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破壊神と呼ばれた私は!  作者: 米田いすき
第一章 幼き母と子守唄
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第18話 マイくんもお風呂一緒に入ればいいのに


「というわけで5日後にはここを立つ。まず目指すは[リスタール国]、ガイア最大の多様国家だ。辿り着くまでは長い時間がかかるからそれなりに覚悟はしておいてくれ。」


 いつもの飯の部屋に女とサーシャを呼んで出発の事を伝える。地べたに座った2人の前にマップを広げてそれを指差しながら説明していく。

 どんなルートで進むのかをこいつらに教えても意味ないかもしれないが、損はないだろう。


「えっと、歩いて行くんですか?」


 畏まったように正座をして話を聞いていた女が手をあげて発言する。いやなんだその発言の仕方。普通に話せばいいだろ。

 その隣では同じ座り方をしようとしてすぐに根を上げたサーシャが崩した足を撫でている。


「色々考えてはみたが魔道具を使った場合の魔力の消費を思えば歩くしかないな。最低1ヶ月はかかるが、まあお前レベルの人間が護衛すれば大丈夫だろう。」


 全部をこいつ任せにする気はないが、魔物類に関してだけは丸投げする気だ。魔力を使いたくないとか色々理由はあるがぶっちゃけ面倒くさい。

 荷物は俺のアイテムボックスに全部詰め込めばいいし、そんなにキツくはないだろう。

 女の方を見ると何か言いたげな顔をしている。こっちの顔を伺う前に質問ならさっさとすればいいだろ。


「…私が抱えて走ろうか?」


「…は?」


 質問くらいさっさとしろと言ったが前言撤回。何言ってんだこいつ。口から出た言葉がぶっ飛びすぎてて全く意味がわからない。


「2人ともまだちっちゃいし私が抱えて走った方が早いよ。」


 何か言いたいのに言葉がでてこない。こいつはまさか俺とサーシャの2人を抱っこして走ると言っているのか?年頃の小娘が?子供を2人?意味がわからない。


「2人くらいの軽さなら問題ないし、多分走る邪魔にもならないよ。」


 ガキとはいえ2人分がどれだけの重さだと思ってんだ。子供の体重をこいつは知らないのだろうか。


「…魔法も使えないお前が、ガキとはいえ人間2人も担いで、一日どころか、何時間も走れるわけないだろ。もう少し現実的なことをだな…」

「走れるよ?」


「はぁ?」


 俺の言葉に被せるように言われた言葉にまたもや気の抜けた返事をしてしまった。会話が成立しているか心配になってきた。


「いや、やったことない…から、わかんないけど…多分大丈夫。この森の端まで行ったことは無いけどジャンプしたら端が見えそうになるとこまでは行ったことある。1日かかったけど。 帰り合わせて2日走っても何も問題なかったよ。」


 そう言われると前に2日間どこかに消えたことがあったなと思い出す。ちょっと出てくる、と言って2日帰ってこなかった時は今度こそ死んだかと思っていたが何事もなかった顔で戻ってきたので何も聞かなかった。あの時本当に丸2日ずっと走ってたのか…?


「…睡眠は?」


「2、3日は眠らなくてもへーき。最高6日大丈夫だったことある。」


 絶句。文字通り何も言えなかった。魔法を使えば似たような事はできるかもしれないがそんな事をすれば代償が怖い。力の前借りと言えばわかりやすいだろうか。無理にでも体を動かしてしまえばその分損傷する部分が必ず出てくる。

 もちろん今もスキルを使って女の発言が嘘かどうかを調べているが全く嘘は付いていない…いやそっちの方がおかしいだろ。ただの妄想と現実の区別がつかないヤバい奴…ではないよな?

