第23話 別に国が無くなる事くらい珍しくもない
何となく、そこに行かなきゃいけない気がした。声も姿も見えない何かに呼ばれた。言葉では説明できない、何かが呼んでる。わかんないけどそこから目が離せなかった。
とりあえずマイくんに了承をもらったのでそこに向かおう。
目の端に映る国だった何かの切れ端はあまりにも無残で悲しい。どんな場所だったのか、この国のことは何も知らないけど凄く悲しかった。
マイくんの指示で行った先にあったあの黒い山。あれがマイくんが言っていたこの国の象徴だったつていうカナロムの木だと思う。
ちょっと口を挟める雰囲気じゃなさすぎて何も言えなかった。花の都だったっていうこの国の本当の姿が見たかったな〜…
どれだけ走っただろう。荒れた地の景色がほとんど変わらないせいで分かりずらい。
ふとピクっと自分の身体が反応した。人…?がいる気がする。まだ先だとは思うけど足の動きが少し早くなる。マイくんが悲しそうでなんだか誰でもいいから人に会って欲しかった。
ほんの少ししてから腕の中のマイくんにも反応があった。
「…人がいる。」
小さく呟く声。やっぱりマイくんも感じたみたい。とりあえずそこを目指そう。
というかここに来るまで、弱いけど気持ち悪い動物何匹倒したんだろう。10は軽く超えてる。ぬるっとしてギラっとしててグリっとしてて本当に気持ち悪い。
あれは流石に食べるか考えるかも。ちょっと美味しくなさそうだし。
その後すぐ、遠くに小さな…なんだろう。何か見えてきた。あ、もしかして家…かな?
ここまでの道のりでようやく風景に変化が見えた。切り立った崖山に囲まれたこの器の底のような場所。人が住める最低ラインギリギリのような家らしきものがある。
生活には向かなさそうなこの場所で人が住めるのか、流石の私もちょっと驚いた。
人の気配も疎に感じ始めたのでスピードを落として普通に歩く。
この世界に来てマイくんとサーシャちゃん以外の初めて会う人間かぁ…あ、ちょっと緊張してきたかも…
…ん?
ギィっン!!!
自分のデカスプーンを構えたほんの少し上で光る刃先が震えている。それの先にいる刃の持ち主と目が合う。
うーん、同年代か自分よりちょっとだけ年上かな?大人マイくんと同じくらいの18、9くらいの少年…青年?
黒に近い茶の髪がなんか犬耳みたいに三角に立ってる。こういうオシャレなのかな?
執事みたいな服だけどシャツ出したりネクタイ適当につけてたり、着崩してるし…なんかちょっと薄汚れててダメージが所々にあるし…ずっと戦いでもしてたのかもしれない。
そして何よりツッコんで良いか分かんないけど、首にベルトみたいな…ペットの首輪みたいなものが巻かれてる。
そして首の中央には大きめの南京錠…見なかったことにしよう。世の中には色んな趣味の人がいるらしいしね、うん。
目の前の透明な壁にギリギリと当たり続けてる…ナイフ…刀…じゃないね、これ。ん〜…人間に金属製の獣みたいな爪付けたらこうなります、みたいな…?
「鉤爪とは物騒なもん付けてんな。」
へー、これかぎづめって言うんだ。なんだかカッコいい〜。
そういえば武器代わりにしてる私のスプーン、マイ君の防壁のおかげでいらなかったなと今更ながら仕舞う。
あ、実はこのスプーン!なんか持ち手のところにある緑色の石を時計回りに回して石の周りに彫られた小さな文字を繋げるとサイズがちっちゃくなります!カレースプーンサイズだよ!すごい便利!!
そして石の部分を強く押せばシャベルくらい大きくなる!それをいつも紐で首とか腰とか好きなところにぶら下げてます!
スプーン持ち歩いてるのって側からみれば食いしん坊に見えてるのかな?
今はとりあえずスプーンの話は置いておこう。
ギリギリと睨み合いながら時が動かない。睨み合ってる片方は幼児の姿で私の腕の中。もう一人は空中で透明な壁に金属の爪を食い込ませ続けてる。変な空気感。…なんでこの男の人、空中なのにバランス崩れないのかな?
しばらくしてギィンと弾いた音と共に目の前の青年が後ろに飛び退く。あ、空中で一回転した。かっこい〜…けど、意味あった?
