第32話 また胡散臭い女が増えたな
さてさてさ〜て。流石にちょっと疲れちゃったかも。積み上がった土?元岩?元石?の上で一息つく。
そろそろ陽が落ちて空は赤く染まってきたな〜。この場所、崖に囲まれてるから陽が落ちるのが早いんだな〜って今更に気がつく。
2回ほど気持ちの悪い動物を倒した以外は止まらずに掘り続けていたから無事に穴掘りは終了してる。
何故か引き攣った顔の犬くんと小さな可愛い子供達に土運びは手伝ってもらえたので私は穴掘りだけに集中できたよ!
今は掘り終わった洞窟に入ったり出たりして何人かの子供達が遊んでいる。可愛いな〜。
「もう終わったのですか?」
鈴の鳴るような綺麗な声が聞こえたので振り返るとやっぱりロゼちゃんがいた。その後ろには、
「サーシャちゃん!起きたの?身体大丈夫?」
コクンと小さく頷いたサーシャちゃんがトコトコ私のとこに来てちょこんと座った。可愛いな〜。なにもわかんない場所で一人は心細かったよね。ごめんね〜。
ん?ロゼちゃんの後ろにいた女の子がにっこり小さく手を振って来た道を走って行った。それに対してサーシャちゃんも小さく振り返す。
もしかしてお友達ができたの?!え〜嬉しい〜!やっぱおんなじ年頃のお友達が欲しいよね。
「あれ?そういえばマイくんはどうしたの?ロゼちゃんと一緒にいたよね?」
変な事を聞いたつもりは無いのに何故かロゼちゃんが少しゲンナリした顔になった。
「専用の魔道具が欲しいと言われたので得意な者を紹介したのですが…妙に気が合ってしまったのでしょう。ずっとお話ししてらっしゃるので置いて来ましたわ。」
へ〜、口数が少ない方のマイくんが何時間も話し続けるなんて珍しいなぁ。マイくんにもお友達ができたのかな?
…ん?あれ…おかしいな。サーシャちゃんと同じで嬉しいんだけど…なんかこう…何だろう…息が詰まるみたいな気がする?
よくわからない初めての感覚に頭を捻っていると袖を引っ張る感覚があった。
下を見ればサーシャちゃんの丸い新緑の目がこっちを見ていた。
「お姉さんどうしたの?疲れちゃった?」
おっと、心配させちゃったかな。頭をなでなでしといた。お姉さんはいつも元気だぞ!
「これだけ働いて元気なのもいかがなものかしらね…」
なんかロゼちゃん遠いところを見てる。大丈夫?
何故か大きいため息吐かれた。ロゼちゃんってなんだかマイくんに似てるね〜。
「とにかくお疲れ様です。お腹も空いてるでしょう?マイラスにあなた用の食事を預かっていますわ。よければ私も相伴に預かってもいいかしら?」
思ってもなかった申し出に飛び跳ねたくなる。ロゼちゃんとお喋りしながらご飯って事だよね?嬉しいかも!お腹もぺこぺこだし早速ご飯ご飯♪
意気揚々と宿に戻れば昨日とか朝より食堂の人混みが少ない気がした。
「今日はマーテル様が買い出しに行ってらっしゃるので配膳担当の子供達も調理担当に移ってるんですわ。いつもはメモをもらって他の者が買い出しに行くのですが、今日はどうしても自分の目で見たいとおっしゃって。…マーテル様も毎日働いて、子供達みんなの母代わりになって。少しは休んでいただきたいのに…」
あの元気でハツラツな人か。確かに食堂のおばちゃん!って感じの人で不思議な圧があった。私も何だか勝てる気がしないや。
「ねぇ、…ここの子供達も、大人も、みんな一人ぼっち?」
思わず口から出てしまった言葉に私の手を握るサーシャちゃんの力が少し強くなった気がした。
サーシャちゃんの前では聞かないほうがよかったかもしれない。私のせいで不安にさせたらごめんねの意味で頭を撫でる。大丈夫、私がいるよ。
「私達がいますわ。」
私の思った言葉とシンクロするように声が聞こえて少しびっくりした。心の声が漏れてたのかと思ったよ。
「血のつながった家族は残っておらず、家も国も何もかも失った者ばかり。それでも私達がいますわ。あの子達は寂しい思いも、辛い思いも、これ以上はさせません。私が必ず守って見せます。」
前を歩いているせいで顔は見えないけれど、キッパリと、確かに力強く、ロゼちゃんは言い切った。
「…何かおかしいですか?」
あ、ちょっとにやけてしまってたみたい。振り向いたロゼちゃんに見られないように慌ててほっぺたをグニグニ撫でて表情を戻す。
「あ、ごめんね、その笑ったんじゃなくてね、何だか…ロゼちゃん、マイくんに似てるな〜と思って?」
怪訝だった顔が更に歪んだ。もしかして嫌がってる?そ、そんな顔にならなくても。
「一応聞きますが…具体的にどこが似ているのでしょうか。」
えー…具体的とか言われてもなぁ…こういうのっていざ言葉にすると難しいんだけど…
「…えっと…優しいのに素直じゃ無いところ?」
今度はサーシャちゃんまで少し微妙そうな顔をする。えっなんで?
「…一応聞きますが、あなたあの男に騙されたり脅されてはいませんわよね?」
えっ?確かに口は荒いし意地悪だしほんのちょっとだけ捻くれてるけど結構優しいよ?
