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第4番 人魚の影に生まれた事


 水の中の帝宮の外から帰ってきたお姉様の元に駆け寄ります。体に巻きつけた布とジャラリと重たそうな輝く石をいくつも御付きの女官に渡しながらこちらに一瞥だけしたお姉様が大きく息を吐きました。


 いつものように薄い石に文字を書いて言葉を交わそうとした私の手。それを振り払うようにお姉様はそっぽを向いて自分の服に袖を通します。


「私は今日の公務に疲れていますの。話なら明日にしてくださるかしら。神子様。」


 私は返事の代わりに小さく頷いて自室に戻るお姉様の背中を見送ります。


「暇なら下手な歌の練習でもなさったらいかがかしら。」


 お姉様は小さく呟いたけど私の耳には届いてしまう。大丈夫、いつもの事だもの。疲れているお姉様に話しかけようとした私が悪かったのです。手に持った声代わりの石板を抱きしめます。


「神子様も本日はもうお休みのお時間ですよ。」


 私の御付きの女官が自室に誘う。今日はいつもより早い時間です。私の時間はいつも短いけれど今日が特別短いのはきっと、来訪しているという他大陸の神子様が関係しているのかもしれません。

 窓から水の中を見つめます。上の客人用の邸。先ほどまでそこに居たはずの胸の奥が何かざわつく存在が遠くに離れていってしまいました。

 きっとあれが他大陸の神子様の存在なのです。私はこんなに胸がざわつくことは生まれて初めてなのです。


「さぁ、神子様。部屋に戻りましょう。」


 女官長が私を押すように部屋に向かわせます。一度でいいから他の神子様とお会いしてお話をしてみたい。外の国の話を聞きたい。陸で、陽の下で、何も考えずに歌いたい。


私は水底の自室に向かいます。


 世の中は御伽噺のようにはうまく行かないものなのです。

 小さな魚の願いは海の泡に溶けて消えてしまいました。





「わぁ〜!広いね!」


 私たちの宿として通された建物の部屋を見てちょっと感動。すごいねこれ、家具とかはあまりなくて、ただすっごく広い部屋。

 ん〜、雰囲気は日本旅館の御座敷みたいな感じかも。その地面を畳じゃなくて石のタイルにして、人が座るところに草…海藻?を干したやつを円状に編んであるものがカーペットみたいに轢いてある。色はないんだけどとても細かくレースみたいに編んであってオシャレだ。

 で、膝くらいの高さで変わった形の椅子がいくつか置いてある。寝る場所もベッドじゃなくてハンモックみたいに紐を編んで上から吊るしてあるし、異種間交流ってこういう事を言うのかな?全然知らない世界で凄くワクワクしちゃう!


 そうやって目の前の楽しいことに集中しようとするんだけど…どうしても隣の気配がきになる。ここに案内してくれた女の人もそそくさと逃げちゃうくらいには居心地の悪い感じだったんだろうね。うちのマイ君が申し訳ない…

 そのマイくんはというと、引き攣りそうなほどニコニコしていた頬をこの部屋を見た途端にさらに曲げて今は軽くホラーになってる。

 マイ君、機嫌悪くなると笑顔になるのどうにかならないのかな…正直怖いし不気味すぎるんだけども。普段は仏頂面なのに。

 とりあえずさっきから私にしがみついて離れないサーシャちゃんの頭をなでなでしておく。マイ君の機嫌が悪いとそれを怖がるサーシャちゃんが私にしがみついてくることだけは幸せなんだよねぇ。


「おいキツネ、空間遮断で外に絶対音が漏れないようにしてくれ。」


 はいはいと呆れたため息を吐いてキツネさんが薄い緑の膜を私たちの周りに張った。それを見届けるとマイ君は音を立てて地面に座った。あ、椅子は使わないんだ。


「舐めやがって…」


 あ、笑顔が崩れた。歯がギリギリ鳴りそうなほど食いしばってる。ほらほらイヌ君ですらちょっと引いてるよ。…もしかしてマイ君の不穏笑顔を見て出会った日のお仕置き洗濯機思い出してるだけかも?


「普通は他大陸の要人にこんな普通ランクの…いや、普通よりは上ではあるが、それにしてもなんで自国のタイプの部屋ってなんでだよ。いや、この国に湿気が多いから同じような部屋じゃないと難しいのはわかるが、にしても…」


 なんかブツブツ文句言ってる。そんなに気にいらなかったのかな。この部屋とか結構面白いけどなぁ。

 でもこういう機嫌の損ね方とかがちょっと子供っぽいところだなって思う。やっぱ本当は子供なんだろうなぁ。


「おい、作戦会議するんじゃないのかよ。さっさと始めてくれよ。」


 地面にどっかり座ったイヌ君がぶつぶつ言ってるマイ君に話を促した。おおー、イヌ君って度胸あるよね。機嫌が悪いマイ君に話しかけるとか中々できないよ。


「作戦つっても、話すら聞いてもらえないとすると…どうすっかなぁ。」


 あ、何も考えてなかったんだ。マイ君いつもわりと行き当たりばったりだもんね。

 カナロムに向かう時の白い壁の時とかグズリア国に行った時のことを思い出す。今更だけどよく上手くいったな〜としみじみしちゃう。


「姫様、お疲れですか?」


 そういえばくっついてたサーシャちゃんが静かだなって思ってたら眠かったみたい。マイ君が寝かせてやれって言ってくれたからハンモックみたいなところにキツネさんが寝かせにいった。すぐに寝息が聞こえたあたりかなり疲れてたのかも。挨拶頑張ったもんね。ゆっくり眠ってね。


