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第15番 朝と海との交響曲


 まるで海みたいな綺麗な青い髪の毛に深海の奥底の深い青の瞳。青と白を基調としたシンプルだけど高そうな服と首元の…何だっけ、チョーカー?首輪のおしゃれなやつ。この大陸に来てから宿とか色んな場所で見かけた飾りのレースと編み目が似てるかも。薄緑色が白い肌によく似合ってる。

 全体的に気品がある感じの女の子だな〜。


「ど、どうも…」


 とりあえず挨拶するべきかと思ったので小さく呟いて軽く頭を下げてみる。目の前の人魚の少女も軽く頭を下げてくれたので挨拶にはなったかな。視線だけはこっちを向いたままだったけど。

 そのまま気まずい沈黙が流れる。関係ないドラゴン?みたいな生き物も律儀にジっとしてるし、この時間はなんだろう。


「…え、え〜っと、こんなところで、何してる…の?」


 沈黙に耐えられなくて適当に話を振ったけど…どう考えてもこんなところで何してるかわからないのは私の方だ。

 やっぱり変なことを聞いちゃったからか、人魚の女の子は何も言ってくれない。ど、どうしよう。気まずい〜。

 そんな私の空気を察してくれたのか人魚の少女が口元に指をバッテンにしてクビを横に振った。ん〜…?何?私がうるさいとか…あ、もしかして!


「喋れない…?」


 コクコクコクコクコクコクと何度も首を縦に振るので当たりだったらしい。私と喋りたくないとかじゃなかったんだ…よかったぁ〜。    

 あ、でも偏見かもしれないけど話せない人って耳が聞こえない人もいる…よね?


「あ、あの、失礼だったら、ごめんなさいだけど…耳は聞こえてる?」


 怒らないか心配だったけどニッコリと笑って頷いてくれたので会話はできそうだ。いや、そもそも私の言葉に返事くれてるんだから聞こえてるか。パニックになってるのか自分でも何言ってるのか分からなくなってきた。

 んー、でも向こうは話せないっぽいからな…どうしようかなぁ…。何か文字が書けるものでもあればいいんだけど。

 あ、そうだ!ここで名案が出てくる私は頭がいいかもしれない。ごめんなさい嘘です。調子に乗りましたはい。

 独り言はどうでもよくて、人魚さんに近づくことに了承をいただいてドラゴンちゃんの頭によじ登る。嫌がるどころか登りやすいように首を屈めてくれたドラゴンちゃんは良い子だなぁ。


「あの、変なことはしないから、手、貸してくれる?」


 不思議そうな顔はしたけど女の子は手を貸してくれた。私より一回り小さな手で指の間には水掻きがある。へー、手でも人種でこんなに違いがあるんだね。

 おっと、今はそんな目的じゃなかった。人魚の少女の手のひらに私はゆっくりと ア サ ヒ と名前を書いた。…文字は読めるよね?てか大陸で文字が違うとかないよね??

 マイ君に文字とか言葉とかなんか教えてもらった気がするけど…覚えてないから気のせいかな!


「私はアサヒ、よろしくお願いします。あなたのお名前は?」


 私の意図に気づいてくれたみたいでさっきよりもニコニコ顔で私の手のひらにゆっくり文字を書いてくれた。よかった〜、文字一緒だった!


リ ュ ケ


「あなたリュケさんっていうの?」


 その私の言葉に女の子は笑顔を渋くして横に首を振った。あれぇ?

 女の子は私の手のひらにまたゆっくり文字を書いていく。


リ ュ ケ で い い  さ ん い ら な い


 おおっと、意外と会話しずらいな。ええっと…リュケでいいさんいらない…さんいらない?


「リュケ…で合ってる?」


 その言葉にリュケは1番の笑顔を見せてくれた。わぁ、かわいい。笑顔が似合う女の子だ。

 それから暫く不思議な会話が続いたけど、正直な話、結構大変だった。だって、手のひらの文字って結構読み難いんだもん。文章は難しいから単語ばっかりだし。

 まぁこんなにリュケが楽しそうだからいっか。


海、はいりたい


 私の服が乾き始めた頃、今から何をするのか聞いた所だった。リュケは目の前の海を指差しながら目を輝かせている。

 別に海に入るのに私に許可なんか取らなくて良いのに。あ、ここは海獣が多いからその確認かな?


