第24話 何か変な人達に会っちゃった
さてこいつ、一見ただの小娘に見えるが…言動、立ち振る舞い全てにおいて隙が無さすぎる。ただこちらに対して敵意はないらしい。それが救いというべきか、それとも何かあっても対処する方法を持っているのか。食えない娘だ。
街中と言って良いかわからないこの場所。昔はもっと荒れていた。
ゴミか何か分からない物で埋め尽くされていて、異臭が立ち込めて、人だったらしきものがそこらに捨てられている。
家の形をしたものも殆ど無く、瓦礫の下で雨風を凌ぐガキが飢えた獣の目をしている。そんなマトモな神経してりゃ近づく者なんぞいるわけがない無法地帯。
人はここを〈見えないゴミ箱〉と呼んだ。
それが今は骨組みに布を張っただけの物だとしても家のような形のものがひしめいている。大人も子供も布切れであっても衣服を身に纏っているし、微かに異臭はするものの見てわかるほどの溢れんばかりのゴミがあるわけではない。
良くも悪くも変わっていく途中。そんな印象を受けた。
目の前の少女も歩く最中、色んな者に声をかけられている。こんな掃き溜めでしていて良い格好ではないというのにこの女に誰一人として不満をぶつけていない。
一体こいつは何者なのやら。
「着きましたわ。」
家らしきものの群の中を突っ切り色んな人々に声をかけられ、本当に長いこと歩いてようやく着いたのは今まで見た中では一番まともな建物だった。
外のスペースは木の骨組みのみではあるものの屋根があり一応まともな形をしているし、奥の場所はしっかりとした食堂らしきものが見える。
食べ物の匂いが立ち込め沢山の人が居る。実際に食事している人は大人が多いものの働いているその大半は年端もいかない子供だった。
「マーテル様、配給の時間にごめんなさい。申し訳ないけれど上の部屋、借りても良いかしら?」
食堂の奥、ガシャガシャと大きい音をしている所に少女が声をかける。一際大きかった包丁の音が途切れ顔を出したのはここらでは珍しく恰幅の良い中年の女性だった。
「おやおや、ロゼ様こんにちは。珍しいね、お客様かい?…ふんふん、なるほど。上がって左にふた部屋目のとこなら空いてるはずだよ、好きに使いな!」
声の大きさと不思議な迫力に少々気圧される。まるで絵に描いた母親像そのもののような人だ。今まで出会って来た人の中でも珍しいほどに覇気のある人だとなんとなく思った。
そのまま上に向かう少女に着いて行く。あまり良い材質では無いものの、この建物は作られてからそれほど時間の経っていないのだろう。汚れも埃もなく手入れが行き届いている。
「どうぞお掛けください。」
狭い部屋に粗末な寝具が二つと単純な椅子が二脚という簡単な宿のような部屋だった。二つ並ぶベッドのうち少女がかけていない方に腰を下ろす。
「貴女も背中の子を下ろして差し上げて。長時間同じ体制では流石に辛いでしょう。」
やはりマントで隠れていたにも関わらず女がサーシャを背負っていた事にも気がついていたらしい。抜け目ない奴だ。
「向こう向け、降ろすぞ。」
一人で降ろせないのでワタワタしていた女に見かねて手を貸す。マントの下で更に毛布に巻かれていたサーシャだが、汗一つかかずに快適そうな顔をしている。包んだ毛布に施した風を循環する魔法はうまく作動してくれていたらしい。
頭を撫でてもほんの少し口元を緩めた程度で起きる気配はない。この話し合いの時間だけでも眠り続けてくれることを願う。先程娘が言っていた言葉からもあまり良い内容にはならないだろうから。
「さて、では…何からお聞きしたいのでしょうか?」
サーシャを寝かせたベッドに再度、女と共に腰をかける。目の前に座ったロゼと言った少女は真っ直ぐこちらを見つめてくる。逸らす気のない射抜くような目線は中々に居心地が悪い。