そこまで聞いたロゼちゃんに何故か両肩を持って強く揺さぶられた。
「いいですわね?あの男に何かされたらすぐに私に言いなさい。必ず蹴り倒しに行ってあげますわ。」
ほら、やっぱりロゼちゃんも凄く優しい。
「私も何かあったらロゼちゃん助けに来るね!!」
何故かロゼちゃんに凄く大きなため息を吐かれました。しかもサーシャちゃんにまで手を握られて複雑そうな目をこちらに向けられてる。何で〜?
あれから出発の予定が伸びて三日目。なかなかマイ君が帰ってこないから仕方ないよね。
サーシャちゃんは早く先に進みたいのかソワソワしてたけど予定より早い移動手段が見つかったとかマイ君に言われたみたいで少し安心してた。
私はこの3日間はロゼちゃんとか、ネコちゃんとか、最近慣れて話しかけてくれるようになったここの人達に頼まれるままに大きな岩をどかしたり、木を抜いたり、穴を掘ったり…
一回イヌ君とネコちゃんの二人と手合わせみたいなこともしたよ!いや〜二人ともなかなか強いね〜。何度転がしてもかかってくるし。
間違えて振り被った手が思い切りイヌ君の顔面に当たった時は肝が冷えたけど、すぐに起き上がって向かってきたもん。顔面鼻血塗れで引いたけど。
とにかくすっごい楽しかった!3時間くらいはぶっ通しでやったんじゃ無いかな?終わった後は二人とも寝っ転がって起きてこなくなっちゃったけどね。
その後何だかロゼちゃんも動きたいって言い出したんだよね。喜んで受けたらその前にって少し町外れまで移動させられた。イヌ君とネコちゃんが周りで見てた人たちを少し遠くに離してから手合わせ再開。
なんでそんなことしてるのかよく分からなかったけどすぐに分かった。ロゼちゃん凄い動く。しかも私も本気出さないといけないくらいの速さで驚いた。
ひとつひとつの当たりは軽いけど視線から簡単に外れるからフェイントに引っかかるし、それを踏まえた上でかなり素早い。私も今まで生きてきた中で一番速く動いたかもしれない。
最後は地面に倒れ落ちたロゼちゃんの顔の横に手を当ててフィニッシュ。ロゼちゃんはにこやかに参りましたわ、と言ってたけど周りが静か。
ロゼちゃん助けおこしながら周りをみたら、ギャラリー全員が生気のない顔で驚いてた。「初めて見た…」って呟きも聞こえたけど何事なんだろう。
後で聞いたんだけど、実はロゼちゃん、昔は数多くの戦場に出ては戦いを終わらせるくらいの何かをしたみたいで[戦場の機械人形]って呼ばれてたんだって。凄いカッコいい!!って言ったら犬くんに苦い顔された。カッコよくない?
そういえばあの後も洞窟を掘ってたんだけど何故かひとつだけ広く大きく掘らされたのがあったんだよね。
マイ君に何に使うの?って聞こうと思ってたんだけど気がついたらあの蜘蛛の胴体を骨組みにした小屋みたいなのが置かれてた。
それが結構いい感じでシンプルだけどオシャレで割と広いし居心地も中々。洞窟だからもともと暗いのに更にカーテンで中に光が入らないようにしていて、真ん中には大きな赤い石が吊るしてある。多分あの蜘蛛から奪った目の一つなんだけどあれ魔石だったみたい。
そして地面に広げられたカーペットくらい大きい布には魔法陣が描かれてる。ちょっとカッコイイし何だかワクワクしちゃうかも。結局ここは何に使うんだろうね。
空に広がっていた蜘蛛の糸も半分はフェルト状の布にして色々ここの人たちに加工してもらうみたい。残り半分はマイ君回収してたけどまた何かに使うのかもね。
そんな感じで三日間は楽しく終わった。結構居心地良かったのでちょっと寂しいかもしれない。
また眠ってしまったサーシャちゃんを抱えつつ旅の準備を終える。サーシャちゃんが仲良くなった女の子、カナエちゃんは最後挨拶ができなくて残念そうだったけどマイ君はまた会えるさ、って邪悪な笑顔を浮かべてた。私がいくらでも連れてきてあげるから安心してね!
「まだ出てないね!良かった良かった!」
荷物を抱えたあたりで勢いよく部屋の扉が開く。マーテルさんだ。買い出しからようやく戻ってきたんだね。
「ほらこれ!何かあったら食べな!元気が出るさね!」
手の中に置かれた油紙の包みの中には黒っぽい乾燥した木の実?ぱっと見た感じは大きいレーズン。あれだ、プラムみたい。
「あんた達が食べ物沢山くれたおかげで子供らにも笑顔が増えたさ。感謝してもしきれないよ!ありがとね!」
ニコニコと眩しい笑顔でバシバシと肩を叩いてくる。うわあ、凄く力が強い。流石みんなのお母さん。
「そんじゃあ気をつけてお行き!」
お礼とか何か言おうとする前に被せるように喋ってそのまま勢いよく出ていった。台風みたいな人だったなぁ。私もマイ君も一言も喋れなかった。強い…。
「貴方達、準備はできました…何をぼんやりしてらっしゃるの?」
ロゼちゃんが部屋に入ってきて私もマイ君もようやく動けるようになった。いけないいけない、しっかりしなきゃね。さあ出発だ!




