第13番 嵐が始まる前奏曲
「ぃよっしゃぁぁぁあああ!!!」
大きな声をあげながら水面に勢いよく飛び出す。そんな私の様子におじさんたちは、目を丸くしたり呆れたり口を開けたまま固まったり、色んな反応。
「嬢ちゃんそろそろ一回上がったらどうだい。」
ずっと水の中で魚を追い回してた私に見兼ねておじさんが声をかけてきた。
久しぶりに船の方に目をやると結構な数の魚と海獣となんか変な生き物と…ごめん、獲りすぎちゃった?
えへえへ笑いながら船に飛び乗ると人魚のおじさんが乾いた笑いを漏らした。もしかしたらおじさん達のお仕事取っちゃったのかもしれない。申し訳ない事をしちゃったね。
「にしてもねぇ…お嬢ちゃん、これは…まさか、人魚の血でも入ってんのかい?」
苦笑いながらおじさんがタオルを投げ渡してくれた。海で泳いだのは行きの船が初めてだったけど、意外と何とかなるもんだったよ。お魚も美味しいしね!とにゃはにゃは笑ってると、おじさんたち3人は呆けたように「魚…ね…」と私の獲ってきた魚を見た。
鰭があるから魚でしょ?ちょっと大きいし見た目は変だけど。
「海に出る前は集合場所がわからんとか言って大声でわしを呼ぶわ、船に乗るって聞けば魔法で下ろす前に海に飛び込むわ、挙句の果てにこの海域で魚と言いながら大量の海獣を獲ってくるわ…」
いやぁ〜それほどでも〜…あ、もしかしてなんか呆れてる…?
「お嬢ちゃんが大声で叫んだから二日酔いの奴らのトドメになるわ、飛び込んでそのまま海の中に消えたと思えばその一瞬で海獣倒してくるわ、そもそも人魚すら泳がんこの海域で無傷で漁をするわ…当たり前だろうが。」
わぁお、容赦なくおじさんがまぁまぁな勢いで私の頭をぺちっと叩いた。…手、痛そうだけど大丈夫?
「ま、こんだけあれば当分食うには困らんだろう。干物にして漬け物にして…街にこっそり売りにいく手もある。多くあって困ることはないからなぁ!嬢ちゃんには頭が上がらんな!」
手を撫でながらもガハハと笑うおじさんを見てちょっと安心。何だかいけないことでもしちゃったのかと思っちゃったよ。
後ろの人魚のおじさんだけは今でも悔しそうなんだけどね。え?競争?泳ぐ速さを競いたいの?楽しそうだからいいよぉ〜。
そんな話の片手間にもまた大きな魚が船めがけて飛び掛かってきたので私もジャンプしながら空中でぶん殴る。あぁ、力加減間違えて遠くまで飛んでいっちゃった…あれ取りにいくのに競争する?
競争を言い出したのはおじさんの方なのに急に首を横に全力で振りながら俺の負けでいいと言い出した。え〜なんで〜?
あっ!そんな間に飛んでったお魚さんは違うお魚さんに食べられちゃった。あ、そのお魚さんにまた違うお魚さんが噛み付いた。すご〜い。弱肉強食だね〜。
「いやぁ、嬢ちゃんがいるだけで楽しさが一入だな!おまいさん、いつまでも居ていいぞ!」
豪快に笑うおじさんは楽しそうだ。えへへ、そう言ってもらえると嬉しいねぇ。
私たちと違って後ろのおじさん2人は完全に空気になってるけどね!
「んー、まだお魚とる?」
自分の座る場所もないような船の上を見ながらおじさんに一応聞く。私はまだ動けるけど…
「もういらんもういらん!流石にこれ以上は加工がおいつかん!!」
ですよね〜。おじさんが全力で首を振るので私も釣られて首を振る。そんなに否定しなくてもいいのに〜。
「わしらは今から早速こいつらを加工せんといかんから帰るが…嬢ちゃんはどうする?」
あ、泳ぎ足りてないのバレちゃったかな。正直もうちょっと泳ぎたい。
そう言ったらおじさんが何か五百円くらいのサイズの丸い石をくれた。なぁにこれ?
「そいつは方角を教えてくれる魔道具だ。わしらの砦は赤い石と黄色い石のちょうど中間に向かって泳げばたどり着ける。首にかけるチェーンがついとるだろ。ここに残って泳ぐならそれをもっときな。」
ああ、包囲磁石みたいなものなのかな。石の中に透明な水みたいなのが入ってて四方に赤、青、黄、白の石がハマってる。どんなに向きを変えても石の場所が変わんないなんて不思議だね。
これがある限り私でもちゃんと帰れそうなので元気よく右手の親指を立てた。私的には任せて!ってつもりだったんだけど、おじさんに小声で「それが心配なんだが…」って言われた。何で⁈
「とりあえず日が落ちるまでには帰って来いよ〜!」
遠ざかって行く船の上から手を振ってくれたのが見えるので私も大きく手を振って答える。まあいっか!よっしゃ、自由時間だ!!