「とりあえず現状の全てを。俺らはカナロムが花の都と呼ばれていた当時しか知らない。何があったのか今のこの大陸、ガイアの常識だけでいいから簡単に教えてくれ。対価に…そうだな。食料でどうだ?」
アイテムボックスに目一杯入っている食料を半分渡しただけでもここらの人間全員が3食ひと月は食える量があるはずだ。情報を売る対価としては妥当なはずだろう。話の中身を聞いてそれに見合う適度な量だけ渡すか。
とりあえず嘘ではないとしてマジックバックを一つ渡す。魔力操作がある程度出来るやつなら中身の量もわかるはずだ。子供の俺の顔のサイズもないバックなので入っていると言ってもイビルラビットが15匹分程度…いや、女が食いまくるから常識が崩れてたな。結構な量だなコレ。
案の定目の前の小娘の顔が不穏になる。思っていたよりも多かったのだろう。
「…食料はありがたいです。今も喉から手が出そうになるほどに私にはこのバッグ一つが魅力の塊です。…ですがお節介な助言をさせて頂くとすれば、貴方方はこの先の道のりで潤沢な食にありつくのは難しくなるかもしれません。今この周辺国は物資が足りないのです。どれだけのお金があろうと買えるほどの食べる物が無い今、簡単に食料を手放して仕舞えばこの先貴方方が困ることになりますわ。」
開け放たれた木の窓の向こう。下の食堂の賑やかな声に耳を向ける。この声を聞いているだけならばそれ程深刻そうには思えないのに。
「とにかくまずは現状をお教えしましょう。判断は、貴方自身がするのですから。」
座り直した少女が目を瞑り、小さく語り始めた。
「カナロムの木が枯れて、国政が崩れて、グズリア国に攻め込まれて、カナロム国は終わりました。」
にっこりと淡々と少女は語った。
「…は?」
「以上です。」
にっこりと微笑む娘に乗せられたのか女も隣で不恰好な笑顔を返している。そんなことしなくていいんだよバカ。
常識を簡単に教えてくれとは言ったが…こんなあっさり説明を終わらせる気なら食糧渡すのやめるか。
「ふふ、冗談ですわ。ちゃんと頂いた対価に見合うお話をしなくてはね。…今の流れを聞いただけでもあまり良い話ではない事はわかると思いますが、詳しくお聞きになられますか?」
なるほど、口先では冗談だと言っているが本心はそこまで話したくないことなのだろう。碌な話じゃないのは誰でもわかる。それでも対価分は語ってくれなければ俺たち今後に関わってくる。
「…ガイアは、今だに混乱が収まっておりません。13年前先代のガイアの神子様が代を代え、突如カナロムの葉が異様に落ち始めた時から、カナロム国は少しずつ変わりました。葉が落ちる度に木は黒ずんでいき、国の花々は枯れて国民の心も荒みました。どこから来たか分からぬ噂で王族は国民の批難を浴び、国の形が崩れたのを見計らうかのようにグズリアに攻め込まれたのです。もう、10年ほど前のことですわ。」
窓の外に目をやりがら何でもないことのように淡々と語る。この少女にとってそれが当たり前になるまでの月日がもう流れてしまったのかもしれない。
神子の単語が出てきたからか隣の女の挙動が少しおかしくなる。それ以上そわそわしながらサーシャの方を見るなボケ。
「…カナロムの国民はどうなった?」
女から意識を逸らそうと咄嗟に出た質問。そんなことくらい想像がついていても聞いてしまったのは、自分もカナロムをこの目で見てからずっと動揺していたのかもしれない。
「ほとんどが…グズリア国で奴隷になりましたわね。その他はここに逃げ込んだ者も居れば他国の国境を目指した者、森に入り獣に襲われて命を落とした者も多いでしょう。…グズリアは異常とも呼べるほどにカナロムの国民を狙うのです。ここに逃げ込んだ民も何割か連れていかれました。私の目も、全てを見ていられるほど多くはないのに。」
先程までこちらに頑なに視線を向けていたのにあっさり向こうを向いた少女の表情に明るさなど残っていないんだろう。こいつが何者なのかの情報は…決め手にかけているが、少なくともこの地を守りたい人物なのは本意らしい。
