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破壊神と呼ばれた私は!  作者: 米田いすき
第一章 幼き母と子守唄
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第49話 御伽噺はまだまだ続く


 周りを見ると色とりどりの布がひらひらと舞っている。これだけの人が居れば上から見ると本当に花畑のように見えるのかもしれない。

 自分の纏うスカートも、赤ベースの色とりどりの布が何枚も何枚も重ねられてまるで花びらのようにふんわりと足元を包んでくれている。

 今まで生きて来た中でスカートどころか可愛いオシャレな服を着た記憶も無かったっけ。私が着てもいい服は施設で支給される物の中でも破れても問題ない使い古した御下がりばかりだった。

 そう考えるとこんな格好をしてる事自体がむず痒くて、なんだか動き出したくなる不思議な感覚。誰かに見せたいのに見られると恥ずかしくて頭の中がソワソワしてる。

 近くに姿は見えないけどきっとサーシャちゃんもどこかで可愛くクルクル回っているはずだ。お友達と仲良く楽しそうにしてるかな。

 想像しただけでも可愛くて微笑ましくて心がポカポカしてくる。


 とりあえずせっかくのお祭りでぼーっとしてるだけじゃ勿体無いよね。私も回ってみようかとあまり人が居ない私専用に区切られたスペースで足を入れてみる。

 練習通りにスカートをふんわり持ち上げて体を捻ってステップを踏む。くるりくるりと自分も風になったみたいに回る廻るまわる。

 端に錘のついたこのスカートは綺麗に円を描いて何枚もの布地を花びらに変えた。

 目に映る景色が消えるまで、私はくるりくるくるくるりくる。同じテンポでずっとずっと。

 ああ、この満開の花々が、いつか本物の花びらに変わる日まで。こうやってみんなと笑っていたいと願った。





「は?祭り?」


 定期的な連絡時、第一声でロゼから言われた言葉に素で声が出た。

 いつもならリスタールの情勢やらノットシーで新たに上がった問題提起やら業務的な連絡事項が大半を占める。なのに今日はそんな話題は全て放り投げて最重要事項としてそれを告げられた。


「ええ、お祭りよ。カナロム国がガイア月に行う花祭り。あなたも知ってる祭りでしょう。もう長い事やってないし時期はズレてるけど、祝い祭もかねて開催が決まったの。そうしたら町のみんながあなた達も呼んでやりたいと聞かないのよ。」


 通信戯の魔法石の向こうでロゼがやれやれと言ったふうに両手を顔の横に上げている。口調は困ったわよね、と言いたげなのに表情からは嬉しいのか楽しみなのか上機嫌なのが滲み出ている。

 ノットシーに住人が増えた今はただえさえやる事が多いと言うのに、自分で仕事を増やすなんて正気なのか?なんて口に出せば元凶の俺の元に速攻で蹴り込みに来るとわかっているので無理矢理に言葉を飲み込んだ。

 そんな俺に「何か?」と冷たく睨んできた時点で思考の全ては読まれているのは明白だな。これ以上は藪蛇にしかならないので沈黙を貫くが吉だろう。


「ねぇねぇ、花祭りってなぁに?」


 どこから話を聞いていたのか女が背後から顔を覗かせてきた。コイツが出てきただけでロゼの機嫌が良くなるので良いタイミングだ、と口に出かけたのを手で押さえて止める。変に褒めたら無駄に調子に乗らせる所だった。危ない。

 それに対してロゼは案の定というか、嬉しそうにひらひらと手を振っている。分かっていても妙に腹が立つな。何でロゼはこの女のことをここまで気に入っているのか今だによくわからん。


「花祭りってのはカナロム国伝統の祭りの事だ。毎年の地月…一年を13月に分けた内、3番目にある月の事だな。そのガイアの月にやる繁栄を願う祭りだ。花びらに見立てた薄い布を何枚も重ねたスカートを身につけてその場で回るんだよ。自分の年齢分回るのが定例で、それを超えて現世紀分だから…今年は3996回か。止まることなく回ることができたらその一年はガイアの加護でいいことがあるっていう祭りだ。と言っても楽しく回れればいいって感じの緩い祭りだけどな。他人が回るのを止めなければ他は自由で…そういやおまえイヌとネコに稽古つけてたんじゃないのかよ。」


 2人とも疲れちゃったみたいだから休憩ちゅー、とフンフン鼻歌らしき奇妙な音を出しながら俺の周りをひょこひょこしている。こいつの行動の方がよっぽど駄犬だな。あ゛ー 、鬱陶しい。

