第34話 大きい国だ〜!いぇーい!!!
[我身は大地だ そして大地とは民だ
民が国となり 国が我身となる
民なくしては国とは呼べぬし
人無くしては大地と呼べぬだろう
大地無くしては人は王にはなれぬのだ
我らは大地と共に生くるべく
これを信念とし我が国リスタールとする
リスタール国書 見開きにて
初代国王 ダルトナ・リスタール著 ]
んー、初めて人が沢山いる所に来て少し浮かれてたことは認めるよ?認めるけどね…
道端の隅、四角い岩の上に腰掛けて大きなため息をつく。目の前を行き交う疎な人々は私のことは見えてないみたい。
そうだよね、今の私なんて道端の石っころとおんなじ。いてもいなくても一緒なんだ。
はぁ…
こ こ ど こ
少し前〜
マイ君に連れられて狭い魔法陣の部屋から出て、暗い石の道を抜けて、外に出るとさっきまでとは全然違う世界が広がっていた。
自分達が出てきた建物を振り返るとヨーロッパ風の古い見上げるようなおしゃれなお城だった。
テンション上がったよね。いや〜すっごいオシャレ。私が騒ぎすぎたのかおぶってたサーシャちゃんも起きて来て一緒に感動した。夕日の似合いそうなノストラジック!!
なんか至る所が崩れて穴が開いたり欠けたりしてるのは目についちゃうけど。
…そういえば数年前まで戦争…内乱?してたんだっけ。こんな感じで爪痕が残ってんのか…って思うとちょこっと複雑。終わったことでもやっぱ悲しいことだね。
ハッとして前を見るとマイ君がそこらにあった石に座って呆れてた。気ぃ済んだかーって、すいませんでした。気はすみました。
旧城の周りは思ったより寂れた雰囲気であんまり人がいない。石造の建物も欠けてたり人が住んでなかったり、まだまだ復興中なのかも。
「ここらは中心街から外れてるし戦火の中だった場所だ。これでもかなり早い復興だぞ。」
へ〜、あんなにオシャレなお城があるのに街中とかじゃないんだ。ちょこっと勿体無いと思うのは日本人精神?
しばらく歩いていると少しずつ人も建物も増えてザワザワと活気を感じる。ずっと人の少ない場所にいたから久しぶりの人混みは耳も鼻も痛くなりそう。
右手にいたサーシャちゃんも不安そうにしがみ付いてきた。大丈夫!マイ君いるし!
狭い建物の隙間を何本か通って抜けると広けた場所に出た。眩しくて思わず目を細めてしまう。広い道はいろんなお店が並んでて明るくてカラフルで綺麗で賑やかで…すっごい、楽しそう!!!!
そんな私の気配にいち早く気がついたマイ君が私の空いてた左手首を掴んで引きずっていかれた。あああぁ…
そしてそのまま見渡す限りでは一番大きい宿っぽい建物に引き摺られていった。…どんなお店があるのか見たかったな〜
宿のお部屋はロゼちゃんのとこで借りてたのに似てるけどベッドは大きなのが一つだけ。
え、待って、子供マイくんとサーシャちゃんと挟まれて寝れるの?!やばい変な顔してたかも。マイ君が丸めた紙みたいな顔してた。
「ほれ。」
そのまま荷物を置いて部屋で何かするのかな〜って見てたらマイ君に手のひらサイズの袋を渡された。なにこれ?
「それで好きなことしてこい。」
??????????
中身を見るとメダルみたいなものがジャラジャラ音をたてる。
「金やるから外で遊んでこい。」
やれやれといった感じでサーシャちゃんを手招きする。私のことは放置。えっ、ま、まさか…
「ひとりで…?」
「俺とサーシャはやることがある。」
えー!!やだやだやだ!一人でお出かけとかできない!無理!初めての街だよ⁈⁈ほら!サーシャちゃんも寂しそうな顔してるよ!!
必死にマイ君の周りで無理ですアピールをしているのに完全に無視のまま何かのメモを読んでいる。サーシャちゃんは心配そうに私を見てくれていると言うのに!!!