…おい、
「何か言いたいことでもあるのか?」
隣でソワソワしていた女が何か閃いたのかパァッと明るくアホ顔をした後に更にソワソワし始めている。本当に鬱陶しい。
「え、あ、その、最初に犬君が言ってた"残ってない"と、"壊しに来た"って、もしかして、私達がここの人達を攫いに来たと勘違いしてたのか〜って、その…納得したというか?スッキリしたというか…?すいません。それだけです。」
俺と目が合った途端何故謝る。謝るくらいなら最初から変な行動するんじゃねぇよボケ。空気をぶち壊すのが毎度天才的な女だなコイツ。
「ふふ、いいですよ。こちらも少し神経質になりすぎておりますから。ガイアは今だ混乱の最中なのです。最大多様国家だったリスタールが崩れるきっかけになったのも10年ほど前です。なのに神子様がどこにも居られない。どこの国も神子様を手にしようと躍起になっておられます。…神子様にそのような扱いをしてしまえば、この大陸の国々は一晩で消し去ろうものでしょうに。」
微笑みは崩さないが端から漏れた感情をひしひしと感じる。これほどの女が上手く感情をコントロールできないほど辛い現状なのだろうか。
「…おい待て、リスタールも…どうにかなってんのか…?」
聞き流すにはあまりにも重要すぎる言葉がさらりと告げられる。リスタールには多様の種族と数多の人間が入り乱れ暮らしており、この大陸一番の国力を誇っていたはずだ。
それが崩れるという事はこの大陸の均衡も崩れることに等しい。
「もし貴方様が10年以上前のことしか知らないのでしたら貴方様の知るリスタールはもうどこにもないのです。先代の123代目リスタール国王が死ぬ間際に遺したものでどれだけの人が涙を飲んだでしょうね。」
話しにくいのか話す気がないのか、しばしの沈黙が流れた。
123代目が先代のまま…ならば先代国王はもうかなりの年のはずだ。50〜60年前に20代の若さで王座についてから長い間かけて国を広げ豊かにした賢王と呼ばれている人。俺の記憶上では聡明な王だったと思うが…
「リスタール先代国王は死の間際に国と民を三つに分け、王位を継ぐ権利のある三人の者に王位をかけた国取合戦を行わせたのです。」
ぐるぐる回っていた脳みそが急に停止してしまったのか全く言葉が頭に入って来ない。国取合戦… 数多の種族と民が暮らす国で、王を決めるためだけに、国民を使って…内戦を起こさせた…のか?
「その宣言が出されたのは先代が亡くなる少し前でしたので10年ほど前です。そして紛争が本格的に始まったのが7年前。今から4年ほど前に決着がつき、今だに大きな傷跡は数え切れぬほどありますがこれでも落ち着いた方なのです。」
語り手の娘から漏れ出た怒りよりも、俺の感情が追いつくよりも先に、恐ろしい殺意が隣から溢れてきた。
「…おいバカ、落ち着け。」
この女はどうも感情の起伏が激しい上に制御するのが苦手らしい。怒り狂った獣の表情で何もない宙を睨んでいる。この威圧で小動物なら殺せるかもな。
「王様を決めるためだけに…国民を、使って…戦争したってこと…?王様がどんなものなのか、私はよく知らない。でも、王様は…国が、国民がいてこそじゃないの…?人を…自分の国の人達を…なんだと思ってるの…?」
そのおかげで俺の行き場のない感情もどこかに消えた。にしても知らぬ土地の見てもいない他人によくもここまで怒れるものだ。
「はぁ…だから落ち着けってバカ。もうこれは終わってしまったことだ。お前が今ここで怒ってもどうもならん。精々サーシャが怯えて起きる程度だ。抑えろ。」
怒りすぎてか女の首元に赤い血管が浮き出ている。こいつこんな調子でキレ続けてたらいつか血管切れねーだろうな。
深呼吸を何度かしてある程度落ち着いたのだろう。荒い呼吸音が静かになった。チラッと横を見てサーシャがまだ眠っていることに安心をする。
