第51話 あたしには始まりの物語
そんなこんなで色々な面倒くさいことはぶん投げて私たちは一度ロゼちゃんのところに帰る事にした。私はそもそも何にもしてないんだけどね!
その後遅れて帰ってきたマイくんは何だかげっそりしていたし、ロゼちゃんに会った途端に綺麗に回し蹴りを喰らっていた。
おー、流石に避ける元気もなかったみたい。…大丈夫?
そこからマイくんは丸一日、サーシャちゃんは丸三日寝続けた。結構大変だったし疲れたもんね。私も珍しく一晩は寝てしまった。流石の私でも疲れちゃったもん。
サーシャちゃんの不死鳥はサーシャちゃんが眠ると同時にまた卵に戻った。そういう生き物なんだって。何度も生まれては命を終えると卵に戻る。それを繰り返して神子の一部になっていく生き物。
ロゼちゃんの街では連日お祭りのように歓喜が続いた。生き別れていたカナロム出身の人たちが何人も再会できたんだって。
国はなくなって沢山の人たちが命を落とした。それはもう取り返しがつかないけど今こうやって生きて会えた人がいるのは嬉しいよね。
ちなみにその後追加で連日、元奴隷の人がここに来たりした。あのリスタール国王様が何かしたらしいけどロゼちゃんが珍しく頭を抱えて発狂してたくらいで詳しくはよくわかんない。
あ、そうそう。サーシャちゃんのお兄さんとお姉さんの再開にも私はサーシャちゃんに頼まれて一緒に着いて行ったよ。色々めんどくさいみたいでリスタール王城の一部屋で見守られながらの再会だった。
案内された部屋でサーシャちゃんは2人の男女を見つけると泣きながら走って駆け寄った。20歳くらいかな?すごく優しそうなお兄さんと活発そうなお姉さんだった。3人は抱きしめ合いながら泣いていて私まで泣きそうになっちゃった。
ごめん嘘、すっごい泣いた。よ゛がっだね゛え゛って泣いててマイくんにドン引きされた。
その後サーシャちゃんたちが別室で3人で話をしている間に私はマイくんから全部聞いた。サーシャちゃんの家を襲った黒幕はサーシャちゃんの叔父さん。叔父さんはサーシャちゃんの両親が持っていた商会本部の実権が欲しかったみたい。
今更だけどリスタールでユエと遊んでいる時に見たグロンテッド商会って書いてある大きな建物。あれがサーシャちゃんの叔父が奪ったものだった。
そういえばサーシャちゃんの名字、グロンテッドだったかもって今更だけど思い出した。忘れててごめんよ。にしても、叔父さんが居るならあの時に殴り込みに行けばよかったな。
悲しいことに両親はもう居ないけどお姉さんとお兄さんは殺されずに駒としていいように使われていたみたい。
2人ともサーシャちゃんを人質に脅されていたんだって。サーシャちゃんが奴隷にされていたことも知らずにずっとサーシャちゃんのために。
でもサーシャちゃんを神子と知って家を襲おうように手引きしたことを罪に問われた叔父さんは失脚。そのまま裁判待ち。良くて死刑、おそらく罪人奴隷として一生を終えることになるだろうって事だった。
ふーん、死ぬより辛い刑が罪人奴隷なんだ。どんな人生になるんだろうね。
「サーシャはこの先も俺が預かることになった。サーシャは神子の力に目覚めたばかりで全てが未熟だ。それを踏まえた上で生きていけるように鍛えてあげろだとよ。あのアマぁ…」
最後のアマってのが誰のことか分かんないけどマイ君なら適役だよ大丈夫大丈夫!
「そういえば、カルカン?だっけ。サーシャちゃんを奴隷にしてた人。あの人なんで死んじゃったの?」
あれから聞きたくても聞けなかったから私的にはようやくできた質問。なのにマイ君はすっごい苦そうな顔をした。
「…わからん。俺はあの夜まずグズリア国王を捕らえに行った。だがその価値なしとして部屋から出られないように部屋に魔法をかけただけでやめた。その後国の資料庫を漁って神子関連の証拠とカナロムを滅ぼす手引きしたものを洗い出し、その後で気絶したカルカンを捕縛した。まぁ捕縛する前からかなりめちゃくちゃだったんだが…どうせあんだけボロボロにしたのはお前だろ?」
あはは、そういえば何回か殴ったかも。で、でもあいつサイテーだったんだよ⁈しょうがなくない⁈
わたしの弁明に珍しくマイ君が「ああ、よくやった」って言った。…褒めた?え、褒められるの初めてかも。かなり動揺してしまった。大丈夫⁈熱とかない?
