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第25番 願いと希望の水平線


 魔女の話はサーシャが起きて有耶無耶になったので話を戻して今後の流れについて話し合う。つっても何もかもぶん投げて煌めく瞳を向けてくるだけのこの少女2人にため息を押し殺すばかりだが。

 作戦と言っても神子を自由にするなんて暴徒がどこまで通用するか疑問だな。その点最悪俺らは逃げればいいだけで気楽なもんだ。


「まずは一日の中で神子の公務は何がある?」


 毎日の行動を教えてくれればいいだけでそんな悩むことでもないだろうに、何故か少し顔を傾げて考えている。指折りで何かを数える素振りをしかけたが何故か親指を曲げて終わった。


「今は昼前の祈り歌の放送のみなのです。」


「…のみ?他は何かないのか?」


 さらに悩むように大袈裟に頭を抱えたと思えば、数節置いて何故かエヘエヘと笑いながら恥ずかしそうに言う。


「何にもないのですね。」


 ないのかよ!って突っ込むべきだったかもしれんが面倒だったので放置した。俺はそんな性格じゃない。


「…一日のうち、祈りの歌の時間以外は何をしてるんだ?」


 自分の顔が少々引き攣り初めているが仕方ないと俺は思う。神子のこれほどまでの大きな力を使わないなんて勿体ねえ国。とにかく朝からの行動を順に聞いていこう。


・起床

・禊

・食事

・勉学

・祈り歌

・休憩という名の部屋に軟禁

・勉学

・自由時間という名の部屋に軟禁

・食事

・睡眠までの自由時間という名の部屋に…

・睡眠


「以上なのです!」


 これを毎日ひたすらに繰り返しているらしい。…誰でも逃げたくなるだろこれ。

 部屋の外に出ようとすれば御付きの女官に前後左右挟まれるし、女官以外と話す機会も無いとのことだ。

 もし国で何か大きな事件…例えば今日みたいな皇江への海龍乱入とか、国民にどうしようもない事件が起きれば対処せざるを得ないこともあるらしい。が、基本は皇宮から出ることもないし、外のことも女官に聞くしかない。今までそんな対処せざる状況になった事もないし、本物の海で泳いだのも思いっきり声を出したことすら今日が初めて…


「…お前は、魚人族なんだよな…?」


「はい!第二大陸の神子です!」


人魚が海を知らないなんてどんな国だよ。


「私は自由が欲しいのです!」


 わかったわかった。確かにこの生活は少々窮屈だ。隣で大人しく聞いていたサーシャがかなり同情的な目で神子を見ている。そんな目で見られている当の本人は何故かキラキラした目でいるが。


「他に神子の…神子がやっている事になっている仕事はあるか?」


 いっぱいあるのです!と、また嬉しそうに指折り数えながら言う。


・祈り歌を神子ができなかった場合の代理

・国外問わずの要人の相手

・神子の影武者

・国民への訪問

・夢見や先見といった政務に関わる占い事

・政務の話し合い

・兵士や商人が海に出る際の安全祈願の祈り歌


etc…



「…それは、神子がやってないなら…一体、誰がやって…んだ?」


 自分で顔が引き攣っているのを感じるがこればかりはしょうがないだろ。出来る限り表情を保とうとするが、限界がありそうだ。


「はい!見習いと呼ばれる方々が私本人と名乗ってやっているのです!ふふ、実はその中にお姉さまがいるのです!お姉さまのお歌はそれはもう素敵なのです!」


 同情的な顔をしていたサーシャが神子の頭を幼児にやるように撫で始めた。神子はよくわかってなさそうだが嬉しそうにしている。


「…なぁ、失礼かもしれないが…一応聞くな。…あんたこの国に必要か?」


「今の所いらないのです!」


 いらないことには今日アサヒと話していて初めて気がついたのです!と自信満々といった感じで胸を張る。堂々とすんなよ、なんか可愛そうだろうが。

 ほら、サーシャがついに抱えるように頭を撫で始めた。だから嬉しそうにすんなって。


「じゃあ、あんたがこの国にいなくても国自体に今のところは支障がないことはわかった。次は求める自由はどの程度のものなのかを考えよう。だから一回サーシャは座れ。」


 撫ですぎて神子の髪がチリチリになる前に一度座らせる。従って大人しく座るサーシャだがぴっとりと身体を神子にくっつけて座った。それに感激したように神子まで身体をサーシャに寄り添わせる。

 側から見れば仲良しな少女2人の微笑ましい様子だが…後ろのキツネが羨ましそうにしてんぞー。

 そういえば静かで存在が消えたと思っていた海龍は、神子の後ろから長い首だけを神子の膝に出して気持ちよさそうに眠っていた。良いご身分なことで。


「まずあんたの願う最低ラインの自由はなんだ?少し考えてから言え。」


 また頭に手を当てて考えている間に空中にホログラムのようなものを展開させておく。いや、気にすんな。ただのメモ盤だから。すご〜いじゃなくて考えてくれって。


「一番やりたいのは海で泳ぐことです。今日初めて海に入って思ったのですが、心も身体も魔力も全部、あんなに満たされたのは生まれて初めてだったのです。毎日ずっととは言わないのでたまには自由にしたいものなのです。」


 海で泳ぐ、と空中のホログラムに書く。第二大陸も第一言語で助かった。サーシャは第二言語の方はまだ勉強中だからな。


「あと皇江の外にもたまにで良いので出たいのです。ずっとお部屋じゃお暇で死んでしまうのです。」


 こんな生活、俺でも息が詰まって死んでしまいそうだからな。あの女なら即死だろうが。

外に出る、と書き加える。


「後はお喋りしたいとか歌いたいとか色々あるのですが…流石にそれは難しいのは自分でもわかるのです。」


 歌の神子だからな。ここで普通に会話していることもかなりのことだろう。ただ人間願うだけなら自由だぞ。

 俺は歌とお喋りと書き加える。本当はお姉さまと話したいと呟いたのは聞かなかったことにした。


「…神子っていうのがな〜…普通を求めるのは正直難しいだろうし…一回死んでみるか?」


 サーシャが度肝を抜かれたように目を見開いて神子に抱きついた。ちがう違う、本当に死ぬわけじゃねーからそんな有り得ないものを見る目で見ないでくれって。歌の神子には通じたみたいで良かったよ。


「…例え上手く死んだフリをして皆を騙すことができたとしても根本的な解決にはならないのです。おそらく次の神子が生まれない限り簡単にバレてしまうのです。どんなに長くて…5年ほどかと。」


 根本的解決にはほど遠くなるだけか。

ようやく一回死ぬの意味が分かったのかサーシャの俺を射殺すような目はやめてくれたが、神子に抱きついたままだった。なんで神子は気にせずにサーシャを撫でてんだよ。


「まずは私のこの国に対する権力の弱さも問題なのです。正直私はこの国にいてもいなくても同じなので…何か神子の力でもお見せする事ができれば良いのでしょうか?」


 …神子の力を見せつける…今日の海龍事件…神子の言霊…神子の力…


「…なぁ、俺たち元々この国との友好を深めるための作戦があったんだが、それに乗っかる気はないか?」


 神子も話を聞いてなかったサーシャも首を傾げる。後ろで聞いていたキツネは少し呆れた顔をした。


「味方を作りたいときは…まずは共通の敵が必要だろ?」


俺はニヤリと笑った。


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