「この大陸東部には、まともな統治者がいなかったのかもしれません。内戦が落ち着いた今でも隣国であるノーメラ国もマリンナ国も要らぬ割りを食わぬよう国衛を固め鳴りを潜めております。蜘蛛の森を越えた西部の国々も国交を途絶えさせ久しくなりました。現在どのような状況なのかの情報すら入ってこない。新しき神子様が向こうで生を受けていても今の私達には知るすべも無い。…もしかすれば、この大陸は…終わりを迎えるかどうかの瀬戸際にいたのかもしれないですわね。」
…終わりね。生を育む神の大陸が終わるとはなんとも滑稽なことで。
「この場所にある食べ物も底が尽きかけております。崖に囲まれた硬い土のこの場所は魔力の影響で作物を育てることはできません。今現在は1日にニ度のこの食堂での配給と働ける者達が他国に出稼ぎに行くことで成り立っております。ですが元カナロム国から来た者と分かれば多くの民が出入りを断られる現状です。せめてここの子達皆…大人になってほしいと願っているだけですのに。」
戦だ国取りだと躍起になっていたこのあたりではまともな作物が少ないということか。
肥沃な土地が多い大陸といえど大規模な戦争を二つも行えば情勢が立ち直るにはそれなりの時間を食う。そんな状況下でこんな場所に食料を回すことはできないんだろう。
リスタール前国王は何故そんな無意味な内乱を行なわせたのか。大国がそんなことをすれば大陸全土に余波が広がることくらい想像しなくてもわかる。仮に国王が本当にその御触れを出したとしてもその周り、時期国王候補共はそのことに疑問を持たないのか?ほんの多少でも支持があるやつがその内戦に異議を唱えて国民を煽動すれば民も領土も…いや、俺が口を挟めるほど簡単な話ではないな。現に今この状況になった。裏があろうとなかろうと終わったことだ。
考え事に没頭していたせいで息がかかる距離まで女が顔を近づけていたことに気が付かなかった。気配を消すなアホ!真横を見た瞬間見開かれた獣の目があって心臓が一瞬止まっただろバカ!
ランランと輝く目が全てを物語っている。分かってる分かってる。お前が言いたいことは残念ながら良〜〜〜く分かってんだよ。
「マイ君、食べも[食料渡すと言いたいんだろアホ。]」
小声の女が言い終わる前に思念で遮る。だから思念如きでビクッとすんな怪しいだろバカ。
[何も知らないやつに俺らの食糧を大量に分けてやれるほどお人好しじゃ無い。それにこれからどれほど長いこと国に居座るか分からない。軽率な行動は控えるのが常識だろ?]
グゥの音も出ねぇだろ。言いたいことがあるなら言ってみやがれ。
「…その食糧採ったの9割9分私。」
何も言えないだろうと思っていたが思いの外折れなかった。羽虫なら殺せそうな睨みが更に近づいてくる。なんだ、何が言いたい。
「マイ君は世界のこと教えてくれて、衣と住整えてくれて、荷物持ちしてくれて、作戦考えてくれて、サーシャちゃんの問題も解決してくれようとしてる。」
ああそうだ。俺の優しさに今更気がついたのかこいつは。つかなんなんだよ、続きを早く言え。
「私は食糧調達で護衛で乗り物。」
あ、なんか嫌な予感がする。すっごく疲れる事になりそうな嫌な予感。
「食糧半分くらい…とは行かなくても三分の一くらいは私の物じゃない???」
よし、分かった。お前自分の取り分だけでもあげたいとか言うんだろお人好しかボケ。」
やべ、途中から声に出てた。まぁいいか事実だし。
「私さっき道端で出会った変な動物もどきとか食べるからーーー、お願い!私の分だけでもあげてよ〜〜〜〜!」
ごねるように肩を揺さぶるなアホ!!!あ゛ーーーーーーーーーっ
「元々話によっちゃぁ三分の一くらいなら渡すつもりだやめろ!」
張り倒すように跳ね除けたつもりだったのだがコイツびくともしねぇ。ガーーーっ腹立つ!!!!!
