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破壊神と呼ばれた私は!  作者: 米田いすき
第一章 幼き母と子守唄
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第31話 穴掘り楽しい〜!


「ここですわ。」


 何度か曲がり角を過ぎた先の行き止まり。ここが目的地らしいが見た目はそこらの壁と変わらない岩壁。

 いや、上手く馴染ませてはいるが魔法陣が練り込まれているな。ここまで転移してきた魔法陣と製作者は同じなのだろう。構造が全て似通っている。


「貴方なら開けられるでしょう?」


 じっくりと見ていた俺を試すようにロゼが問う。そりゃ俺程度にかかれば簡単ですよ、お嬢様。


 壁の真ん中に立ち両手を前に出す。壁に触れた手の平から全体に馴染むように魔力を注ぐ。それに併せて青白い光が壁一面の陣を浮かび上がらせた。

 そのまま全体に均等に魔力が広がったあたりで魔力を右回りに流す。案の定カチリと陣が回って壁だった場所は通路に変わった。


「お見事ね。」


 手を叩いて優雅な褒め言葉をいただく。はいはい、光栄な事で。


「さ、行くわよ。」


へいへい、俺はただの駒です。


 後ろの入り口が消えて暗い通路を進むと突き当たりにごく普通の木でできたありふれたドアがあった。岩壁の暗闇の通路の先にある木のドアはなんとも違和感しかない。

 そこをロゼは3回ノックした。が、何もない。少ししてもう3回ノック。更に強めに3回ノック。ロゼが無言で足を構えたあたりでバタバタと物音と擬音がして弾くように扉が開いた。


「も、もももももも申し訳ございましぇん。」


 転がり出てきた誰かが足元で這いつくばるように土下座している。クルクルと濃い茶色の髪の毛が四方に跳ね、シワになった服を見るに寝ていたのかもしれない。


「遅い。私がノックしたら3回で出なさい。」


 そんな彼女の様子に構う事なくロゼが扉の中に入っていく。いつものことなのかもしれない。


「で、でも、わ、ワタシがすぐ、出ないからって…と、扉、を蹴り破るのは、や、やめてくださ、い。」


 下から伺うようにロゼを見ている姿がなんとなく腹が立つ。隈の濃い目元にそばかす、吃る口調は普段からあまり人と会話をしてないのかもしれない。

 そんな辺りでようやく俺と目があった。ギョエーだかグエーだかよく分からない奇声をあげて後ろに飛び退く。壁に積んであったガラクタ達がハデな音を立てて散らばった。


「お、お、おおおおお男、が、あ、な、ひぃえええ。」


 汚いものを見たように目元を隠す。なんなんだこいつ。俺の周りには変なやつしか集まらないのか。


「連れがいると昨日言っておいたでしょう。また話半分にしか聞いてなかったのね。」


 足元に転がってきたガラクタを拾いつつロゼが女に手を貸して起こす。そのまま何故か女の頭に付いていたゴーグルのようなものを目に装着させた。

 途端にシャキッと背筋が伸びて、今までのおどおどした女が消えた。


「ウチのものが見苦しいところを見せた。詫びを入れよう。どうか受け入れてくれ。」


 いきなり性格が変わるのやめろ。そんな簡単に受け入れられるわけねぇだろが。俺はまだ理解が追いついてねぇよ。


「カマキリ、チョウに話があるの。話ができるようになるまで他の子達に宥めささせといて。」


 うむ、承知した。とハキハキと受け答えしている。他の子、と言うのはどこかにまだ人がいるのだろうか。


「一応先に紹介しておくわね。カマキリ、こちらはマイラス。昨日連絡したのだけどあなたは聞いていたかしら。マイラス、こちらはカマキリ。最初に出てきていたビビりなのがチョウ。他にも何人かいるみたいだけど主に出て来るのはこの2人だから他は覚えなくていいわ。」