 こいつの身体能力の高さはこの目で見ている。あながち嘘ではないと分かっているからこそ何も信じたくないのだ。


 女の隣では同化しそうな程にペッタリとくっついたサーシャがお姉さん凄いとキラキラした目で見ている。なんで昨日今日でそんなに仲良くなってんだお前ら。


「…あー…じゃあ、乗り物は…よろしく?」


 親指を立てた右手を勢いよく前に出してくる。これはコイツなりの了解のポーズらしいのだが俺には呆れるしか出来ねぇ。


「お姉さん、あたし達をずっと抱っこして走るよりも何か…紐とかで縛った方が安定するんじゃない、ですか?」


 女の服の裾を引っ張りながらサーシャが言う。あー、そうか、こいつを乗り物として考えるなら何か乗れる物作ってた方が走るのとか安定するよな。こいつも俺らも。

 …本当に俺はこいつに乗って行くのか?やべえ、不安しかねぇよ。


 はぁ…一度でもこの身体で行ってれば〈転移魔法(テレポート) 〉使えたのに。くそッ、なんでまだ最上級魔法使えないんだよ。

 あれさえあれば緯度経度を指定しただけでどこでも好きなとこに転移可能だったのに。魔力が足りないのも最悪魔石いくつか代償にすりゃ問題なかったし。はぁーあ。

 この女を乗り物にするなんて想像しただけで憂鬱になってしまう。

 かと言って他に良い案があるかと言われれば特にない。5日後に出発は何としても予定通りにしたいし…

 俺は快適な旅にするために予定までの5日間に全力を費やすことに決めた。




「ん〜!出発日和だね!」


 出発予定日当日。身体を伸ばしたり屈伸したりと準備運動をしながら女が何かほざいている。

 ちなみに出発はまだ日も登らない明け方だ。日が登ると魔獣の動きがかなり減るから明け方に出て暗くなったら休むのが一番安全だからな。

 ということで明け方なのだが…まだ暗い外には霧が出ており視界が悪く、全くもって出発日和には思えない。


「出発日和なの?」


 まだ眠たげに目を擦っているサーシャが女の服の裾を引っ張りながら聞く。こいつに言葉の意味を聞いても無駄だと思うぞ。


 この出発の日までの5日間でアイテムボックスの中に出来る限りの食料を詰め込んで…と思っていたのだが、女が獲物や植物を取ってくる度に腐らないように入れていたせいで元々凄い量が入ってたからそこまで準備する必要は無かった。若干料理してすぐ食べられるようにしておくくらいだ。森で料理して魔獣に襲われるとかたまったもんじゃないだろ。

 まあ土魔法で家作って存在希薄の魔法使ってあーだこーだして簡易とは言え完璧なアジトを作るから大丈夫だとは思うがな。

 ただこいつといると忘れそうになるがここは蜘蛛の森だ。万が一、もし万が一、アレが目覚めていたら…最悪のパターンも考えなければ調子に乗ってここで全滅なんてことにもなりかねない。


「よし!2人とも早く乗って!いこいこ!!」


 なんっでこいつこんなにノリノリなんだよ。無性に腹が立つんだが。


 今回の旅でこいつを乗り物にするために作ったのは木を組み合わせた物をリュックのように背中に背負う形の物。簡単に言うと乗るやつが落ちないようにベルトをつけた背負子みたいなやつだな。

