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第39番 意志なき人魚



「…何か言いたいことは?」


 目の前で両腕を組みながらこちらを見下ろしているオルカに土下座の姿勢のまま申し訳ございませんでしたと謝罪の言葉を口にする。その横ではオルカと同じように濡れた髪を張り付かせたプラティさんが呆れたような顔で座っている。


 海に二人を担いだままのダイブを決めた後、やっぱり人魚なだけあってかすぐに体制を取り直して二人ともなんとか泳いでた。かな〜りお怒りではあったけども。「陸に着いたら覚えてろよ。」って低く呟いたオルカがそれはもう怖かった。


「…あ。」


  崖からのダイブだから陸のすぐ近くだったけどやっぱり偶にこういうのが寄って来ちゃうらしいんだよね。なんだよって構えた二人を押し退けて大きく振りかぶった私は思いっきり腕を振る。

 その先にいた海獣だか何かよくわかんない大きいお魚さんは、盛大な水飛沫を上げて少し離れた場所まで飛んでいった。その様子を見てたあんぐり大きな口を開けてる二人を置いて、殴った海獣を回収するとさっさと陸地に二人を誘導する。

 そんなにぼんやりしてるとまた海獣来ちゃうよ、って言ったらなんだか睨まれた。なんでぇ??


 はぁ、やっと地面に着いた。自分達がこの大陸の中のどこら辺にいるのか全くわかんないけど、岩っぽい地面の洞窟みたいな場所。海を泳がないとここには来れなさそうだし当分誰かに見つかることはなさそうかな。お空はもう真っ暗だし時間は分かんないけどもうかなり夜なんだろうな。

 真っ暗だった洞窟の中にプラティさんが小さな光の玉を出してくれた。お礼を言って中を見渡せばゴミも虫もないしなんとか過ごせそうな場所だ。

 海獣をそこら辺に放っておいて一息つく。ふぅ、さてと、


「申し訳ございませんでした。」


 とりあえず土下座しとこう。だって二人ともどう見てもめちゃくちゃ怒ってて怖いし。はい、言いたいことはないですマジですいませんでした。


「はぁ、もういいよ。どうせお前何も考えてなさそうだしな。」


 近くの岩場にどかっと腰を下ろしたオルカが大きなため息を付いた。あれ?なんか許された感じ?


「神子様の誘拐の件は後できっちり説明してもらうからな。」


あ、だめだ許されてない。


「とにかく今日はもう疲れた。」


 オルカも朝から何か忙しかったんだっけ?そりゃあ疲れるよね〜。お疲れ様ですって言ったらまた睨まれた…。


「あ、オルカかプラティさんどっちか火出せない?」


 二人で顔を見合わせているのを横目に腰から下げていた小さなマジックバックに手を入れる。説教も終わったみたいだし、そうなったらコレだよねぇ。

 カバンは濡れてるけど中身は無事みたいだ。マジックバックって本当に便利だよね。とりあえず焚き火用の木と、お皿と、味付け用のお塩と…


「今度は何する気なんだよ。」


 すごい呆れた顔のオルカと同じような呆れた顔のプラティさんが魔法で薪に火をつけてくれた。


「お腹すいたでしょ?お肉食べよーよ。晩御飯♪晩御飯♪」


 いつも腰から下げているナイフを鞘から取り出して今倒した海獣を解体に取り掛かる。お魚よりも哺乳類に近い感じ。とりあえず私はお肉食べられればなんでも良いです。


「…お前、変わってるって言われねぇか?」


 なんでか大きなため息をついたオルカが隣に立つ。ん?手伝ってくれるの?ありがと〜!

 オルカが皮剥ぎとか解体を手伝ってくれたので存外早く終えることができた。やっぱサイズが大きいと一人じゃ大変だしね。

 パチパチと爆ぜる火にお肉が炙られてジュウジュウ音が鳴っている。ああ〜、美味しそう早く食べたい〜。だって今日はおやつも食べ損ねちゃったし、本当にお腹ペコペコなんだよねぇ。


