第12話 マイくんって結構、口が悪いね
いつものようにランニングを終えた後、崖の上から森を見渡す。今日も風が気持ちいいや。
ゆっくりと空に登っていく朝日を眺める。
今日でこの世界に来てちょうど40日が経った。時の流れって早いんだね。
あれから何度もマイくんがステータスを見ようとしてくれたけど何度やっても私の事は分からない。結局どうしてこの世界に召喚されたのか謎のまんま。
自分で調べることはできないのかって聞かれたけどそれもできなかった。そもそも私、魔法が使えない。全然使えない。体を巡るオドを感じろとか言われて10日目から練習してみたけど無理。なんか魔石っていう石を渡されたりもしたけど使い方も全然分からない。
ということで早々に諦めて私は住居を快適にすることに集中しました!その結果!!私の部屋には何とベッドができました!!
といっても、適当に木を組み立てて草を敷いてたところに、マイくんがどこかから取り出してくれた布と作った毛皮を敷いただけなんだけど。
実は私のなんちゃって毛皮が綺麗にできていたのは、マイくんがなめし液?に漬けたりなんやらかんやらしてくれてたらしい。
適当にやって完成するほど単純な世界じゃなかったね。何でもやってくれるマイくんに感謝しかないや。
一応マイ君にも毛皮を一つ渡してある。いらないって言われたけど毛皮作りすぎてかなりの量になっちゃってるんだよね。毎日獲物を獲るもんだから増える増える。
とにかく見た目はちゃんとしたベッド。マイくんにも作ろうか聞いたらもうあるからいいって言われた。
一体マイくんはどこの部屋で生活してるんだろう?一応気になる。
そういえば一つ発見があったんだった。この森のあの動く木、とても硬い。多分鉄よりも硬い。だから私自身で加工することができる!
まず木を切るんだけど、お鍋をかき回すように貰ったあの大きいスプーンを使います。めちゃくちゃ丈夫で何をしても折れない最高の道具。だから最近はあれを使って色々してる。
最初は木を折るつもりで全力で素早くスプーンを振ったんだけどスパンッて切れたんだよね。それを発見してから楽しくなっちゃっていっぱい切りまくったから材料は沢山ある!切りすぎてマイくんに怒られたので今は自重してるけどね。
そして切った木を力技で小さく折って、それをナイフで加工する。そうして色んな物が出来上がっていくわけです。
まあ最初はほとんど木屑にしちゃったけど、ここ何回かでようやく形にするところまで来れたんだよ!
一番初めに作ったのはお皿。ヤスリがないからガタガタだけど見た目は一応お皿っぽいよ!
削る時に使ってるのはマイくんがくれたナイフ。青白く光ってて刃から持ち手まで一つの石を削り出して作ったような物。
実は初めてマイくんにもらったナイフは早々に折ってしまったんだけど、次の日にすぐこのナイフくれたから凄く助かった。真ん中に赤い宝石みたいなものがハマってるけど、この用途は不明。綺麗だからただの飾りなのかもしれないね。
このナイフも初めは壊さないように恐る恐る使ってた。だってこれ絶対高いもん。
でもマイくんが壊せるもんなら壊していいぞって言うから、試しに岩に突き刺してみたら何の抵抗もなく刺さってびっくりした。その後に色々やってみたけど何をしても壊れなかった。私が全力で握っても曲がることすらない。
だから一回調子に乗って大きい岩に向かって強めに投げてみたんだよね。結果は、とんでもない爆音が鳴り響いて半径8メートルくらいの地面がえぐれて小一時間マイくんに説教された。
分かったのはこのナイフは壊れる事は無いし怒ったマイくんのお説教は長いと言う事。二度とやらないと約束させられましたハイ。
今は作ってもらった皮のナイフ入れを首からぶら下げて持ち歩いてる。私が使っても壊れないものは珍しいからすごく嬉しいお気に入り。
そうそう、あのスプーンを使って掘ったんだよ!!お風呂!!!
といっても湧き水の部屋の隅に穴を掘って、石を敷き詰めて水を溜めるようにしただけ。入りたい時には水を堰き止めてマイくんに沸かしてもらうスタイル。
魔法で沸かすんだけどマイくんが手を水の中に入れると一瞬で水がお湯に変わる。その様子は何回見ても凄い。
それまで毎日水浴びをしていたのでお湯はとても嬉しい。そのことを言ったらまた呆れた顔をされたけど。
その日から毎日夕方にはお湯が沸いているようになったな。マイくんが入りたいだけなんだろうけどとてもありがたい。
あ、石鹸もちゃんとあるんだよ。マイ君がくれたやつ!固形石鹸であんまり泡立たないけど優しい匂いがするよ!