 へぇ、これは多重人格ってやつか。人格がこうホイホイ入れ替わるのは初めて見たな。少々興味深い。


「…で、カマキリ、何故あなたはここを通してくれないのかしら?」


 自己紹介も終わったというのに何故か道を通せんぼするようにカマキリは動く気配が無かった。


「いや、その、姫様…。もう少々、お待ちいただけると…自分は嬉しいのだが。」


 ゴーグル越しからでもわかるほど何か困った顔をしているらしい。部屋の奥にチラリと目を向けた様子に何か察したのかロゼがカマキリに微笑む。

 その瞬間ロゼが右にフェイントをかけてから素早く左に身体を切り、すり抜けるように道を突っ切っていった。


 ああ、と小さな悲鳴がカマキリから漏れていたが俺も気にせずにロゼの後をついていく。


 通路を抜けた先でロゼの大声…怒号?が聴こえてくる。奥の部屋に俺も急いで入るともう一人女がいた。


「貴方という人はまたここに来たのですか⁈」


 ロゼの言葉に耳を塞ぎながらすごく嫌そうに顔を歪めている。

 長いボサボサのブロンドを適当に後ろで一つにまとめて、白い長いコートのような上着を羽織っている。

 何日もここにいるのか服も顔も手も所々が煤けたように汚れていた。


「だってぇ〜書類書類で飽きたんですよ〜。ここに来ないと〜好きなことも〜何ひとつできないどころか〜ずぅ〜っと、かたぁ〜い場所に〜缶詰で〜。」


 妙に語尾を伸ばす喋り方で話す奴だと思って居たら「かたぁ〜い」の辺りで手元の瓶に手を伸ばして何かの続きをやり始めようとした。その手はロゼにはたき落とされていたが。


「ここに来ていいのは、仕事を片付けた時のみ!5日に一回と約束したでしょう!!!それに長くても半日で帰りなさいと あ れ ほ ど !!!」


 ガックンガックン襟首を掴んで揺さぶりながら怒っている。こういう感じのロゼは初めて見たのでじっくり観察しとこう。

 そんな俺の視線にようやく気がついたのか一瞬止まって手を離してから小さく咳払いをした。いや、もう見たし。


「それで〜?そちらの方はどなたですか〜?」


 ボッサボサの髪をさらに乱れさせてヘラヘラ笑いながら机にへにょんと崩れ落ちている。威厳もなんも無い奴だな。

 それに対してはぁ、と溜息をつきながらロゼが近くの椅子に座る。コイツも何か諦めているのかもしれない。


「昨日チョウに言ったはずなのだけれどね…」


 お、ロゼの目が死んでいる。ロゼにこんな顔させられるとはこの女、侮れないかもしれない。ただのアホの可能性もあるが。


「こちらマイラス。訳あって互助関係になったというところね。古い馴染みだし一応信頼はできる相手だと思っていいわ。そしてこんっぐぅ⁈」「わたくしは〜クモとでも〜およびくださぁ〜い。」


 何かを言いかけたロゼの口を後ろから押さえつけて女が言う。へぇ、この大陸で“蜘蛛“とはまた大層なもんで。こんだけヘラヘラしているが…やっぱこの女ヤバいやつだ。あまり深く詮索はしない方が良いかもしれない。


「で〜?マイラスは〜わたくしの可愛いロゼちゃんを〜たぶらかして〜何をしに〜?」


 ロゼが女の腕の中でジタバタとしているが抜けられそうにないらしい。本気でやれば余裕で出れるはずなのにあまり力を出していないのだろうか。不思議な二人組だな。


「俺は魔力回復の補助アイテムを作ってもらいに来た。」


 ほうほう、とか言いながらようやくロゼを解放したかと思えば俺のすぐ目の前、息のかかる距離でジロジロと顔を覗き込んできた。品定めをされているようですごく居心地が悪い。

 タップリと視姦してようやく気が済んだのか顔を上げたクモは気味が悪い笑みを浮かべていた。


「カマキリちゃぁ〜ん。悪いけどチョウちゃんと変わってくれるぅ〜?だいじょぉ〜ぶだいじょぉ〜ぶ。おねぇ〜さ〜んに任せなさぁ〜い。」


 いつの間にか真後ろに来ていたカマキリがどこか複雑そうな顔をしている。何か言おうとしていたが諦めたのか黙ってクモの真横でゴーグルを上げた。


「ふぇぇあぁぁぁ、あっな、か、カマキリぃぃぃ!!」


 と半分泣きながら慌ててゴーグルを下ろそうとしているチョウをクモは手慣れたように片手で止めつつ、くるくると踊るようにあしらっている。

 横を見ると椅子に座っていたロゼは力無く壁にもたれかかって何か小さなガラクタをいじっていた。いやこの状況を放置すんなよ、諦めてんじゃねぇ。


 無駄にくるくる回っていた二人だが気がつけば地面にしゃがんで何かを紙に書いていた。あれだけ騒いでいたチョウを一瞬で宥めるとは何をしたのやら。


「なので〜、あれは観察対象ですので〜…」

「観察対象…人間じゃない…あれは観察対象…」


 耳をすまさなければよかった。すっげぇ失礼な言葉が聞こえてきた気がする。

 俺には出せる言葉がないのでそのままぼんやりしていたら勢いよく筆を走らせていた2人が同時にこちらを見る。かっぴらいた目を向けるなよ怖いだろうが。


 そのまま少しずつこっちににじり寄ってくる。二人して俺を見る、というよりガン見。クモはさっき見たばっかりだろ…おいバカ!そんな変なところまで見てんじゃねぇよボケ!!