「ここら辺は海獣多いみたいだけど、大丈夫?私が先に気がついたら殴れるけど…もしかしたら怪我しちゃうかも?」


 そんな私の言葉に誰が見てもがっかりした表情に変わった。大体の気配はすぐに気がつくから近づく前に倒せるけど、やっぱ無責任な事は言えないからな〜…

 でもリュケは何かを閃いたのか、すぐに明るい顔に変わった。


耳 塞いで


 ん?いきなりどうしたんだろう。どうしてなのか気になるけど、リュケは目の前で両手で耳を塞ぐ仕草をして促してくる。

 とりあえず私もそれに習って両手で耳を閉じてみた。それを見たリュケは満足そうに頷いた。つられて私も頷いてみたけど特にそれは要らなかったかも。

 その後にドラゴンちゃんの頭の方に行って何かしてたけど突然1人で海に飛び込んだ。

え?ちょっ、え?大丈夫なの?海獣は??


 リュケは初め頭だけを水面に出してこちらを見ていたけど、ニッコリと笑顔を残して水の中にチャポンと音を立てて潜った。

 私としてはますます意味がわかんない。何をしてるんだろう。目を凝らすけど揺れる水面には何も見えないや。

 しばらくリュケが消えた水面を見ていたら目に見えて変化が現れた。まず水面が波立つ…いや見た目的には毛羽立ちみたい。何これ、初めて見た。

 さらに遠くだけど周りに大小あった海獣たちの気配が一目散に離れていく。え?え?何が起きてるんだろう。

 状況に置いてかれてたけど…よく考えるとリュケ、もう5分は水の中じゃない⁈

 流石に心配になりすぎて、許す限り身を乗り出してじっと水面近くを見つめる。せめて影でも見えないかと思ったけど、目よりも先に耳が何かを捕まえる。

 耳を塞ぐ自分の手の隙間から何か音が聞こえる。その音が皮膚に届く度に少しピリッとする気がする。ただの音じゃない、抑揚があってリズムがあって…これ、歌?

 え⁈リュケ、声出るの⁈

あまりの衝撃に思わず手を離すと、水の中で歌っているはずの声が明確に聞こえた。お昼に街のスピーカーから放送されてるのと同じ、歌詞のない歌だ。スピーカーから流れてた時も思ってたけど実際に聞くともっと凄い。なんて綺麗な声なんだろう。

 耳を澄ませるほど音が当たる体の部位全てがピリッとして痒くて、なんだかどこかに行きたくなる…何故か今すぐにここから離れたくなる歌だ。  

 あ、もしかして海獣達がみんな離れていくのはこの歌のせいか!人魚ってすご〜い!

 そうしみじみしているとプハッとリュケが水面に顔を出した。息継ぎもせずに水の中で歌い続けるなんてどうやったんだろう。

 水から顔を出したリュケと目が合ったのでとりあえず心を込めて目一杯手を叩いた。


「すごいね!とっても素敵な歌だった!!」


 そんな私を見てリュケは何故か真っ青になっていく。あ、耳塞いどけって言われたのに聞いちゃった。

 ごめんと連呼するけどリュケが気にしている場所はそこじゃなかったらしい。


「なんで…平気なの…ですか…?」


 あ、しゃべった。、声が透き通って女の子でかわいらしい声だ〜


「ありがとうございます…い、いや、そこじゃないです!」


 え、なんか違った?ご、ごめん。


「あ、あの、ここから離れたいとか、逃げたいとか…思わないのですか?」


 ん?いまいち質問の意図がわかんない。あ、されっきの海獣を遠くにやった歌を聞いちゃったからか。あれ、魔法か何かなのかな?


「特にそこまでは…ちょこっとピリッとしてソワソワしたけど…そのくらい?」


 リュケは何か信じられないものを見る目をしている。そんな目をされることは日常茶飯事なので気にしないけど…じゃなくて、な、何か変だった?