「うるさいな…おい!やめろ!」
おでこに手を当てようとしたのを本気で嫌がられた。しかも不味いものでも食べたみたいに渋い顔をされたので熱もなさそう。
じゃあ本当に褒めてくれたのか。そう思うとニヤニヤしちゃう。勝手に緩むほっぺを両手で挟んでどうにか押さえ込んだ。
「とにかく、俺はリスタール国の者が来るまで逃げられることがないように手足を縛って防護壁を張った部屋に投げ込んだ。あいつは裁かれるべき人間だったからな。なのにあいつは死んでいた。化け物のように全身が腫れあがって…まるで体の内側から何かが溢れて爆発したようにそいつを中心に部屋全部が真っ赤だった。」
想像して顔が歪む。私が最後に見てからそんなに時間が経ってないはずなのに一体何があったのか、ちょっと気持ちが悪い。
「まぁ、面倒だったがリスタールの国王を巻き込んだおかげで面倒だったがサーシャの奴隷の件も片付いたしサーシャの友達とやらも無事に奴隷ではなくなった。面倒だったが。」
そんなに何度も連呼するほど面倒だったんだね…。サーシャちゃんを助けるために1番頑張ったのはマイ君だし、そりゃ大変だったか。
「なっ、んだ⁈」
お疲れ様を込めて頭撫でたら振り解くように逃げられた。あれ、嫌だった?咳払いをして何とか話を元に戻すマイ君…。
あ、もしかして照れてるのか。本当は子供なんだから別に撫でてもいいと思うんだけど…ごめんってば。
「これから少しの間俺たちはロゼのところに身を置く。ひと月もかからないだろうが俺はそこでやることがあるからな。お前は自由に過ごしておいてくれ。特にサーシャの様子に気をつけてくれると助かる。」
もっちろん!と了承の意を込めて親指を立てて差し出す。これからも変わらずに3人いられるのが無性に嬉しい。まだそんなに長く暮らしてる間柄じゃないはずなのに、私にはここがとても居心地がいいんだ。
コンコンと軽いノックの音が部屋に響いた。どうやらサーシャちゃんの方が終わったみたいだ。もう少し長くいられたらよかったのに。
サーシャちゃんにお兄さんとお姉さんと暮らさなくていいの?って聞いたらさっぱりした顔で笑ってくれた。
「あたしは今はお姉さんとマイラスといたいの。あたし、まだ弱いから…もっと強くなって…それでもう誰も傷つけられないなら、その時にまた会いに行くの。お姉ちゃんもお兄ちゃんも楽しみにしてるって、ぎゅってしてくれたから…だからお姉さん、マイラス、これからもよろしくお願いします。あたし、頑張るね。」
照れた笑顔のサーシャちゃんが可愛くて私も笑顔になる。マイくんも珍しくサーシャちゃんの頭を撫でていた。そっぽを向いて、だけど。素直じゃないんだから〜。
「…おいなんだ、ニヤニヤして。」
そんな私のニヤニヤに気がついたのか撫でていた手を止めてマイくんがこっちを睨んだ。
ベッツにぃ〜?と更にニヤニヤニヤしていたら鎖骨の辺りをグーで殴られた。い、痛い…
すみませんがそろそろコチラに、とリスタールの国の人たちに呼ばれた。ん?何だろ。マイ君も何も聞いていなかったみたいで?な顔で言われるがまま着いていく。
長い廊下を歩いてたどり着いたのは大きな扉の前。そこに立たされてここで少々の待機を指示された。ここなんなんだろう。
そういえばリスタール国王様に今日は会ってないなぁ。もしかしたら謁見的な感じ?あ、緊張する。
マイ君どうしよう、って言おうとして横を見たら引き攣った顔で少し青ざめてる?え、マイ君が⁈何事⁈大丈夫⁈
こんな顔のマイ君は初めて見たので流石の私も動揺しちゃう。この先で何があるの?