 板に直に座るのは流石にあれなのでクッションなどで囲んで中々な座り心地に仕上がっている。

 ちなみにそこはサーシャの席である。一番乗り心地が良いだろう背中のスペースはサーシャのものだ。

 あ?俺の席はどこかって?後ろが埋まってたら一箇所しか残ってないだろ。…前だ。

 最初はどうにか背中にしたかったんだが、女の背中に2人乗るのは物理的に難しかったし、安定しなかったんだよ。

 しかもサーシャの方が俺よりも身長が大きいので安定性を求めるとどうしても背中がサーシャになる。

 そして俺は惨めに前で赤ん坊のように抱っこ紐で括られるのである。ひじょ〜に不服である。もういいよ、好きにしてくれよ…

 女の方を見れば今すぐにでも走り出そうとしているし、サーシャですら眠そうだった顔をシャッキリさせてすでに背中に乗り込んでいる。

はぁ…乗りゃいいんだろ乗りゃ。


「よし!マイくん、サーシャちゃん!大丈夫?問題ない?」


 女の問いに力なく吐息のような返事を返す。女の後ろからは元気な声が聞こえたが最早どーでもいい。


「じゃあ、しゅっぱつしんこ〜う!」


 元気に声を張り上げた女がトントンと軽く飛ぶようにその場で足踏みしてから足を前に出した。

 一歩二歩とそれは軽やかでとても子供2人抱えているとは思えない滑らかな動きだった。

 抱っこ紐の形的に女の胸元ど真ん中に顔を埋めるしかないのだが、流石にそれは嫌なので首をかすかに動かして周りに目を向ける。

 そこで度肝が抜かれそうになった。

 景色が過ぎ去るスピードが人力のものとは到底思えない。〈視覚強化〉と〈思考加速〉のスキルを使わなければ見えないのではないかと思うほどの風のようなスピードだ。一昨日乗り心地を試す際に走ってもらった速さとは比べ物にならないんじゃないだろうか。


 現状の揺れることもなく快適な乗り心地も最初は地獄のようだった。上下左右にガクガク揺れるのを俺はなんとか耐えられたが真っ青な顔になったサーシャは少し離れた場所で四つん這いになって朝ごはんと再会する羽目になっていた。

 この走り方では自分で歩いた方が精神衛生上良い事になってしまうのでとりあえず重心をブレさせない走りを身につけてもらった。

 まあ、身につけるも何も二、三回走ってすぐにモノにした様子は身体能力が俺たちとは比べ物にならないと今一度思い知らされたわけだが。

 こいつの身体能力は成人した獣人族も軽く凌駕していると思われる。これがこいつのユニーク魔法なんだろうか。それにしては聞いたこともなければどういった類いのものなのか読み取ることすら難しい。

 あ゛ー、まじでなんでこいつのステータス読めないんだよ!帰ってきたら絶対に体力測定してやる!


 気を抜いているところに突然ふわりと無重力になったと思ったら衝撃のようなものが身体にのしかかった。声が出るどころか舌噛むところだったあぶねえ。

 訳が分からなくて出来る限り周りを見て現状を把握する。あー、多分魔獣っぽいのに襲われたからジャンプして避けたらしい。

 後ろのサーシャが気になるが女が止まらず走り続けているので何も問題ないのだろう。

 何かあったら女に声をかけることになっている。走っていたら聞こえないだろうと思っていたのだがこいつ耳も常人とは比べ物にならないほど良いので普通に話しかけても聞こえるらしい。こっちは自分の声すら聞こえないのに。


 とはいえ先程のような突然の衝撃が何度も続くのはこちらの精神衛生上よろしくないので〈存在希薄〉の魔法をうっすらかけておく。存在自体が消えて認識できなくなるほどの威力はないが、あれ?お前いたの?くらいの影の薄さにはなれるので少しは違うはずだ。

 今更気がついたが時折急にスピードが上がったり両腕を振るったりしているのは魔獣に対しての攻撃や逃げの行為だったらしい。考えなくてもエンカウント率が高すぎる。一時間ほどで両手では足りないほど魔獣と出会っているようだ。この森ってこんなに魔獣居たか?

 だが女の方は全くもって気にしている様子もなく顔を見上げれば息切れひとつせずにすましたままだった。

 あー、わかった、こいつ絶対人間じゃねぇ。人間がこんなことできてたまるかっつーの。

 少し柔らかさと厚みが足りない現枕部分に顔の右半分を埋めながらため息をつく。考えれば考えるほどこちらが馬鹿らしくなる。こいつを人の常識で考える方が馬鹿だったのか。


 しばらく揺られていると段々と強張っていた身体の緊張が解けていくのを感じる。適度なリズム感のある揺れと密着している部分が暖かくて心地いい。女を中心に風魔法で薄く覆ってあるので風も寒さも感じない。

 少しくらいなら大丈夫だろう。今日は朝も早かったしここ数日準備で疲れた。重くなった瞼をそのまま閉じた。少しだけ、眠ろう。




「…あ?今何時だ?」


次に目を覚ました時は太陽が真上にあった。


 周りを見ると女はまだ走っていた。疲れたら休憩していいって言ったよな??