「う る せ ぇ 。お前ならどんな奴がいても倒せるだろ。大騒ぎ起こさなきゃ何でもいいからさっさと行け。」
それだけ言い捨てて気がつけば部屋の扉を音を立てて閉められる。もしかして蹴り出された⁈ひっどぉーい!!!
しくしくうじうじと扉に縋ってみるけど何の効果もなさそうで渋々諦めることにする。だってこれ以上縋ったら扉壊しそうだったんだもん。
とりあえず渡された袋の中を見ると銀色で鳥さんの絵柄が書いてあるメダルが20枚ほど。
えーっと確かこの国、というかここらの大陸のお金は大金貨、小金貨、大銀貨、小銀貨、大銅貨、小銅貨の6種類で…これは多分…大銀貨?銀色だから銀貨ではあるんだろうけど、んー、確か鳥さんの絵柄が大銀貨で羽の絵柄が小銀貨だったはず?
まぁなんか適当にぶらぶらすればいっか…はぁ…人混み苦手なんだけどなぁ…
そしてそのまま寂しくブラブラしてみた結果が冒頭。さっきまでの明るい雰囲気のお店達はどこへやら。薄暗いし凄い怪しい雰囲気が漂ってる場所になってしまった。
さっきから変な人達に絡まれては走って逃げてるからこんな場所に来ちゃったんだ…はぁ…これ帰れるかなぁ…
上を見上げれば家の隙間から遠くの空が見えた。綺麗な青だな〜…
自分の中で時が止まる。今、どこかで女の人の悲鳴が聞こえた気がした。小さい声だったけど…多分こっち。
更に奥まった道の先に進む。もう迷子になってるからこれ以上迷ったって同じだよね〜。
何度か曲がり角を進んだ先。女性の上に男が二人覆い被さってるのが見えた。え?これまずいやつ⁈
勢い良く地面を蹴る。狭い通路で周りを壊さないように気をつけたからそんなに凄いスピードじゃなかったけど、それでも中々に速かったみたい。
男の人がこっちに気がついて反応して来る前にまず一人目の頭を殴る。手加減したから死んではないはず。
そのまま驚いた顔のもう一人も鳩尾辺りを殴って倒す。うわ、最初に殴った方の人、ちょっと見たくない下半身のものが出てる。
見えないようにつま先で押して端っこの方に寄せておこう。おぇ…かなり気分が萎えたかも…
あ、そんな事してたら女の人忘れてた!慌てて地面に座ったままの女の人を見る。ぽかっと口を開けたままこっちを見てる。あの…前、開いてるけど…隠したら?
でも怪我はなさそうで良かった。大丈夫?
「も、もしかして…助けようとしてくれた感じ?」
ようやく前を隠してくれた女の人。ん?何か不機嫌に見えるのは気のせいですか?
眉を顰めながら服の乱れを直していく。あ、その表情は…なんか私、間違えちゃったのでしょうか?
「…もしかして…彼氏さんとか…でした?」
「彼氏なわけねーだろこんなゴミ共。客だよ客。ったく、折角の収入だったっつーのに。」
うわ、や、やばい。怒ってる。イライラを隠す気もないのか乱暴に自分の長い髪の毛を手櫛で纏めている。
「ご、ごめんなさい。あなたの…オキャクサン?殴っちゃった…」
もしかしてお客さんとか収入とかってことはお仕事邪魔しちゃったかんじ…?えっと、何だっけ…ソンガイバイショウ?とかで許してくれるかな。助けてマイくん〜…
ちょっと泣きそうになってたところでこの女の人、オキャクサンだった人を蹴った。…え?いいの???
