第14話 いつも申し訳ない…
幼女を拾って2日目、ようやく幼女が目を覚ました。あの後私のベッドに寝かせていたんだけど全く起きる様子がなかった。
全身ボロボロで少し熱が出てしまった幼女を付きっきりでお世話していた。何やっていいのか分かんなくてほとんどマイくんに教えてもらったんだけどね。
とりあえず言われた通りに体を拭いたりおでこに冷やした布を置いたりしていたんだけど、全然起きなくてかなり心配だったよ。私は熱なんか出したことないし…
お世話していてふと気がついたのは固く握られた小さな手。その中には鶏の卵よりもほんのひとまわりくらい小さな卵らしいものが握られていた。
最初は石かと思ったんだけどつついてみるとほんの少し暖かくて生きてる感じがして石じゃない気がした。だから多分卵だと思う。
そんなに強く握って割れないのか心配だったけど見ている限り大丈夫らしい。マイ君に聞いたら握らせといてやれって言われたからそのままにしておいた。マイ君はこれがなんなのか知ってるんだろうな〜。
熱にうなされながら時折幼女が何か言っていた。耳を傾けるとひたすらに「お母さん」って呟き。胸の奥がぎゅっと痛くなる。私は優しく頭を撫でてあげることしかできない。
小さな目尻に溜まった涙が何かを物語ってる。何故奴隷になってしまったんだろう。何故ここまで鳥に乗って来たんだろう。
全ては起きてから本人に聞くしかない。私はひたすら幼女の頭を撫でるしかできなかった。
そうして付きっきりでお世話して2日目。幼女がうっすらと目を開けた。
部屋の隅で木を加工していたのをほっぽりだして慌ててすぐ近くに行く。
「起きた?大丈夫?」
顔を覗くと動揺しているのか瞼を二、三回ぱちぱちと動かした。
「ここは…どこ?お姉さんはだあれ?」
深緑をした大きな目がこちらを覗く。くるくるとした瞳が力強くて綺麗だ。
「えっと…お水、飲める?」
とりあえず幼女の声が掠れていたので手元に置いていた水を飲ませよう。身体を起こしてやって背中には毛皮を丸めたものを当てればもたれかけられるかな。
水を手渡そうとしたけど片手は卵で塞がっている上に手が震えていたのでそのまま支えるようにして飲ませた。
その際手が触れたけど熱くはないところを見ると熱は下がったらしい。まあ私の肌は鈍いのでちゃんと温度を測れているか自信はないのだけれども。
よほど喉が渇いていたのか喉を鳴らしながら水を一気に飲み干していく。
ちなみにこの木のコップはマイ君作です。見事なほどの滑らかさで口触りも最高の一品となっております。
それはいいとして、口元に伝った水を拭ってやる。ふぅ、と一息ついた幼女。可愛い…
マイ君に続いて2人目の小さな子供。私がこんなにも可愛いものに囲まれていていいのだろうか…
そういえば幼女と言ってるけど見た目は7、8才くらいかな。少女…って呼ぶべきなのかな?いくつくらいまで幼女で許してもらえるんだろう。
「えっと…お名前、言える?」
水を飲み終えて一息ついた幼女に尋ねてみる。このくらいの子にどう接したらいいのかわからないし、どんな口調で話しかけたらいいかもわからない。もしかしたらイラッとしてるかもしれないけどそこは許してほしい。
「……サーシャ…サーシャ・グロンテッド…」
消えそうなほどか細い声だけど答えてくれた。サーシャちゃんか〜可愛い名前だね。
「お姉さん…だあれ?」
ハッとしてサーシャちゃんの方を見るとどう見ても縮こまっている。そりゃそうだ!名前聞いてエヘエヘしてるだけの女なんて怪しかったよね!ごめん!!
「私の名前は山本あさひ!怪しくないです!」
あ、ダメだこれ。怪しくないアピールをしたかっただけなのにどう考えても怪しかったかも。
小さい身体をさらにプルプル震わせてめちゃくちゃ警戒してる!ど、どうしよう。何しても絶対墓穴を掘っちゃう。身振り手振りをすればするほどサーシャちゃんが小さくなっていく。
どうしよお〜
「…何してんだお前。」
入り口から聞こえた救いの声に速攻飛びつく。
「マイ君!!」
縋るようにマイ君に近寄ってどうにか状況を説明する。このままじゃ私の印象がサーシャちゃんの中でとんでもないものになってしまう!
「サーシャちゃんがね?目が覚めたんだけど〜…何故か私が怪しくてぇ〜…」
あ、すんごい呆れた目をされた。もうマイ君はこの顔がデフォってやつだね!でも今はやめてくれないとサーシャちゃんの私への印象が悪くなりそうだ!