 超どうでもいいけど便利なスキル〈体内時計〉で時間を見る。もう昼だった。え?半日いかなくともその半分くらいは寝てしまったのか。

 つか朝出発してからぶっ通しで走ってんのかこいつ?女の顔を見ると朝と何一つ変わらないすました顔をしている。簡単に走り続けることが出来ると本人は言っていたがこの目で見ると流石に引いた。


「おい、流石に一度休もう。」


 上を見上げながら声をかけると女が何かを言った。いやこの速度の中じゃあんま聞こえないって。


「もう一回言ってくれ!」


 風を少し操作して音がこっちに届くようにしたので何とか聞き取れそうだった。


「もう少し先に水がある匂いがするからそこまで行こう。」


 水の匂いがする??こいつ人間じゃなくて獣だったか。まあ水辺の方が何かと便利だとは思うのでそれで了承した。


 ほんの少し経つと確かに湖のような場所にたどり着いた。広く開けているので休むには絶好の場所だ。

 ようやく女に降ろしてもらって伸びをすることができた。流石にずっと同じ体制はキツすぎる。体がバキバキと音がなるようだ。幼いガキの体は柔らかいので実際に音が鳴ることはないのだけれど。

 横を見るとサーシャがへたり込んでいた。思った以上にキツかったのだろうか。しんどいなら声をかければいいのに。


「酔った…」


 サーシャは乗り物に弱いらしい。何とか目を瞑ったり眠ろうとしたりして耐えていたのだが流石にこの長さはどうにもならなかったか。…水でも飲んでおけ。

 コップに水を入れてやってサーシャに渡す。弱々しく受け取ったがちゃんと飲んでいるのでまあ大丈夫だろう。


 とりあえず休憩用に超簡易的な小屋を作る か。小屋というかほぼ土の壁のみである。飯食って少し休憩するくらいならこれでいいだろ。〈認識阻害〉の魔法をかけているので一刻くらいは見つからないはずだ。

 昼時だし飯として干し肉を軽く焼いたものとスープを各自に渡して食べさせる。

 サーシャはどうしても入らないらしいので一度食べ物はしまってクッションと毛布を渡しておく。ちょっと横になってた方がいいだろ。

 それを手に部屋の隅に行って壁に張り付くように横になってから動かなくなった。どうか安らかにな…


 女はというと早々に飯を食い終わったと思ったら何か準備している。


「どうしたんだ?」


 服を脱ぎ始めたのでマジで何をする気かと思った。こいつはいつも脈絡もなく突然行動し始めるので振り回されてばかりだ。


「暇だから湖泳いでくる。魚いるかもしれないし。」


これだから獣は。


「いや、お前休憩って知ってるか?休むんだぞ??長時間ガキ2人担いで走ったやつがすることかそれ???」


 俺は何か変なこと言ってるか?何でこいつに何言ってるんだって顔されなきゃいけないんだよ。

 無性に腹が立つので殴りたいがこの女には全く効かないのでため息だけで諦めた。


「ご飯食べて座ったからもう休憩したよ?それにまだ全然疲れてないし、せっかくお魚食べれるかもしれないからお魚獲るべき。お肉以外も食べたいしね!」


 なんでこんなに食に貪欲なんだこのバカ。もう好きにしたらいいと思う。


「…いってらっしゃい。」


これが俺が言える精一杯の言葉だった。


 さて、動いてなかった者が休憩を長くダラダラとっても仕方あるまい。当の本人は元気そうだし、サーシャが復活して飯が食えるようになったら出よう。

 まあ一刻もあれば充分か。それだけ時間があれば作れるか…はぁ、仕方ないな。

 小さな鍋とアイテムボックスからいくつかの薬草を取り出して、すり鉢で潰した後に火にかける。いくつかの工程を経ながら少しずつ魔力を込めていく。草の形状がなくなるほど滑らかになって更に透明で少し光り始めたら完成だ。

 ポーション、といっても効果は小程度のものなので酔いには丁度いいくらいだろう。

 後もう一つ違う薬草を取り出していくつかまたすり潰しながら混ぜる。確か酔い止めの薬ってこんなレシピだった気がするんだけど…やべえ、3、40年ぶりだと流石にうろ覚えだ。

