第56話 こうして私達は花の国の冒険を終えました
目を覚ますと私達は食堂で机に突っ伏すように寝ていた。
「おやおや起きたのかい?」
ほとんど同時に起きたマイ君と目を合わせているとあの声が聞こえた。振り向いた先にいたのはマーテルさんで私たちの肩にかかっていた毛布は彼女がかけてくれた物らしかった。
「あ、あの、マーテルさん…?」
目の前の人がガイア様なのかマーテルさんなのか判断がつかない。でも前みたいに不思議な圧は感じない気がした。
「私が来たら2人して机で寝てて驚いたよ!風邪でも引く前にさっさと部屋へお戻りよ!」
マーテルさん以外の人影はまだ見えないし、多分朝イチの仕込みでもしに来たのかな。外はまだぼんやりと暗いのにこんな朝早くから大変だな。
「なんだい、アタシの顔なんかじーっとみて!まだ寝ぼけてるんじゃないだろうね?」
それだけ言って元気な笑い声を残すとマーテルさんはさっさと奥の厨房に入って行った。
「マイ君…」
目の前で私よりぼんやりとしているマイ君を見る。ほんのさっきの事のはずなのに遠い昔にみた夢のようにどこか現実味がない。
「あー…まぁ、あれが本当か、2人して夢でも見たか、強い幻術にかけられたのか…は正直分からんが…ま、ここが現実なことは変わらねーだろ。」
ふわぁ、と大きなあくびをしたマイ君が身体を大きく逸らして伸びをする。
「夢でも現実でも、会えたんならいいんじゃねーの。」
毛布を畳んで机の上に整えているマイ君が小さく溢した。その言葉にじんわりと胸が熱くなっていく。
そうだ、何年振りか分からないし本物じゃないことも確か。それでもあれはゆり先生の言葉だった。
『あなたに光がありますように』
ゆり先生が私の頭を撫でながら何度も言ってくれた言葉。それをもう一度聞けた。いきなり消えた先生に言えなかった、ずっと小さい頃から言えなかった言葉。
自己満足なことはわかってるし本人にもう会えないこともわかってる。それでも、ずっと言いたかった『大好き』の言葉。
心から何かが溢れそうなほど満たされてたまらなかった。
「マイ君、ありがとう。」
食堂に背を向けて歩き出したマイ君に小さくお礼を呟く。何の反応もないんだろうな、って思っていたのに意外にもマイ君が右手を上げてひらひらと振った。言葉はなくても気にするな、と言っている気がした。
私は胸に広がった温もりが消えないように優しく笑顔をこぼした。
「たっだいまぁ〜!我が家だぁ〜!!」
花祭りの前にも一回帰ってきてたはずなのに何だか現実味が少なかった。今になってようやく家に帰ってきたって気がする。
初めてこの森に来た時は本当に意味がわかんなくて、学校卒業してからの自分が想像できなくて苦しくて寂しくて。
でも何故かマイくんと出会って、サーシャちゃんが落ちてきて、ロゼちゃんにも、ユエにも、街のみんなとも仲良くなって…。サーシャちゃんの奴隷印を無くすまでは大変だったけど、ここ数週間は本当に楽しかった。
私は花祭りから10日間、回り続けてたせいで自覚がないだけで本当は1ヶ月くらい経ってるけどね。
ま、なんでもいっか。今こうして隣にサーシャちゃんがいるんだしね〜。
ベッドの上に大の字になって伸びをする。自分の作ったこの簡易な感じのベッドがたまんない!
そんな私を見ていたサーシャちゃんも私の隣に飛び込んできた。わっ可愛い!
真横でくすくす楽しそうなことがすごく嬉しい。ネコちゃんとイヌ君は空いてる部屋に押し込められてるしキツネさんもこの部屋は侵入禁止。この空間は女の花園ってやつだよ!
隣で楽しそうに転がっているサーシャちゃんの首にはもう奴隷印はない。可愛いふわふわの茶色い髪にはマイ君が新しく用意した髪飾りの青い羽と赤い実。
「あ、そうだ。ねえねえ、サーシャちゃん。」
コロコロしていたサーシャちゃんが私の声を聞いて私の目の前に顔を近づけてくる。クルクルと光る緑の瞳がとても綺麗だ。
「今日はお家に帰ってきた記念パーティでもしちゃう?」
パーティ⁈とサーシャちゃんの目がキラキラと光った。ふふ、思いつきで言っただけだしパーティって言ってもみんなでワチャワチャしながらいつもよりちょっと豪華な夜ご飯を食べるくらいだ。でもきっと、みんなで食べる美味しいご飯は楽しいよね!
じゃあ、早速…
「マイ君とみんなに相談しなくちゃだね!」
私は勢いよくベッドから飛び起きて、広間に続く洞窟の廊下にサーシャちゃんと一緒に飛び出した。




