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破壊神と呼ばれた私は!  作者: 米田いすき
第一章 幼き母と子守唄
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第47話 私にとって彼女は神に等しかった


「時間がないので急ぎになりますが…ほんの少し昔話をさせてくださいませ。あなた様の耳の良さでしたら走りながらでも十分き聞こえますでしょう。ただの独り言と思っていただいて構いませんで。」


 小刻みに足を動かして走るおっちゃんの少し後ろを走っていると独り言が聞こえた。耳がいいのなんで知ってるんだろ。まぁいいか、ただの独り言がたまたま聞こえるくらいなら何の問題もないのでそのまま喋らせといた。




 ほんの30年ほど昔のお話。どの世界にも闇というものはあって、その暗い部分に我と友はいた。国が豊かになればなるほど暗い部分が浮き彫りになって我らは人には言えぬ事をして毎日を生きた。

 仲が良いというわけではなく、友というにはあまりにも稚拙な、ただ生きていくために必要なら力を貸すだけの関係。毎日生きるのも必死な自分達には誰かのためなんて言葉はなかった。

 その時は活動場を変えてリスタールの名門学院の近くを狙っていた。休日になると市場にも学生が来る。そこを狙えばたまに一月食うに困らぬほどの金が手に入ることもあった。もちろん捕まれば貴族相手にやった犯罪、首が飛ぶだけでは済まないだろう。

 それでも何も持っていない自分達に怖いものはなかった。


 その日は我と友は1人の女学生を狙っていた。2人連れの若い小娘。学院生のローブを頭まで被り顔は隠してはいるものの長年悪事に手を染めた我らの目に狂いはない。

 特にローブの隙間から茶色い髪が溢れ出ている方。良い育ちなのはすぐに見て取れていた。

 案の定買い物時に出した小袋には重そうな膨らみがあった。

 合図をして相方が上空に空爆を破裂させる。それに民衆が気を取られている隙にスリをする。それが我らの手口だった。

 今日も狙いを定めて何なくその女学生から小袋を盗み出す。うまくいったとほくそ笑んだ自分の腕を誰かが掴む。その腕の先には茶色のふわふわした髪を一つにまとめたソバカス女の緑の瞳があった。

 まずい、捕まった。どうするべきかと一瞬で回る頭を止めたのはこの目の前の女だった。

「それ銅貨の袋だよ。せめて銀貨持っていったら?」

 そう言って手の中に少し小さいがさらに重い小袋を握らせてきた。ビビりすぎた自分は最初に奪った袋も放り出してがむしゃらに逃げた。待って!という声も無視して走った。

 その後はスリに失敗したことを相方に酷く責められたものの自分はあの緑の目が忘れられなかった。

 

 その変な女との再会は思ったよりも早かった。

「いたぁ!!!やっと見つけた!!!」

またいつも通りに人の往来の最中、空に空爆を仕掛けた途端に声をかけられた。

 ちょっと待ってよ!と言われて待つ奴はいない。声が聞こえた瞬間に足を出していた。何でこの女はすぐに気がつくんだと今回も必死で逃げた。

 もうここでの商売はやめるしかないと一緒に逃げる友にやじられながら思った。

 色々な裏道を経由してやっとの思いで根城に帰ってふぅと息を吐いた途端、真後ろから

「ま、待ってって、い、言ってる、の、にっ」

と途切れ途切れの声を聞いた時は流石に息が止まった。そこにはもちろんあの女がいた。気配に敏感なはずの自分達がここまで気づかなかったことが何より驚きだった。


 後ほど知ったのですが彼女は珍しいことにユニーク魔法持ちだったようでしてね。[悪戯妖精(シルフプランク)]と呼んでいましたがね。その魔法は色んなものを隠せるのだそうです。文字通り妖精の悪戯のように。

 そうして自分の存在を隠した彼女は私達の跡をつけて来たというわけでした。

 その後もしつこく付き纏われ、狩場を変えてもめざとく見つかり、気がつけば我ら2人はあの方のものになっていた。


「それがカナロム国134代目国王、ストレリチア・ロムスタイン様だと知った時は2人で腰を抜かしそうになりましたとも。まさかこんなお転婆な女王様がいるのかと驚きました。ですが妙に納得もしたのです。彼女は誰よりも力強い瞳をお持ちでしたから。」


 彼女は良い王だった。飛び抜けて頭が良いわけではなかったが余りある人望があった。国民を想い、国民のために生きた。

 ご病気になった父王の代わり、若くして王の座についてから数年、幼馴染という貴族の者を婿に取り、4人の子をもうけた。

 そんな彼女の人生を彼女の手先の一部として近くで見れたことが我にとって何よりの喜び。それは友も同じだったでしょう。

 ですがカナロムの葉が落ち始めたことで全て変わってしまった。何が原因か誰1人分かりません。それによりあれだけ慕われていた彼女は対応の初動が遅れたことも相待って、国民からの非難を浴びてしまった。…彼女はその時身重だったのです。

 しかし必死の想いで産み落とした子を国が乱れていたせいか、彼女は国民に公開することなく隠したのです。王という立場でありながらわ誰にも気が付かれることはなく隠すことに成功させたのです。彼女は悪戯が得意でしたからね。


 そこからは思い出したくもないほど悲惨でした。国はグズリアに襲われ、統制が乱れていたこの国はあっという間に制圧されました。国民の多くは殺され、半数が奴隷として持ち帰られました。

