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破壊神と呼ばれた私は!  作者: 米田いすき
第一章 幼き母と子守唄
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第26話 大きい蜘蛛食べれるって!やったー!


 少し時間は戻って女が部屋から飛び出していったところだ。


「…今のは…リスタールの国唱…。それがどうかされましたか?」

 

 隠しきれない動揺を一瞬で笑顔に押し込めたのは流石と言おう。だがそれこそが答えみたいなもんだ。

 この国唱と呼ばれる文言はリスタール国が掲げる理念。リスタール国はこの言葉と共に歩んできた国だ。

 今は大分とそこから外れてしまってるみたいだがな。


 この少女は初めから感情も思考も隠すのが上手かった。出会って今まで笑顔をあまり崩してないために表情も読みづらければ目の動きも唇の動きも身体全ての動きが洗練されているせいで正直全然わからん。

 それに魔力拒否(アンチマジック)の道具でも使ってるのか俺の魔法の効きもかなり悪い。ま、そこまで頑張っても残念ながら俺の方が何倍も上だがな。


「お前が何者か、既に気がついてると言ったら…どうする?」


 これでも表情を崩さない。目を細めて唇を薄く結び、重ねた両手を膝の上に置いたまま静かに腰掛けている。なるほど手強い。


「お前、リスタール王家の血筋だろ。」


 ふぅと小さく息が聞こえた。核心をど真ん中でで突いたつもりだったが思いの外目に見えて表情は崩れない。


 その瞬間目で追えない速度で足蹴りが顔スレスレを襲う。ただの足蹴りなのに凄まじい風圧で部屋の中がひっくり返ったようになった。

 予測はしていたが思いの外本気で来られたので咄嗟に防壁をサーシャの方に張る。そのせいで俺は手でお前の足を止める羽目になっただろうがよ。

 手で受け止めたこの感触と重みで大体想像がつく。


「これ…義足か?しかも魔道具(マジックアイテム)だな。」


 ピクリと反応した女が足から俺の手を振り払うように後ろに跳ね除ける。狭い部屋ではほとんど自由な動きはとれない。なのにこの建物を選んだのは…


「何か詳しくは分からんが部屋の魔法陣の発動はやめとけよ。俺もここら一帯を吹き飛ばすようなことはしたくない。」


 女が笑顔を顔に貼り付けたままで動きが止まる。笑顔の奥の眼光がこちらを鋭く睨みつけてるのは図星だったからか。

 隣室にいた奴らは1人は外の変な魔獣らしきもののところに、もう1人は下の住民の元に行ってしまっている。周りにはこの話を聞けるものはいないだろう。とはいえ一応防音壁もしておこう。


「お前の情報ばかりを開示させるのはフェアじゃないな。[口結び]はできるか?」


 あれだけ崩さなかった笑顔なのに[口結び]の単語を聞いてようやく緩めた。至極単純な魔法だというのにコイツの表情を変えてしまう何かがあるのだろうか。

 俺には知る由もないし知る気もない。話が進まないので再度聞くとなぜそんなものをと眉を歪めて怪訝そうな顔をしつつも頷いたので作業を進めることにする。


 大人の俺が両手を広げたくらいのサイズの紙を取り出してベッド横にあった椅子の上に広げた。[口結び]というのは古めの魔法だが、その分単純で確実だ。ここらの国では今だに使う人も多い魔法術印。

 

 まず紙の上にあらかじめ魔石を粉にしたもので作った特殊なインクで陣を書いておく。その陣を書いた紙の上に契約をする2人の手を見合うようにして置く。

 そして魔力を送りながら契約内容を言葉にしていく。このサイズの陣でできる契約は一つ分しかない。


「ひとつ、ここで聞いたことは互いに他言無用。互いがその場にいなければ身近なものにも口を開いてはいけない。」


 俺の言った言葉に違わず同じ言葉を女が繰り返す。陣が緑に淡く光り俺の手から魔力が染み込んでいくのを感じる。

 そうして魔力が隅まで染み渡った頃に印の書かれた紙は二つに裂ける。それを互いに持つのがこの契約だ。

 もし契約を破棄する場合は2枚を重ねなければ破れも燃えもしない。これが契約書として使われる紙が持つ呪いみたいなもんだな。


「さて、どこから話せばいいのやら。」


「…何故あなた様は、口結びまでして私に自分のことを言おうとしていらっしゃるのでしょうか。」


 さっきまでの鉄壁の笑顔はどこへ行ったのやら。疑いの目を向けたままロゼが言う。ここまでくればどちらかというと戸惑いの方が大きいのかもな。今までの行動で俺が危害を加える気がないのはわかったはずだ。