その声を聞いて静かに俺たちを見ていたロゼが勢いよく立ち上がる。ぶっちゃけ存在を忘れかけていたのは秘密な。
「貴方方まだ食料を譲る気ですか?流石にそれは考え無しと言われてもしょうがない行為です。先程いただいた分だけでもとても助かりますし、対価としては充分でしょう。こうしてお話をする事になったのも何かの縁。これ以上の無謀はおやめください。私達のせいで犠牲となるものが増えるのは流石に後味が悪いですわ。」
ほう、この小娘も存外お人好しか。普通は都合良い世間知らずのカモがいたら骨の髄までしゃぶりそうなもんで…いや、ちげぇな。この女、何一つ俺らに期待してない。怪しんだまま…って感じか。
そりゃこんだけの実力持ったやつだ。はじめっから俺が[嘘発見器]使ってんの気付いてんな。気付いた上で話しやがった。そりゃ表情読ませねえために途中からそっぽ向いたまま話するわけだ。
下の食堂と左右隣の部屋にも普通の人に紛れてそれなりのやつが何人か紛れてる。そしてこの建物自体何かしらの魔法が練り込まれている。まぁ最初っから疑ってかかってるわけだ。
はぁ…仕方ねぇな。
「わが…「おやおやなんだい、あんた達そんなとこで突っ立って!話に熱が入ってるとこ悪いけどね、とりあえず落ち着いてこれでも食べな!腹が空いてちゃ見えるもんも見えないさ!!」
勢いよく扉が開いて全員びくりと体がすくんだ。隣の女どころか目の前の小娘まで肩がすくんだのは少々面白いが話は分断されてしまった。
マーテル氏…だったか?先程の食堂にいた恰幅のいい中年女性。その手には平たい板が乗せられていてその上に木の椀らしきものが三つ乗っていた。
「マーテル様…ありがとうございます。ですが私よりも子供たちにそれは差し上げてください。」
小娘が差し出された椀を返そうとしたがマーテル氏は動かなかった。
「何を言ってんだい!あんたも食べるんだよ!全くいっつもそう言うんだから。ほら、置いておくから絶対お食べ!」
あまりの圧に小娘も椀を返すどころか言い返すこともできてない。このマダムは案外すごい人なのかもしれない。
「全く。あんたら2人もこんなもんしかないけど食べなね。もう1人のお寝坊さんにはこれ渡しとくよ!」
こっちもかよ、と断りきれずお椀を押し付けられた後に茶色い油紙の小さな包みも手渡された。中身は黒っぽく小さい焼き菓子のようなものだった。
サーシャは今だに起きる気配がないので焼き菓子だけでも断ろうとはしたが圧に押し負けてありがたく受け取る。それを見て満足そうにマーテル氏は外に出て行った。
「…ひとまず話は置いてありがたく頂きましょう。」
再度腰を下ろした小娘に続き俺らも匙を掬う。琥珀色のスープに微かな野菜らしき屑と穀物らしき物が浮いているだけの粗末なものだったがどこか優しい味がした。
「…貴方方には物足りぬ物でしょうが現状はご理解していただたでしょう。これを一日にニ度、口にできるだけまだマシなのです。」
小娘の匙を持つ手が震えているのは気のせいではないだろう。
「いや、現状は大体理解した。この環境でここまでの食い物があるだけ凄いことだ。それも全部あんたの力量だろう。」
その言葉の後、震えた手の感情をぶつけるように無言の拳がベッドを叩いた。先程とは全く違う真っ赤な目が合った。
「わたくしに、力量が足りないからここまでしかできぬのです。」
絞り出すような言葉は誰が聞いても震えている。
「わたくしに、もっと力があれば。わたくしがもっと、わたくしが!」
その瞬間地響きと建物の揺れ、なによりも少女の言葉を掻き消す金切り音がつんざいた。
「なっ!何故こんなところまで!」
小娘が慌てて窓に近寄るよりも速くその窓から女が飛び出す。まぁ〜た何かに首を突っ込む気かあいつは。何かわからんが本人自体は大丈夫だろ。
はぁ…さっきから真面目に何かに邪魔されているとしか思えん。この小娘に言いたいことも聞きたいことも山ほどあるというのに邪魔が入って仕方がない。
「これほどの気配に…まさかお一人で向かわれたのですか⁈いけませんっ!速く、貴方のお連れ様を止めねば!」
この小娘も焦ることがあるらしい。少し人間味を見れて安心した。
「あー…多分あの女は大丈夫だ。それよりもお前に言いたいことがある。あいつもいないしいい機会だろ。」
突然近くに現れたヤバい魔獣の気配に一切動じてない俺を見たロゼの眉がどんどん吊り上がっていく。俺に向けていた疑問が疑惑に変わっていったという表情だな。
いやなんかわからんがこの騒ぎに俺は関係ないからな。そんな意味無いことをしてる暇はない。
それよりも…ふぅと小さく息を吐いた後静かに深く息を吸った。
「…我身は大地、大地は民、民は国、国は我身。民なくして国と呼べず、人無くして大地と呼べず、大地無くして王は無し。我らは大地と共に生く。」
美しい人形の顔がただの驚いた年相応の娘の顔に変わった。その表情を見て確信に変わる。
「当たりだな。」




