第24番 作詞作曲は誰
ハッと目が覚めると見慣れた天井。リーダーと揉めた所までは覚えているが、その後俺は…起きあがろうとして腹に走った痛みにうめく。
あんにゃろう、気絶させやがったな。何も言わなかったリーダーを思い出して顔が歪む。なんであの人はあんな事をしたんだ。
「あ、起きた。」
自分1人だと思っていた空間で急に声が聞こえてビビった。ただ腹が痛かったのでそんなにリアクションは取れない。
「おはよう。夢幻の歌姫には会えた?」
ふふ、と小さく笑いながら話しかけてくる。この状況に置いて行かれてるのは俺だけなのか。とりあえず「夜じゃないと夢幻の歌姫には会えねえだろ…」と呟く。
そもそもこんなに腹立たしい自分の感情の状態でそんなものに会えているとは思えなかった。
「驚かせちゃった?ごめんね。」
とにかく起きあがろうとしたところで腹の痛みを思い出して思わず呻く。真横を見れば自分のハンモックの隣に座り込んだ若い女。自分の顔の真横にちょうど顔が見える位置。
こいつはさっきの人攫いに捕まりそうになってた女じゃないか。なんでこんなとこにいるのか検討も付かない。
「あの、リーダーさんにすぐに家に帰すって言われてたんだけど…その、私、1人暮らしで…心配させるような相手もいないし。家に帰っても何もないからあなたのこと、お世話させてくれないかなって、頼み込んだの…。お礼も言えてなかったし、余計なことしてごめんね。」
今度は少しぎこちない笑顔を向けた女は小さく縮こまるように言った。いや、まぁ、別にかまわねぇけどよ。
「礼つっても俺は何もしてねぇぞ。あのニンゲンがあんたを助けた後だったし。…そんなニンゲンに俺は銃を向けちまったけどな。」
ギリっと歯を食いしばる。ニンゲンだという理由だけで俺は銃を向けた。この国でニンゲンの扱いは確かに恐ろしいもんだ。それでも同胞を助けてくれた相手に銃を向ける理由にはならないだろ。
なのにリーダーは、躊躇なく撃った。ニンゲンが庇わなければ同胞に当たる寸前…いや、確実に当たっていただろう。俺にはそれがどうにも腑に落ちなかった。
苛立ち紛れに自分の身体を覆うかけ布を強く握る。
「私も…あのニンゲンを怖がって…ろくにお礼も言えなかった…。あのヒトは私たちを怖がらせないように精一杯の事をしてくれたのに。…笑顔は怖かったけど。」
ポツポツと喋りながら膝の上で揉むように握りしめた両手を見つめるように女は俯いてしまった。
「…そういえばお前、名前は?」
いつまでも女呼びじゃ流石に不便か。こう言う時は自分から名乗るべきだったかと今更思うが女は気にしていなさそうだし別にいいか。
「あ、そういえばまだ自己紹介してなかったね。ごめんなさい。私の名前はプラティ。もし出来るなら、よろしくしてくれると…嬉しいな。その…あなたの名前も聞いても良い?」
なぜこんなに自信なさげなのか俺にはよく分からんが、身近に同年代の女どころか男すらいないのでこんなもんなのかもしれない。
「俺はオルカだ。…よろしく。」
手を差し出すとプラティは嬉しそうにその手を握り返した。小さくて柔らかくて俺よりも暖かい手。
目の前にいるのが女だって事実にようやく気がついて何だか無性に気まずくなった。俺は慌てて手を離したけどプラティの方は多少気が緩んだのか話を続けてくる。俺も別に嫌ではないのでなんとなく話を続ける。
「私は21歳なの。オルカは幾つ?」
俺よりも年上だった。少し幼そうな顔で勝手に自分より年下だと思っていた。偉そうな話し方をしてしまったかと心配になったが、やはり今更なので気にすることを諦める。
「俺は19だ。あと一月で20になる。」
もう少しで誕生日なんだ、おめでとうとプラティは笑う。まだ一月もあるってのに今言われても。何だか話をしているとこっちの調子が狂う。
「オルカはいつから自警団にいるの?」
「俺は物心つく前のガキの時からいる。昔あったろ?ニンゲンが大勢来て国中の奴らを攫って殺した事件。俺は多分そん時に孤児になったんだよ。誰も詳しくは教えてくんねーけど多分、血のつながった奴はみんな殺されでもしたんだろうな。だから覚えてないガキの時からここが俺の家だ。…ここの奴らはみんないい奴だけど。俺のことを今でもガキ扱いしてくる。成人して4年、もう少しで20になるのに、あいつらにはまだ俺は小さいガキのままなんだろうよ。」
初めて会う奴相手にこんなグダを巻いても意味ないのに。なんとなく今まで誰にも吐き出せなかったことを口にしたかった。
ここの連中はみんな俺のことを可愛がってくれているのはわかるが、それでも同年の友のいないこの場所はたまに息苦しくなる。
「ふふ、オルカはみんなのことが大好きだね。」
はぁ?今のどこでそんな風に思うんだよ、と抗議のために体を起こしかけたところですぐ近くにプラティがいた。毎日見る海と同じ色の瞳なのになぜか吸い込まれて溺れそうな気がする。
息のかかりそうなこの距離にドクンと感じたこともない胸の高鳴りがした。
「私もね、その事件の時に親が死んじゃったから独りなんだ。少し前までは叔母さんのところでお世話になってたけど、成人した時に家を出たの。叔母さんはいい人だったけど…家族じゃなかったから…」
微笑みながらプラティは手を俺に伸ばしてきた。思わず目を瞑ると頭に柔らかいものが触れた。その手が何度も優しく頭の上で動く。
「私たち何だか似てるね。」
心臓がうるさくて目が開けられなかった。こんなことは初めてで恥ずかしくて、今すぐ逃げ出してしまいたいのに、でもなぜか、嫌じゃなかった。
「これからどうしよっか。」
暖かいものが消えて俺は目を開けた。プラティは初めの位置に戻って座り直していて、ほんの少し寂しさを感じたが、それに気がつかないように平然を装う。
微かに震えた声と熱い頬に気がつかれないようにプラティから顔を逸らす。胸の鼓動が聞こえそうだ。
「プ、プラティは帰らないのかよ。一人暮らしって言っても仕事とかはしてるだろ。」
俺が目覚めるまで待ってただけならここに居る意味なんてもうないはずだ。帰るならさっさと帰ってくれないと何だか寂しさが増えるだけな気がした。
「お仕事は…はは、大丈夫…」
歯切れの悪い様子に目線を移してみると、目を逸らして頬を掻く仕草で何かを誤魔化しているみたいだ。
「もしかして、仕事してないのか?」
俺の言葉には固い笑いを向けるだけで返事をくれなかった。俺は自警団に居ただけでマトモな仕事なんかやったことはないし、そんなもんかと適当に納得しておく。
「じゃあもう少しココにいるか?」
「うん!」
気まずそうな目は何処へいったのかすぐに返って来た返事に少々呆れる。誘拐されかけてからそんな時間も経ってないだろうに元気な奴だな。
プラティももしかしたら1人の家に帰るのが嫌なのかもしれない。ま、別に女1人ここに置くくらいとやかく言うやつらはいないだろう、と気軽に考えておく。
どうせ最近はリーダーに噛み付く俺は皆に腫れ物扱いされてんだから。
「よっしゃ。」
「ん?なんか言ったか?」
「何も言ってないよ。」
にこやかなプラティに俺は何か疑問を持つこともなくそのまま横になった。この時の俺に何か言えるなら俺は必ずこう言うだろう。
女は怖い、と。