 …ま、大丈夫だろ。変なもんは入れてないはずだし効かなかったらドンマイってことで。

え?何で初めっから作ってあげなかったのかって?ここまで酷いと思ってなかったんだよ許せ。


 ちょうどサーシャがのっそりと起き出してきたのでポーションを飲ませる。幾分か顔色が良くなったので効果があったのだろう。

 酔い止めは食後の方が良さそうなので先にご飯を食べさせる。また再会を果たす羽目になるかもしれない食事たちをちまちまと口に押し込んでいる。胃に何もないと余計に気分が悪くなるから無理やりにでも食べて欲しい。


 いきなり地の底から響くような音が休憩小屋を揺らした。驚いたサーシャの手からちまちま齧っていた干し肉が落ちる。

 俺はいつものデジャブを感じているので何も思わない。不安そうな顔をしているサーシャに一言かけてから外に出る。

 案の定びちょびちょになった女が見上げるサイズの魚を横に佇んでいた。


「おい、今度はなにやらかした。」


 顔が引き攣る。この独特の縞模様と特徴のある背鰭、鋭利なギザギザの牙は…


「えへへ。お魚ゲット!」


「これ池の主だろ!!!」


 思わず叫んでしまった。このサイズとこの種類は間違いなくサーペントパーチ。何処の池でも生息しているが普通は大きくても人間の子供くらいのサイズしかない。

 その中で稀に1匹だけ異常な程大きくなるやつがいる。そうなると名前がサーペントグラントパーチに変わる。

 それは池の主として君臨している奴だ。そこまでのサイズになればかなり気性が荒く捕獲は難しいはずなのだが…なんで目の前にいるんだ?


「これ食べれる?」


目を輝かせて聞きやがって。


「食べれる食べれる。」


 めんどくさいので適当に返事をする。まあ食えるのは本当だし料理の仕方によってはそれなりにうまいし。


「…もしかして今すぐ食いたいのか?」


「なんでわかったの?」


 濡れた服を絞りながら不思議そうに聞いてくる。そんだけ目を輝かせてソワソワしてりゃ誰だってわかるっての。


 魔法で服を一瞬で乾かしてやってから魚に近づく。池の主ともあろう者もこいつにとってはただの食材か、と少し哀れになる。当の本人は後ろでおおおおお!と乾いた服に感動している。


 めんどくさいがさっさと処理してしまうか。まず風魔法の応用で空中で3枚におろした後、さらに細かく分ける。

 内臓とかは池の周辺に置いておけば何かしらの魔獣が食うだろう。皮と鰭、骨は素材に使えるので適当にバラしてアイテムボックスに突っ込んでおく。


「ほらよ。」


 細かく切り分けた切り身の一つに火を通して塩をかけて渡す。俺の顔ほどあるサイズだがこいつには良いおやつくらいなものだろ。


 わーいとかほざきながら両手で齧り付いてやがる。表面にしか塩を振ってないので真ん中あたりは味気ないものだろうとは思うが知らね。


 残りの身部分の処理をしていると後ろから肩を叩かれた。スッゲェ嫌だけど振り向くとほっぺをパンパンにした女がこちらを見つめていた。


「もぐんむむもむんぐぐ」


 なに言ってるかわかるわけねーだろ。さっさと飲み込め。


「んぐっ…ふぅ、もう1匹捕まえてこようか?」


 ぶんぶんと振る尻尾の幻覚が見えるのは気のせいだろうか。


「…もう出るぞバカ。」


 このままいくとこのだだっ広い湖から生き物が居なくなりそうだ。それは流石に生態系的によろしくないのでさっさと離れるしか無いか。


 それからは特に何もなく順調に旅は進んだ。休憩の度に意味がわからないようなヤバい獲物を女が仕留めてきたり、調子に乗って走りながら飛んだり跳ねたりした結果サーシャにモザイクをかけなければいけないような状態になったり、と色々あったが概ね順調に進んだ。


洞窟を出発してから7日目。


「…もう見えるのかよ…」


 目視できるほどの距離に白い高い壁が聳え立つ。本来は歩いてひと月はかかる距離のものをこいつは本当に7日でこなしやがった。

 どうにか夜には眠るための休憩を無理やりとらせたし、サーシャのために少しスピードを落としてもらったので本来ならもっと早く着いていたのだろう。本当に恐ろしい奴だ。


「…さて、どうなることやら。」


 まだ見ぬ先の展開に俺は少しだけ気を引き締めた。


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