第42話 今更だけど緊張してきたかも
さてさてさてさーて、マイくん曰くこのメガネのおじさんはキツネさんでロゼちゃんの仲間みたい。マイくんがどこで気がついたのかは全くわかんなかったけど。
んー、信用していい…んだよね?…いや、ロゼちゃんの紹介だしいい人なのは…うーん、壁でのこともあるけど…口で説明しにくい違和感がある。自分のことに自信があるわけじゃないけど勘は当たる方なのがちょっと嫌だ。何もないといいんだけど…
「今から皆様は我がグズリア国王、グルコア様に御目通りいたします。それはとても幸運であり大変名誉なことでございます。ですのであなた様方がそちらの国でどれだけ地位をお持ちでしょうと粗相の無いようお願いいたします。」
ちょっと棒読みだったけどそれだけ言ってリンデルさんは車を降りて行った。なんか準備することがあるんだってさ。3人になってようやくほんの少しだけ気が抜けた。
今から王様の所に行くのかー。…えっ、王様⁈今から王様と会うの?この最悪な国を作った王様に?やばいちょっと殴っちゃうかも。
「お前…なんで構えてんだよ…」
思わずファイティングポーズを取ってた私にマイ君の引き攣った顔がこちらを見る。ち、違うよ!殴ったりしないから!!
慌てて腕を下ろして取り繕ったけど完全に疑いの眼差し。うぇーん、まだ何もやらかしてないのにぃ〜。
悲しいのでサーシャちゃんを包み込むようになでなでした。はぁ〜、癒しだ〜。マイ君も子供姿になってさえくれたら癒しの塊なのにな〜。
「おねぇさん…」
腕の中からまんまるな目がこちらを伺うようにみてくる。ん〜?サーシャちゃんどうしたの?
「あ、あのね、その…もうちょっとだけ…ぎゅって…してて…欲しい…です…」
最後は本当に掠れるような声だったけど耳が良くて良かったと心の底から思ったね。
もっちろぉ〜ん!いっくらでもこうしててあげるに決まってる!!
細心の注意を払って絶対に抱き潰さないようにぎゅぅ〜っとする。心配だよね、怖いよね。変わってあげられたらいいのに、とは思うけどどうにもならないことは沢山あるから。だから私は目一杯サーシャちゃんの要望を叶えてあげたい。
「絶対大丈夫だからね!マイ君も私もいるし、何があってもおねぇさんが全部殴ってあげるから!」
自信満々に元気づけたつもりだったんだけど、殴らなくてもいいよ…?ってサーシャちゃんにやんわり断られた…あっれぇ〜?
にしてもさっきから車の窓越しに見え始めてたこれがお城とはね。大きな建物だなァ〜、とは思ってたんだよ?
いやぁ、見た目はリスタールみたいな西洋風なお城じゃなくて…ただの洋風の家がそのまま大きくなったみたいな?縦長のおうちに茶色い鱗みたいな屋根。全体的に茶色だからか落ち着いた雰囲気。ここが王城なのかぁ…
しみじみと観察するけどやっぱりお城には見えないかもしれない。私が知ってるお城のイメージが子供の時に見た絵本の中のものしかないからかもしれないけど。
…ん?あれ?なんかお城を見れば見るほどにジワジワと得体の知れない違和感が身体の芯を這い上がってくる。身体の奥底の見えない何かから危険を知らせる警告音が鳴り響く。
違う、何か…私達は何か間違えてる。
「…ね、ねぇ…マイ君。」
「何だ?」
キョトンとしたマイ君の顔。気のせいなんかじゃない。やっぱり何かがおかしい。マイ君のその顔を見て背中が冷たくなっていく。
だって、今から相手のところに行くんだよ?なのに、そんな時に、マイ君がそんな気の抜けた顔なんてするはずがない。
「ねぇ、マイ君…おかしいよ。ここ、本当にお城?ここに本当に王様いるの?」
はぁ?と口では答えたマイ君なのにそれ以上の言葉はなかった。
「マイ君、あの…いつものマイ君ならもっと警戒するし、もっと慎重にやるよね。さっきから…気が抜けてる?というか、何かマイ君らしくない…と思う。」
そこまで聞いたマイ君が目を開いてバッと顔を上げた。
「思考妨害魔法…がっ⁈まずい!」
マイ君が慌てるように車の扉に手をかけた途端にプシューッと白い霧のようなものが狭い車内いっぱいに満たされていく。
私も咄嗟に扉に手をかけたのに顔のすぐ真横から煙が出てきていておもいっきり吸い込んでしまった。
