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禁足域のワイズマン  作者: 影森 木霊


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9/10

カイルの魔力

「…火球(ファイアボール)!!」


 カイルの手から放たれる、火球。アルドリックは黙って、カイルの動作一つ一つを見ていた。魔法陣の描き方、スピード。順調だった。魔力回路に流れる魔力。魔法陣に魔力が流れ込み、魔法が発動する。全ての動作は教えた通りにできている。


「威力がかなり上がったな。魔法陣の展開スピードも速くなっている。」

「よし!」


 カイルはアルドリックに褒められ、気分が良くなった。アルドリックはカイルの成長スピードに、少しばかり驚いていた。魔法を教え始めてから一か月程。これまで魔法を使ったこともなく、知識としてすら触れていなかった人間が、短期間でここまで成長した。魔法の発動のみならず、威力の向上までやってのけた。


「…まだ浮かれるには早い。火球しかできていない。習得級はまだ二つ残っている。」

「あぁ。次を頼む。」


 カイルの額から汗が流れ落ちる。表情はとても明るい。


「次は炎纏(フレイムエンチャント)だ。同じ要領でやってみろ。」


 アルドリックは炎属性の魔法書を開き、魔法陣を見せる。カイルは魔法陣を描いていく。アルドリックはその間に、小屋へと入っていった。カイルが持っていた剣を手に取り、再び戻ってきた。


「できた…って、それ、俺の剣?」

「そうだ。剣に魔法を使ってみろ。」

「え…わかった。炎纏!」


 魔法陣が強く光る。剣が赤く染まり、刀身に炎が宿った。


「これは…炎を宿す魔法?」

「付与魔法という。炎を纏わせ、攻撃力を上げる魔法だ。練習すれば身体に纏わせることも可能だ。今のお前では火傷をしてしまうからまだするな。」

「へぇ…もしかして、魔剣ってこれのことか?」


 魔剣という言葉を聞いて、アルドリックは懐かしさを感じた。アルドリックが学生時代に流行ったものだ。武器に魔石を宿すことで、魔物の力を武器に宿す技術。元々は遺跡から発掘された未知の技術だったが、現在では解析が進められていて、一部の鍛冶職人が扱っている。


「違う。魔剣は剣に魔石の力を宿した剣だ。それはただ魔法を付与しただけだ。」

「やっぱり、簡単な話じゃないんだな。」


 カイルの好奇心もなかなかのものだった。魔法に対して非常に意欲的。貪欲、とまではいかないが、アルドリックが何かを教える度に質問する。まぁ、殆どが間違っているのだが。しかし、探求心や向上心はあるようで、アルドリックが間違いを訂正するとすぐに覚える。物覚えがいい。


「で、炎纏はできたけど、次は?」

「…今日は終わりだ。」

「え?まだ一時間も経ってないぞ?」

「…なら、火球を撃ってみろ。」

「え?火球!」


 勢いよく叫んだはいいものの、魔法陣は展開できていない。カイルは何度も叫ぶが、魔法陣が出てこない。


「あれ?なんでだ…?」

「魔力が枯渇している。炎纏は発動している間は魔力を使い続ける。」

「なんだよ…もう枯渇したのか…」


 少し残念そうにするカイルだった。


 ◇◇◇


 さらに、数週間が経過した。カイルはこの日、火炎旋風(フレイムサイクロン)の魔法を成功させた。アルドリックは、ただ茫然としていた。今日この日、練達級の炎魔法全てを習得した。いくら才能があるからと言って、これほどのスピードは異常だ。


「…」

「な、なんだよ」


 カイルの魔力回路を見つめる。以前よりずっと、安定して流れ続けている。人間の魔力の循環は今のカイルよりも少し早いくらいが正常だ。ただ、カイルの魔力は少しばかり遅い。どちらかと言えば龍の魔力の循環に近い。


「…龍に出会ったことはあるか。」

「ん?あぁ、少し前に戦ったな。負けたけど。」

「その時に、龍に何かされたか?」

「あー…腹を爪で刺された。凄く熱かったな」

「熱い?痛みではなく?」

「あぁ。」


 このようなことは、アルドリックも見たことがなかった。人が龍の肉を喰らい、一時的に魔力を底上げするという方法が昔はやったことがある。だが、カイルは龍の肉を食べたわけではない。腹を刺されただけ。感じたのは痛みではなく、熱。


「その龍の種類は」

「初めて見る龍だったからな…赤く燃えている龍だった。かなり大きい龍だったぞ?」


 恐らく、その赤い龍がカイルの魔力回路の何かしらの影響を与えたのだろう。元々魔法が使えないとされていた人間が、炎属性の魔法を使えている。腹を爪で刺された時に龍の魔力が魔力回路を流れたのか、あるいは龍に魅入られたのか。


「…恐らく、その龍の影響でお前は魔法が使えるようになったのだろう。異常なほどの成長速度も、炎属性の適正が高いことが原因だ。」


 カイルの実力では、龍と戦って生き残ったことが奇跡と言える。何故、龍はカイルを見逃したのか。一瞬、アルドリックの顔が曇る。アルドリックの脳裏にある悪い考えが浮かぶ。龍は獣ではない。知性を持った上位の生物だ。その龍が、目の前の獲物を意味もなく見逃すはずがない。


「まさか。」

「ん?」

「…気にするな。」


 アルドリックは一先ず、深く考えることをやめた。龍の正体が正確にわからない以上、考えても仕方のないことだった。

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