 あの晩にグズリア国のことが終わってから18日目。一昨日ようやく蜘蛛の森に戻ってこれたというのに早々にこれだ。




 あの晩、自分の仕事を終えて初めに女と約束した集合場所に行った俺は早々にため息を漏らすことになった。


「何人いるんだよこれ…」


 別行動になる前の触れば弾けそうだった雰囲気はすっかり消えた女が「エヘヘ」と気持ち悪い笑いを漏らしながら近づいてきた。いや何も褒めてねーよ。

 俺の方が先に用事が終わると思っていたが存外こいつの方が早かったらしい。順調に事が進んだようで何より。


「俺は今からこの全員分の奴隷印をどうにかしないといけないのか…?」


 軽く100人は超えているんじゃないかという人数を見て吐きそうになる。国王とはとても穏便に話をつけてきたので奴隷の権利はいいとしても…この城からこの人数全員分を見つけて破棄して回るのか?俺が?

 あー、ダメだ。今すぐ全部ぶん投げて帰りたい衝動に襲われる。苛立ちに身を任せてコイツに何人連れて来てもいいとか言ったの誰だよ。言わなくても連れて来ただろうと言うのは置いといても人間には限度というものがあるだろ!と愚痴の一つくらい溢すのは仕方がない。


「あ、この人達の奴隷印なら大丈夫みたいだよ?ほら。」


 …は?奴隷印ならダイジョウブ…?


 追いつかない思考のまま隣で髪の毛を掻き上げて待機しているサーシャのうなじを確認する。

 つるりとした何もない肌には目視でも解析鑑定をしても何も見えない。そこにはただの年相応の子供がいるだけだった。

 足元に寝かされている子供達も、痛々しい姿形をさせられた老若男女の奴隷達も、ここにいる者全員、この場所に奴隷の者はいなかった。


「あのね、マイラス。全部この子が…セラスィがやってくれたんだよ。」


 サーシャの隣にはサーシャよりもやや高い背丈の大きな青い鳥。資料で見聞きしていたものとは比べられないオーラと威厳。それが不死鳥であることは目についた瞬間からわかっていた。

 まさかこのタイミングで目醒めるとは。予想よりも遥かに早かったが、よくやったと言うべきなんだろうが…どうやって奴隷印を不死鳥の力で消したのか理解がさせてほしいというか…


「…あー…とにかくこの人数を一度に運ぶのは無理だ。時間がかかることは覚悟しとけ。」


 後ろの方から何故かさらに増えていく人数に目眩がする。勘弁してくれ…

 転移方法は簡単。ロゼのところと繋いである大きな魔法陣を描いた布をここに設置して順番に送るだけ。一回に送れるのが10…いや、子供も多いし頑張れば20…魔力を別に貯めておいたとはいえ…足りるか…?

 両手で頭を抱えてため息をつく。弱音を吐いても意味はない。頑張るしかないだろう。

 地面に人が軽く30人は乗れそうなサイズの布を広げる。そこには目一杯の大きさで転移陣が書いてある。一応まだ誰も乗らないように指示をしてから一番難易度の高そうな準備にかかった。


「こちらヘビ、こちらヘビ。おい、ロゼ聞こえるか?」


 胸元をジャラジャラしている鎖を一つ引っ張り出すと親指の爪ほどのサイズの魔石に話しかける。距離的に繋がるか微妙だったが親石の方が大きいので無事に繋がることができた。


『はいはい、こちらロゼ。全く、あなたは連絡が遅いのよ。ここ数日通信戯の前から移動できなかったじゃないの。』


 ボワンと篭ったような音だが一応ちゃんと会話にはなる。突貫で繋いだ魔法道具だが意外と使えるもんだな。さすがチョウに手伝ってもらっただけあるということか。

 他大陸にはもっと品質の良い通信戯があるだろうがこの大陸は大地の魔力の問題もあってまだまだ技術が低い。会話ができるだけでも十分だろう。


『で?これだけ時間をかけた後に堂々と通信しているんだから問題は片付いたんでしょうね。』


 もちろん、と言いたいが…まぁ、一番の目的のサーシャの方は解決しているので良しにしておくか。


「それで前に頼んでおいたここで回収した元奴隷達の面倒を見てもらう話なんだが…ちょ〜っと予定より人数が多くなってだな…申し訳ないんだが頼んでいいか?」


 はぁ…、と大きなため息が聞こえたが予想の範囲内だったらしい。さっさと送りなさいと威圧的な声が続く。はは、送り切った後で小言はもらうか。


 とりあえず話が通じそうな大人や、ある程度知能がありそうなやつ、あと第一言語の方を使ってる奴らを集めてざっと話を通す。皆疲れ切って力も出なさそうな者が多かったがほとんどの人間は正気は保っているようで安心した。