「お前、名前サーシャっていうのか?」
私のことは放っておくことに決めたのかスルーしてそのまま幼女の前に立つ幼児君。あらやだ可愛い。
コクンと頷いたサーシャちゃんを見た後優しく続ける。あの…私こんなに優しく話しかけられたことない気がするんですが…
「俺の名前はマイラス。こっちの女は怪しいけど別に悪いやつじゃない。ちょっとバカなだけだ。安心しろ。」
いきなりきつい一言が飛んできてクリーンヒットした。マイ君私のことそんなふうに思ってたのか。
いやそりゃ確かに頭は良くないし、マイくんに毎日のように呆れた顔をされてるよ?でもさぁそんな正面から言われると何か〜…
ショックで立ち上がれない私を放置して、マイ君がずっと手に持っていたものを差し出した。
「腹減ってるだろ。ゆっくり食べろ。話はそれからだ。」
そういや部屋に入った時から何か手に持っているなとは思ってたけどお皿だったのか。湯気が出ているお椀型の中には琥珀色のスープが揺れている。
そっか、わざわざ消化のいいスープを作ってきたのか。やっぱマイ君いい子だよ〜
サーシャちゃんは手に持っている卵らしき物をどうしようか考えた後に自分の横にそっと置いた。横といっても体に当たるように置いていて少しも油断していないようだった。
初めは恐る恐るスプーンを口に運んでいたけどよっぽどお腹が空いていたらしい。運ぶたびにそのスピードが上がっていって多いと思っていた量のスープはあっという間に小さな体に吸い込まれていった。
落ち着いた幼女にまた水を差し出すとビクッとして慌てるように卵を握り直した。そんなに怖がらないでほしい。ショックだったのでベッドから少し離れたところに正座して縮こまった。
「サーシャ、君は2日前にこの森に飛んできたんだ。それに乗って。」
サーシャちゃんが食べ終えて一息ついたところでマイ君が話を切り出した。それ、と言いながら指さしたのは、サーシャちゃんが今でも大事そうに握りしめているものだった。やっぱこれ卵だったのか。
ん?それに乗って来た?森を飛んでた時は鳥だったよね?鳥って卵になるの?鳥が産んだってこと?あの燃えてたやつ?
頭の上に無数のハテナを浮かべている私を完全に放って2人で話を続けていく。
「それを持っている時点である程度は察してる。だが詳しい話を聞きたい。話せるか?何があってこうなって、どうしてここに来たのか。」
こうなってと言った部分でサーシャちゃんの首を指さした。奴隷になった理由を聞きたいらしい。
その〜、大変言い難いのですが…私はある程度も何も察してないのですが…?マイくん?おーい。
完全にいないものとして決め込んだらしく私のことを完全に無視しているマイくん。
どうにか構ってくれないかとジリジリ近づいてみるとしっしって感じで手で追い払われた…どうせ…どうせ私なんて…
体育座りしながら地面に指でくるくる円を描く。私のいじけているスタイルだ。
そんな私を微妙な顔で見つめている幼女。胸元では卵をギュッと抱きしめている。
そんなに強く握ったら壊れないかハラハラするんだけども。
「…話を聞いてどうするの?」
さっき聞いた可愛い声とは違う、低く冷たい声にドキリと胸が鳴る。
落ち窪んだ目が鋭くこっちを刺している。幼な子がするにはあまりにも残酷な目だった。こんな目を、こんなに幼い子がする事ができるの?
驚きよりも哀しさの方が何倍も強い。この子は一体どんな経験をしてきたんだろう。こんな目をするくらいの何があったんだろう。
そこに私は踏み込んでいいのかな。
「俺らは敵じゃない。それは君の方がよくわかっているだろ。君は言われてここに来たはずだ。」
また私の知らない場所で話が進んでいく。まだ出会ったばかりなのにマイくんは何でこんなに色々知ってるみたいなの?
この状況で頭にハテナが浮かんでるの私だけ??
そんなマイくんの意味深な発言だというのにサーシャちゃんには伝わっているらしい。
しばらく沈黙が続く。
「君は何を言われてここにきた?」
痺れを切らしたのかマイ君の方から口を開いた。マイ君、意外と短気だよね。
「…取引、してください。」
ようやく開いたサーシャちゃんの口から予想もしてなかった言葉が飛び出して驚く。
マイ君も眉がかすかに曲がっているだけだけど一応驚いてはいるようだ。
「私には今、助けたい人達がいます。でも、私には力がありません。あなた達には力があると聞きました。私には、あなた達にお願いするしかないんです。」
今にも泣き出しそうな顔でサーシャちゃんが頼み事をしてきた。その口調は拙いのに言葉は歪に大人びている。
もしかして良いとこの子とかなのかな。偏見かもだけどお金持ちみたいなお家ってお勉強してtheお嬢様!みたいな感じになるでしょ?じゃないとこの年くらいの子ってこんなに言葉知ってるのかな。
「…取引、というにはあまりにも不恰好だな。まず情報がない。何も聞いてない相手に助けを求められても俺たちは何もできない。内容も聞いてないのにホイホイ了解するのは度がつくほどのバカか死ぬほどのお人好しだ。そもそもお前はすでに俺たちに助けられてる。それ以上の対価に何を支払うって言うんだ?」
おお…ぐうの音も出ない正論パンチ?ごもっともだ。ごもっともなんだけどマイくんこんな幼い子に大人げないよ…いや、見た目だけはマイくんの方が幼いな!口調と威圧感ですっかり忘れてた。
サーシャちゃんの方を見るとぷるぷると震えて俯いている。その目元にはじんわり涙が浮かんで来ていた。なのにほとんど空気の私にはどうすることもできない…この地獄みたいな空気どうすればいいの〜…私が泣きそう。
「あたしを…」
サーシャちゃんが何か言おうとしてるなと思ったらいきなりベッドの上に立ち上がった。
何をする気なのかと驚いていると突然サーシャちゃんはスカート部分をおもいっきり捲り上げた。
え⁈いやちょっと、なんで服を捲るの⁈あぁぁ…ぽんぽんが出てるって…下も履いてないのに…女の子がそんなことしちゃダメだよぉ…
隠すべきなのか子供だから大丈夫なのか話の続きを聞くべきなのか。この状況に困惑しているのは私だけでマイくんは先程の状態から微動だにしてないようだった。
「私を、差し上げます。どうか力を貸してください!」
予想もしてない言葉に私は思わずサーシャちゃんの方を見てしまった。その身体を見て私は思わず顔を歪めた。