「…あの、少しだけ、試してみても…?」


 試す?何か実験するの?なんだかわかんないけど右手の親指を立てて了承しといた。

 リュケは実験の前にハッとしてドラゴンちゃんに何か話しかけてた。ん?聞こえてもいいよって言ったかな。あー、さっきの歌の魔法がドラゴンちゃんに効かないようにしてたのかな。

 首を伸ばして器用にドラゴンちゃんはリュケを背中に乗せてる。この子本当に頭がいいんだね、すごい!


「えっと、じゃあ、そこから、こちらに向かって…歩いて、もらっても、良いでしょうか?」


 ドラゴンちゃんの広い背中の中央らへんに立たされたと思ったら歩いてって言われた。素直にリュケに向かって歩く。歩く前に驚かせるかもしれませんって謝られたけどある程度のことじゃ私の心臓は根を上げないぞ!


 スタスタと歩き始めた中頃、リュケは息をゆっくり吐きながら震える声で言った。


【 止まってください 】


 お、一瞬動きがぎこちなくなった。あ、これもしかして言霊って魔法?ここにくる前に船の中でポセイドンの種族特有魔法の説明、マイ君に聞いたっけ。そうかこれか〜。

 いつまで歩けば良いのかわからなかったのでそのまま進む。もう少しでリュケのところに辿り着くくらいでさらに大きな声でリュケが言う。


【 止まって 】


 お、今度は一瞬動きが止まった。テレビの一時停止みたいで面白いねこれ。そうやってリュケの元に辿り着くとリュケは目を潤ませていた。

 え?え?と、止まった方がよかった????


「私の、声が…効かないのですね?」


 …え?い、いや、少し立ち止まったしソワソワしたし…効いたことは効いたかと…。


「わ、私が、心を込めて、言葉を出しても…アサヒは、歩きっ、続け、て…普通の人なら、心臓が止まる可能性だって、あったのにっ!嬉しい、私、初めて…初めて誰かと、自分のお声でお話ができるのですね。」


 わ、泣き出しちゃったよ…ん?なんか今不穏なこと言ってなかった…?


「改めて失礼致します。私、第…私はリュケ・メガプテラと申します。よろしくお願いいたします。」


 そう言ってリュケは両手を胸元に当ててその場で回った後に両手を広げる仕草をした。おお〜、これがこの国の挨拶かな?

だったら私も…


「私はアサヒです。よろしくお願いします!」


 マイくんに何百回と扱かれたこの動きを見よ!片足を後ろに引いて膝ごと軽く頭を下げつつ、裾は…スカートじゃないから摘めないけど、ズボンを指で軽くもつ。練習の成果が使える日が来てよかったぁ。

 リュケもにっこり笑ってご丁寧にありがとうございますって言ってくれたし、成功でいいよね?


「あの、そのやり方は、他の大陸のあいさつの仕方なのですか?つい最近できた人間のお友達もよく似た動きをしていたのです。私たちとは全然違って驚いたのです。」


 あー、確かに全然違うもんね。私からしたら人魚さんのほうが珍しいけど。…日本人って挨拶どんなだっけ?お辞儀?手刀?言葉?

 コミュニケーション不足がこんなところで足を引っ張るとは。とりあえず第三大陸だけは知ってるからいっか!


「他の大陸ではどうかわかんないけど…私がいた国ではこれが礼儀正しいものみたいだよ。」


 返事になってるか分からないのに頷きながら嬉しそうに聞いてくれる。これが異文化交流ってやつかな!たったこれだけの事なのに嬉しいのは何でだろう。


「服を摘んで会釈なさったのは何か意味があるのですか?」


 おおーっと、展開がまずくなってきたぞ。くっ、何て勉強熱心な人魚さんなんだ…

 マイ君がなんか教えてくれたはずだ、思い出せ思い出せ…


「え、えっと、確か…あー…相手より深く、お辞儀をして…敬意を表すから…。服を摘むのは、膝を曲げるとスカートが汚れるから、地面の土とかで。とかそんなんだったと思う、ます、はい。私の国の人達はスカート長いし?」