 にしても全体から見れば少数だが、魔人、樹人、獣人、土人、魚人…一人だけだが天人までいやがる。この国、ふざけてんのか?こんなに色んな人種をどうやって集めたのか知りたいような知りたくないような。

 過半数はカナロム国の人間だが人外の比率も多い。奴隷国家の名は伊達じゃないってことか。

 第二言語の民には話がわからず戸惑っている者が多いが、両語を扱える者も何人かいたので今の話を伝えておいてもらう。

 そっちは放置でさっさと転移準備を始めよう。集められた者達の魔力量を見れば中々の者もいるので転移自体は何とかなりそうだな。


 この転移陣は完全な自作なので今のところ俺以外には操作できない。こんなもん多用された日にはとんでもない犯罪が横行するだろうからこのくらいの面倒臭さで妥当だろう。

 樹人が3人、人間の中で魔力がそこそこ使えるレベルであるのが8人、獣人は論外、魚人が1人…ギリ使えそうか?魔人は2人いけるな。天人は…会話すらさせてもらえなさそうなので却下。

 あー、ぎりぎりどうにかなりそうでやや安堵する。ここまで来て帰れなかったら本気で挫けそうだった。

 今の魔力量の多い者を呼んで今からのことを伝える。いまいち話を飲み込めないがこの地獄から抜けられるなら何でもいいという意見が大半だな。


 まず意識のない子供から転移していこう。

転移先はロゼのとこで造った洞窟の部屋の一つ。あの巨大蜘蛛の骨格を主体としているので魔力が逃げにくく、距離の遠い場所への転移でも体の構築が楽だ。

 俺の転移の場合はロゼのとこの一度バラけさせてから構築するタイプの転移とは違う。次元の隙間に無理やり魔力ごと捩じ込むもので魔力でコーティングできる分、転移される人間に何かあるリスクは少ない。

 ただし、他人の魔力操作ができ、なおかつ自分の魔力も多く、その上それぞれの人の形が違う魔力を混ぜることなく操作できる器用さが必要になる。つまり俺のような天才にしかできないってことだ。


 そんな話は置いておいて、今三組目を送り終えたところだが…終わりが見えん。

 あの女が妙に静かだと思えばあちこちで鎖や手錠を引きちぎって周って居るらしかった。あーあー、拝み出すやつまでいる。ただの馬鹿力なアホだぞと変な顔で照れているその頭を殴りたくなった。

 ま、その女にくっついて離れないサーシャが元気そうでよかった。髪飾りがないところを見ると俺の仕掛けには気が付かれたようだが役目を果たしたようで何よりだな。

 にしても本当に長い一日だった気がする。遠くの空はうっすらと明るく、太陽の兆しが見えている。


 あのグズリア国王は今でも現状の理解すらできずに何も考えていないのだろうか。



「つまり、だ。簡単な話だろ?おまえらはどうせそう遠くないうちに神子をグズリアの利益の為に利用しようとしたことについて第三大陸国連法違反による国交法裁判にでもかけられる。俺らはリスタールからただの商人としてここに来たワケじゃない。国連の直属の手としてこの国がどういった経緯でカナロムに攻め入ったのかの裏を取りに来たんだよ。ま、そんなの考えるまでもなく頓珍漢な話が…おい、聞いてんのか?」


 ピンクの寝巻きの目の前のグズリア国王、グルコアは妙に静かだと思っていたら普通に寝ていやがった。躊躇なく顔に冷水をぶっかける。ヒュエッ⁈と言いながら跳ね起きた姿にもうため息しか出ない。

 お飾りの王と名高いがまさかこんなにもアホだとは思わなかった。自分の国の存続の話だぞ?その話の途中で寝れる胆力は凄いのかもしれないが、城の下の方ではまだ何かの破壊音が響き続いている状況で呑気なものだ。

 …あの女、この城粉々にする気じゃないよな?してもいいがせめて俺の用事が済んでからにしてほしいもんだ。


「よ、余は国のことはわからぬ。全部カルカンに聞いてくれ。カルカンに国のことは任せておる。」


 はぁ、本気で呆れた。こいつは国の長である自覚は皆無らしい。九つの時に国のトップにされ、そこからずっとあの参謀に任せていたのはわかるが、ここまで無能を育て上げるのはある意味才能だろ。立派なもので。


