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原作者の異世界降臨~大人気アニメの世界に転生したけど、原作者だから今後の展開は読めます~  作者: 初凪 旭
葛藤

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008.オネネヴの入学式

 半年が経過した。

 ラギツェヴニ司教には俺が魔力を操作していることはバレているだろうが、あれから父の様子にも変わった部分は見られない。いつも通りの日常だ。

 ラギツェヴニ司教がエトナヴ領に拘るような設定は作っていないので、これから先出会うことは早々ないだろう。

 


 新しい一年が始まりを告げて一週間。今日は、姉オネネヴの初等学院への入学式その日である。

 六神教の神殿に併設されている六神教立初等学院は、この王国のほぼ全ての町に存在する。

 唯一王都にだけは、王立初等学園が設立されている。


 そして、各町には領地を統治する領主の親族しか貴族は存在しない。

 そのため、オネネヴがエトナヴ領都の初等学院に通う唯一の貴族となるのだ。

 

 同級生からすると扱いにくそうだが、姉は底抜けに明るい。

 きっと、友達をたくさん作ることだろう。

 それに、オネネヴの幼少期にはアイロツィの死以外にも重要で、物語の主要人物に深く関わる要素がある。



「ふふ、オネネヴの入学式、楽しみね」


「ああ、随分と張り切っていたからな」


「あい~」



 両親は、入学式の観覧席に二人並んで腰かけてそう話す。母は俺を抱っこしたまま嬉しそうに微笑んでいた。

 先ほども思案したように、貴族の入学というのは非常に稀であり、この王国では必要以上に貴族を特別扱いしない。

 

 故に、この観覧席は平民と横並びである。


 身内の贔屓目をなしにすると、父ラカクの顔はかなり厳つい。その戦闘力に裏付けられる、服の上からでもわかる筋肉が威圧感を倍増させている。極めつけに、自分たちの住む町の領主。

 周囲に座っている人たちがとんでもない緊張の仕方をしているのがよくわかる。

 親しみやすい領主ではないかもしれないが、常に領地と領民、それに家族の事を考える優しい人なのだ。勘違いはしないでほしい。



 オネネヴの入学式。もちろん姉の晴れ姿を見る楽しみもあるが、俺にはもうひとつ楽しみな事がある。

 『平民騎士の英雄譚』にて、ストーリーの展開上非常に重要な役割を持つ、読者人気の高いメインキャラクター。

 物語の中盤で主人公エルトセムの仲間となる。彼女の人生が変化すれば、エルトセム自身のストーリーまでもが変化するであろう人物。


 彼女は、オネネヴの幼馴染だ。






 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 「そこまで!」



 エルトセムの剣は、届かなかった。

 魔法師は、近接戦闘に於いて騎士や兵士に劣る。社会の常識だ。

 だからこそ、だろうか。油断があったのは否めない。


 だが、それ以上に隔絶した何かを、眼前の少女から感じた。



「ん、痛くした?ごめん」


「いや……大丈夫。強いんだね」



 地面から生えた土の腕は、エルトセムの拘束を解くとただの土くれに戻る。

 自分より年下にしか見えないその子は……末恐ろしいことに、魔法行使に際して一切の詠唱をしていない。

 それも、剣を持って迫って来る相手に対してだ。

 才能だけで片付けられる話ではなかった。



「ん。剣相手は昔友達で慣れた」


「友達?騎士学園に通って?」



 魔法師学園との合同演習は、同じ年齢の人で行われている。俄かには信じられないが、この幼げな少女は、エルトセムと同じ年齢であるのだ。

 そんな少女が友達というのであれば、エルトセムも当然その人を知っているだろうと。自分より剣の腕前が卓越した少年の姿が頭に浮かんだ。

 だが、眼前の少女は思いもよらぬ返答をする。



「ううん。学士学園」


「学士学園……?」


「うん。幼馴染なんだ」



 学士学園といえば、文字通り学士や薬師を目指す人が通う学校だ。

 そんな学士学園に、剣を振るう人間が……?

 追って質問をしようとするも、少女が苦しそうな顔をしていることに気付き、思わず言葉が詰まる。



「だから、剣には慣れてる」



 何か、大きな過ちを犯したかのような表情。

 これが幼き魔法師、オネゥケプとの出会いだった。






 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 オネゥケプ。エトナヴ領の領都で生まれ育った平民だ。

 物語の時系列的には、エルトセムはオネネヴよりも先にオネゥケプと出会っている。

 その特異な点は、出自にある。


 六神教の聖典に登場する『闇の神オルクーセ』、その眷属である『昏き森の妖精』が人間と恋に落ちひとりの子供を作った。

 『昏き森の妖精』は、神の眷属であり、人間とは寿命が違う。愛した男も先に死んだ。子も、人間の血が色濃く出ている。人と同じ寿命で死ぬだろう。

 だからこそ、離れた。自由にした。

 『昏き森の妖精』の子は、人里で子を成す。どこか人と構造が違うのか、その子孫は必ず女として生まれ、ひとりしか子を成せない。


 オネゥケプは、その奇跡の様な出自で生まれた子でありながら、永い時の間に唯一誕生した『昏き森の妖精』の血を色濃く受け継いだ先祖返り。

 世界で唯一の、神の眷属の子孫。

 『昏き森の妖精の末裔』オネゥケプ。



 オネネヴの幼馴染という設定があり、同じ年齢である以上、今日の入学式にも出てくるはず。

 俺は、その姿が楽しみなのだ。アニメや漫画には描かれなかった、幼い時のオネゥケプ。

 原作者として、しっかり目に焼き付けなくては。



 

 恙無く入学式は始まり、未来ある幼子たちが入場する。ひとりひとり名前を呼ばれ、入場していく中……ついに。



「オネゥケプ!」



 呼ばれた。首を回して、必死にその姿を確認する。

 肩より下まで伸びた銀髪。白い肌。眠たげな表情。

 間違いない。


 俺の内心は、最高潮に達した。

 主要人物の、その幼き姿。原作者でも見ることのできない、レアな姿。

 オネネヴの幼い姿も、オネゥケプの幼い姿も見ることが出来た。

 この日ほど、転生を感謝した日はない。そう言えるほどの高揚が、心を占めていた。



「オネネヴ・エトナヴ!」


「はいっ!」



 我が姉ながら、元気の良い返事だ。

 返事をして入場するのが通例なのだが、オネゥケプの返事は聞こえなかった。声が小さすぎたのだろう。いや、姉の声がでかすぎるのか?

 まぁ、どっちでもいい。


 五十音順に並ぶ入学者たちの列。隣り合って座るオネゥケプに、オネネヴが話しかける。

 そうして仲良くなり……未来は紡がれるのだ。


 今この瞬間も、俺の原作は想定通り進んでいる。

 その事実に、この時の俺は満足していたのだ。

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