「俺らはこの国に歓迎されてない。そもそも歓迎されるとは思ってなかったがさっさと追い出しにかかってるくらいだ。追い出される前にどうにかこっちの話を聞いてもらわんと何も進まん。」


 マイ君さっきからこの国の人達と何か話したそうにしてるけど、何か話をしなきゃいけないことがあるの?てっきり魚人族の元奴隷だったみんなを帰してあげて謝って終わりだと思ってた。


「リスタール国王が…今後の交易を広げろと…言いやがったんだよ。」


 ほー、交易?んー、政治とか正直なんにも分かんないけど素人なりに素朴な疑問。

 ガイアの国って大陸の中だけで今まで暮らしてきたんだよね?だって他の大陸に行くの難しいから余り交易は盛んじゃないってロゼちゃんが教えてくれたし。だから他の大陸とって、今さらじゃないかなって思うのは私だけなのかな?

 そう思ったから素直に言っただけなのになんでみんなそんなに心底驚いた顔してるの?あっ、今小声で脳みそあったのかって言った⁈聞こえてるからね⁈なんでイヌ君までそんな驚いた顔をするの!!


「ああ、いやまぁ、正直ガイア今のところはうまく大陸の中で回ってはいる。が、別に裕福なわけでもない。土地はあるが魔力の性質上、作物を育てるのに向いてない場所が多いからな。リスタール国王があいつに変わった今ならかなりの発展はすると思うが、それにも限度があるだろう。それに国王が求めてんのは他の陸の魔法技術の方だ。種族によって適性魔法は違うから他の種に友好を求めてもおかしくはないだろ。」


 適性魔法…あー、なんか聞いたな。珍しく思い出せそう。

 えっと、大陸の神によってその陸にいる人の使いやすい魔法が違って…ガイアは育手が多く魔獣も多いからテイマーっていう仕事を生業にする人がいるとかなんとか。でも別に突出した適性の魔法がない国って言ってたな。

 この陸ポセイドンは歌というか声というか音だっけ。音魔法って見たことないからどんな魔法かよくわかってないんだけど、大声が出せるとかそんな感じかな?ま、それはこの国にいたらいつかはわかるか。


「それで、国王様は交易の種に何を渡すつもりだったのです?わざわざ海を苦労して越えてまで渡す価値のあるものはあるのですか?」


 サーシャちゃんの元からようやく離れたキツネさんが話に入ってきた。サーシャちゃんが可愛いから寝顔を見たいのはわかるけど長すぎると思うよ。頭が良さそうなことを言う部分があってもどうかと思う。


「まぁ、生物を渡すのはかなり難しいからな。一番渡しやすいのは魔石だな。何度も言うがガイアは土地柄、魔力が高くて魔獣も魔石を持ちやすい。他国とは比べられんほどに魔石の採取率が高いからな。」


 へー、魔石って他の大陸だともっとレアなんだ。私が狩りにいくと一回で3個は取れるけどな。


「ただ蜘蛛の森なんかだと魔獣の討伐はかなりの難易度だから安定した供給は難しい。それに限りあるものだからな。これを主な交易にするのはリスクが高すぎる。」


「じゃあそれを使った魔道具はダメなのか?最近ロゼが持ってる魔道具のレベルが上がってきてる気がするぞ。」


 え!衝撃すぎてイヌ君の方に思いっきり振り向いてしまった。そんな私にシッシッと手で追い払う仕草をしたのが腹立つ!!

 なんでこんなのが魔道具のレベルなんかわかるの!いつもは何見てもそんなのわかりません、みたいな顔してるくせに!


「魔道具も交易対象の一つだな。ただ他大陸が俺らの国の道具を利用できるかが分からん。それは今回の視察で決まるところだな。」


 あ、これ視察名目も入ってたんだ。私、皆んなを送り届ける以外は完全に旅行気分だった。…あれ?もしかして私…この中でかなり浮いてる?


「とにかく、リスタール国王からこの国の奴らを釣るために持ってきた餌は…」


 そこで話が途切れた。だって後ろで寝てたサーシャちゃんが「マイラス!!」って叫びながら起きたから。あまりの勢いにみんなの動きが止まる。

 急ぐようにマイ君の元に来たサーシャちゃんが興奮したようにマイ君をガックンガックン揺らす。おおー、こんなサーシャちゃんは珍しい。


「会った!話した!」


 あまりに興奮していてうまく話にならないのをキツネさんがなんとか引き剥がして落ち着かせる。興奮してほっぺたが赤くなっててかわいい。


「で?何と会ったって?」


 揺さぶられて主に襟元が乱れた服を直しながらマイ君が聞く。ちょっとまだ大きく息をしてるサーシャちゃんが嬉しそうに言った。


「夢の中で第二大陸の神子様と会ったの!」


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