「…テメェら何もんだ。」
おぉ〜、ひっくい声でメチャクチャに睨んで来てる。本当に犬が威嚇してるみたいだ。
「僕らはしがない旅人ですよ。」
あれっ、マイくんが手から降りたと思ったらいつの間にか大人になってる。すっごい胡散臭い笑顔で何事もないように言うんだから凄いよねぇ…
「嘘つけ!ただの旅人が子供から大人になったりするわけねぇだろぉがよぉ!!!」
至極最もなツッコミが入ってしまった。うんまぁ、そうだろうね、うん。
「テメェらが何しに来た何者か知らねぇがよぉ、ここにはもう残っちゃいねぇよ。わかったらさっさと帰れ。」
吐き捨てるようにこっちを一瞥した。いや、うん、怪しい人なのは認めるけど…不審人物をそんな簡単に帰していいの?
「いや、帰る気はない。」
えっ、あ、帰る気はないけどマイ君そんな真正面から返さなくても…
「あ゛ぁ゛⁈」
ほら〜そんな直球に言うから〜
「会わせてくれないかな。君たちのボス。」
うわっ、さっきよりも強い風と音がこちらに圧をかける。
「ぶっっ殺す!!!」
青白い光が飛ぶくらいにギリギリと鉤爪と透明な膜がぶつかり合う。
「やっぱり君達の主人が居るんだね。」
あ、なんで急にボスに会わせろとか言い出したのかと思ったらもしかしてハッタリだったの?
「君みたいな駄犬を飼い慣らすなんて中々お強いらしいからね。ぜひお話しでもさせてほしいな。」
笑顔で簡単に攻撃を受け続けるマイくんの異常さに流石の犬くんも怯んでいるね。分かる分かる、マイくん怖いもん!!
「…おいてめぇ何もんなんだ。…テメェらもまた壊しに来たんだろ?」
壊しに…?凄い失礼なこと言うけどこの場所にこれ以上何か壊れるものが…
「ネコ!!!!手伝え!!!!!!!!」
咆哮のような大きな声に身体がびくりと跳ねてしまった。人よりも耳がいいので突然の大声はやめてほしい。頭の奥底がキーーンと鳴り響き続けてしまう。…猫?
ギィぃぃいン
金属が揺れる音の後に地面に小さな穴ができてた。あれ?穴の淵が濡れてる。
自分の右手を見ると大きくしたスプーンを振りかぶって何かを弾いたみたい。無意識って凄いね〜。って一息つく前にもう一つ。またもう一つ。そのあと立て続けに4.5.6.7……〜97.98.99.100!
大台行っちゃいましたけど。もう数えるのやめていいかな。弾くのよりも数える方が面倒くさいや。
周り見ると私を囲むように抉れた地面がぬかるみのせいで酷いことに…うん、私のせいじゃ無いはず!!
そういや私が弾く音以外は静かだなぁ、と思ってチラッと前を見ると両目をまん丸にした犬君と…何でマイ君まで引き攣った顔をしてるの?
あ、急に弾丸が止んだ。ちょっと勢い増しでスプーン振りまくってたから拍子抜け。
スプーンを振りかぶると雫が弾けて飛んでいった。私も水がかかったみたいにビチャビチャで地面も大雨が降ったあとみたいになってる。飛んで来てたの、弾丸じゃなくて水みたいなものってこと?
「…んにゃにものにゃのですか⁈」
急に真上から甲高い声が聞こえてびっくりした。ニャーニャー言ってて何言ってるのか聞き取りづらいね。さっきからちょっと離れたところにあった気配の主がこの子か。
そのまま犬君の隣あたりに飛び降りてくる。真上の方に気配があったわけだけど、周りに高い木とか建物とか無いのにどこから来たんだろう。
声の主はメイド服みたいな服を着た女の人だ。ふんわり広がる黒いスカートにお腹をコルセットみたいなので締めてる。…胸でっっか!邪魔そうなのにこんなのでよく動けるね〜。
左目だけ菱形の眼鏡をしてて髪の毛は上で二つ少し尖ったお団子。それが耳みたいに見えるから猫って呼ばれてるの?