 まぁさっき会ったばかりの人間に急に口結びをさせろと言われても訳はわからんだろうが。

 窓の外では変わらず不穏な爆音が鳴り響いている。あーあーアイツはまた派手にやってんな。


「…ここは、掃き溜めみたいな場所だったろ。飢えた子供にいつ寝首をかかれるかも知らない、大陸のはみ出しものが集められるゴミ箱。少しでもまともな奴は誰もこんな場所、見えないことにする。」


 遠い昔のことを思い出してしまった。記憶の切れ端に微かにあるこの場所はもっと暗くて臭くて生きながらに死ぬ者の棺桶だった。


「恵まれた場所で生きる奴らはこの場所を[隠したゴミ箱(ノットシー)]なんて呼んでたっけな。国を追い出された荒くれ者共と街からでたゴミをここに捨ててたから仕方ないよな。ゴミを捨ててもらえる分、ガキ共はそれを拾ってギリギリで命を繋げたもんだ。」


 早く話の本筋に行かないことが不服なことを隠すことなく女は表情に浮かばせる。懐かしさを今ここで滲ませたところでそれを知る奴なんかいない。小さく息を吐いて少し吸う。


「…今は、そんなゴミの見る影もない。家らしきものもあればこんな建物だってある。飯も食えるし子供らに仕事も与えてある。全部、お前がやったんだろ?なぁ、ノル。」


 血の気の引いた顔と目玉が落ちてしまいそうなほど開かれた目で綺麗な顔が台無しだな。流石に立っていられないのだろう膝を震わせながらベッドに再度腰掛けた。

 感情を隠してた笑顔の仮面はようやく完全に外れたようだ。まぁ、うん、そらそうだろうな。これで笑顔のままだったら俺は血が通ってるのか疑うよ。


「そ…の、名前は…捨てました。その名…を知っているのは誰一人…残っては…えっ、だって、私…」


 混乱してんな。だが申し訳ないが落ち着くまで待ってる暇はない。


「お前、こないだ死んだとかいう先代国王の末妹だろ。正式には公表されなかった、無いものとされた姫、幻影の第八皇女だ。」


さーて、答え合わせの時間だ。


「お前が聞きたいことが山ほどあるのは分かるが話が長くなるからちょっと待て。抑えて俺の話を先に順に聞け。まず俺たちは今回会うのが初めてじゃない。あれは50年くらい前だな。お前と出会ったのは思い出したくもない研究所、[GATT(ガット)]だ。俺は37番。お前は0番。こんな奴覚えてないか?」


 そう言って自分の見た目を変えていく。焦げ茶色のボサボサ髪に落ち窪んだ茶色い目。そばかすが散らかる10才そこらのガキ。この国ならどこにでもいそうな奴だ。


「えっ、あなたも…実験奴隷の…いや、待ってください…その生気のない生意気そうな目に多少覚えがある気がします。」


 生気のない生意気な目とはまた適当な覚え方しやがって。間違ってはないので否定はしないがな。


「俺はよく覚えてるぞ。お前はセラ様にベッタリだったからな。他の実験奴隷に比べて遥かに待遇も良い特別扱い。ちなみにセラ様にもらったただの野花を何でもないような顔してたくせに毎日こっそり眺めてたのも知ってる。そんでどうにか長期保管できないか試した結果、花弁が取れて絶望してたのも知ってる。」


