第37番 アップテンポな物語
オルカとプラティさんを担いで走ってどれくらい経ったんだろう。とっくに兵隊さん達は撒いたけど止まるタイミングを逃して走り続けてる。
想像に容易いとは思うけどもちろん迷子中。さっきまで腕の中でオルカが叫んでたけど今は静かだ。生きてるかな?
もういっかなと思ってゆっくり足を止めていく。両方の腕を見たら二人とも真っ青な顔でオルカの方なんか頭を抱えてる。えっと、降ろしても大丈夫?
「…ふざけんな…よ、テメェ…」
随分覇気のない声でオルカがゼェゼェ息をしてへたり込んでる。そんなにキツかったとは申し訳ないことをしてしまったと、謝罪の意味を込めて正座で二人を見守る。
同じように座り込んでいるけど呼吸が整ってるプラティさんの方がまだ胆力がありそうだね。
まぁ逃げる羽目になったのもこんな状態にしてしまったのも全部私のせいなのでマジックバックから出したお水を渡しながら労う。オルカにすっごい睨まれてる気がするけど気のせいだよね。
「…はぁ、お前は一体なんなんだよ。」
水を飲んで一息ついたオルカが口元を拭いながらこっちに目線を向ける。いや、ただの人間なんですがって言える雰囲気じゃないねはい。
「てかお前なんで国兵なんかに追われてんだよ。神子の一向なんじゃないのかよ。」
そんなこと言われてもそこは私が聞きたいところなんだよね。国兵ってやっぱ国の人ってことだよね?マイくん何かやらかしちゃったのかなぁ。
「あ、そういえばリュケを攫っちゃったな。」
「リュケ?誰だよ」って二人とも不思議そうな顔をしてる。この国の神子様なのにリュケの名前を知らないのかな。
「この第二大陸の神子様だよ〜。」
ん?あれ?なんの反応もない。二人の眼の前で手を振って見る。反応がない。おーいって声をかける。
「…あれ、俺の耳なんかおかしくなったかな。」
あ、ようやく反応してくれた。顔も青いし声が掠れてるけど大丈夫?
「み、みみみ神子様…を…さ、攫ったって、聞こえたんだ…が……」
なんでそんなに手も声も震えてるの?私何か変なことでも言っちゃっt…あ!この国って誘拐が問題になってたんだった。自分の考えなし加減に私まで青ざめる。もし私がオルカの立場だったら話を聞く前に手が出てる状況。殴って気が済むなら殴ってほしいけど絶対にオルカの方の手が折れるよね。
「あ、あの、その、リュケの方から…、あ、いや攫ったのは確かで、で、でも…」
私が身振り手振りで必死に弁解している間に少しずつ現実に頭がついてきてしまったみたい。真っ青を通り越してちょっと緑っぽい顔になった二人がじりじり後退りし始めた。ちょっと待って、本当に待って!
「テメェも、やっぱニンゲンが…俺らを、神子様を、テメェも、そこらの人攫いと、何も変わんねぇのか!!」
うわ、顔が今度は真っ赤になった。誰でもわかる怒りMAX。こんな状況になってるのは完全に私の責任なので何も言えない。とにかく今は話を聞いてもらわないと。
「落ち着いて、お願い!少し話を聞いて〜!」
そんな言葉なんか耳に入らないみたいでプラティさんを左腕で庇ってるオルカがゆっくり銃を向けて来た。真っ赤な顔のオルカとは違ってプラティさんは青い顔で真顔。やっぱり、何を考えているのか全然わかんない。オルカよりもまだ話は通じるかな…
「これ以上、俺らの仲間を奪ってどうする気だった。神子様までお前らの好きにして、俺らをどうする気だったんだ!!」
うわぁ、プラティさんに話しかける以前にオルカが激昂しちゃって全然話を聞いてくれそうにない。どうしよう、どうしよう。と、とにかく誤解を解かなくちゃ。
「いや、あのね、だから…」
そこで遠くから何人かの走る音と幾つもの声が風に乗って聞こえてきた。やばい、ここまで追っ手が来ちゃったの⁈それを言おうにも警戒心MAXな二人には伝えられそうにない。てか何か言おうとしても口を開く前に遮られる。ああ〜、もうっ!
急に私の雰囲気が変わったことに気がついたのか銃を構え直すオルカ。そこに私は正面突破で真っ直ぐ突っ込んだ。
空気が爆ぜるようなスピードだったのにオルカは銃を正確に私に向かって発砲した。両腕を顔の前で盾にしたので大したダメージにはならなかった、けどやっぱり痛い〜!
痛くてビリビリして涙目になっちゃったけどそんなのを気にしてらんない。そのまま両脇に抱えるように二人を持った。側から見たら大きめのカバン持ってる人みたいかも。
私の行動が予想外だったのか、オルカは一瞬だけ止まってたけどすぐに暴れ出した。そんなこと別に大した問題じゃないのでがっちりホールドしたまま私は走り出す。
何か喚いてるけどやっぱりそんな場合じゃないので前を向いたままオルカに話しかける事にした。…てかプラティさん静かだけど大丈夫かな。心配になってそっちを見…両手をほっぺに当てて何だか機嫌悪そうに眉毛を顰めてますがそれはどんな感情なんでしょうか??まぁ大丈夫そうだから何でもいいか。
「オルカ、暴れてて良いけど口閉じないと舌噛むよ。」
「…は?」
オルカの返事を待たずに私は一気にスピードを上げる。腕の中のオルカがさらに煩くなった。あ、違う、これただ絶叫してるだけか。それでも近づいていた足音に会いたくないのでひたすら走った。
どのくらいの時間走ったのかわかんないけど結構距離を稼いだかな〜ってくらいで静かになっていた腕の中のオルカがまた暴れ出した。もう、諦めが悪いな〜って思ってたんだけどよくよく聞いてみたら何か言葉を話してる。一応耳を貸してみる。
「そっちは崖だつってんだろ!聞けよ馬鹿野郎ぁああああああ!!!」
え⁈ちょっ、このスピードでそんな急に言われても誰も止まれるわけがなく。
「あああああああぁぁぁぁあああ!!!!」
「きゃぁああぁああああああああ!!!!」
「ごめぇぇえええんんんんんんん!!!!!」
3人それぞれの絶叫を響かせながら私たちは海へのダイブを決めた。
__________
追っていた気配が一瞬の間で途切れた事に思わず舌打ちが漏れる。
自室に閉じ込めていれば当分は安心かと思っていたがまさか一緒に入れた女と共に脱出するとは。今のこの国の中で彼の子を一人放浪させるのがいい事とは思えない。二十歳になれば全てを語ろうかと思っていたが遅すぎたか。
やはり十六になった成人の時に話せば良かったと今更ながら後悔しても遅い。あの晩に私は彼の方から任されたのだ。信頼できる部下ももうそれほど残っていない。この国は今どうなってしまっているのか。
自分の立場からでは見えるものが少なすぎて考えることも難しい。
あたりを探していた部下が首を横に振るのを見て歯を食いしばる。
「今度は向こうの方角に行くぞ。」
足元に転がした国軍の兵どもに一瞥もくれず、リーダーと呼ばれた男はまた森の中に入って行った。