海で周りを気にせず思いっきり遊ぶなんて、ガイアどころか日本にいた時にも出来なかったんだから目一杯楽しまなきゃね!
深く潜っては勢いよく水面に飛び出したり、早く泳ぐイルカみたいな生き物と並走して泳いだり、うわぁ、すごいたのしぃ〜!!こんなに思いっきり身体動かして遊べるの気持ちいい!!
何故か途中からずっと着いてくるイルカみたいな生き物と並走していたら何だか絆が生まれてきた気がするや。その子と何度も水の上で跳ね回る。そういえば他の海獣が邪魔してこないな…まあ泳ぎやすいから何でもいっか!
キュルキュルと鳴くイルカちゃんがすっごく可愛い。楽しそうにしてくれるからルンルンって名前をつけた。そう呼ぶとちゃんと近づいて来て私の顔に顔を擦り付けてくるし、頭いいんだね。ああもう可愛い〜!
小さめの魚とか捕まえて餌をあげてるとク〜って高い音が海の底から響いてきた。ん?なんの声だろう。
その音を聞いたルンルンがテンション高くキュルキュル鳴いてる。
おわぁ、目の前の水が大きく盛り上がって山みたいになったと思ったらルンルンと比べられないほど大きなイルカが出てきた。そのイルカに向かってルンルンが嬉しそうに飛び跳ねて回ってる。あ、もしかしてお母さんイルカ?
私がお世話になってますって言いながら頭を下げるとイルカのお母さんも真似して頭をチャポッと水につけた。これはどうもどうもご丁寧に。
お母さんイルカがクークー鳴いてルンルンに何か話しかけてるみたい。それにルンルンが何かキュルキュル返事してたけど悲しそうにキューって鳴いた後私の元に帰って来て頬ずりをした。
あー、これはあれか。「もうお家帰るわよ。」「まだ遊ぶのー!」「いい加減になさい!」的な親子の会話。
結局どんな生き物でもお母さんには勝てないんだね。でもそんなに楽しんでくれたのは純粋に嬉しいね、ありがとう!
私も名残惜しいけどお別れだからルンルンをナデナデする。ルンルンも名残惜しく思ってくれているのか離れようとしない。お母さんイルカも少し離れた場所からこちらに優しい目を向けてくれている。
ほんっとうに名残惜しいけど、お母さんも待ってるしそろそろ帰った方がいいよ?
バイバイって言おうとしてあっ、と止まる。急にガサゴソし始めた私をみてルンルンが不思議そうに頭を傾げた。
「ヒレの付け根に…痛くない?大丈夫みたいだね!」
右側の鰭に小さな宝石のついたネックレスをかけてあげた。小さなくぼみのところに合わせてつけてあげたから多分落ちないと思う。
それを横目で頑張って確認したルンルンは何度も鰭を動かした、と思ったらその場で大きく跳ねた。お?気に入ってくれた?良かった〜。
マイ君がそれがあれば私の居場所がわかるって言ってたし、それがある限りまた会えるよ!
私の言葉をきちんと理解してくれたのかルンルンはもう一度頬を擦り付けてお母さんのところに帰っていった。
泳いで行く後ろ姿に手を振るけどあっという間に見えなくなっちゃった。…ちょっと寂しい。
…ネックレス、勝手にあげたことマイ君にバレたら怒られるかな。ま、その時は潔く怒られればいっか。くよくよ悩んだってしょうがないこともあるさ!
水面に両手を広げて浮かぶ。ルンルンは帰っちゃったし、獲物はどっか行っちゃったから何かを獲れないし、暇になっちゃったなぁ。そろそろ帰ろっかな。
とりあえずもう一度水に潜って勢いよく水面に飛び出して、最後にルンルンがやって見せてくれた空中で大きく一回転するジャンプを真似てみた。ああ、海って気持ちいんだなぁ。私も人魚になってみたいもんだ。
ジャンプを何度か繰り返して満足したので水面に頭を出す。気が抜けた状態で前を見た途端、想像もしてなかった物に思考が停止した。
自分の目線のほんの少し先、視界に収まりきらないほど大きくて鱗みたいなのがある生き物。そしてその頭に乗った人魚の少女が目をまんまるに見開いてこちらを見ていた。