 セラの名を聞いて何か腑に落ちたのか納得した顔を見せた。頬がうっすら色づいて見えるのは気がつかないふりをしてやろう。

少しの沈黙の後大きくロゼが息を吐いた。


「…あなたが誰であろうとあの実験所にいた事は確実なようですね。あの中は一つの独立国家のような場所。誰一人として情報を外に漏らす事はできないはずですから。…セラの花のことは忘れてください。」


 やはりセラ様の話題を出したのは吉だったな。この女にとって今も昔もセラ様の存在が大きいのは変わってない。

 青銀の長い髪の毛に今にも消えてしまいそうな儚い笑顔を溢す青年。俺らみたいな奴隷の実験動物にも分け隔てなく優しくしてくれた数少ない人だった。

 毎日のように実験に失敗された誰かが血反吐を吐いて苦しみながら地に帰る度、食いしばった唇から血を流していたのを俺はみた。

 それでも最後まで壊れることがなかったのは心根の強い人だからだろうと思ったのをよく覚えている。


「それで?37番さんはどうして今生きてらっしゃるのかしら。あの事件があって研究所が無くなった時、誰一人として生き残った者はいないはずですわ。それに姿形も当時とは似ても似つかないご様子。それについて納得のいくご説明はいただけるのかしら?」


 開き直ったのか足を組み堂々とした様子で平然と言いのける。やはり年の功といったところか妙なところで肝が据わってやがる。

 …こいつ普通に考えて40〜50年前には10代だったから…いや、歳のことは考えないようにしよう。下手に薮を突いてヘビを出す羽目になりかねん。


「あ゛ー…300年ほど前にリスタールで4人目になる大賢者の称号を貰ったやつ分かるか?」


 突然変わった会話に疑う視線を送ってくる。まぁいいから答えろって。


「…リスクペル・ヤタ・ソーワル…」


「それも俺だ。」


「…はぁ?」


「お前、[レインカルナティオ]って知ってるか?」


 唐突な質問の意図がわからず困惑しているらしい。まぁまぁ、いいから答えろって。


「…この世界には第四神ハデス様に魅入られた人の中に何度も同じ魂と記憶を持って生まれ直す事ができる輪廻者がいると言うお話…まさか貴方様がそれだとでも言う気ですの?そんなのただの御伽噺では…」


「いやまぁ、こればっかりは俺の記憶しか無いから証拠を出せって言われても困るんだが…もう気がついてんだろ?お前とは比べ物にならない実力と死んだ者しか知り得ない記憶を持ってること。これじゃ信頼に値しないか?」


 ひどく困惑した顔をもはや隠すことなくこちらに向けてくる。いきなり全部信じろってのは流石に無理があるか…?

 だがここで少しでも信用してもらわないとこの先の行動に支障が出る。力を貸してもらえれば俺の目的に飛躍的に近づく。というより俺が楽になる!

 一呼吸落いて前を見据えると妙に落ち着いた目がこちらをみていた。


「いい加減ウダウダと長い話をするのも疲れましたわ。本題に入りましょう。貴方がそこまで自分の事を話してまで私の信頼を勝ち取りたいのは何か私に利益をお求めなのではなくて?私もタダで何かをお渡しになる気はありませんわ。これは取引です。互いが互いに納得するもので取引でも致しましょう。」


 頬が歪むのを必死に抑える。そうだこいつはこういうやつだ。リスクと利益を天秤にかけて有益な方に賭けられるものは賭ける博打者。話が早くて助かるよ。


「簡潔に言おう。俺が求めるのは[魔力回復補助アイテム]と[この土地の一部]だ。俺は今諸事情により魔力の回復が遅い。その魔力回復のサポート魔道具。そしてもう一つはここの土地の一部に転移用魔法陣を引かせて欲しい。以上2点が俺からの要望だ。」


 魔力回復補助魔道具はどんな国でも需要のあるものだ。大抵の人は良かれ悪かれ持っているし作るのもそう難しくはない。自分の身体に馴染みやすいマナと同じ系統の魔石を身につけるだけでもマナが体内に染みてオドに少しずつ変化すれば魔力になる。火の魔法に特化した魔道士が火山地帯で休めば早く魔力回復をするのはそのためだ。