ヤバい、一瞬で頭がグラグラと揺れて膝から崩れ落ちる。意識を失っちゃいけないと思うのに体が重くて動けない。
「クッ…ソが…」
その言葉を聞いたのを最後に、私達は無理やり夢の世界に落ちていった。
ハッッ!と目を覚ましてその勢いのまま身体を起こすとガシャァン!と鉄のような何かが崩れる音が聞こえた。
引っ張られた手首を見ると鎖だったものが砕けて、ただの鉄屑になっている。それが手枷だと気がつくと同時に低くしゃがんで身構える。
取り囲む響めきと人の気配に目を配れ。頭がボワボワしてまだ変な感じがするけどそんなの気にしてられない。あの後眠らされてそのまま捕まったのか。
周りにはローブみたいな丈の長い不思議な服を着てる人が六人。男四人と女二人、年齢もかなりバラバラで一貫性がなさそうだ。
私達の手足には鎖のような枷がはめられていて、それは寝かされていた石畳のような机に繋げられている。自分の枷は起きた時の反動で砕けてるけど。
ここはどこなのか。薄暗く狭いカビ臭い部屋。まるで地下牢があるならきっとこんな場所なんだろうと思う。
何も分からないけど視界の中に同じ状況で寝かされているマイ君が見えてとりあえず安堵した。大人の姿のままだし、正体が子供だってバレてなくて良かった…あ゛ぁ゛⁈
よく見ると寝たままのマイ君の1番近くにいる二人はマイ君の首元を触っている所だったのか。
それが目に入って脳に届くと同時に、激しく熱い何かが全身に廻った。
「マイ君に触るな!!!!」
熱が身体を巡る勢いのままにマイ君を抑えていた男二人に拳を叩き込む。マイ君から引き剥がすことに成功したのでそのまま邪魔な鎖も叩き割って出来る限り距離を取る。
良かった、見た感じではまだ何もされてないみたい。つるりとした何もない首元を確認して少し安心した。
片手でマイ君を守るように抱えながら、私に向かって短い棒を向けたコイツらに吠えかける。
「動くなっ!!!動けばお前ら全員殴る!!!!!!」
その声が響き渡ると静寂が岩造りの狭い部屋に広がった。自分の口から薄く溢れる呼吸が熱く感じる。
ああ、そうか。これは怒りか。腹の底からの怒りがおさまらないんだ。
マイ君は私がこんなに叫んだのにそれでも眠ってるし、サーシャちゃんはどこにもいない。どんなに気を張っても気配すら感じられない。
なんで、どこに…キツネか、あいつがやったのか。許さない。絶対、絶対に見つけ出してやる。
この国も気持ち悪い、この世界も気持ちが悪い。もう何もかもわからない。許さない、許せない!!!!
遠い世界から鏡越しに自分を見てるようで感情も言動もコントロールができない。目の前にいるはずの人間達がカタカタと小さく震えながら目を大きく見開いていく。それが何故かスローモーションのように時間をかけてゆっくりと流れていた。
「サーシャちゃんはどこだぁぁぁああああ!!」
ジリジリと後退りしていた奴らに向けて咆哮とも呼べる叫びをぶつける。どうして誰も答えてくれないの。
身体の真横の壁に感情のまま拳を叩き込む。足元の石も崩れたのを感じたのでかなり広範囲が抉れたのかもしれない。そんなのどうでもいい。全部壊れるまで殴ってやる。
そんな私を見てようやく真っ青な顔のまま初老の男が首を横に振る。
「知らないなら、あなた達に用はない。」
マイ君を右腕で抱えて立ち上がる。大人の男性なので抱え方が肩に大きい荷物を背負うみたいな扱いになってしまう。申し訳ないけどこうしないと安定しないので許して欲しい。
「どいて。」
何か反撃を考えているのか構えみたいなのをとっている男女に低く呟く。女一人はさっきの合間にどこか走って行ったけどもうどうでも良い。
「どけっ!!!!」
それだけ叫んで拳で壁を叩き割る。退かないなら自分で道を作るだけだ。
「許さない、全員許さないから。」
それだけ吐き捨てて私は石造りの道を走った。今はサーシャちゃんを見つけることが先決だ。マイ君も心配だし、何より易々とサーシャちゃんを手放してしまったことが悔しくて、守るって言ったのに…私は…
行き場のない怒りをそこら中に当たり散らしながら私はひたすら出口に向かって走った。




