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第31話 偶然と必然の歯車

 


 いくつもの街を走っても宿には中々着かなくて意外と遠くに来てたんだな〜と今更ながら思う。こんな距離を一瞬で行き来できちゃうマイくんってすごいよね。

 そのマイくんは腕の中でずっとブツブツ言ったり、小さなホログラムみたいなのを出しては指で何かして、たまに行き先の指示をくれる。

 道すがらに何人もの人魚さん達を通り過ぎたけど誰1人私たちの存在に気がついてないみたい。たまに変な風が吹いたなって思うだけ。

 見た目はただのマントなのに陣を入れただけで魔法道具になるなんて魔法ってすごいよね〜。


「おい、そろそろいいぞ、ここらで下ろしてくれ。」


「ふえっ⁈結構走ったけどまだまだ宿まで遠いと思うよ?それに私もリュケが心配だから宿まで戻りたいし。」


 私も帰る気満々だったから慌ててそう言い返してみた。なのにマイくんは首を横に振っただけでそんな気はサラサラない様子。


「いや、お前はあの場所にいろ。何かあればすぐに来れるだろ。今はまだお前にできることは少ないからな。」


 それだけ言い残してマイくんはあっさり腕の中から消えた。転移したみたい。

いや、まあ…うん、そうなんだけどさ〜…


 ほっぺたを無意識に膨らませながら何も無い空をアサヒは睨んだ。

 流石のマイくんでもさ〜、ちょ〜っとそれは無いんじゃない?


 今日はいろんな感情が順番良く回ってきて流石の私も疲れてきた。それよりも今は怒り心頭だけども。


「マイくんのばかっ、好きにしちゃうもんね。」


 聞く人などどこにもいないのにぼそっと呟いてアサヒは今来た方向とも向かってた方向とも違う明後日の方向に駆け始める。

 目的の場所とかがあるわけじゃないけど、私だってリュケが心配なのにこの扱いは酷すぎるんじゃない?って思うんだもん!!

 こういう時は勘で進むに限る!私は勘もいいもんね!


 がむしゃらにとにかく走っては行き止まりに当たったり、水路に阻まれたり森の中でうろちょろしたり…


「…だよね!」


 完全に迷子になった。元々自分の居場所なんかわかってないけどさ〜、森のど真ん中、右も左も木、草、岩。

 匂いを嗅いでみてもこの国どこでも潮の匂いしかしないんだよね〜。うあぁ…私は一体何やってるんだろ…。

 どうせこんな所で人になんか会わないだろうし、と思ってフードを外す。これ結構視界も狭まるし鬱陶しいんだよね〜。

 適当に拾った私の身長くらいの枝を振り回しながら最初とは違ってゆっくり前に進む。もはやどっちが前か後ろかも分かんないや。

 あーあ、全然人の気配もないし、道を聞くに聞けないし、ど〜しよっかな〜。

 自分でも子供じみたヤケでこんなことをしてるくらい分かってるんだよ。でもなんだか惨めで恥ずかしくて寂しくて、よく分からない何かがごちゃごちゃしてどうしようもないんだもん。

 ブンブン木を枝で薙ぎ払いながら進んでいるとピクッと体が反応した。

 …ん?木と木の隙間から人の気配を感じる!こんなところにいるなんて物好きな人もいるものだな〜と自分の事は棚上げで気配に向かう。

 木々を踏み分けてほんの少し開いた場所に出た。お?獣道かな?キョロキョロ目を向けても誰もいない。

 あれ?ここら辺から2人分の気配と匂いがするのに目には誰も映らない。何だろうこれ、気のせいなのかな。見えない壁がそこにあって何かを隠してるみたいに感じる。

 なんとなく残念だったので手の木の棒を大袈裟に振りかぶりながら大袈裟な身振りで演劇のように回る。


「そこに居るのはわかっているんだぞ!出てこい!」


…何やってんだろ…

 大きくポーズをとったまま自分に呆れて吐きかけたため息をそのまま飲み込んだ。空気を揺らぐように若い男女二人組の人魚が木の棒鼻先スレスレに現れたから。

 変に息を吸ったせいで盛大にむせ返るけど相手2人は真っ青な顔でこっちを見つめてる。


「な、なんでわかったんだよ…」


 掠れるように男の方が呟いた。いやごめんわかってなかった、とは言えないのでエヘエヘごまかす。


「…あれ?攫われてたお姉さんと急に撃ってきたお兄さん?」


 なんか見たことある人な気がしたけど…こないだ連れ去られてたお姉さんとリーダーとか叫んでた人だ。なんでこんなとこに2人でいるんだろう。


「あ、まさか…その、逢引中だった?邪魔してごめんね〜」


 な、ばっ!ちげーよ!!!勘違いしてんじゃねぇーよ!!!!と真っ赤な顔でワタワタ手を大きく振りながらお兄さんの方が否定する。そ、そこまで否定しなくても、ごめんってば。

 お姉さんの方は平然とした顔でお兄さんの方を見てる。その顔は一体どんな感情?


「ま、なんでもいいや。ねえねえ、ここってどこなの?」


 漸く落ち着いたお兄さんに聞きたかったことを尋ねる。だってお姉さんの方はお兄さんの背中に張り付いたままでこっちを警戒しているのか出てこないんだもん。

 助けた時は最後にちゃんとお礼を言ってくれたのに、やっぱり人間は怖いのかなぁ。ちょっと悲しい。


「どこって…町外れの森ん中だけど…」


 いや、そういうことじゃなくて…街に戻りたい…訳でもないし…ん〜…あれ?私どこに向かってるんだっけ?


「えっと…とりあえず、森から出たいん…です?」


 さっきから同じとこグルグルしちゃうし大概森に飽きちゃった。とりあえず森を出てから考える事にしようっと。


「…そこを真っ直ぐいけば森は抜けられるはずだぞ。」


 私が今出てきたと思われる木の隙間を指さす。あ、こっちなんだね。ご丁寧にありがと〜!

 元気に手を振って私は木に突っ込んだ。なんだかんだ良い人達だったみたいでよかった。


「…あれ?」


 ガサッと勢いよく出てきたのはお兄さんとお姉さんの目の前だった。真っ直ぐ走ったはずなのに何を間違えたんだろう。

 もう一度「じゃっ」と手を振ってさっきの木の隙間に飛び込む。やっぱりまた同じ場所に出てきちゃった。

 あれ〜?なんでぇ???方向音痴とかじゃない…はず。いや、迷子にはなりやすいけどそれは道を見てないだけだよ、うん。

 今は道を教えてもらってるわけだしそっちに向かってるはずなのにどうしても森から出られない。

 半分ヤケになって何回目かの突撃を繰り出す前にお兄さんに引き止められた。


「俺らも森から出るから一緒について来い…。」


 え!いいの〜!やっぱ親切でいい人達だ!相引き中に邪魔したのに本当にごめんね〜。


「逢引じゃねえ!!!」

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