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第19番 悪役のワルツ


 目の前で正座することで反省してる素振りをしつつ、手と口を止めることなく飯を食い続ける女。その横ではこの国の神子が戸惑いつつ俺と女を交互に見ている。更にその横では女と神子の真似をするように座った何故か小さくなっている海龍が嬉しそうに尻尾を振っている。

 クソっ、頭が痛くなって来た。この女は問題ごとを運んでこないと気が済まないのか?

 神子関連に他人を巻き込むのはマズイだろうと、ここの連中に聞かれないよう女の部屋まで2人と1匹を連れて行く。 

 が、行ったはいいがお腹が空いたと駄々をこねるので飯だけ出してやった。そのまま呑気に飯を食う女が無性に腹が立つのでとりあえず頭を叩く。全く効いてないので余計に腹が立った。


「で?なんで神子様がここにいるか説明してくれるんだよな?」


 俺の出した飯を一瞬で吸い込んだ女が一息ついた所に話しかける。何がプハァだ、美味しかったぁ、じゃねーーんだよ、事情を話せ事情を!

 この状況に戸惑いつつもチマチマと飯を食い始めた神子様も中々な強者な気がするけどな。




 …分からん。聞いた、確かに聞いた。沖合のド真ん中で…この魔力が通りにくく、海獣が蔓延る第二大陸の近海で、1人で遊んでたっつー相変わらず意味わからん女まではまだ理解しよう。

 そんな場所に海龍に乗った神子が現れて、遊んで意気投合して、また遊んで、追手が来たからここに逃げて来た…何してんだコイツ…。

 目立つなって言ったよな、俺。なんでその結果が神子の誘拐なんだよ…。

 あ、これ誘拐になるのか、と今更閃いた顔をしたことが無性に腹たつのでまた頭を叩く。今度は強めにいったのでちゃんと痛がっている。

 神子の方は違うとでも言いたいのか頭を音が鳴りそうなほどに横に振っているが違わないんだよな。


「おい、ここにいるのは俺らだけだし俺はお前の言霊は効かん。本気で本心で全力で話されない限り日常会話は大丈夫だ。会話に混じって来い。」


 言葉を話せない理由はわかってるが、何故かコイツとは会話できたらしい。面倒だから会話できるならしたい。

 一応俺の周りには防護壁を張ってあるので心の底からの言霊を使われたとしても、もしもはないだろう。多分。

 女に耳打ちした神子に女が親指を立てる仕草をしたので話はまとまったらしい。震える声で息を呑みながら自分の口を使い始めた。


「あ、あの、あ…私、神子の、第二大陸ポセイドン神子のリュケ・メガプテラ、です。マイくん様?もどうぞリュケと、お呼びください。」


 このタイミングで自己紹介かよ。はぁ、わかった。こんな女と意気投合するだけあってこの神子も変わってる。俺の周りは変なやつばっかか…。

 俺のことはマイラスでいい、と半分投げやりにしながら話を進める。


「んで、神子様をここに連れてきてお前は何か考えてたのか?」


 なんでそんなポカンとアホヅラをする!もちろん遊ぶためだよ、ってそれは考えてるに入らねえよ馬鹿女!!


「だってリュケって今まで自由なんかなかったんだよ?なのに仕事もあんまりなくて暇って…可哀想だよ!」


 熱くなるな落ち着け。頭を再度叩くと空気が抜けるように静かになった。こんなに頭叩かれたら馬鹿になっちゃう…って呟いているがこれは言わせてほしい。お前は既に手遅れだ。


「あ、あの、アサヒは私のワガママを聞いてくれただけなのです。だから、アサヒを責めないでください。」


 うおっ、思ったより至近距離で浴びる神子の言霊は重い。一瞬自分の思考が揺らいだ。少し気をつけて引き締めなければ気がつかないうちに考えを変えられていることもあるかもしれない。

 まぁ、この女がやらかすことは今にはじまったことじゃないし、別に責めてな…いや、怒っては…呆れているが近いな。…いや、怒っていなければ安心するのか、神子様よ…


「で?俺も一応聞くが神子様は皇江に帰りたいのか帰りたく無いのか。こっちに迷惑がかかるとかは考えるな。もうすでにかかってるからこれ以上は同じだ。だったら神子様の意志を尊重する。帰るか?俺らとできるところまで逃げるか?」


 乗りかかった船には俺は乗り込む主義なんでな。できればそのままその船を征服したい主義でもある。

 女が何かを考える神子の耳に小さく話しかけている。おいゴラ聞こえてんぞ、誰が素直じゃ無いだけだって?あ゛?


「ほう…つんでれ…初めて聞いたのです!」


 そんなキラキラした目で見るな!何他の大陸の神子様に変なこと教えてんだアホ!


