魔法と杖
ヴァルディア王国ではある話題で持ちきりだった。”禁足域に人型の新種の魔物が現れた”と人々は噂をしている。禁足域の魔物が異常なことは周知の事実である。しかし、人型というのが世間の興味を引いた。
「⋯まったく、どの兵士が漏らしたんだか。」
「魔法使いの可能性もありますよ。」
王城の柵により掛かるヴォルケンと、そばに立つエルミナ。わずか二週間も立たずに禁足域での出来事が王都中に広まった。情報漏洩に国王グラディウスは呆れ果て、機嫌が悪い。
「それにしても、あの魔物は一体何なのでしょうか⋯」
「そもそも、あれが本当に魔物なのか?」
そう。肝心なのはそこだった。いくら禁足域の魔物が異常とはいえ、あそこまで知能が発達し、魔法を使った魔物は一度たりとも確認されてはいない。
「⋯あなたはどう考えてるの。」
「⋯わからねぇ。情報が少なさすぎる。だが、戦ってわかった。」
ヴォルケンは柵に両手をつき、エルミナの方を向く。
「あれは素人じゃねぇ。熟練の魔法使いだ。」
「それはそうでしょう。あそこまで緻密な魔力制御を難なくこなしていて、複数の属性を使用してましたし⋯」
「そういうことじゃない。俺が言ってるのは別だ。」
「別?」
「単なる魔物があそこまで熟練した技術を持ってるのはおかしい。エルフやドワーフみたいな長命種の線もある。」
「あぁ、なるほど⋯たしかに、自然魔法を使っていましたしね。」
「十中八九、エルフだろうな。それなら説明がつく。」
王都の鐘が鳴り響く。昼の時間だ。ヴォルケンとエルミナは王城の中へと戻っていった。
◇◇◇
今日、アルドリックは小屋の中を整理していた。何かを探している。不気味な色をした液体の入った瓶や、遺跡から持ってきた研究資料をどけている。大量にある箱を一つずつ開けては閉める。
「⋯あった。」
アルドリックは目当てのものを見つけた。深層耐魔鉱石。この禁足域の地下深くから発掘される希少な鉱石だ。精錬すると深層耐魔鋼になる。魔法による破壊と変質にとても強く、杖や魔法剣には最適な素材だ。
「⋯それと、これか。」
そして、アルドリックは水色の瓶を手に取った。液状のミスリルだ。加工することで固体になる。ミスリルは魔力をよく通すため、魔法使いたちが好んで使う金属だ。
そして、昨晩削って加工した赤い石を手に取る。ラーヴァビーストの魔石だ。この魔物は火山を住処としていてる。炎属性の大型の魔物で、口が大きいのが特徴だ。これは、何十年も昔にドワーフから譲ってもらった魔石だった。カイルの炎属性を強化するにはちょうどいい。
すべての素材を持って、アルドリックは外へ出た。外ではカイルが魔法の練習をしている。カイルは熟練級の魔法の習得に苦戦していた。どんなに才能がある魔法使いでも、熟練級になると途端に躓く。珍しいことではない。
「カイル。うまくできたか。」
「いや⋯まだできてない。」
いつからか、アルドリックはカイルのことを名前で呼ぶようになっていた。カイルはアルドリックのことを名前では呼ばない。
アルドリックはすべての素材を地面に置く。そして、魔法陣を展開する。
「神鉄顕現。」
神鉄顕現。ドワーフが得意とする金属魔法の中でも最も難しいものだ。簡単に言うとこれは高度な装備を錬成する魔法だ。数十年前にドワーフが使用しているところを見て、魔法を盗んだ。アルドリックにとっては金属魔法の解析は容易だった。
深層耐魔鉱石が深層耐魔鋼へと変化し、ミスリルが固体へと変化する。内側にミスリル、外側に深層耐魔鋼の構造にした。杖の形に変えていき、杖の先端に魔石を取り付けた。
「こんな程度だろう。」
即席ではあるが、一級品の素材を使用した杖が完成した。内川のミスリルが魔力の伝達、外側の深層耐魔鋼が耐久性の上昇の役割だ。ラーヴァビーストの魔石による、炎魔法の強化も相まって、炎属性に特化した上等な杖となった。
「受け取れ。」
「⋯え、俺に?」
金属魔法を黙ってみていたカイルに、突然杖が渡された。カイルは困惑しながら杖を受け取る。少し青みがかった鈍色の杖だ。先端の魔石が輝いている。
「いい⋯のか。見た限りかなり高そうだが⋯」
「余った素材で作っただけの杖だ。杖を持っていて損はない。私のものよりは質が落ちるが、今はそれで十分だろう。」
カイルは受け取った杖を使って、魔法の練習を再開した。そして、驚愕した。魔法陣の構築から発動までの時間が短縮されている。
「⋯速い!?」
「気づいたか。」
魔法は杖を使わなくても使用できる。なぜ、杖を使用するのか。それは、都合がいいからだ。杖を使用することで発動までの時間を短縮できる。この技術は昔からあるものだが、現代の魔法使いは杖以外の武器にも転用しているようだ。
「杖は魔法の効率を上げる。手入れはきちんとすることだ。」
アルドリックはそう言って、再び小屋の中へと戻っていった。今日、まだできていない魔法の研究に取り掛かるつもりだ。カイルはそのまま、日が暮れるまで魔法を練習していた。




