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第18番 独奏なのか重奏なのか


「おいおい嬢ちゃん…今度はどこでこんな…拾って…」


 言葉を探すように動揺が隠せてないおじさんにエヘエヘと軽い笑いを返す。そんな私の後ろでは隠れるようにしながらも頭だけ出してペコっと頭を下げるリュケ。さらに後ろに小さくなった上に羽まで生やしてパタパタ飛んでいるドラゴンちゃん。

 海の上を爆走して岩場のアジトまで帰った私は最後の一歩で大きくジャンプしてアジトに飛び入った結果、全てをビッチャビチャのビッチャビチャにした上、入口をちょこっと欠けさせました。

 大きな音に驚いて集まったおじさんズが見たのはびしょ濡れの入り口と、その中で土下座する私と、ひたすら慌てるリュケと、ご機嫌に飛び回るドラゴンちゃん。側から見ればワァ〜、とってもカオス。

 おじさんズは完全にドン引き状態で部屋の中にも入って来ない。このおじさんだけが嬢ちゃんは毎回毎回…と呆れてる。

 反応してくれるだけマシですはい。マイ君なんか最近は無言で殴るんだよ。しかもちゃんと私が痛いように魔法を使って。ひどくない?


「で、そこのは…一体…」


 私の後ろで照れるように縮こまってるリュケ。そういえばあんまり人に会ったことないんだっけ?緊張もするか。


「この子はリュケ!第二…ゲホゲホっ…え、えっと…い、色々あって海で拾った!」


 危ない危ない、神子様って言うところだった。さすがにバレると不味すぎるよね。あー、でも名前以上は説明することがないな…


「えーっと、訳あって喋れないけどいい子だよ!だから…少しだけここに居させてあげてくれない?」


 そりゃ構わんが…と許してはくれたものの、なんだその適当すぎる説明は…とやや呆れ気味に呟いた。

 おじさんはリュケの方から目を逸らさない。流石のリュケも気まずそうに頬が赤くなっている。


 何かまだ言われるかと思ったけど「ま、好きにしたらいいさ」とおじさんはサラリと流してどこかに消えた。何故か他ののおじさんを1人連れて行ったけど、何か用事でもあるのかな?


「とりあえず私の部屋いこっか。」


 リュケはコクンと頷いて私の袖を掴んだまま部屋に向った、


「よし、この部屋なら誰か来ることもないし喋っても平気だよ!」


 その言葉を聞いてリュケは呼吸はしていたはずなのに息を止めていたようにプハッと息を吐いた。


「緊張したのです。」


 胸元に手を置いてキョロキョロと部屋全体を見回した後、「面白い建物なのです」とウロチョロしてる。

 その後ろで翼をしまったドラゴンちゃんがぴょんぴょん跳ね回るように着いて回っているのも可愛い。


「ここからどうしよっかぁ。」


 ようやく気が済んだリュケを近くに呼んで会議を始める。あ、そんなに萎まないで、誰も責めてないから!むしろ無理やり引っ張ってきたの私だし?


「もう1度聞くけどリュケって元の場所に戻りたいの?」


 リュケは足元を見つめたまま動かない。んー、本心が知りたいんだけどなぁ。そんなリュケが心配なのかドラゴンちゃんがリュケの顔を覗き込んでぺろぺろ顔を舐めてる。犬みたいでちょっと可愛い。


「私は…神子で…私にしかできない、名誉ある仕事で…でも…」


 ほら、言っちゃえ言っちゃえ!口は挟みずらかったので無言で両手の拳をぶんぶん振りながら応援する。


「あの場所に、リュケはいないのです。私は神子様なので神子様としての存在しか許されていないようで…私は息が詰まるのです。」


 ほらぁ、やっぱあんなとこ居たくないんじゃん。詳しく聞いてなくても私なら居たくないと思う。だって毎日ほとんど自分の部屋にいるんだよ?絶対私は無理。


「ですが明日の歌の公務の時間までには戻らなければ…」


 え、まだ戻る気なんだ…。リュケって真面目だな〜。私なら出来る限り逃げ続けたいと思うのに。実際に施設にいた時は3ヶ月くらい山奥で暮らした事もあるくらいだし。


「…そういえばあのお昼の放送で町に流れる歌って神子様のお仕事なんでしょ?もし神子様に何かあったりして歌えない日はどうしてたの?」


 そんなこと今までありません!とか言われるかなと思ってたけどリュケは考えるそぶりのまま固まった。


「そういえば…昔に体調を崩して、喉が痛くて声を出せなくなった日は…確か、見習いの方々皆で…代理、していただきました…」


 え、ちゃんと代理いるんじゃん。なのにわざわざリュケを閉じ込めた生活させて、しかも海に行く事すら出来ないとか…ちょっと腹立ってきたかも。


「ねぇねぇ、私たちみたいなお客さんの相手も偽物がやるし、歌の仕事も代理が立てられるし…リュケ、そんなに急いで帰らなくてもなんの問題もないんじゃない?」


 ハッと大きく息を吸ってリュケは口元を両手で覆った。今までそんなことを考えても見なかったらしい。ずっと1人だと考えも偏っちゃうよね。しょうがないよ。うんうん。

 私はニンマリとした笑顔をリュケに向けた。


「今日から何しよっか!」


 リュケはその言葉を噛み締めるように二、三度口の中で呟く。噛み締めて噛み締めて、飲み込んだ後、今までで一番の溢れる笑顔をくれた。


「あ、遊びたいのです!今日、みたいに海で…アサヒと、私はアサヒと遊びたいのです!!ああ、自由なのですね。自由なのですね!!」


 気持ちが溢れて仕方ないのか勢いよく立ち上がってその場でくるくる回ってる。それを見上げたドラゴンちゃんまでまた翼を生やしてリュケの頭の上で一緒にくるくる回り始めた。あまりにも楽しそうだったので私も併せてくるくる回った。


