第13話 面倒な奴が面倒なモン持ってくるな
夜中、子供は何をすると思う?正解は寝る。
俺は寝てた。意外かもしれないが、少しでも早く成長しなければいけない俺は、ちゃんと夜になれば寝る。
だからその日も普通に寝てた。実は前の日少しだけ夜更かししたからその分早く眠っていた。
最悪な目覚ましが鳴るまでは。
いきなり凄まじい衝撃波が洞窟を揺らした。
地震かと思って飛び起きて次の衝撃に備える。が、それ以上の音量という衝撃が洞窟に響いた。
「マイ君!!!!!!助けて!!!!!!!!」
洞窟がビリビリと震える。この部屋、防御魔法してたよな?何でこんなに揺れるんだよ。
てかあいつのこんなに焦った声は初めてだ。流石に何事かと慌てて飛び出す。
だが本当に何かあったならその時こそ出来る限り落ち着かなければいけない。先に思考加速のスキルを使うと少し落ち着くことができた。
いつもの部屋に行くと女が何か抱えている。子供…か?抱えていたのは小さな女の子だった。こんなもんどこから拾ってきたんだよ。
ボロボロに擦り切れた服。細い手足には痣。ボサボサの髪。凄く嫌な予感がする。
「首!!見て!!!!」
女がしゃがむようにして力無くだらんとしている子供の首を見せた。その瞬間舌打ちしたい自分を何とか抑える。
くっそ!!なんてもん持ってきやがったこの女!!!
「奴隷かこのガキ!」
マジでどこで拾って来たんだよ!こんなもん!
印の光とは別に蒼い炎が微かに首元に纏わりついているのも何なのか気になるが、とりあえず今は《解析鑑定》《思考加速》《魔力感知》とすスキルをいくつか併用して解析を急ぐ。
だーーーっ今の俺じゃこのくらいでカツカツだっつーの!!
印の光が微かに強くなって来た。やばい、発動しかけている。印の躾が発動すればこの子供の頭と体は二度と仲良くできないだろう。
にしても何故今まで躾が発動しなかったんだ。紫印を掛けられるほどのレアな奴隷だったから執行を渋ったのか?
いや、執行まではしてなくとも、躾魔法くらいは発動してなければおかしい。
紫印だけでなく、何色の印でも最近の躾は大体オートマだ。どこかの国から来たとすればここまで躾を受け続けるなんて子供が耐えられるはずがない。
かといってこんな森の中心に奴隷を連れて来るやつなんか居るわけないだろうし。やはりどこかの国から来たのだろうか。
長時間、躾の苦痛を子供が耐えたのか?少しの間ならまだしも長時間など流石に命を落としかねない。
色々と考えているうちに解析が終わった。といっても思考加速のおかげでこの間は数秒もなかっただろう。
それでようやく発動しなかった理由が分かった。この炎、ただの治癒系の魔法じゃない。不死鳥だけが持つ、最上位の癒しの蒼炎だ。これがあったから印が発動することもなくここまで来たのか。
何でそんな伝説級なものが纏わりついているかは謎だが、それも消える寸前だ。
あーー!くそ!!!!
《時間停止》!!!
