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破壊神と呼ばれた私は!  作者: 米田いすき
第一章 幼き母と子守唄
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第15話 悪いのは全部神だ

 あまり見ないようにしてたのに「私をあげる」発言にびっくりしてサーシャちゃんの方をしっかり見てしまった。

 そして服をまくられて露わになった幼女体を見て息を呑む。

 う、嘘でしょ、そんな…信じられない。


「…お前、本気か?」


 マイ君が少しピリッとした口調で話す。でも今回ばかりは私だって同意する。そうだよね、私でも怒りが湧いてくるもん。だって…だってこんな…

 こんなにガリガリなんて!!!

しかも全身にアザがあるんだよ!それに切り傷や火傷のような跡まで…ひどい…

 私の驚いている姿を見てマイ君が何故か不審な顔をしている。


「おい、お前…まさか分かってるのか?」


 こちらに向けられたいつもより低いその声に、答えるつもりでゆっくり頷いた。分かってるよ…


「ご飯…いっぱい食べさせてあげなきゃだね…」


「お前は黙っとけっ!!!」


 えっ、なんで⁈何か凄い勢いよく怒られたんだけど!!

 マイ君だってこんなに酷い体見て怒ってたんじゃないの⁈ あ!またため息ついたーーー!!!


「はぁ…こいつは放っておいて話を戻すぞ。おい、サーシャ。それを見せたってことはお前は自分の価値をわかっているってことだな。その上で自分を差し出すと?正気か?」


 え?なに?わかんないって、誰か教えてよ〜。

 教えて教えて、としつこくマイ君の周りを回っても何も言ってくれない。あ、おでこに青筋が浮かんでる。人って怒ると本当に筋が出てくるんだな〜。

 あれ?そういえばサーシャちゃんも静かだな。サーシャちゃんの方を見てみると目をまん丸にしてこっちを見つめていた。


「お姉さん、これ知らないの?」


 サーシャちゃんが自分のお腹のおへその少し下あたりを指さす。よく見ると、というかよく見なくてもはっきりとしたマーク?みたいなのがある。最初は絵か刺青かとおもったけど痣っぽい。怪我のアザじゃなくて何かの模様みたいなアザ。鳥…かな?500円玉よりも二回り大きいくらい。

 おへその下にくっきりと、羽ばたいている翼の大きな鳥の模様。


「サーシャ、ちょっとだけ待っててくれるか?」


 あ、顔をピクピクさせたマイ君がこっちを振り向いた。うっわ怖っ!幼児がしていい顔じゃないよそれ!引き攣った笑顔が凄い怖いってば!


「おい、後で説明してやるから今は部屋から出て行け。う る せ え 」


 ガーーン。いや、口で言ったんじゃなくて本気で鐘が鳴ったみたいな衝撃が頭を襲った。

 やだやだやだやだ仲間外れは嫌だーー!お願いもう絶対喋らないし絶対邪魔しないからお願いここにいさせてぇ〜〜!

 シクシク駄々をコネたら、次喋ったら問答無用で追い出すという条件で何とか置いてもらえることになった。よかった〜。やっぱマイ君は優しい!

 とりあえずこれ以上怒らせるのも怖いので私は置物になることにします。


「はぁ…とりあえず話を戻そう。サーシャ、自分を差し出すってのはあまりにもリスキーな行動だと思わないのか?」


 ようやく服を戻したサーシャちゃんが俯いて服の裾をぎゅっと握っている。その手にはちゃんと卵も握られていた。


「俺たちからしたら2日前にお前を拾ったわけだがお前からすりゃ、さっき出会ったばかりの他人だろ?そんなやつに自分の身を差し出す?ただの人間ならまだしもお前は[神子(みこ)]だ。はっ!バカか⁈良いように使われて死んだ方がマシな人生になるかもしれねぇんだぞ⁈そんなこともわからないほどお前はバカなのか⁈!