う〜ん、服装は中々に可愛いかも。見た目とは不釣り合いすぎる、両手で担ぐサイズの真っ黒い銃を持っていなければだけど。
両肩で息してるし何でこんなに疲れてるんだろう。あ、私を狙って何かしてたのがこの人だからか。こんなに沢山連続で攻撃してきて疲れないのかなと思ったけど疲れた結果がこの状況なのかもしれない。
「おいネコてめぇ!ほんっと使えねぇ!!」
犬君が吠えてる。この子の名前がネコちゃんなのかな。なんか変な人達…初めて会った人達がこの2人か〜…ちょこっとだけ残念かも。
「そ、そんにゃのイヌッコロだって同じじゃにゃいか!!」
「あ゛⁈テメェよりマシに決まってんだろぉ⁈こないだもテメェは…」
今まで攻撃をしてた人を目の前にしてるのにほったらかしで言い合いしないで欲しいな。ほら、マイ君がちょっとキレ始めてる。マイ君、短気だから手短に済ませてね。
とか思ってたけど中々言い合いが終わる気配がないや。私の服もマイ君が魔法を使ってくれたおかげもあるけど完全に乾いちゃったよ。いっそのこと2人とも叩いちゃおうかな。
流石の私も飽きて地面に座ってスプーンで地面を無意味に掘り始めた頃、ビュォッと風が通り抜けた。
この風って…マイ君さっきまで待つのに飽きてアイテムボックスの中身確認してた気が…
横を見ると完全に青筋を立てたマイ君が風をビュンビュン動かしていた。あーあ、犬くんも猫ちゃんも地面に押し付けられてる。
「君たち、そろそろ気は済んだかな?」
うわっ、なんか気持ち悪い喋り方してる。てかすっごい笑顔なのが怖いって。さっき怒られてた時のこと思い出しちゃう。
「じゃあ、ここからは俺の番な。」
風に巻かれて蓑虫状態のワンニャンズが空中に浮く。ありゃ〜、顔真っ青。
「一回頭冷やそうか。」
それマイ君が言うの?とは流石に口には出しませんでしたよ。はい。だって私まで蓑虫にされるのは嫌ですから。
5メートルくらい上に上がっていく二匹を見上げる。うぞうぞして動こうとしてるけど流石にマイ君の風は振り解けないみたい。
そのまま凄い勢いで回転が始まる。…うわぁ…洗濯機みたい…。
グルングルン回る二匹をしばらく眺めた後、少し距離をとってまた地面に腰掛ける。これいつまでやる気なんだろうな〜。流石の私でもこれは酔いそうだ。
「本当に、私でも酔いそうだわ。」
やっぱりあそこまで回ると気分悪くなっちゃいそうだよね〜。マイ君も容赦ないよね。
うんうん頷きながら隣を見た。その瞬間後ろに大きく飛び跳ねる。
あ、ヤバい、いきなり動いたけど背中のサーシャちゃん大丈夫だったかな…いや、それもそうだけど…その…何この子。
ざぁっと立った鳥肌をさする。隣で話しかけられるまで一切存在を感じなかった。
中学生くらいの見た目の女の子でウェーブした長い金髪を後ろに流している。服は…ロリータって言うんだっけ、ピンクのフリフリふわふわした服を完璧に着こなしている。
胸元には10円玉よりちょっと大きいくらいの金色のメダルみたいなお値段高そうなブローチ。手には服装と同じようなフリフリピンクの傘。
真っ青な目も金の髪もフランス人形みたい。ヒールの高い靴なのにこんなにちゃんと綺麗に立てるの凄いなぁ…
でもこんなに可愛らしいのに全くもって隙がない。さっきの兵士さん達よりも多分…絶対強い。
「ひ、ひめさまぁぁあああああ」
「うわっ、て、てめぇぁぁぁあ」
グルングルン回転し続けている二匹が何か言ってるけどそれすら気にせず回し続けるマイ君も流石だよねぇ。
「…お前がこいつらの主人か?」
顎で二匹をしゃくりながらマイ君が聞く。気持ち悪い笑顔じゃないから機嫌治ったみたい。二匹で憂さ晴らし出来たのかな?良かったよかった。
にこりと微笑んだ少女がそのままふわりと飛ぶようにして回転し続ける二匹の前に降り立った。
「この度は私の手足が大変無礼を働きましたこと、主人として謝罪させていただきますわ。」
スカートを摘みながら深々と頭を下げるその様子はあまりに一枚の絵画のようで見惚れてしまう。一挙一動全てが綺麗だ。
「申し遅れました。私、僭越ながら此処を統率させていただいております、ロゼと申します。お詫びとして何か御用ございましたら、出来る範囲内で、させていただきますわ。」
にっこりと向けた笑顔に背筋がまた寒くなる。あぁ、多分この人もマイ君とおんなじ得体の知れない強い人だ。でも悪い人じゃないのもマイ君と同じ気がする。
「…マイラスだ。こちらこそ突然足を踏み入れてしまったこと謝罪する。どうか受け入れてほしい。」
あれっ、マイ君が素直に謝ったことも驚きだけど…礼の仕方がなんかお上品…いつもの乱暴なマイ君どこ行った?