「いいか?おまえが何も知らん名ばかりの王だとしても、おまえは王なんだよ。この国で一番偉いこの国の法律だ。おまえが知ろうと知らなかろうとおまえがルールだ。わかったら話を聞け。」


 こんなに言ってやっているのに何故わからんのか俺には分からん。あーーー、めんどくせぇぇぇぇぇぇぇええ。


「お前は!この国の!代表として!間違いなく!裁判にかけられる!おいゴラ聞いてんのか??」


 何を言ってもポカンと口を開けている様子につい手が出る。ただのデコピンなのに涙目なことが腹が立つ。


「な、なぜ余が裁判などにかけられるのだ?余が何をしたのだ?何が起きてるのだ?」


 はぁ?何を言ってんだこいつは。まるで俺が加害者でこいつが被害者だと言わんばかりの態度だ。こいつのせいでどれだけの人の人生が狂っているのか本当に知らないのか?


「…お前、カナロムに自分の国が攻め入ったことは知ってるか?」


 当たり前の話なはずなのにこいつは少しでも考えるそぶりをした。そのことに俺は既に言葉を失った。


「う、うむ。えっと…あの国はダメな国だから、カナロムの国王のせいでカナロムの国の民が苦しいから、カナロムの国王を殺してカナロムの国民を余の国で助けるのだと、カルカンが言っておった。」


 こ、こいつはなんでこの話に何の疑問も持っていない?それだけが真実で生きて来たのか?


「そ、の…カナロムの国民は…今何をしているのか、知ってんのか?」


 悪意だけで動いていてくれた方がまだ何倍も良かった。こいつはまるで何も知らない稚児同然。稚児の手遊びで何万という人間が地獄に落とされたのだとしたら、こんなにも救いのない話があっていいのかよ。


「カナロムの国民は余の国で働いているぞ。カナロムの国の民は罪人だから余の国で働いて罪を洗い流してやるのだ。」


 罪人。奴隷であることが罪であるということは罪があるから奴隷ということか。そんな誰にも見えない架空の罪なんて馬鹿げている。

 大きく息を吐きながらどうにか自分を落ち着かせて話を続けた。


「…グズリア国は長男長女以外は皆奴隷として国に捧げるよな?それは皆罪人だからだとお前は思ってるのか?」


 クモに見せてもらったグズリアの国制は思ったよりも悪かった。

[国民は男女共に各1名、長子以外は奴隷として国の物になる。]

[罪人は罪の重さ問わず奴隷となる。]

[孤児または天涯孤独の身の者は奴隷としてこの国に全てを捧げる。]

 奴隷となった時点で人間ではなく奴隷という種族扱い。この国にいる人間の8割が奴隷身分という、国としては破綻しきった事実に俺は絶句していた。


「いや、この国に生まれただけでは罪人ではない。だが長子以外は皆家畜なのだ。皆この国で奴隷になるために生まれたことが事実なのだ。奴隷になるために生まれたのは運命なのだ。だから命になった時点で皆余の物なのだ。」


 吐き気が込み上げた。ここ数百年生きて、幾つもの国を見て、こんなにも意味のわからないことを掲げる国の長など見たことなんかない。

 ここまで何も考えられない入れ物にされたこの国王がただ哀れだった。こいつは自分の中にあることが真実で、これしか知らないのか。


「俺は優しくない…だからお前に全部教えてやる気もない。だが…お前は哀れだな。」


 絞り出すように出せた言葉はそれしかなかった。こいつに恨みを抱いて憎しんだまま死んだやつも星の数ほどいるというのに。恨みを向ける相手がこんなものなら…どこにも、ぶつけられる場所なんてないじゃないか。


「な、なぜ余が哀れなのだ?余は王だ。余は偉いのだ。余のおかげで家畜も生きていられるのだろう?」


 もう俺が言えることは何もないしこいつは俺の聞きたいことは何も持ってない。俺にはコイツの方がよっぽど能のない獣に見えた。


「この国はもう少しで終わる。…お前が1人の人間になれる日が来るといいな。」


 俺にしてはらしく無いことを言ったとは思う。それでもここ数日のサーシャの様子を思うと何か言わずにはいられなかった。何もわからないこいつに何かを言ったところでしょうがないのに。