 うっわ、マイくんの口調が完全に仮面をとっぱらった。あたしに向けて怒ったり呆れたりする時の凄い悪い口調だ。…でも感情に任せてるみたいでいつもよりキツイかも。マイくんにも何か思うところがあるんだろうか。

 まあ幼児だからそこまで怖くないんだけどね。むしろ可愛い。うん、可愛い。

 …ん?みこ?今みこって言ったよね?巫女…かな?何?え?何???


「俺たちの事を聞いてきたんだとは思うがお生憎様、俺たちはそんな善人じゃねぇ。見ず知らずの他人を助けるほど暇でもないんでね。助けたい奴がいるなら自分で助けろ。自分で出来る力も持ってないんじゃ他人に構ってる場合じゃねぇだろ。まず自分が助かる事を望め。この世界はそんなもんだ。てめぇもわかってんだろ、この世界は残酷だ。」


 マイくんがサーシャちゃんの首を指さしながら捲し立てる。うっわぁ…残酷なのはマイくんでは…さっきは優しいとか言ったけど前言撤回したいかもしれない。

 怖すぎて流石の私も引くけど口を挟むと今度こそ部屋から叩き出されそうなので黙っている。

 俺たちって言ってたけど私は別に力を貸すのは嫌ではないんだけどな…力になれるかは知らないけど。

 あぁ…サーシャちゃんがプルプルしてる。泣いちゃうよ〜。

 流石にそこまで酷く言わなくても良いんじゃないの?って言いたいけど何も分からない私はこの場では部外者だ。そのくらい自分でも理解してる。でも、でも…


 一人で静かに葛藤していると、俯いていたサーシャちゃんが顔を上げた。涙が溜まった目で逸らす事なく視線をマイくんに向けている。その目は睨んでいるようにも何か縋っているようにも見えた。


「そこまでの価値が私にあると分かっているなら尚更、貴方は私を手放さないはずです。」


 え?突然口調がガラリと変わった。今までは大人びた言葉のセリフを読んでいるみたいな不慣れな感じだったのに、急にちゃんと意思みたいな何かがあるような気がする…気がするだけかもしれないけど。

 でもな〜んかぎこちないんだよね…なんだろこの不思議な感じ。噛まずにスラスラ話しているのに違和感が凄い…。


「2日間、私は寝ていたのですよね。その間のお世話、大変感謝しております。その礼も身を尽くしてお返しいたします。ですがそうまでして私を助けてくださったと言うことは、私を見捨てる気は無いということではありませんか?見ず知らずの奴隷の小娘など捨て置けば何事にも巻き込まれる事はなかった。なのにわざわざ資源も乏しいでしょうこの森で食べ物を分け与え助けた、ということはあなたは私を元から利用なさる気です。それに私に新たな奴隷契約をしなかったということは私を無下に扱う気もないと言う事でしょう。おそらく私に何かあれば困るのは貴方様の方ではないのですか?ならば私はそれに賭けましょう。」


 このあまりに奇妙な状況に気を取られているとサーシャちゃんが素早い動きでベッド脇の何かをとった。あ、さっきまで私が木を削るのに使ってたナイフだ。


「人質は私です。これは取引ではなく脅しです。私を使いたいなら私の願いを聞いてください。でなければ今すぐこの首を切りましょう。」


 うっぇ⁈ちょ、ナイフをいきなり喉元に当ててるんだけど⁈どうするのこれ⁈私の速さならサーシャちゃんが動く前に対処できると思うけど命の保証が絶対できない!

 人を脅すとか大人でも度胸がいるのにサーシャちゃん本当に子供⁈あたしよりも言動が大人だよ⁈最近の子供って怖っ!!!!