「…本心を言わせていただけるなら、私はあの場所にいたく無いのです。私には息が詰まって、呼吸の仕方すら忘れてしまう場所なのです。でも神子であることがとても誇らしいことなのもわかっているのです。誰にもできることじゃない名誉あることです。…でも、私は今日初めて、アサヒと普通に会話して…普通に遊んで。…私にも普通が欲しかったと…ほんの少し思ってしまったのです。」


 で?長い前置きはいい。俺は短気でせっかちだ。この女は不本意ながら俺の身内なもんでな、この女のやらかしたことの後始末をやる責任が残念ながら俺にはあんだよ。


「もう少しでいいのです。このまま、私を誘拐していただけないでしょうか?」


 そうこなくっちゃ〜!!と立ち上がりながら叫んだ女の頭を叩く。そのまま萎む姿はなんだかそういう玩具みたいだな。今度嫌がらせに作ってみてやろうか。


「誘拐は了承した。ただ俺たちもただでとはいかない。お前は俺に何かくれるのか?」


 何か口を挟もうとした女の顔面に平手を被せて黙らせる。これは俺と神子の話だ、お前の立ち入る場所じゃない。物事には何か対価が発生すること、そんなの稚児も知ってる常識だぞ。


「わ、私には何かを差し上げるほどの物も権力も持っていいなくて…その、役に立つことは少ないかもしれませんが、私に手伝えることはなんでもいたします。」


 ニヤリと歪む口を隠すこともなく女の顔面に被せた手を離してやる。その言葉が聞きたかった。


「ああ、その時はよろしくな。」


 世間知らずの神子様でよかったよ。ジトっと何か言いたそうにこちらを見つめる女を無視して片手を出す。その手を神子は少し警戒しながら握り返した。

 その俺らの架け橋を邪魔するように海龍が握った手の上に頭を置く。その目は明らかに俺を睨んでいた。

 そっちの神子様が決めたことだぞ。何か文句があってももう遅いだろ。言質はしっかりといただいたのでな。


 そんな俺らを睨んでいた女が急にピクンと体を硬らせた。今度はなんなんだ…⁈

 体の中に警戒音が響く。握手を解いて今度は俺が女を睨む。


「おい、お前さっき海で遊んでた時に追手が来たって言ってたよな?」


 頷く女を横目に神子を解析鑑定する。くそっ、先にやっておけばよかった。今更後悔をしても遅いのだが舌打ちくらいしたくなる。俺は絶対に何か詰めが甘い。


「チョーカーに追跡魔法がかかってやがる…!くそっ、もう神子の場所バレてんじゃねーか!!」


 神子のチョーカーを取り外させてよく見れば、はめてある一つの小さな魔石に追跡用の陣が入ってやがった。これは俺が女に持たせたネックレスと同じような物か…あ゛?おい待て、女、テメェ折角作ったネックレスどこにやった⁈おい目を逸らすなクソっ…いや今はそんなことどうでもいい。説教は後だ、覚えとけよ。

 あ゛あ゛っ!めんどくせえことになった!


「チッ、とにかく逃げないと最悪ここの奴らに迷惑が…いや、迷惑どころじゃないな。一番最悪で…」


 その先の言葉をこういうところは敏感に察する女が理解してしまったらしい。あの、私大人しく戻りますけど、と言いかけた神子を制して鋭い口調で聞いてくる。お前もしっかり出来ることがあるんだなと妙に感心した。今回のことはほとんどお前のせいだと思うけども。


「ねぇ、一緒に長距離を転移できる人数って1人だったよね?だったらとにかくリュケと一緒にここから離れて!」


 コイツは何を考えてるのかいまいち分からん。神子はその言葉を聞いて動揺を強くした。


「い、いけません!アサヒ!私はいいのでどうかお逃げください!このままではここに住む方々もどんな罰を受けるかわからないのです!私が出ればうまく纏まります!」


 そんな神子を女が微笑んで俺の方に押し出した。ま、多分ここまで来たなら神子が出てきてどんな弁明をした所でここの連中は必ず罰を受けるだろう。

 どんな物事にも明確な悪役が必要だ。ここの連中は残念なことにそれに最適なんだよな。


「リュケ、自由に遊びたいんでしょ?ならここで戻っちゃったら勿体無いよ。私なら大丈夫!捕まる気はないし、ここのおじさん達を悪者にする気もない。だからとにかく今は時間もないし逃げて?あとで必ず追いかけるからさ!」


 コイツはそう言って俺の手にあった神子のチョーカーを手に取った。


「マイ君よろしく!」


 何故か自信ありげに右手の親指を立てる様子に少々呆れた息が漏れる。


「本当に大丈夫かよ。」


 もっちろん!とやはり自信ありげな様子。作戦を細かく聞く時間もないのでさっさと退散することにした。


「サーシャが泣くような事だけはやめろよ。」


 それだけ言って暴れる神子を押さえつけたまま、俺は宿に転移した。



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