「…それで?神子様を誘拐したって話は本当なのかよ。」


 炙っている肉を上手く回しながらオルカが口を開く。目はそっぽを向いてるけどとても気まずい。

 それとは反対にプラティさんはこっちをジッと見つめている。この人が一番謎深いんだよね。


「えーっと…私、話下手だから長くなると思うけどいい?」


 どうせ夜は長いんだからさっさと話せと言われたので腹を括ることにした。


まず私のいた大陸で奴隷になっていた人たちを返しに来たこと。

自分の国の神子様は小さな女の子でとても可愛くて、その子との会合に来たのが偽物の神子様だったこと。

自分達の話を聞いてもらえなくてこの国にもう少し残る時間を稼ぐために私が行方不明にになったふりをしたこと。

そのためにたまたま出会ったおじさん達のところに居候していること。

そしてそのおじさん達と漁に出かけた先で出会った人魚の女の子がこの大陸の神子様だったこと。


「…リュケ、最初は何も言葉を話さなかったんだよ。自分の言葉は誰かを傷つけてしまうからって。毎日部屋に閉じ込められて何もすることがなくて、誰とも喋らないなんて…そんなのかわいそうでしょ?」


 ここまで話し終わるのに炙ったお肉はもうとっくにそれぞれのお腹の中に入ってしまった。ネコちゃんに聞いたやり方で食後のお茶を準備する。それをオルカもプラティさんも受けとってくれた。


「私の仲間の一人にとても頭が良くて強くて頼れる人がいるんだけどね…その…」


 勝手に自分でへそを曲げて出てきたっていうのは今冷静に考えるとちょっと恥ずかしいかも。

 なんて言おうか悩んでいたらプラティさんと目が会った。その目はどう考えてもさっさと先を話せと言われているようで、仕方なく独り言みたいにポツポツ話す。


「だってマイ君、神子様とはいえ私のお友達のことなのに…私に出来ることはないから帰れって…そりゃあ私は役に立たないかもしれないけど…でも、途中まで私の足で送ったのにさ…。」


 一度口に出すと中々止まらなかった。こんなところで関係ない二人にぐちぐちしたってしょうがないのに、それでも言葉にするといくらか気がまぎれた。


「…それで?自分じゃそのマイくん?の言うように力になれないからこんなところで一人グジグジウジウジしているの?」


 あまりに鋭い言葉が飛んで来た。でも言葉の内容に反応するより、その声を発した人が驚きで、へぁ?っと変な声を出してしまった。

 はっきりとした言葉をくれたのは、今までほとんど声も出さなかったはずのプラティさんだった。ほら、隣のオルカもポカンと口を開けてる。

 眉毛を吊り上げて両腕を組んでなぜか仁王立ちの状態でこっちを見下ろしているプラティさん…えっと…なんか怒ってる?


 はぁああ…と肺の中の息を出し切るようにため息をついたプラティさんは自分のほっぺたを両手でバチンと音が鳴るほど叩いた。え、痛そう。

 そう思ってたら今度は私の真横まで来ると音が鳴る勢いで私の両頬を手で挟んだ。プラティさんの手の方が痛そうだけど…大丈夫?


「あなたの友達のことなんでしょう!出会ったばかりとか!神子様とか!人間とか!それが何⁈しっかりしなさいアサヒ!マイくんとやらがどれだけ頼れようと、良い人だろうと強かろうと、あなたの大事な人のことなんでしょう!自分のやりたいことを他人のせいにするんじゃない!!」


 あまりの剣幕にふぁいと間抜けな返事を返すしか出来なかった。その様子をオルカも丸い目で見ている。


「ああ、もうどいつもこいつも!」


 何にイライラしているのかイマイチわからないけど、プラティさんは自分の席に戻った。まだ少し残っていたお茶を一気に飲み干すとふぅ、と息を吐いて音が鳴る勢いでその場にカップを置いた。マイくんが作った木彫りのカップ壊れちゃう…。

今はそんな場合じゃないか。なんだか目が据わっていらっしゃるのですが?


「良い?今から私の話をしてあげる。私は自分の意志でここにいるの。そして自分の意志であなたに手を貸すわ。ここまで来たんだからどうせもう地獄に行こうが行くまいが似たようなものでしょう。」


 プラティのお茶にもしかしてアルコールでも入ってた…?あまりの代わりように私もオルカも口を挟めなかった。


「私はプラティ。本名は…プラティ・メガルノウ。第三皇族の血統で…言霊魔法を、使える。この大陸で言霊魔法を使える女の人生にを、あなたに教えてあげるわ!」


 夜って長いなぁ…って半分意識を飛ばしながら私とオルカはプラティさんの演説を聞くハメになった。


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