「私の願いは奴隷となっている仲間を、友を、助けること。それさえ叶えてくだされば、貴方の奴隷となり、一生を終えても構わない。」


 片手に卵を持っているせいかナイフの構えが定まっていない。首元に突きつけたナイフの先から赤い雫が一筋流れた。

 震えた手に震えた声、今にも溢れそうな涙。なのに視線は全く動かない。その目が彼女の本気を語っていた。

 …ん?やっぱなんか違和感…目に…

いきなり部屋に爆風が起こる。爆発のような音とともに部屋が揺れた。

 目を開けるとサーシャちゃんに馬乗りになるようにマイくんが覆い被さっていた。手元にはさっきまでサーシャちゃんが握っていたナイフ。今はサーシャちゃんの左頬スレスレに突き刺している。


「はっ、それで交渉してるつもりか?助けたのはあわよくばを狙っただけの場合だったらどうする。運良く使えるなら使う、使えないなら捨てる。そのくらいのつもりで拾ったならてめぇの命なんざすぐに捨てるさ。奴隷印をつけなかったのもつけなかったんじゃない、つけられなかっただけだ。お前はまだ前の持ち主の物だからな。」


 ナイフを引き抜きながら立ち上がったマイくんがベッドから離れる。そのナイフを地面に向かって投げつけるように刺した。

 ナイフを刺した先を睨み続けるマイくんに私は声を出せなくなってた。


「そのくらいの価値しかないお前のために他の奴隷を解放?笑わせるな。飼い主がいる奴隷に手を出すことがどれほどの犯罪か奴隷のお前なら知ってるだろう。俺たちがそんなリスクを背負う義理はない。」


 ベッドの上で仰向けになったサーシャちゃんが目元を抑えて泣き始めた。どういう意図があるか分かんないけどやっぱこれはやりすぎだと思うんですが…

 流石に何か言おうとした私の顔の前に手を翳してマイくんが制す。顔を見ると何も言うなという素振りをこちらに示していた。


「…だっで、あたしにっ、出来ること…それしかないんだもん。」


 グズグズと泣きながら小さな声が漏れる。それは今のとはまた正反対の年相応の喋り方で、感じていた違和感はどこにもなくてなぜか少し安心した。


「あだしだって、痛いのも苦しいのも嫌だ。死にたくないもん。でもっ大好きなみんなが死んじゃう方が嫌だよ。あたしっまだ、何の力も使えないの。お母さんに教えてもらっても何もできないの。だからお願いするしかないの。あたし、何もできないのに、あたしのせいで皆んなが苦しいの、もう嫌なのっ!」


 叫ぶように泣きじゃくる子供を見ているのは辛かった。私は赤の他人でさっき始めて出会ったようなもの。何も知らないし何も分からない。でもきっとそれはサーシャちゃんのせいじゃない。