 ただしマナからオドへの魔力変換速度は個人差がある。それは魔力量に比例しないので、もし個人の力量以上の魔石を身につけてしまえばマナの過剰摂取で身体が壊れてしまうだろう。

 俺の場合1番身体に合って使いやすいのが風の魔法っていうだけで他の魔力もある程度まで極めてある。どのタイプの魔石だろうと回復に貢献はしてくれる。

 

 実は俺のアイテムボックスに入っている魔石の種類も量も尋常じゃない。どっかのアホが意味の分からん量の魔獣を狩って来るので定期的に手に入るからな。

 それでもロゼに要求したのは補助魔道具が欲しいからだ。魔石を加工して道具としてマナからオドへの変換を更にスムーズにしたもの。上級魔法道具専門店などに行けばかなり上質な魔道具が手に入るだろうが現在のこの国々にそんなものがあるかは分からないからな。


「…この食料もない土地で不釣り合いに魔道具を要求なさったということは、私の現状の立場も、もしやご検討がついてらっしゃるのかしら。」


 また笑顔で感情隠しやがったかと思ったがこの笑い方は何か違うな。少し馬鹿にしたような腹の底を探られているような、あー、違う。こいつはこの状況を楽しみ出した。ただそれだけのことだ。


「…まさかこんな見た目年端もいかん小娘が国を変える戦争の鍵を握っているとは誰も思わねぇよな。まず第一にこの建物。この建造物丸々魔法道具だろ?おそらく建物内にいる人間の魔力を使用して強固なシェルターになる。そして強固さを使って何かを捕まえるにも適してそうだ。それとお前のその両足。自律式魔道義足だ。そんなメンテナンスに時間も労力も技術も最高なもん必要なのがそこらにホイホイあってたまるかって話だ。リスタール国で数十年前から噂があった。この国には裏で魔道戦具を取引してくれる奴がいると。一度だけ横流ししてもらった道具を見たことがあるがあれは俺らがいた研究所の技術だ。そんなもん知ってるやつはそうそう居ねーよ。それを踏まえて裏の武具商人(ジョーカー)はお前ってことになる。材料はなくても技術はあるだろ?材料はこっちで揃えてある。俺の要望するもんを作って欲しい。」


「そこまで分かってらっしゃるなら宜しいですわ。それで?その貴方の要望通りの道具をご用意したとして対価に何をくださると仰るのかしら?」


 俺は食料の入ったアイテムバックを出来る限りベッドに並べる。大小様々、40くらいか?


「俺の手持ちの食糧の半分。これだけでもここの土地の人間全員が1日3食食べても一月は保つだろう。」


 それを見て流石に黙った。そりゃ現在の状況からして喉から手が出るほど欲しいものだよな。


「…では、土地の一部、というのは一体どういう目的です?転移用魔法陣とおっしゃいましたが下手な場所と繋げられましてもこちらとしては損どころかこの場所の崩壊も招きかねません。それでも要望したということは、こちらにもそれなりの利益が見込めるということなのでしょう?」


よし、こっちの話の方がこいつが食いつく自信がある。


「俺が転移で繋ぎたい場所は2箇所だ。と言っても1回目の転移場所は一度使えばすぐに撤去する。1番繋ぎたい場所は蜘蛛の森の俺らの根城だ。」


ん゛な゛っと、顔に似合わぬ野太い声が出た。


「あ、貴方方、蜘蛛の森で暮らしているんですの⁈いや、その、それ程の実力があれば生きていけはするでしょうが…今はクイーンが目覚める寸前です。魔物の活発化がかなり進んでいるのではないので?」


 やはりクイーンが目覚める寸前だったか。クイーンというのはこの大陸で未曾有の災害と言われる蜘蛛系統の魔物の頂点。神聖代から何千年と歳を重ねた蜘蛛の化け物だ。

 そいつはある程度の周期を眠りにつき、ごく稀に目覚めては著しい被害を撒き散らしてまた眠る、という厄介なやつだ。まぁその話はまた今度しよう。


「その話はとりあえず置いておいてくれ。まぁ色々あって俺たちはあの森で生きてるわけなんだが、俺の連れが居ただろ?どういうわけかアイツが森に入っちゃぁ大量の魔獣やら木の実やらを採ってきて実はまぁまぁな量の食い物が定期的に手元にある状況なんだわ。それをここに定期的に転移するのはどうだ?」