「それよりもコレ、貴女の手下では?そちらは放って置いて良いので?」
いやいやいや、回転させてる本人が言うことなのかと疑問が残るよマイ君。確かにこの女の子なら助けられそうなのに完全に放置だけれども。
「ふふふ、このくらい良いですよ。悪いのはこの子達ですのでこのくらい躾の範囲ですわ。」
うわ、さっきの笑顔とは違って今度は本気で楽しんでいる笑顔だ。年相応、無邪気すぎる顔が違う意味で怖い。もしかして…意地悪な人?
「ふっざっけんっなっ、てめぇぇぁぁぁあああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
今だに回り続けてる犬君からの悲鳴が面白い。こんだけ回っててそんな悪態つけるのも中々だと思うよ。隣で嬉しそうにエヘエヘ言ってる猫ちゃんも異常だけど。
「でもそろそろ離していただけると嬉しいですね。」
あ、やっぱり可哀想だもんね。
「私からの躾が出来ませんので。」
うっわやっぱこの子怖い!!!!
急に止められた二匹が地面に落とされた。マイ君も容赦ないんだから。
二匹とも落ちる瞬間全然防御できてなかったからかなり全身ぶつけてたけど痛くないのかな。特に犬君顔からいったし。
「おいコラてめぇ!何笑って…ゔぐぅぁっ!」
犬君、落ちてすぐに起き上がれるのは凄いんだけど…あ、鼻血出てる。
その瞬間、喉元に少女からの華麗すぎる後ろ回し蹴りが炸裂した。あまりに滑らかな美しい動きに思わず拍手をする。
「私言いましたわよね?我が子達に害なす悪い者を排除なさいと。この方達、貴方に何か害をいたしました?私が見てる限りそんなことはありませんでしたわね。それどころか貴方から攻撃しましたわ。ねぇ、いつになれば私の言葉の意味、理解するのかしら。」
首輪の南京錠の部分を引っ張りながらおでこをぐりぐりとぶつけている。あんな近距離であんだけ凄まれたら私なら多分泣く。
見た目は子供なのにロゼちゃんの圧が凄すぎる。マイ君より躊躇ない所が怖いよこの子。
てか犬君意識ある?多分気絶してると思うんだけど。
「ひ、姫さまぁ、ネコにも、ネコにもやってくださぁぁい。」
そんなロリータちゃんに縋り付くように猫ちゃんが頬擦りをしてる。あ、これSMぷれいとやらか。見てちゃいけないやつ?
「ネコ、今日一日、私の視界に入るの、禁止、ね。」
ロリータちゃんの足に頬擦りしていた猫ちゃんを蹴り飛ばしながらロリータちゃんが微笑む。ガーーンって効果音が聞こえそうなほど猫ちゃんがショック受けてる。あ、膝から崩れ落ちた。何この3人凄い面白い。
「お見苦しい所を失礼いたしましたわ。この子達、何回躾をしても中々覚えないんで困ってるんですの。」
困ってると口では言いつつ猫ちゃんを再度足蹴にした様子はなんだか楽しそうに見える気がしますが…。これも多様性ってやつかな。見なかったことにしよっと。
「…さて、大変失礼ながら貴方がたが怪しいのも事実です。ご存知かとは思いますが此処は国の外れものが集まる場所。この大陸の情勢が崩れている今、私達は今日日生きるのに精一杯な状態でございます。その中突然の来訪者でしたので少し気が立っておりました。それを踏まえた上でこの子達の粗野な言動、お許し頂けると嬉しく思いますわ。」
薄い笑みを貼り付けた口元とは違い、笑っていない目元が私達の奥底まで覗いているみたい。この子本当に信用して良いのか心配になって来た。
「僕達もここに来たばかりで何が何やら分からない状態です。その上で突然の襲撃に申し訳ございませんが酷く混乱しております。僕達のことを信用するしないは置いて、まずは一息付けるような場所にご案内いただくことは可能でしょうか。判断はそれからでも遅くはないでしょう。」
貴女ほどの実力があれば、ね。と含みを持たせた言い方はわざとなんだろうな〜。私の知らない場所で闇の取引が行われていく。2人とも柔らかい口調なのに一歩も引く気がなさそう。完全に私、蚊帳の外だ。
「…それもそうですわね。仕方ありません、着いて来ていただいてよろしいでしょうか?街中の食場までご案内いたします。ただ今は食べ物すらまともにない状態ですのであまり期待はされぬようお願いいたしますわ。」
くるりとターンするように先を歩いていく女の子。そんな一つの立ち振る舞いですら絵になるから凄いなぁ。
地面に落とされた猫ちゃんと犬くんは放置で良いの?あ、犬くんを蹴った。いやいや、起きなさいって言っても…多分それとどめ刺してるよ?
とりあえず崩れ落ちてる二匹を放置して先に進む少女についていく。なんだか変な人達に会っちゃったなぁ。