「おい、サーシャ。お前が本当に望んでいる事はなんだ?」


 泣きじゃくるサーシャちゃんを少しの間何も言わず見ていたマイくんが、一言ずつ噛み締めるように声を出した。

 サーシャちゃんに近づいて行くマイくんの表情は見えないけど、何だかとても胸が苦しい気がした。


「お前は本当に自分を差し出したいのか?違うだろ。他人に仲間の命を預けたいのか?違うだろ。」


「ほんとうの…」


「お前は本当はどうしたい。」


「あたしは…あたしは…強く、なりたい。」


 ベッドに投げ出していた身体を嗚咽を漏らしながらもゆっくりと起こしていく。涙で歪んだ顔なのに歯を食いしばるその姿が痛々しいと思うのは仕方がないと思う。

 それでも私は二人から目を逸らさなかった。


「本当は誰にも頼らないで、自分で皆んなを助けたい。誰にもあたしをあげたくなんかない。」


 完全に立ち上がったサーシャちゃんが、握りしめていた卵ごと胸元に両手を当てている。涙で震えていた声は強く固まって、心の底からの叫びに変わっていった。


「あたしは、誰のものでもないもん!自分の生き方くらい、自分で決めたい!!!」


 サーシャちゃんが声を上げた途端に胸元の握りしめていた卵から青白い炎が噴き出た。薄暗かった洞窟の部屋が一気に暖かい光に包まれていく。

 その中心にいるサーシャちゃんの目にも光が宿ってるように見える。とても力強い明るい光が。


「…ようやく言ったな。ガキが思ってもない願いを口に出すんじゃねーよ。自分を差し出すなんざ大の大人でも言うもんじゃねぇ。」


 やれやれといった形でマイくんが喋る。その口調はさっきとは違って、荒々しさが消えて幼い子を親が諭すような口調だ。マイくんも見た目は子供のくせに。

 サーシャちゃんの方も感情の昂りが落ち着いていっているのか深呼吸するたびに青白い炎が消えていく。


「二度と自分を売ろうとするな。お前に価値があろうとなかろうと俺は知った事じゃない。好きにすれば良い。ただ自分を売るのだけはやめとけ。自己犠牲精神は美徳でもなんでもない。そんなもん、ただのアホがやる事だ。弱いなら強くなればいい。そして欲しいもん全部自分の力で自分のものにしろ。それにはまず自分も他人も全部ひっくるめて助かる道を探せ。話はそこからだ。」


 部屋の空気感に忘れていた呼吸を思い出して慌てて深く息を吐いた。

 それにしてもやっぱり良い人だねマイくん。まあ幼い女の子に対してこのやり方はどうかと思うけど。

 この世界は私が思ってる何倍も辛い世界なんだろうね。だからこそこれがマイくんなりの精一杯の優しさなんだろうな。不器用さん!!!


「今回だけだ、今回だけ力を貸してやる。どうせお前の奴隷印を壊さないといけないからそのついでだ。今のお前には力もなければ時間もないだろ。だからその分の借りをいつか返してくれれば十分だ。今回よりも後のことは自分でなんとかしろ。なんとか出来るように力はつけてやるから。」


 右手を仰ぐように掲げると何もない空中から布が現れてそれをサーシャちゃんに投げ渡した。受け止め損ねて顔に被った布を慌てて取ろうとする姿は可愛かった。


「詳しい事情はこれから聞く。今日はもうやめとこう。この部屋を出て出てまっすぐ行った突き当たりに水場があるから顔洗ってこい。そこの水は飲めるから水分も取っておけ。通路の途中の左の道をまっすぐ行けばトイレもある。そうしたらもう寝ろ。この部屋は自由に使っていいから。わかんねーことはこの女に聞け。以上だ。解散。」


 強引とも言える形で話を切り上げたマイくんが部屋から出て行こうとする。え、ちょっと待ってください、というかこの部屋は自由にしてくれてもそりゃ問題ないけども…ここは私の部屋なのでは無いのではとか思ったりとか…

 いや、まあ、この家?はマイくんのものだし私には決める権利はないのですが。


「おい、ちょっと来い。」


 部屋を出る前に顎をしゃくって私に着いてこいと促す。部屋に残されるサーシャちゃんが気になるけど素直に着いていくことにする。

 部屋を出る前にチラリと見たサーシャちゃんは布でゴシゴシと顔を何度も擦って大きく深呼吸をしていた。


「サーシャちゃん、1人にして大丈夫かな…」


「今は1人にしてやれ。あいつは賢い。多分大丈夫だろ。」


 ポツリと零しただけの言葉にもきちんと返事を返してくれる。薄暗い通路を歩きながら自分よりも大分下にある後ろ姿に思わず微笑みが漏れてしまう。


「ねえマイくん。どうしてあんな言い方したの?」


 静かに歩くマイくんの背中に投げかけてみる。返事は期待してなかったけど少しだけ立ち止まって小さく答えてくれた。


「…ガキが、嫌いなだけだ。」


 ぶっきらぼうな言い方だなぁ。…ガキって、マイくんの方が見た目は子供じゃない?

 まあこれはこれで子供が精一杯背伸びしてるみたいで可愛げがあるね。

 ふぅ…まだひと月ちょっとしか接してないけど、少しだけならマイくんのこと分かってきたと思う。

 多分サーシャちゃんのこと、最初から助けてあげるつもりだったんだろうな〜。

本当に、


「素直じゃないね。」


「はぁ⁈」


 なんなんだよ、と悪態をつくマイくんは横を向いてしまったので顔は見えなかった。けど、何となく恥ずかしそうにしてるのは気のせいじゃないんだろうな、と思った。

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