「目が…まわりました…」


 暫くすると目が回ったリュケは地面で行き倒れたように動かなくなった。溶けてるみたいで面白かったのでほっぺたを人差し指で突く。

 そのマネなのかドラゴンちゃんまで小さな口で反対側のほっぺを突いて嬉しそうに鳴いている。


「そう言えばドラゴンちゃんには名前付けないの?名前がないと呼びたい時とか不便じゃない?」


 私ならすぐに名前つけちゃうのに。でもリュケは力無く頭を振った。


「名付けというのは本来“縛り“なのです。それを神子である私がしてしまえば、この子に自由は無くなるでしょう。今日出会ったばかりのこの子の時間をもらってしまうにはあまりに早計なのです。」


 ドラゴンちゃんの頭を撫でるリュケの横顔はなんだか優しかった。

 縛りというものがよくわかんないけど、名前ってのが不思議なものなのはなんとなく分かるよ。だって私の名前を誰かが呼んでくれるだけで胸の奥がホワホワする時があるもん。


「じゃあ私にあだ名でも付ける?私には言霊効かないんでしょ?」


 あだ名って施設にいた頃に周りの子たちに付けられた破壊神か、大人達にこっそり呼ばれてた化け物しか呼ばれたことないから…おっと嫌なことを思い出すところだった。

 よし、忘れて忘れて…。とにかくちょっと楽しみかも。

 隠しきれないワクワクを溢れさせながら、あだ名…と考え込むリュケを眺める。リュケがつけてくれるものならなんでも嬉しいよ!


「…水陸両用爆速魚?」


 ごめん前言撤回。それは普通に嫌だ。リュケはどうやら名付けセンスが壊滅的らしい。

 その後にも「人魚超え超人」とか「太陽サンサンキラキラさん」とか、酷いというよりヤバい。センス以前の問題なのかもしれない。

 よし、私のあだ名はひとまず置こう。私自身と相談して決めても破壊神しか出てこないし、名前呼んで貰えば不便じゃないし。

 優先的に名前のないドラゴンちゃんにつけるとしたら何にするかって会議に変更しよう。もし今後急にドラゴンちゃんに名前をつけたくなってリュケだけで考えた結果、名前が暴走列車とかになったら悲惨だし。


 あーでも無いこーでもないと2人で案を出してその話し合いに口出しするようにドラゴンちゃんもキュルキュル鳴いたりして会議が終わる。結構いい名前になったのでは無いだろうか。

 もしこのままドラゴンちゃんとお別れになっちゃったら悲しいけど…この子はリュケ曰く何処から来たのか分からないみたいだし。もしも帰る場所があるならそうするのが一番だし。

 でも本音を言えばリュケととっても仲良しに見えるのでそのまま楽しそうにやって行ってほしいと思っちゃう。


 ふぅ、ひと段落ついたところでお腹空いちゃったな。そりゃ〜あんだけ海で遊んでここでもワイワイやってたわけだし、お腹もすくよね。

 リュケとドラゴンちゃんもお腹空いてるよね?って聞いたら代わりにお腹が返事した。やっぱそうだよね。

 マイくんに渡されたマジックバックにも沢山食べ物が入ってるけど…おじさん達のところに行ったら私が狩ったやつ何か分けてくれるかもしんない。私はお魚が食べたい!

 私はリュケを引っ張っておじさん達が居るであろう昨日の宴会会場に向かった。部屋に着く前から何か賑やかそうな声が聞こえる。誰か来てるのかな?賑やかというか話し合いだ。

 んー、おじさん達に混じってよ〜く聞き覚えのある声がする。

 扉代わりの厚めの布をくぐって部屋に顔を出す。


「マイくんだ〜昨日ぶりだね〜。」


 やっぱり部屋の中心にはマイくんが座っててそれを囲むようにおじさんたちが座ってる。  

 あ、横の壁にもたれかかって立ってるのはイヌ君じゃん。着いて来たの?よっ元気?

 私のそんな軽い様子に呆れたまま何も言わない。挨拶くらいしてくれてもいいのにそういうとこだよ。


「何か難しい話?大変そうだね〜。」


 それだけ言いながら部屋の隅の違うおじさんに話しかける。お魚を分けてもらうように頼んだら快く了承をもらったので他の部屋に案内してもうことになった。そんな私の服の裾を掴んだままリュケもペコっと頭を下げる。


「じゃ、頑張ってね〜。」


 ひらひらと振った私の手をいつの間にか真横に立ってゼロ距離まで顔を寄せていたマイ君に掴まれた。私でも振り解けないくらいにガッシリと。


「おいゴラ、今度は何をしたんだボケ。」


 うわ、こわいこわいこわい。え、何?急に何を詰められてるのか分からないんですけど。


「俺らの話しの中心が そ こ に い る 神子だ。なんでここに居るかちゃんと説明しろよ、あ゛あ゛?」


 この流れは見覚えがあるな…。確実に話し合いもとい、説教が長くなる予感を察知してしまった私は、ペコペコのお腹を撫でながらため息代わりにとりあえず笑顔を返しておいた。


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