奴隷印に向かって俺の魔法を発動させた。微かに残った炎がその瞬間消えていく。
だが紫の光はそれ以上強くならなかったので間に合ったらしい。幼い少女は安らかな寝息を立てている。
本人には干渉させずに印にだけ魔法をかけるのがどれだけ高度な技で大変か、隣でハラハラした表情で見ているだけの女に分からせたいものだ。
自分の身体からほんの僅かではあるが少しずつ魔力が消えていく。魔力が回復するスピードより若干遅い程度で、ほぼ同じ。
つまりこれ以外で魔力を使えばその分が回復しずらい。日常生活程度なら支障はないだろうがどうにか早めにケリを付けたいところだ。
とりあえずこれで大丈夫だと伝えると、ずっと狼狽えていた女がようやく落ち着いた。少女を抱き抱えて洞窟の奥に行ったので自分の部屋に寝かしに行ったのだろう。少しして戻ってきた。
「さて、どこであのガキを拾ったか詳しく教えてくれるよな?」
部屋に置いてあった毛皮の上で寝そべる。夜中に叩き起こされただけでもイラつくのにめんどくさいことまでさせられてるんだ。このくらいの態度は許されるだろう。
目の前に正座で縮こまる女の目が泳いでいる。何から話したものかわからないらしい。こいつは文章を組み立てるのが下手だから全部聞き出すまで時間がかかるだろうな、と思うとまたため息が出そうだった。
「…えっと…部屋で寝てて、夢…を見て、起きたら、寝れなくて…だから、外を走ろうと…思って…」
「おい待て、夢って何の夢だ。」
目が覚めてしまうような夢ってことは、悪夢か?ただの夢だと笑っていると後で泣く羽目になる。夢は大事だ。神に関わる者なら特に。
「…大好きな人の夢…もう会えない人の…」
…なんだ、昔の夢か。あまり深く聞くべきことでないことくらい目を見ればわかる。これでもプライバシーは尊重しているつもりだ。
まあ嘘を見抜くスキルなんざを使ってる時点でプライバシーもクソもないかもしれねぇけどな。話を止めたことを謝って続きを話してもらった。
しどろもどろの内容を整理したらこうだ。
寝れなかったから夜中なのに外を走ろうと思って出ると不思議な感覚がした。とにかくその感じがする方に走ったら燃える鳥に乗った少女が飛んできた。
それを見ていると鳥が消えて落ちてきたので急いで抱きとめた。そして奴隷印に気がついて慌てて俺に助けを求めた、と。
「なんだそれ。」
空から女の子が落ちてくる?親方って叫ぶべきか?…何言ってんだ俺。
とりあえず蒼い炎と燃える鳥の正体は分かっている。分かっているが理解はしたくない。
その鳥は伝説、いや神話級の生き物〈不死鳥〉だ。炎から生まれ炎となって消えることを繰り返す、死ぬことのない生き物。
そして第三大陸神〈ガイア〉の従獣である。
…従獣?
咄嗟に読み取っておいた少女のステータスを読み直す。そしてある場所。〈称号〉の欄が全てのことを肯定する。
面倒ごとなんかではないかもしれない。それどころかとんだラッキーが舞い込んで来たことに胸の奥がドクドクと忙しく動き出す。
都合が良すぎる。
黙りこくった俺の前で気まずそうに座っている女。怒っていると思っているのかチラチラと顔色を伺ってくる。
ふぅ、と深く息を吐く。まあいい、全てはあの少女が起きてからだ。
だいぶ明け方に近いのだろうが夜中に起きてこっちは眠たいのだ。のそりと立ち上がると目の前の女が肩をビクッと動かした。
そんなにビク付かないで欲しい、こっちはまだ4、5歳くらいのガキだぞ?おかしかったので少し笑みが溢れてしまった。
「別に怒ってねえよ。あのガキが起きないと話も聞けないだろ。とりあえず俺はもう一回寝るからあのガキのことでも見ておいてくれ。」
少しホッとした顔をした女を置いて俺は部屋に戻った。こんなガキにそこまでビクビクすることないと思うが、やはり変な奴だ。
自室に戻って一息置かずに部屋の空中にマップを広げる。
現在地は[蜘蛛の森]の中央を少し外れた洞窟の中。森を外れた場所は記憶を頼りに少しずつプログラムしていった。ガイア内の地図ならば完成している。ただ記憶は20年ほど前のものなので今は少し変わっている可能性はあるが…
ま、地形は概ねは変わってないだろう。
その地図を見ながら自分の考えがそれほど外れてないことを確信した。女から聞いた少女が飛んできた方角は…やはり最悪だな。
その国の名は〈労働国家 グズリア〉
又の名を、〈奴隷国家 グズリア〉
最悪な国に捕まったことで。可哀想にと思いつつもそれがあの少女の人生なのだろうからどうしようもない運命ってやつだ。
手が止まる。 運命 ?
自分の考えだったがつい舌打ちが漏れる。俺が一番嫌いな言葉だろが。大きく息を吐く。
それよりもあれほどまでの金の種だ。花にして売る前にどこかへ行ってしまったということは、躾はあったとしても執行をされることはおそらくないだろう。
そして飼い主は血眼になって探しているはずだ。
この世界においてたった12神しかいない最高神。その最高神が選ぶ世界に12人だけしか存在しない者。世界から寵愛を受ける者。
幼子は第三大陸〈ガイア〉の〈神子〉である。