 酷く困惑したままの王に背を向けて俺は部屋を後にした。


_________________________



「で?一応聞くがこのリスタール国直営の商人手形(本物)はどこで手に入れたんでしょうか?クモさんよ。」


 研究室に篭り始めて三日目。そろそろリスタール経由でのグズリア国に向けて動き出さねばいけないのだがもう少しもう少しとやっているうちに三日が経った。ま、ここの転移陣を使えばかなりの時間短縮になるので数日くらい問題では無いだろう。

 それはさておき、研究の合間に自分達の行動元を話していた結果、一度げっそりした様子でどこかに行っていたクモが持ち帰ったものが商人手形だった。商人手形には国印がありそれは陣と同じ意味合いの持つものの為、これが国を通した本物であることは確かだった。


「あなた様は〜これから〜神子様の〜奴隷印を〜消すために〜グズリアに〜行かれるのでしょう〜?でしたら〜あったほうが〜良いでは無いですかぁ〜」


 さらに気だるげそうな顔でグダグダになりながら答えにならない答えを応える。適当かふざけてんのか真面目なのか真剣なのか。俺にはわかりかねる。


「これは、正式なものということでいいのか?俺らは国公認という立場を振り翳すがそのことに対しての責任は取れるのかお前は。」


 至極真っ当な発言のつもりだったのにこの女は真っ当さの似合わないめんどくさそうな顔で机の上で伸びをする。


「はいはいなんでもいいのですよ〜。全ての責任はこのクモ様が取って差し上げますよ〜。」


 ぶん殴りてー。さすがクモ様ですねと嫌味を投げてみるが何ひとつこの女には届いて居ない。

 ちなみにチョウは全く同じ体勢のまま、ここ2日同じ書物を見ては何かを書き込んで何かを組み立てては発狂してを繰り返している。


「グズリアは元々第三大陸国連邦法違反を犯しておる。その裁きが降る日がそなたら次第になるというだけの話だ。」


 呆れてクモから目を背けた途端にクモの声でいつもとは違う口調がこちらに届く。いきなりのことに驚いて顔を上げるとクモはいつもと変わらない気だるげな格好でのんびりとしていた。

 いつも忘れたくなるがこいつはクモ様だ。この大陸で蜘蛛といえば蜘蛛の森に住む天災級の魔物、[悪夢ノ女王 クイーンナイトメア]。この大陸で女王の名を我がものにできる人間が何人いると思う?

 ただ俺は今だにその事実から目を背けている。それが現実だとしてもこの目の前のボサ髪に全身よれよれのどこか食えない適当女がそれだという事実がマジで見たくないからである。

 机を挟んで反対側、そこで机に寝そべるように上半身を投げ出した状態で書物に目を通しているクモ。

 横ではまた何かに失敗したチョウがンギィ〜ーー!!と叫んでいる。


「なぁ〜ん」


 とりあえず腹が立ったのでボサボサの頭を軽く叩いておいた。意味のわからんうめき声のようなものを漏らしていたが知らん。無視だむし。

俺は手元の資料に再度目を落とした。



_______________________



「あ゛〜ーーーー!!最後のチーム!!」


 何十回人間を送ったかもはや思い出せん。最後に送った転移魔法の魔力の補助をしてくれていた数少ない奴らは屍状態だった。 

 いや、頑張ってくれたよまじで。とりあえず魔力回復アイテムの予備とポーションを渡して安静にしてもらう。

 ちなみにロゼからの連絡はうるさいほどに鳴り響き続けていたが諦めたのか忙しくなったのか途中から静かになった。そりゃこれだけの人数を送り続けたら怒るよな。説教はそっちに行ったら聞くから今はとにかく休憩させてくれ…


 空を見るともう太陽が昇って辺りは明るく光っていた。そんな光が眩しくて目がチカチカする。

 そういえば妙に静かだといつも騒音の元凶の女とサーシャを探すと少し離れた場所の崩れた瓦礫の上でぼんやり腰掛けていた。というかサーシャは不死鳥に包まれるようにもたれかけて寝ている。女は暇そうに地面の石を積み上げて遊んでいる。こっちはもう怒る気力もないというのに。


 最後に補助してくれていたグループを送り終えて残ったのは俺と女とサーシャ。なぜか離れたところで待機状態のネズミのおっさんとその横で意識は戻っているはずだがぼんやり座り込んでいる裏切り者のキツネさんだけである。

 早く俺も帰りたい…が、まだ終わってないんだなこれが…。ため息をつきながら地面に両手両足を投げ出した状態で寝そべる。早くあいつが来てくれと願いながらも少しだけ、と目を瞑った。



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