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禁足域のワイズマン  作者: 影森 木霊


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3/10

変幻自在

「ち、ちょっと待ってくれ。どうしてその二択になるんだ。」

「不満か?お前は生き残り、魔法を使えるようになる。」

「それは魅力的だが…俺に魔法は使えない。」


 若者の返答に、アルドリックは首をかしげた。全身をじっくりと見る。全身に絶えず循環している魔力。特に異常は見られない。ただ、流れはとても力強い。これは、素質ではない。何かによって強引にこじ開けられたかのようだった。魔力回路は多少傷んでいる。魔法を使ったことがない人間が、何をどうしたらここまで魔力回路を傷めてしまうのか。アルドリックはあらゆる可能性を考えていた。


「な、なんだよ」

「…魔力は絶えることなく循環している。素質は十分だが。」

「俺は幼少の頃、適性検査で魔法は使えないって言われたんだ。宮廷魔導士がそういったんだぞ。」

「ならばその宮廷魔導士の見る目がなかったのだろう。お前は魔法を使える。」


 一先ず、魔力回路のダメージは後回しにした。初歩的な魔法を使う上では問題はない。時間をかければ、魔力回路の再生はできる。あとは、若者がどちらの選択をするかだ。


「…どうする。」


 アルドリックは選択を迫る。若者は眉間にしわを寄せる。葛藤している。アルドリックは理解ができなかった。これほどまでに魅力な選択肢を前にして、何を悩むことがあるのか。魔法を手に入れ、命を失うことはない。一体何が、この若者を悩ませているのか。


「…よろしく、お願いします。」


 ようやく、若者は決心した。アルドリックは何が若者の決心を邪魔していたのかが気になったが、取り合えず置いておくことにした。


「名前は」

「…カイル・アストレア。」


 若者はカイルと名乗った。


 やがて、日が落ちてきた。辺りは暗闇に包まれる。植物の蔓が伸び、簡易的なベッドが用意された。カイルはベッドに寝転がる。アルドリックは水魔法、炎魔法、光魔法の応用でカイルの身体を綺麗にした。この小屋には風呂がないため、アルドリックが完成させた魔法術式だ。


「…魔法って、こんなに便利なものなのか?」


 カイルの疑問は深まるばかりだった。カイルの知る魔法は、術式があらかじめ決められていて、特定の条件下で決まったものが発動するというものだ。だが、アルドリックの魔法は違う。様々な属性を掛け合わせるだけでなく、高度な魔法から日常で使う簡易的な魔法までもが揃っている。


「使い方次第だ。魔法は魔力の形を変えるものだ。それは変幻自在。使い手の思うが儘に変わるものだ。」


 アルドリックはそういって、果実を乗せた大きな葉をカイルの膝の上に置いた。夕食だ。最早、植物化したアルドリックには必要ないものだが、カイルは人間だ。育てている魔法植物の中で、人間が食しても問題ないものを厳選した。


 色とりどりの果実の中で、カイルは青色に輝く果実が目に留まった。うっすらとオーロラのような光が漂っている。


「それは龍の実だ。食べれば魔力が回復し、魔力回路の再生を助ける。これから毎日食べることだ。」


 龍の実。太古の昔から魔法使いたちが重宝してきた果実の一つだ。膨大な魔力を溜め込むため、龍の名が付けられたという。また、龍が魔力回復に好んで食べるからだという説もある。カイルの損傷した魔力回路を再生するにはうってつけの果実だ。


「…どうして、赤の他人の俺にここまでする?」


 カイルは果実をかじりながら問いかけた。アルドリックはカイルを見つめる。自分でもどうしてなのかはよくわかっていなかった。純粋な好奇心なのか、別なのか。


「…お前は、私と似ている。」


 よく考えてみてれば、アルドリックとカイルは共通点があった。禁足域に足を踏み入れ、帰る場所がない。


 カイルが食事を終えると、アルドリックは蔓の光を消した。自分の机の上だけは、光を残した。


「…寝ないのか?」

「私に睡眠は必要ない。必要なのは光と水だけだ。」

「…どうして、植物になりかけたような姿になるほど生きたかったんだ?」

「寿命が近かったからだ。」


 百年以上前、アルドリックはある問題に直面した。十六歳でヴァルディア王国からザルディム帝国へ移住後、アストラル国立魔導院で魔法の研究に没頭した。問題に直面したのは四十八歳の時だった。自身の寿命が迫る中、アルドリックは気づいてしまった。自分は、まだ一割も魔法を理解できていない、と。


 それから、アルドリックは延命や不死に関する術式についてを調べ始めた。特殊な魔法や術で延命を図った魔導士は過去に何十人といるが、成功した者は歴史に記録されていない。不死に関しては全くと言っていいほど、情報はなかった。


「私は魔法という道を歩き続けたかった。まだ見ぬ先を、道なき道を切り拓きたかった。それ故に、人の姿を捨てた。」

「人間を辞めてもいいほど、魔法を極めたかったのか。」

「そうだ。」


 即答だった。一切の迷いや後悔はない。カイルは確信した。目の前にいるのは化け物でも魔物でもない。時間という縛りに抗う魔法馬鹿だ。カイルはほっと胸をなでおろした。

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