 スカート、というのは腰に巻く服ですね!と嬉しそうに拍手をしてくれる。こ、こんな説明でよかったのかな…。

 何にせよ答えられてよかった。スパルタ先生マイ君に感謝。私が不真面目生徒なだけなのですが。


「リュケの挨拶は何か意味があるの?くるっと回ったり手を広げたり。」


 はい、ございますよ!とリュケは同じ動きをしながら説明してくれた。動揺もせずにスムーズに説明を始められるなんて凄い。これが優等生なのかと見習えるものなら見習いたい。


「まずこの腕を胸元から大きく広げるのは、私はあなたに心を開いております、やましい事はないのです、と言うことを表しております。次に回転するのは全身を見せて、私は何も隠してません、安全ですよ、という意味なのです!」


 私たちの服は物を隠せる場所なんてありませんからと、リュケは楽しそうにクスクス笑った。挨拶ひとつでこんなに色んな意味があるなんて、世界は複雑だなぁ。


「そういえば、アサヒは人魚の血筋だったりするのですか?見た目は人間様ですが、あまりにも泳ぎ方が美しかったのです。」


 お?これを人魚に言われるって、めちゃくちゃ褒められてない?すごい、結構嬉しいね!ちょっとエヘエヘしちゃう。


「いやいや、私はただの人間だよ〜。海で泳いだのもこないだが初めてだし〜。」


 あれ?本当のことを言ったはずなのに笑顔が引き攣って目をまんまるに開かれた。「人間様もこんなに泳げるのですね」って言われても…多分それには個人差があるかと。

 実はイヌ君とキツネさんも泳げなかったりするし。ここにくる途中の海でイヌ君と取っ組み合いした挙句に巻き込まれたキツネさん含めて3人で落ちた時はヤバかった。

 その時は私が泳いで耐えてる間にマイ君に魔法で引き上げて貰ったよ。すっっっっごい怒られたけど。


「あ、泳ぎたいんだよね!すっかり忘れてた!」


 リュケもハッとした顔をした。互いにお喋りに夢中ですっかり忘れていた。まだリュケの海獣避けの魔法は効果あるのかな?ま、気配的には大丈夫か!!よっしゃ、早速行こいこ!

 リュケに声をかけてから私はドラゴンちゃんの背中を走って思いっきり海に飛び込んだ。後ろから水飛沫の音がしたのでリュケも飛び込んだんだろう。

 水中をバタ足で泳ぎまくってると少し離れた場所でリュケがくるりと回っているのが見える。

 わぁ、人魚ってやっぱり凄い。水の中なのを感じさせないくらい軽い調子で動く。楽しそうに回り続けるその様子は舞のようだ。

 人魚の舞は呼吸を忘れるくらい美しかった。


 暫く見惚れてたけど息が続かなくなったので慌てて一度水面に顔を出す。そんな私たちの様子を同じ場所から動くこともなく大人しくドラゴンちゃんが見ていた。

 なんだか寂しそうな気がしたのでおいでと手招きするとすぅっとこちらに近づいてくる。長い首を伸ばして近づいてきたので両手でも抱えきれないくらいの顔を頑張ってなでなでする。喉の奥から甘えるように出す鳴き声が妙に可愛い。


「ドラゴンちゃんも小さかったら一緒に泳げたのにね。」


 思ったことを呟いただけなのにドラゴンちゃんが止まった。ん?どした?クルルっと見た目よりも幾分可愛い声が漏れた。

 え?ん?何事?まるで風船から空気が漏れるみたいにドラゴンちゃんがシュルシュルと小さくなっていく。

 ドラゴンってサイズを自由に変えられるの?うっわすごい。異世界生物ってやっぱり不思議。なんだかわかんないけど…ま、いいか。

 水の中で自由に踊っていたリュケが目一杯の笑顔で水面に顔を出す。その視線が両手で抱えられるくらい小さくなったドラゴンちゃんに注がれた。


「…海龍さまは、大きさを変えられるのですか?素敵です!」


 リュケも知らなかったんだ。その割には適応がはや〜い。そもそもこの二人の関係性って何なんだろう。ペットと飼い主には到底見えないや。


「海龍さまも一緒に遊びましょう!」


 うん、楽しそうならなんでもいいか。私も諦めて1人と一匹のじゃれあいに混ざった。


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