そんな私達を察知したサーシャちゃんも心配そうに私の服をぎゅっと掴む。その辺りで急に目の前の扉が開いた。眩しくてぎゅっと目を瞑る。
目を開けるとすっごい広い部屋…って言っていいのかなこのサイズ。高校の体育館以上の広さがあるなこれ…そんな場所が広がっていた。
あ、私たちの正反対の場所、1番高いところにはリスタール国王様が座っている。
…あえ?ちょっと待って、国王様の隣で控えている女の人…いつもと服は全く違うし雰囲気も、何なら身長も違うけど…うん、やっぱりロゼちゃん⁈
「ね、ねえマイく…」
のところまで出かけた言葉が止まる。な、何その格好。スーツ、とは違うけど明らかに正装ってわかる格好。イギリスかフランスだったかの兵隊さんが来ていたようなビシッとかっこいい服になっていた。
え?もしかして私も?腕と足元しかわからないけど明らかにさっきまで着ていた草臥れた服ではなくてマイ君と同じ緑を基調として黒のベストみたいなのとか金の肩当てとか、とにかくかた苦しい服だった。
ここでようやく隣のサーシャちゃんに気がついた。サーシャちゃんは緑のふんわりしたスカートでそのスカートには色とりどりの花の刺繍が付けられている。ふわふわの髪も三つ編みのおさげでそのおさげには花がいくつもさしてあって…待って、すごく可愛い!
あ、自分の耳飾りがちゃんとあるか心配になったけどちゃんと着いてて安心した。大事な物だからこれは無くしたくないんだよね。
シューっと変な音が聞こえて隣を見ると絶望した顔のマイ君が長く息を吐き出していた。え、なになに何??周りには観客席みたいなものがあってすっごい人が沢山いるし。もう私わかんないんだけど⁈
「静粛に。」
ザワザワとしていた空気が一瞬で静まり返る。リスタール国王の声は広い場所でもなぜか響くようにしっかり聞こえる。これも魔法かな。
「神子様とその一同、前に。」
え、私たちのこと?
焦る私とは引き換えに何かを覚悟したようなマイ君が堂々と歩いていく。さ、さすがマイ君は頼りになるなぁ…
部屋の真ん中まで3人で進むとリスタール国王は立ち上がった。
「マイラスとアサヒよ。此度は我らが神子様を保護し、我らの恥の後始末まで行ったこと、正統に評価し感謝する。」
それだけ言うと国王様は深々と頭を下げた。お、おお〜。そんなに大したことはしてないはずなんだけどまぁ、褒めていただけるならいいか。
「その大義に免じ、此度からそなたら2人をガイア大陸国連邦代表リスタール国から正式に外陸交員に命じたい。もう数年後には神生代4000年の節目を迎える。この大陸の国々も見聞を広げなくてはなるまい。その橋がけとして初の試みにはなるが、神子様とそなたら二人に外陸との繋がりを広げていただきたい。その代償としてそなたらにはガイア国代表としての権利を授けよう。そなたらが気にかけておる場所にも我ら連邦国が誠意を尽くすことも可能な権利である。どうであろうか。」
…んえ?なになに?外陸?私たちどこかに行かされるの⁈さっきから何が起きてるのかもう全然わかんないんだけど!
そんな私を差し置いてマイ君は片膝をついて深々と頭を下げた。私も慌てて遅れながら同じことをする。
ああ、サーシャちゃんが置いてけぼりだ。ごめんねサーシャちゃん、私もわかんない状況なんだよ…
「身に余る光栄、感謝いたします。このマイラス、アサヒ、その申し出を受けさせていただきたく存じます。この身はガイア様と共に。」
え、結局私まで何かに指名された?ま、まぁマイ君が決めたならそれでいいんだけどさ…
「心良い返事で安心した。此度は誠に大義であった。今日は城でゆっくりしていくといい。後でうちの者に案内させよう。神子様もこの城は安全です。どうぞゆっくりなさってください。」
これにより閉会する。という声とともに私たちは数多の拍手に見送られながら会場を後にした。あの大きな扉をくぐるといつも通りの格好に戻った。一体何だったのやら。
「ねぇ、マイ君。今のって一体…」
話しかけようとしてビクッと身がすくむ。ま、マイ君がすっごい笑顔だった。
「嵌めやがったなあのアマぁぁぁぁああ!」
うわっ、マイ君が叫んだ。びっくりした。ほら、道案内しようとした人もびっくりしてるよ。
「おいお前はサーシャと一緒に楽しんでおけ。この城の風呂はでかいし飯もうまいしなかなかだぞ。」
ピクピクしているこめかみを抑えるようにマイ君が全力の笑顔で早口で言う。
「ま、マイ君…は…?」
一応聞く。
「俺は用事ができた。今日は2人で楽しんでくれ。」
それだけ言うとマイ君はどこかにめちゃくちゃ走って向かっていった。
「い、いってらっしゃ〜い。」
私にはこれが精一杯だったよ、うん。




