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破壊神と呼ばれた私は!  作者: 米田いすき
第一章 幼き母と子守唄
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第30話  少し寝ぼけてたんだよ、忘れろ。


 目が覚めてまだ腕の中で眠ってるサーシャを起こさないようにそっと起き上がる。窓から差し込む光からして大分と寝過ごしてしまったらしい。

 枕元の椅子には食べ物が置いてあり昨夜は帰り道に女の腕の中でそのまま寝てしまったことを思い出した。

 そこで隣のベッドでのんびりと座ってこちらを見ている女と目が合った。


「…お前何してんだ?」


 何か後ろめたいのか気まずそうにおはようと目を逸らした女を殴りたい。最悪な目覚めだ。


「よく眠れた?」


 サーシャが起きないようになのかやや小声で話す。


「ああ、それなりにな。」


 そっとベッドから降りて窓の外を眺めた。人の声がいくつも聞こえてそれなりに活気がある。やはり昨日久しぶりに目一杯の食事にありつけた事は良かったのだろう。

 俺も椅子に置いてあった冷めたスープを手に取った。昨日初めに出されたものとは違い具材も豊富で味付けもしっかりしてある。それでも優しい味なのは変わらない。


「朝起きたら私のとこに来なさいってロゼちゃんが言ってたよ。」


 ベッドの横で屈伸のような動きをしながら女が言う。了解の意を込めて手を軽く振りつつ大人の姿になっておく。

 あからさまに悲しそうな顔をしたこいつはもちろん無視だ。

 今日は魔道具を作ってもらうのを先にするか蜘蛛の胴体を先にどうにかするかそれとも空に広がった蜘蛛の糸を加工するか…

 やる事は沢山ある。一つ一つ地道に潰していくしかないだろう。


「そういえばサーシャ、夜に一回起きてきたが身体は大丈夫そうだったぞ。」


 少し不安そうにサーシャの頬を突いていた女の顔が明るくなった。流石に心配だったらしい。


「良かったぁ〜」


 小声で呟きながら気持ち悪いニヤけ顔でサーシャの頬を撫でている。起きるだろやめろバカ。


「今日はひとまず俺はロゼと話があるからそっちに行くが…お前はどうする?俺と来るか?一応やってほしいこともあるがやりたい事があるならやってくれてもいいぞ。」


 サーシャは昨晩の様子を見てもこのまま寝かせておいて大丈夫だろう。ロゼに言えば人は寄越してくれるだろうし、少ない滞在期間は時間を有効活用したい。


「んー…あのね、マイ君。ここって崖に囲まれてるでしょ?みんな布を張ったお家に住むよりも私達みたいに崖に洞窟を掘って住んだ方が良くないかな?」


 んぐっとスープを飲む。唐突な提案に咽せるかと思った。そうだコイツは常識を知らないんだったと非常識な日々の言動を思い出して小さく息を吐く。

 ガイアの大地は神の性質上なのか土の相性が極悪い土地がある。ここもその一つで妙に魔力含量が多いためか硬い岩のような地盤に魔法の透過も悪く魔法で掘ることも人の手で掘ることも普通の人では中々難しい。

