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第20番 狂気に近いジャズ


ふぅ、転移した2人を見送ってから息を吐く。ここからどうしよっかな。正直いうと何にも考えてなかったりする。だってリュケをとにかく逃さなきゃいけないって思ったからね。

 でも最後にマイくんに言われた言葉は結構効いたなぁ。サーシャちゃんの泣き顔は見たくないのは完全同意なので出来る限り平和的にどうにかしなきゃ。


「おい、なんか変な奴らが近づいて来て…あ?マイラスと神子はどこいった?」


 追手の気配に気がついたのか部屋の外で見張りをやってくれていたイヌ君が部屋に入って来た。

 あ、そうだ!私はピコーんと閃いちゃったよね!

イヌ君にニッコリ近づいてガッシリイヌ君の手を掴む。「あ゛?」って威嚇してくるけど無視して強制的に手の中にあるものを握らせた。


「…なんだこれ?」


 私の笑顔を見て少し引いてるイヌ君を見ながらさらに笑顔になる。ちょっと愉快かも。


「イヌ君が犯人ってっことで!」


 だって私今、行方不明って設定だから見つかっちゃいけないんだもん。そんな私を見て嫌〜な予感を察知したみたい。どんどん顔が苦くなっていく。


「お前ら揃いも揃って…」


 お前ら?って私以外誰の事だろ。1人しか思い至らないや。


 ああ、そんな事してる間にも気配が近づいてくる!早くしなきゃ!

 私はマイ君に渡された存在希薄のマントをかぶってイヌ君をさっきのおじさん達が集まってた部屋に押し込んだ。

 おじさん達の中にも追手の気配に気がついてる人がいるみたいでちょっとザワザワしてた。


「嬢ちゃん、まずい、国の奴らが来た。とにかく早く逃げ…」


 おじさんの声を静止して私はイヌ君をみんなに前に押し出す。大きなため息をつきながらイヌ君はみんなの前で言い放った。


「ここは今から俺が占拠するー。反発する奴らは遠慮なく殴るからなー。」


 ちょっと、なんでそんな棒読みなの⁈てかやる気なさすぎ〜!


 文句を言いながら横腹を突いたけど完全に無視された。おじさん達はそんな私たちを見て全員固まってる。


「じょ、嬢ちゃん…」


 おじさんが動揺してるのかちょっと声が掠れてる。そんな様子を見てイヌ君がまたため息をついた。何か薄い布…肌色のゴム?みたいな物をどこからか取り出して顔に付けて…え⁈顔が変わった⁈何その面白い物!初めて見たんだけど⁈

 私が何を言っても無反応なのでイヌ君には私が見えてないのかもしれない。いいもん、後でマイ君に聞くから。


 イヌ君はそのまま両拳をガンッとぶつけて離す仕草をした。こうするとイヌ君の武器の鉤爪が装着されて出てくるの、いまだに原理がわかんない。取り敢えずカッコイイと思う。


「もっかいだけ言うぞおっさんども。ここは俺が占拠した。わかったらさっさと全員大人しくここに座っとけ。」


 それだけ言ってイヌ君が入り口に構える。外から近づいて来てる声に。慌てて私もマントに包まって部屋の隅に逃げた。


「動くな!!神子様はどこにおられる!!」


 扉を荒々しく開けるや否や数人の人魚の兵隊さんとマッチョおじいちゃんが入ってきた。けど威勢が良かったのは最初だけですぐにこの空間を見た全員の頭に疑問符が飛び交っているのが見える。


「こ、ここに…神子様がおるのでは…?おい、タイザイども、この状況は一体…」


 ん?タイザイ?ってなんだろ。そんな疑問を聞ける訳でもないので私はただ黙って縮こまるだけ。


「はぁあ?神子ぉだぁ?そんなぁもん、俺ぁしらねぇなぁ?」


 そう言いながら狂気的な笑顔でイヌ君が目の前にあのチョーカーをチラつかせた。初めてみるイヌ君の様子にぞくりと背中に何かが昇る。

 これはあれだね。強い…!みたいな背後の寒気じゃなくてお化け見た時の怖さに似てるかも。普段のイヌ君を考えるとやや気持ち悪い。イヌ君って演技うまいんだね。俳優になれるよー。

 とりあえず異常に悪人が似合いすぎてるからドン引きしとこ。ネットリする喋り方はちょこっとわざとらしいけども、そこが妙にリアルで目が離せない。もしかしてこれが素?


 マッチョさんはそんな悪役イヌ君が持つチョーカーを見てワナワナ震え始めた。よしよし、そうだよ〜リュケの物だよ〜!


「そ、それは、我が、み、みみみ神子様の…貴様!神子様をどこにやった⁈」


 その言葉にイヌ君は狂気的表情を変える事なく、さぁねぇ〜と楽しそうに笑った。うっわぁ〜、こわいこわい。


「そんなもん、お前らで探しに行きやがれぇ!」


 おお〜、兵隊さん達の視線を誘導するようにチョーカーを持つ手元を高く掲げて窓に向かって思いっきりブン投げなげた。それと同時に自分自身も外に飛び出す。

 少し遅れながら人魚の兵隊さん達が外に顔を出した時にちょうど水に大きな何かが落ちる音がする。


「早く追いかけるのだ!神子様を、神子様を見つけなければ!!」


 何人かの兵隊さんがほんの少し躊躇しながらも窓から飛び降りるのを眺めつつ、飛び降りなかった残りの兵達さんも部屋から出て外に出ていくのを見送る。


「おい、貴様らの沙汰は後日事情を聞いてからおって連絡する。あまり目立つ真似はするでないぞ。」


 マッチョじいちゃんが耳打ちするようにおじさんに話しかけてそのままガヤガヤと外に出ていった。いや、おじさん達何もしてないじゃん。沙汰も何もないと思うけど。

 ま、ここはうまく収まったみたいだね。


「イヌ君お疲れ様〜。」


 気配が全員分下にいったのを確認してから小さく呟くと頭にゴインと金属がぶつかる音がする。真横にはいつもの顔に戻ったイヌ君がごんごん私の頭に鉤爪をぶつけながら顔を歪めていた。


「お疲れじゃねぇよテメェ。立ててた作戦道具をここで使っちまったじゃねーかアホ。またイチからや練り直しだクソ。」


 よくわかんないけど確かに素晴らしい動きだったよ。外にぶん投げたチョーカーに視線を集めておいて自分も飛び出したように見せつつ、近場の岩を切り取ってそれを海に落とす。

 イヌ君の気配自体も薄くしてたし、兵隊さんみんな動揺してて余裕ないみたいだったし、うまく騙されるんじゃないかな?

 さっすがイヌ君〜ともう一回素直に褒めたらまた頭を叩かれた。ちょっ、武器で殴るのは流石にやめよ?


「おまいさん達…一体…」


まだ現状に追いつけないおじさん達にイヌ君は短く一言、


「ただのキチガイだよ。」


と、さっきの悪者顔でほくそ笑んだ。

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