 流石の俺でも何歩か後ろに下がってしまったがすぐに壁にぶつかって逃げることができなくなってしまった。

 ロゼの方に助けを乞う視線を送っているのに完全に無視を決め込んでいる。てめぇこの野郎めんどくさくなったら逃げやがって!


 …ん?俺を見つめているチョウの視線に違和感を感じてこちらも見つめ返す。黒に近い焦茶の瞳の中に十字の線がある。

 何か魔力も感じるし何かしらの魔法を使ってるらしい。ただ、この俺でも知らないことだ。非常に興味がそそられる。

 もう少し近くで見ようと顔を前に出した途端に観察していた焦茶の瞳を誰かの手が塞いだ。


「わたくしの〜可愛いチョウちゃんまで〜誑かさないでください〜。」


 チッ、解析する前にクモにチョウの目を隠された。この女、目も口元も笑ってねぇ。

 わかった、俺はこいつが嫌いだ。煮ても焼いても全く食える気がしない。

 目を隠されたままのチョウがクモの手の中であうあう言っている。そのままジリジリと後ろに下がってある程度下がってから手を離す。

 はいはい、どうせ俺は穢らわしい存在ですよ。


「ね?チョウちゃん、言った通りでしたでしょう?」


 コクコクコクコクと凄い勢いでチョウが首を振る。何がだよ。


「こ、この身体…入れ物のサイズ、と密度が合ってない。本来はもっと小さい身体のはず。か、身体の半分以上に魔素が練り込まれてる。一般の擬態魔法、は、ほぼ幻覚に近い。なのに、こ、この人質量まで伴ってる。ここまで魔力を操作できるなんて変。おかしい。気になる。」


 見事だ。思わず口笛を吹きそうになった。見ただけでここまで見破られたのは今までで3回目。人間族には初めてだ。

 その奥で流石でしょうと言わんばかりにドヤ顔をしているロゼはかなり腹が立つが。お前がさっき俺を見捨てたこと忘れないからな。  


「おい、お前らばっかりこっちのこと調べるのは些か不公平じゃないか?俺にもお前らの情報が無いとフェアじゃ無い。」


 シャベッタ…と俺が観察対象ではなく人間である事を思い出したらしいチョウは放置として、不敵な笑みのままクモが言う。


「わたくし達は〜長〜い間〜、いろ〜んな事を研究させて頂いてるんですよ〜?そ〜んなわたくし達の知識欲〜、満たせる自信があるのでしたら〜、すこ〜しくらいなら考えてあげられるかもしれませ〜んね〜。」


 ふん、やっすい挑発だな。そんな手に引っかかる人間に見えたなら笑い種にもなりゃしねぇ。

 マジックボックスの中からいくつかの陣書を取り出す。陣書は厚い表紙の開書型の書に陣がひいてあって魔力を流すと文字が本の上に浮かび上がって来る代物だ。その中からひとつ適当なものをとって二人に投げる。


「魔道真理全典の著者原本、走り書きのメモもそのまま。お前らなら俺の手元にあるコレ全部、価値が分からないほどバカじゃ無いだろ?」


 顔を見合わせた二人が顔をくっつけるように陣書を覗き込む。ついでに後ろから眺めていたロゼものめり込むように文字に目を走らせる。


「あ、あああり得ない。こ、こんな国宝級…いや、あり得ない、あ、アリエナイあり得ない。な、何これ、な、なに、何してたらこんな発想…いや、この原理を応用してもここで魔力の流れがとま…いや、だからここに陣を入れ…でもそうすればここが詰まるから…」


 後ろから一緒に覗き込んでいる後ろの二人は完全に忘れて、1人陣書を抱え込んでその場に蹲るようにチョウが何かを書き込み始めた。

 その背後では何かを考えたクモが後ろの棚を乱雑に漁り始めた。

 ロゼはまた興味を無くしたのか椅子の上で力なく壁に寄りかかっている。自由な奴らだな。


「それでは〜こちらはこれでどうでしょう〜!!テッテレー〜国書〜。リスタール国歴〜、建国時からのもので〜す〜。それと〜、最近のリスタール国の情報を〜まとめたものもお付けしちゃいましょうか〜。」


 吹き散らかした。なに言ってんだこいつ。そ、んなもの、こんなとこにあるはずねぇ、だ、ろ…

 無理やり手に乗せられた書物は崩れそうな紙に筆で書いたであろう文字。表面を保護している魔法を解けば塵になってもおかしくない古い物だ。

 ちょ、ちょっと待て、本当に待て。…いや、マジか?!


 目の前でニンマリと誇らしげに笑う女と顔を合わせる。癪だが…仕方ない…


「「交渉成立で(〜)」」

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