 岩壁となればなおさらだ。

ここらの人がそれを考えなかった訳ではないとは思うが実行に移せないのが現状だった。今まで大陸中の要らないものを押し付けられた土地だった事が物語っていると言える。

 …が、昨日の蜘蛛の魔獣のことを思い出す。確かにこいつの戦闘跡はかなりの惨状だった。ロゼに直せと無言の圧をかけられて吐きそうになるくらいには無惨な状態だった。


「…あー、ここの岩壁は特殊でかなり硬くて掘りにくいんだが…お前なら掘れるか?」


 右手の親指を立てて左手に縮めたままのスプーンを構えながら女が頷く。


「ぜーんぜんダイジョーブ!」


 少しくらいロゼに恩を売っておくのも悪くないだろう。あの惨状もこれで解決するかもしれないし…悪化するかもしれないし。

 とりあえずそういうことで話を進めることにした。


 階下に降りれば既にロゼは階段の1番下段で優雅に座っていた。


「遅いわよ。起きてこないのかと思ったわ。」


 昨日ずっと貼り付けていた笑顔は消え去り、不機嫌そうな顔がこちらを見ている。

 こちらとらこう見えて長旅の途中でしてね。中身は子供ですし、疲れてんだよ許せ。


 とりあえずサーシャのことを見てくれる人を貸してくれないか頼んだところロゼが近くにいた女の子に声をかけた。

 サーシャよりいくつか上くらいの歳だろうか。痩せてはいるが短く切り揃えた髪に古いが洗ってはあるだろう服。ここの子供はちゃんと清潔は保てているらしい。

 ロゼがその子に短く声をかけると笑顔で階段を登っていった。通り様にこちらに頭を下げて行った様子からそれなりの教育は受けられているらしい。

 澄ました顔のこんな格好をしてる小娘だが、統治者としてはかなりの力量なんだな。何故こんな場所でこんなことをしているかは何も知らないが。


「それで?寝坊助さんは今から私とお話でよろしいのかしら?」


 さっきの子に話しかける時は優しく笑っていたくせに俺に振り向いた瞬間に腕組みをしながら片眉を上げて聞く。どう聞いても嘲笑う物言いで少々殴りたくなった。


「いや、その前にお前に提案があるんだが外に出て歩きながら話しても良いか?」


 嫌味ったらしい言い方をスルーして外に出る。気にした方が負けだからな。


 外に出ると楽しそうに走り回る小さな子ども達がいた。俺たちを見た途端に止まってこちらを凝視し始めたが。ま、他所からくる人間は珍しいんだろう。

 そんな子達を見て後ろの女は何を勘違いしているのか嬉しそうに手をひらひら振っている。いいから早く来いアホ。


「それで?提案とは何かしら。」


 コツコツと硬い足音を響かせながらロゼが横に並ぶ。女は中々来ないのでそのまま置いてきた。多分途中で追いついて来るだろ。来なくても知らん。


「崖に穴掘っていいか?」


 首元に回し蹴りが飛んできた。もちろんスレスレの所で避けるが前髪の先を掠った。あっぶねぇー…


「昨日も思っていましたが貴方は言葉が足りないのですわ。ちゃんと説明なさい。」


 結論から話して順番に説明していくつもりだったのにお前が手(足)が出るのが早すぎるだけだろ!と心の中で言い返してから一から説明する。コイツに言い返してもコイツが喜んで応戦して来るだけだ。淑女の皮を被っただけの戦闘狂なのは昨日の犬猫への態度でわかっている。いかがなものかとは思うけどな。

 

 崖に阻まれたこの場所には使える土地が少ない。かといってこの土地を出てしまえば国境問題や魔獣被害といった様々な問題に遭いやすい。ならいっそ崖に洞窟を掘ってその中で暮らせば良いのではないかという提案。

 勿論今までも考えた事はあっただろうし、土地の性質上掘りにくい事も知ってる。

 そこら辺の話で昨日女が蜘蛛と戦った場所に辿り着いた。勿論女のせいで壁はボコボコに凹んでいるわけで。


「ここの岩壁を見て分かる通り、あの女はここらを簡単にこうする。そういう奴なんだ。今後の付き合いのことを考えてもお前に恩を売っておいてこちらとしても損はない。ということで、洞窟をいくつか掘らせてくれ。」


 俺の隠す気のない要望に思案しているのか、腕を組んで崖を見つめる。自分の方の利益を考えているのだろうが、まぁお前の答えは分かっているがな。


「…分かりましたわ。こちらとしても少しでも安全な住処ができるならそれに越したことはございません。ただし、それをこなしたからといって私が貴方の無茶な要望に応えるとは思わないでください。あくまでも貸し一つですわ。」


 ああ、それで十分だ。ロゼという手駒は中々に強い。一つでも貸しがあれば何にでも使える。


 ひとまずここら一帯を見て地形を把握、崩れにくい場所と間隔に目印をつけていく。

 そこら辺でようやく追いついて来た女にとりあえず干し肉を与えて大人しくさせておく。動くか飯を食うかさせてないとコイツは何をやらかすか俺にもわからないからな。

 何も考えずに掘るだろう女のために分かりやすいように掘っていい場所の目印を説明してそれ以外のところには絶対に触らないように念押しする。もしも適当に掘ってどこか崩れられた日にはたまったものではない。多分俺がロゼに殺される。


