で先生は明後日の方向に泳がせた。


 おい……なんだその反応は。


「えー、えっと。朗読部ってなかなか部員が集まらないから……その、彰くんが入ってくれて凄く嬉しくてね」

「それで」


 しどろもどろに言葉を紡ぐ浅見先生。俺の目は徐々に据わり始め、声も心無しか低くなる。


「それで〜、早く色々覚えて欲しくて」

「つまり、この朝練は俺のためにあると?」

「そう……なるかしら?」


 頬に手を当ててコテンと首を傾げた先生にピクピクと口元が引き攣る。


 なるかしら? じゃねーよ!


「他の部員に声がけは?」

「してない……かしら?」


 かしら? じゃねーよ!!


 すっとぼけた顔して何言ってんだ、あんた! 


 そりゃ、先輩から先生狙いだと疑われるわ!! 


 他の部員の知らない所で二人っきりで朝練なんて怪しすぎるだろうが!


 俺はガクリと項垂れて壁に手を付く。


 知らないうちに罠にハマってた気分だ。熱心に教えてくれるのは有難いが、それで周囲から余計な詮索をされるのは本意じゃない。ことが大きくなる前に手を打たなければ。


「だから、俺が先生を狙ってるって疑われるんですよ」

「え!? そうなの!? 彰くん、わたしのこと狙ってるの!?」

「いや、狙ってません」


 ずっと視線を逸らしていた先生の顔がパァッと明るくなり、スパッと切ってやると途端に闇堕ちしたように暗くなった。百面相かよ。


「そう……狙ってないの。残念、とても残念だわ……」


 肩を落とし、口からエクトプラズムを吐き出す浅見先生はずっとブツブツ呟いている。俺はそれをスルーしてどうすべきか考える。


 ひとりで放送するのは楽しかったが、こうなってしまってはあらぬ誤解ばかり生んでしまいそうだ。それなら選択肢は二つだろうな。


「俺、誤解受けるの嫌なんで。決めてください。ひとつ、朝練に他の部員も参加させる。ふたつ、朝練はなしにする。さあ、どっち」


 ファイナルアンサー!! とばかりに曇った瓶底メガネを光らせる。浅見先生はそんな俺を見上げ、ゴクリと喉を鳴らした。


 チッチッチッチッ……


 腕時計の針が無音の空間に音を刻む。


 そして。心を決めたように浅見先生が口を開いた。


「ほ、他の部員も参加させます!!」

「オッケー」


 ガクッと項垂れた浅見先生とは真逆に俺の顔は晴れ晴れとしている。


 これでもう変な噂は立たない。モヤモヤもスッキリ解消。ああ、良かった。


 その翌日から朝練には他の部員も参加するようになり、見事な「補習」内容に先輩方の口からもエクトプラズムが垂れ流しになっていた。


 はっはっはっ! 仲間ができるって実に素晴らしい!!


 ただし部員が少ないとはいっても8名いるので、さすがにあの狭いブースで補習は行えない。そのため朝練は場所を変えることになり、「部室」で行われることになった。


「部室、あったんですね……」


 入学してから早6か月。朗読部に部室がある事を初めて知った俺は愕然として呟いた。


 広さは教室の半分くらいか。それでもこの部員数なら広く感じる。本棚には多くの詩集や朗読本が並べられており、ラジカセなんかが置いてあった。


 そして思う。


 最初からここでやってれば、あの狭いブースで毎朝壁際に追い込まれることはなかったんじゃないのか? と。


 ジロッと浅見先生を睨むと、そっと視線を逸らされた。


 おい、こら。


いつもご覧頂きありがとうございます。

ついに浅見先生の嘘がバレました。

二人きりの朝練タイムは終わりを告げますが、これを機に違う流れがやってきます。

それがどうなっていくのか、今後も引き続きお楽しみ下さい。


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― 新着の感想 ―
[良い点] あーあ、バレちゃったwww
[一言] 読者としてはつまらない展開だけど、主人公は一安心。 主人公には堕ちて欲しい。 一人じゃなくていいけど^^
[一言] 浅見先生可愛い✨✨
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