 一時的な食べ物の援助は出来ても定期的な供給がなければ問題を後回しにしていることと同じだ。根本の解決をしなければ俺がやっていることはただの偽善になる。

 偽善にならないためにも根本の解決までの繋ぎくらいはしてもいいだろう。


「…それは結果のお話です。確かに大変ありがたい申し出ですがその前に誤魔化さずに目的をお話しください。」


 チッ、やっぱ上手く丸め込めるほど簡単な奴じゃないか。


「はいはい、悪かったよ。しょうがない。…ここまで俺たちに首を突っ込んだならもう戻れなくなる。その覚悟はあるか?」


 答えはわかっているが一応確認しておく。ロゼはそんな俺を嘲るように鼻で笑った。


「今更ですわ。もう私達に無くなるものはありません。なんでも良いからさっさと話しなさい。」


 やっぱりな。俺は苦笑しながらサーシャを抱き抱えた。


「サーシャちょっとごめんな。」


 小声でサーシャに謝りつつ服をまくる。ヘソの下の鳥が羽ばたくアザを見て眉毛を歪めていたロゼの顔がみるみる青ざめていく。


「もう1人の俺の連れ。サーシャが第3大陸ガイアの神子だ。そして現在奴隷でもある。俺はサーシャを奴隷から解放しないといけない。ついでにサーシャの奴隷仲間も解放の手助けをして、その対価にサーシャが俺たちに力を貸す約束をした。つまりココで、開放できたサーシャの仲間の面倒を見てくれないか?」


 俺が全部言い終わる前にベッドから降りたロゼがサーシャの前に跪いた。


「永らく、心よりお待ちしておりました神子様。あなた様の現状、決して見過ごせるものではありません。このロゼ、全ての力を持ってあなた様に尽くしましょう。」


 聞こえていないはずのサーシャの顔がほんの少し緩んだ気がした。

 暫くしてからようやく顔を上げたロゼの表情が歪んでいた。…怒ってんのか?


「こういう…」


「あ?」


「こういう大事なことは早く言いなさい!神子様が関わっているなら問答無用で信頼するに決まっているでしょう!!!」


 あまりの覇気にこちらの身がすくむ。確かに神子は神聖でありガイアの神子は信者も多く居るが…そんなにか?


「はぁ…とりあえずガイア様が神子様を貴方に預けたということはそれなりに信用に値する人物であるという証拠になります。こんなにも各国で探されていた神子様がまさか奴隷だった挙句蜘蛛の森に居たなんて…なんて恐ろしい…」


 とりあえずサーシャの服を直してまたベッドに寝かせる。これだけの迫力の中それでも目を覚まさないことに少しだけ不安が翳った。


「まぁ良いですわ、今この場で過去のことも全て流し、貴方の提案も全て飲み、私達が互助的関係になるために、私から一つ条件がありますわ。」


 こちらに来なさいと部屋の角に立たされる。あー、ちょっと何されるか察した。


「歯、食いしばりなさい。」


 脳が揺れるほどの振動と鼓膜が破れそうな衝撃が右頬を襲った。

 流石にこの痛みは堪えるが甘んじて受けなければこの先の関係はよろしくないものになるだろう。

 それに本来1番強い足技を使わずに掌で頬を打った事が彼女なりのケジメなんだろう。それを踏まえても痛いけどな。


 シュウシュウと煙の立ちそうな掌がロゼの隣に構えたままになっている。ロゼは今日1番の笑顔で言った。


「これで貴方がセラも研究所のみんなも全て見捨てて本来の力を使わずに簡単に死んだことを水に流しましょう。さぁ、私達は今から協力し合う間柄ですわ。」


この女、マジで殴ってやろうかと本気で一瞬悩んだ。


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