 りょーかいと軽い口調で大きなスプーンを構える女。流石にこれだけの場所の穴を掘るのに時間はかかるはずだしコイツはもう当分放っておいて大丈夫だな。


「じゃあ行くか。」


 そんな女をどこか呆れた目で見ていたロゼに声をかける。


「あの方は何者なんですの?」


 それは俺が聞きたいと天を仰いでぼやく。多分異世界人で多分神憑きの脳内お花畑バカとだけしか分かってないからな。

 後ろの方から聞こえる崖を掘っているであろう異音に何か分からないため息が漏れた。

 流石貴方の良いパートナーですわね、と嫌味なのか本心なのかわからないお褒めの言葉を頂く。まっっったく嬉しくねぇーーー。


「少々時間を取られてしまいましたわね。ただえさえ今日は動き始めが遅かったのです。できる限り早く行きましょう。」


 やや小走りになったロゼの後ろを走りながら着いていく。時間は有限で貴重ですからねー。なのに寝坊してすいませんでしたねー。


「フクロウ、イタチ、ネコ、来なさい。」


 ロゼが小さく呟くと影が3つ、いつの間にか少し後ろに並ぶようにいた。

 1人目は大男。斑模様のマントに傷だらけのスキンヘッドで幼児なら泣き叫びそうないかつい見た目。マント越しでも体格の良さが分かる。

 2人目は狡賢そうな顔の男。フクロウとやらの隣にいるとかなり小柄に見えるが、他人種の血でも混じっているのだろうか。ヒラヒラとした布の服に裾を踏みそうなズボン。袖の中にいくつか暗器が隠れているな。上手く隠してはいるが毒の気配が消えてない。

 3人目のネコは言わずもがなメイド女だ。


「フクロウ、イタチはいつもの場所に人を近づけないように。ネコは私のそばにいなさい。」


「「「ハッ」」」


 息の合った返事の後に2人の影がまた消える。手先の人間にはそれなりの訓練がされているらしい。何回と繰り返して来たのか洗練された動きに少し感心する。

 ただロゼの隣に並んだ瞬間、崩れた顔でフニャフニャしているネコは殴りたくなった。

 その前にロゼが蹴ったので手を出す事はなかったが。


「ネコ、[存在希薄(オーラキャンセル)]」


 ロゼの言葉で勝手知ったようにネコが俺も含めて魔法をかける。以前蜘蛛の森を抜ける際に俺が使ったものより数段上のもの。俺らは現在、風のように存在が消えているだろう。


「今から私達が行く場所は知ってるもの以外は立ち入り禁止です。魔法耐性が低いものが入れば危険なのは勿論ですが、魔法理解の高いものが入れば悪用されかねません。貴方様には不要な言葉かと思いますが、下手にお手を触れませぬよう。」


 そう言いつつも向かっているのは俺らの寝泊まりしたあの食堂兼、宿だ。まぁ何かしらの秘密があるのだろう。


 人が多い食堂をすり抜けるように通る。周りの人間も俺たちが近づけば自然のように避けていく。

 存在希薄の中でも上位魔法。これは洗脳も交えた高度なやつだな。このネコ女、魔力量だけじゃない、思っていたよりも魔法技術が高いかもしれない。


 俺らが昨日上がった階段の反対方向。周りに人がいないことを確認してから壁に向かってネコが手をかざす。青白い光の魔法陣が浮かび上がって右回りに動く。壁自体が消えると5、6人入れば首すら回せなさそうな個室が出てきた。そこに急くように詰め込まれる。この空間、地面も天井も壁全てに魔法陣が刻まれているな。


「ネコ、お願い。」


 個室に三人全員が足を踏み入れた瞬間、入ってきた壁が消えて真っ暗になる。ハイにゃ!と真横から声が聞こえてまた青白い魔法陣が四方から浮かぶ。視界がぐらりと揺れて自分の存在が薄くなった気がした。

 少しして目を開けても周りは真っ暗で先程から変わらない同じ部屋に見えた。

 だが、あれだけあった宿周りの人の気配が一つも感じられ無い。

 再度魔法陣が動き目の前がひらけると先ほどとは全く違う石造の道が目の前にあった。薄暗いが足元左右にある小さな魔光石でかろうじて足元は見える。


 なるほどな。今の魔法の動きと感覚を思い出しながら頭の整理をする。これは転移魔法陣か。俺が設置しようとしてるものと原理自体が少し違う。おそらく分子までバラけさせたものを再構築させるタイプの魔法だな。それ相応の魔力と魔法操作が必要になる。魔法操作を失敗すれば二度と同じ身体には戻れないだろう。