 今だに思い出します。男女関係なく、子供も老人も、兵たちの気分一つで切り捨てられていった。国民の目の前でカナロムの木は火を着けられた。国民皆から漏れた悲鳴は何よりも恐ろしい音だった。


 ここから先も少し酷い話になるやもしれません。何年経とうが、我は今でもあの日の事を夢に見るのです。

 …国民を失った王族たちは皆広間に集められました。跪き地に伏した者たちを前に、カナロム国王は問われたのです。

 国王の命一つとその他の王族皆の命、どちらを取るか、と。

 その問いに…国王は自分の命を取りました。己の手で他の者の命を全て終わらせたのです。

 それを身近な臣下だった私たちは無理やりに見せられました。目を伏せる者は刺し斬られ、閉じる瞼を奪われた。

 我らは皆、国王が家族を捨て己の命を取ったことが信じられませんでした。国民以上に彼女は家族を愛していたのを知っていたからです。

 ですが血の涙を流し、血反吐を吐いてまで叫びながらも家族を手にかけていく王を見て、我々はようやく分かったのです。

 彼女はどちらを選ぼうと、皆殺されてしまうことに気がついていたのです。

 ならばいっそ苦しむことなく己の手で終わらせることを選んだのですよ。それがどれだけのモノを背負う決断になるのか考えなくともわかるというのに。


「彼女はそうして地に這いつくばり、玩具として残りの人生を終えたのです。…我が最後にお見かけした彼女には…両足と右腕はなかった。かろうじてあった左手の指も腐り落ち、舌も左目も潰されて…ゴミクズとして捨てられ…我は…一目では彼女に気がつくことが…できませんでした。それでも彼女は生きていた。生き意地が汚いと、グズリアのあの男は罵ったが、我も友も、そんなことは思わなかった。彼女は必死に生きる理由があったのです。」


 この国で友と彼女のことを探し続けていた我は奴隷の処分場で…他の死肉に塗れた彼女を見つけた。それは偶然だった。処分場は良くないものも蔓延している。我も友も例外なく、長くは居られぬ場所。

 そんな中で陽に照らされた彼女の右目が、砕ける寸前で泥に埋もれても輝く宝石のようで…我らはようやく国王の元に戻ることができたのです。

 けれどもう、彼女の命が長くないことくらい誰の目にも明確だった。それでも我らは手当をし、微かにでも水を飲ませ、介抱せずにはいられなかった。例えそれが自己満足だろうと…そうするしかなかった。

 彼女は夜明けを待たずに目を閉じました。やっと苦しみから解放されたのだと、我はただ泣くことしかできなかった。

 彼女はこと切れる寸前、喋ることのできない口で確かに言ったのです。

『あの子が、存在が…見つかってしまう。ごめんなさい。愛してる。』と。

 我らは初め、子が誰のことなのか全く分かりませんでした。国王の子は彼女が自分の手で全て地に帰されておりましたから。

 ですが一年ほど前に彼女を…神子様を見つけてようやく気がついたのです。国王が己の悪戯で隠し続けてきたのはきっと、娘であり神子様なのです。あの茶色の髪も緑の瞳も、まるで国王の生き写しだ。

 どうしてそんな神子様が奴隷などにされているのか我には分からぬのです。けれど、我らには神子様が国王の忘れ形見にしか思えぬのです。


 しかし友は違う意味で喜んでおりました。国王の血筋が残っていたことに、奴は喜んでいたのです。国王を見つけ出し埋葬した今、我らがこの国にいる理由などどこにも残っていなかった。

 なのに友はこの国から出ようとはしなかった。奴は…国王の最後を見てから、妙な宗教に入っておったのです。それは死んだ者を取り戻せるなどと謳う奇妙な宗教。そのためには似た入れ物が必要なのだと。魂を呼び戻すための器を求めているのだと。

 だからこそ奴は神子様の意識が無くなることは肯定的なのです。その後に神子様を奪い返せばいいなどと、…どれほど浅はかで愚かだろうか。

 我が友に何度言い聞かせても奴の目にはあの日の国王しか映ってない。全てを失っても隠し通そうとした国王の忘形見だというのに、何故そんな簡単なことがわからぬのか。

 我らを拾い助けてくださったロゼ様も裏切って奴はとんでもないことをした。それでも奴を止めることができなかった我も同罪に等しいでしょう。


「罪深き我も断罪していただけるのならお願いしたいくらいです。しかし今は神子様が優先…どうか、神子様のことを…オオカミ様?一体どうされ…」


 立ち止まったアサヒは城の壁を睨むように仁王立ちしていた。そしてつんざくような獣の咆哮を上げた後、壁が崩れるほどの拳を城に叩き込んだ。


「許さない!許さない許さない許さない許さない!!!!全部全部、壊してやる!!!!」


 こんなに血肉が煮えたぎる感情を覚えたのは初めてでどうしていいか自分でもわからない。ただ、腹が立ってどうしようもなくて、この怒りが身体の内側から外に弾け出たくて仕方がない。

 アサヒは何も考えられずに拳を振った。意味がない行動だとしても一度溢れ始めたそれを止める手立てがわからない。

 見えない何かに向かって拳を振り始めた時、目線の先、青白い焔が城を包み込むように広がっていた。

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