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禁足域のワイズマン  作者: 影森 木霊


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8/10

古代の塔

「…なぁ、どこに向かってるんだ?」


 カイルが呟いた。アルドリックとカイルは、森の中を歩いていた。早朝から、アルドリックはカイルをある所に連れて行こうとしている。その場所が何なのかを、アルドリックが話すことはなかった。


「…聞いてるのか?」

「私が求めるべきものが、そこに在る。」


 これが返事だった。カイルは困惑した表情を浮かべる。求めるべきものが、いったい何なのか。皆目見当もつかない。


 アルドリックはただ、目的地に向かって歩き続ける。かれこれ、もう三十分は歩いている。足取りは一切変わらない。


「…ここだ。」

「…これは」


 アルドリックが突然止まった。カイルはアルドリックの前に行く。崖のような場所だった。しかし、その奥に広がっていたのは、蔓に侵食された街。遺跡だ。


「古代魔法文明。かつて、世界の魔法を支配した文明だ。その名すら残っていない。」

「でも、なんでここに?」

「…我々魔法を追い求める者は、この文明からは避けられない。」


 アルドリックは再び歩き始める。カイルは後をついていく。


 崖の下へとやってきた。カイルはあたりを見回す。崩れた建物、空に浮く巨大な魔石。


「…動いてる?」


 カイルは目を凝らして魔石を見る。光は失われておらず、周囲の輪は回転し続けている。


「魔力を蓄えるための魔石だ。まだ膨大な量の魔力が残っている。」

「…は」


 カイルは驚きを隠せなかった。古代魔法文明は、カイルでも知っているほど有名な文明だ。崩壊したのは今から数千年も昔。数千年間も、魔力があの魔石に蓄えられ続けている。


「…あり得ないだろ」

「あり得ないということ自体があり得ない。それが魔法だ。」


 アルドリックは即答した。カイルはただ、あの魔石を見つめていた。


 アルドリックは道を進んでいく。何百回と訪れたこの遺跡。発見した遺物や本は、まだ三割も理解できていない。これほどまでに高度で、難解な魔法文明が存在した。この光景を見る度に感じる。自身は、まだ駆け出しの魔法使いだったと。百年以上生き、魔法に人生をささげてきた。しかし、迷宮の入り口にすら立っていなかった。この遺跡を訪れて、初めて入り口に立てたような気がした。魔法という、とてつもなく高く、深い迷宮に。


 アルドリックは、塔の前にやってきた。カイルはその塔を見て、目を疑った。塔には魔法陣が展開されている。魔法陣は白色に光っている。魔法陣が、起動している。


「これは…」

「これが、唯一完全な形で残っている古代の魔法だ。」


 塔を守るように、上空に展開された魔法陣は回転し続けている。カイルは魔法陣を観察する。アルドリックから魔法陣については少しだけ教わったが、どれが何を意味しているのか、何の文字が刻まれているのか。まるで理解ができなかった。


「何の、魔法なんだ?」

「結界だ。この魔法陣にはあらゆる魔法を無効化する術式が刻まれている。加えて、塔の素材は魔法に対して耐性のある素材が使われている。」

「…なんだって、この塔にそんなものが。」

「ある程度は予測がつく。これを見ろ。」


 アルドリックは塔に近づいた。塔の入り口の上を指さす。カイルは恐る恐る、魔法陣の下に足を踏み入れた。指さされた場所を見つめる。


「…ドワーフ族の紋章?」


 刻まれていたのは、ドワーフ族の紋章だった。続いて、アルドリックは別の場所を指さす。今度はエルフ族の紋章。次は、竜人族の紋章。天使族、魔族、獣人族、そして、人族。全ての種族の紋章が、塔に刻まれている。


「これは…」

「かつて、古代魔法文明はすべての種族が手を取り合っていたのだろう。この塔は記念碑のようなものだ。」


 アルドリックは塔を見つめた。宝が隠されているわけでも、魔法の真髄がそこにあるわけでもない。ただ、全ての種族がいたという記録を残すためだけに、この塔はここに建てられた。数千年間も、記録を後世に伝えるためだけにここに在り続けた。


 この塔を見て、アルドリックは常々思う。魔法とは何のために存在しているのか。たかが、全ての種族がいたというだけの記録を伝えるために、ここまで複雑で、膨大で、難解な魔法を用いた。古代の人々は、一体、現代を生きる我々に何を伝えたかったのか。


「なんで、記念碑にこんな厳重な魔法を…!?たかが記念碑だろ!?」

「さぁな。それはわからん…これほどまでの術式を構築してまで、何を後世に伝えたかったのか。」


 アルドリックはカイルを見つめる。カイルの目は魔法陣に釘付けだった。


「…古代魔法文明が崩壊した理由を、知っているか。」

「…え?あぁ、確か、魔物に淘汰されたって…」

「これほどまでに高度な魔法を使える文明が、本当に魔物に淘汰されたと思うのか。」


 アルドリックの声色が低くなる。カイルは答えられなかった。世界最高峰の魔法技術を持っていた古代魔法文明。空を飛ぶ船、数千年間も魔力を蓄えられる魔石、数千年間もこの塔を守り続けた、結界。幼いころから聞かされてきた歴史。魔物に淘汰されたと。しかし、目の前の塔を見れば、その説明に違和感を覚えた。


「今の世界の現状は、全ての種族が対立はしていない。だが、手を取り合っているわけではない。数百年も昔からだ。」

「あぁ、確かにそうだが…」

「これは私の考えだ。彼らは魔物によって淘汰されたのではない。何か、別の理由があったはずだ。」

「…魔法によって?」

「…我々魔法使いは、この文明から学ばなくてはならない。魔法も、正しい使い方も。」


 それだけ言い終わると、アルドリックは静かに元来た道を進んだ。カイルは帰り際、先ほどの塔を見る。白い魔法陣が、空に浮いている。先ほどと何も変わらない。

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