 人数が多ければ多いほど難しい技術だがよく安定させて3人も纏めて運べたものだ。

 隣を見ればネコが息を切らしながら真っ白い顔をしている。やはりしんどかったか。


「ネコはここで待機してなさい。お疲れ様。」


 親指の爪程度のサイズの青い魔石のハマったチェーンをネコにかけてからロゼが前に進んで行く。おそらく魔力回復補助アイテムを渡したのだろう。

 跪き返事をしたネコはそのままその場に崩れ落ちた。なるほど、コイツは移動要因といったわけだ。とりあえず俺もポーションと毛布を渡しておいた。

 受け取った際に手と声が震えて目を逸らしたように見えたのはただの気のせいだろう。もう一度空中大回転はされたくないだろうしな。


「ここはどこだ?」


 古い城壁のような岩壁を進みつつ手の中にランタンを出す。狭い場所での火魔法は空気を悪くするので光魔法の方がいい。


「旧リスタール王城地下道。」


 当たり前のように言われた言葉にランタンを落とすところだった。


「は⁈おま、おまえ!ここリスタールか⁈」


「ここらで魔法道具を好きに弄られる場所なんて限られてますわ。」


 止まる事なくカツカツと前を歩いていくロゼに、無駄だと分かりつつも正気を疑う目線を向ける。

 確か魔道具を作れる場所なんざ限られてるかもしれねぇけど!…俺らは今密入国をしてるわけで…その上、国を跨ぐ転移魔法陣は国の正式な許可が無ければ高犯罪。バレれば首が飛ぶくらいでは済まないだろう。

 …はぁ、コイツがやってることなら抜かりはないか。俺達のことを信用して貰う手前、俺もコイツをある程度は信用しているしな。

 まぁ俺は最悪何かあれば全部ほっぽって逃げるだけなのでそれなりに楽な身分かもしれない。


「ここがリスタールの旧王城って事は現王城の場所は移ったのか?」


 確かリスタールが大国と呼ばれるようになった昔に国のど真ん中に高い丘を作って国を見下ろせるように立派な城が建てられたはずだ。つい最近に国王の座を取り合う戦争を起こしたとかいう前糞国王の指示でな。

 その前の城は朽ちて荒れ果て、その城周りの治安も悪いと聞いた。普通は古いとはいえ旧城ならばそれなりの扱いをされるはずだと言うのに何かまた事情でもあったんだろう。

そんな俺にロゼが呆れたように鼻で笑った。


「前国王のリスタール王城の位置は変わってませんわ。そもそも私達が実験奴隷だった場所が旧王城ですわよ、37番さん。私達は城の地下で実験動物として生きてたんですわ。ご存じなくて?」


 な、まじか。少々驚いたが色々な辻褄が合うので妙に納得もした。そうか、奴隷として買われた後は眠らされて移動中は意識がなかったからな。外の様子を見せたくなかったのだろうとは思ってたがまさか旧王城をそんなことに使っていたとは。

 この国の最高峰の魔法技術は国営だったから…城内に設備があれば確かに理にかなってるか。

 …あん時の俺はちょっと色々あって自暴自棄だったからなぁ…もう少しまともに生きとけば良かったかもしれないと思ったが今更だな。とっくに終わったことだ、諦めよう。長く生きてると諦めも簡単につくもんだ。その分知識と理論と想像で補えばいい。


 カビ臭い地下道にヒールの音だけが鳴り響く。足元の石畳は古く、所々欠けた場所があるがこんな足場の悪いところで良く簡単に歩けるよな。

 コイツの足って義足なんだよな?あー、義足の構造しりてぇー。どうやったら両足義足でそこまで滑らかな動きができるようになんだよ。動力はなんだ?魔石だけにしちゃ負担が大きすぎるよな。って事は陣を何重かに込めて魔石の効果を跳ね上げてる可能性が高いか…だが人間の筋肉構造をある程度模倣してるなら陣を入れる空間が…

 そこまで考えたところで鋭すぎる蹴りが襲ってきた。今回は考えごとをしすぎて回避が遅れたので鼻先に掠った。


「何をジロジロとみてらっしゃるのかしら。淑女に失礼でなくて?」


 回し蹴りが華麗な淑女が掃き溜めを見る目をしている。だから足を出す前に言葉を出せよ危ねえな。

 いつか絶対に隅々まで解析してやろうと俺は心の中で舌を出しておいた。

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