「いいよ別に。あんた助けようとしてくれたんっしょ。まぁ感謝しとく。いい迷惑だったけど。」
…うぇえ…キッパリ言われると普通に傷つく。本当にわざとじゃないんです…ごめんなさい…
「ま、最初は襲われてたのは本当だし、ヤルなら金払えつったら払うつったからヤらせてただけだし。どうせこいつらあんま払う気なかっただろーしいーよ。」
淡々と知りたくないタイプの事情を話されてどうするべきか、とりあえず愛想笑いしとこう。
なんか、ちょっとヤバい人だったかもしれない。私の知ってる世界と違いすぎて何を言っていいか分からない。だって、い、今…や、や、やらせてって…えっ…うぇぁ…
「なに?アンタそんなにアタシに謝りたいわけ?あ、それともアンタがアタシを買ってくれんの?」
ちっ、近い〜、ぐいぐい来るこの人〜。私何も言ってないし返事の代わりに愛想笑いしただけなのにぐいぐい来る〜。
あ、お詫びに私がお金払えばいいのか。
「買う!お姉さん買う!」
あれ、お姉さんが黙っちゃった。
「…あんたルルなの?」
…え?るる?
「知んないの?女同士でヤることだけど。」
ふぇっ⁈お、女、や、やる…って…その…
「セックス。男同士はララね。」
せっ、んなっあ、んなぁ
「アンタが買うって言ったくせになにそんな赤くなってんの⁈まじ意味分かんないんだけど⁈」
顔が熱くなりすぎて頭が茹で上がる気がする。だ、だって〜…そ、そんなこと言われても…そ、そういうこととか、ほ、保健体育でしか知らないし?私一応未成年ですのでそういう、その…んぁぁぁあこういう話題苦手なんだってばぁぁぉあ!!!
「…ホケンタイク?つかあんたさぁ、そんなウブとかやめてっての!こっちが恥ずかしくなって来るじゃん!」
ご、ごめんなさい…何で私初めて会った人に謝る羽目になってるんだろう…
この人あれだよね。教室の端で屯してた金髪ギラギラの女の子達とおんなじタイプ。正直な話、関わりたくないかも…
「と に か く !アタシのこと買うんでしょ?やらないんなら買って何する気だったわけ?」
え、いや、買わなくていいなら買わないですけど。な、何する気って言ってもお詫びの気持ちだったし…えーっと…
「み、道案内?してほしい…とか?…その…私、今…迷子で…」
「娼婦買って道案内させる奴がどこにいんのよ!!!!」
ふぇぇ…ここに居ます…。大きい声で話さないでよぉ…お姉さんの圧が怖いです…
おっしゃる通りなんですけど他にやってもらうことがないんです…
「え、えっと…じゃ、じゃぁ…一緒に遊ぶ、とか?」
どうせ宿にはまだ戻れないし、お姉さんのこと買ってしまったんなら何かしないとだろうし。あ、もちろん返品可能なら全然返品いたしますので無理にとは言いませんので…
「やっぱヤるわけ?」
「チーがーうーーー!!」
遊びに誘ったこと、既にちょっと後悔。
「何にせよアタシを買うなら半分は前払いだよ。あんたカネ持ってんの?」
もうクーリングオフ不可能かな。とりあえず袋の中から銀貨を一枚取り出して渡す。渡したいのに何故かお姉さんが受け取らずに止まっちゃった。お金を差し出したこの手はどうすれば…?
「あ、アンタばっかじゃないの⁈娼婦買うなら銅貨だよ⁈大銀貨渡すバカがどこにいんのよ⁈ばっか!」
うわぁ…また大声だぁ…お姉さん恐怖症になりそう。そんなバカはここにいるんです…。だってこれしかお金持ってないんです。
「アンタもしかして良いとこのボンボンか何か?世間知らずすぎっしょ。あーもう!アタシと遊ぶってあんたが言い出したんじゃない!ならさっさと銅貨に換金しにくよ。銀貨なんかじゃ簡単に買い食いもできやしないじゃない。」
わっ!腕を掴まれて強引に引き摺られる。見知らぬ人に怪我をさせられないので抵抗できずに着いていくしかない。
通りざまに今だに道端で伸びている男二人に蹴りを入れていたのは見なかった事にした。
「アンタ名前は?」
「アサヒ…です。」
「ふぅん、アタシはユエ。よろしく。」
こっちを見ることなくユエさんは前をツカツカと歩いていく。目の前では肩に広がるウェーブのかかった茶色い髪が一歩出すたびふわふわ揺れる。
私これ、ちゃんと宿に帰れるのかなぁ。
なんとなく建物の隙間から広がる空を見た。あぁ…綺麗な青だなぁ…