そういえばそのマイくんなんだけど、この40日間で身長が伸びた。明らかに大きくなってる。
毎日見てるから気が付きにくいけど、それでも施設にいた子達よりも成長が早い気がする。もしかして成長期なのかな?
痩せていた身体もぷくぷくになってきて可愛さレベルが上がってきてる。本当に可愛い!!
マイくん自身の教えてもらえないことも、謎なことも沢山あるけど深く追及する気はない。私が食べられるものや野草を渡して、その対価に毎晩この世界の知識を教えてくれる。あまり人と関わってこなかった私にとってはこれくらいの関係が心地いいんだよね。
さーてと、そろそろ帰って朝ごはんを食べようかな。そういえば7日目にキノコ鍋を作ってから何故かマイくんが料理を作らせてくれなくなったんだよね。どうしても食べたいなら俺がやるとか言ってさっさと食材を持っていってしまう。
あの日のお鍋美味しかったのにな…。口の中がピリピリして楽しい感じだった。あれが辛いってやつなのかな。
でもマイくんは何故か食べたその次の日、丸一日どっか行っちゃったんだよね。なんかあったのかな。
とりあえずその日以来、朝は私がとってきた果物とか焼いた肉か、たまに魚も。ちょっと走ったところに湖を見つけたんだよね。結構大きいし魚とかも沢山いるからすごい嬉しかった!
お昼ご飯は各自で昨日の残り物とか自分で作ったやつとか食べてる。マイくんがどこか行ってることが多いからそんな形になった。
夜はマイくんが作った料理を二人で食べる。この流れが習慣化してきた。
マイくん凄いんだよ。料理も美味しいの。部屋の隅に作った竈門みたいなのでどこかから出したフライパンというか中華鍋?みたいなやつとか使って料理する。
全部魔法でやるから本当に早い。空中に食材が浮いたかと思ったら次の瞬間には切れていて軽く浮いている中華鍋の中で勝手に混ざる。
何の魔法か聞いたら全部風魔法の応用なんだってさ。風だけでこんなことできるんだね。マイくんが凄いのか魔法がすごいのか最早分からない。
そんなことを考えているうちに一瞬で料理が出来上がった。今日は何か色々入ってる野菜炒めみたいなやつと何かのスープ。どちらも香草が効いていてとてもいい香りだ。
そしてこれまた、私のために大量に常備されているお皿とフォーク。私が何回も壊すのでマイくんが大量に作ってくれた。空中に浮いた木がスルスルと加工されていく様は見事だったなあ〜。
でも今はもう1日に一度壊すかどうかまで大丈夫なようになったんだよ。毎日の練習、頑張ったからね!!
夜は今日一日あったことの報告会でもある。報告するのは私だけなんだけど。変な獣を狩ったと言えばあれはどういう魔獣だって教えてくれるし、繭みたいなのがあったって言えば素材に使えるから明日採ってきてって言われる。
その後はいつも通りこの世界の話。国のことを一つ一つ教えてもらおうかと思ったけど12も国があったら無理だ。地道に今いる国から教えてもらう。あんまり覚えてないけど…勉強って苦手なんだよね…
マイくんは夜寝るために各自部屋に分かれる時、小さなランタンみたいなのを渡してくれる。洞窟の中は一日中暗いけど部屋には火を焚いてるし通路部分には壁に光る石みたいなのが嵌められてる。だから自分の部屋以外には光はいらない。
このランタンみたいなやつは中に入った宝石がマイ君が触ると光るふしぎなランタン。魔石って言って魔力を込めると付属された魔法が発動するようになってるんだって。便利だね〜。
魔力を込める量で持続時間が変わる。マイ君は丸一日保つくらいの魔力を毎日込めてくれる。やっぱいい子じゃん。
そうそう、最近は文字も教えてもらってる。初めに言葉がカタコトだった以上に文字もゆっくりとしか読み書きできなかった。今はだいぶスラスラできるようになったと自分では思ってる。
今日はここに来てからのことを振り返った日だったな〜。たまにはこういう日も大事だよね〜、と考えてるとふと疑問に思った。
「私、最初から結構怪しい人間だったよね?」
「なんだ今更。」
唐突な問いの意味を考えているのかマイ君の眉が片方上がっている。そんな表情を見てもいつもの日常の一部なのでなんとも思わなくなった。
「私のこと信用しないって言ってた割にマイくん、私の話あっさり信じてたな〜っと思って。」
ここまで来たら言わなくてもわかると思うけどマイくんは優しい。だから厳しいことを言いつつも私の話をあっさり信じてくれたのかな。
優しいとは言え、マイくんほどしっかりした人がそんな簡単に人を信用しないと思うんだけど。
「…本当に今更だよな、お前。最初っからお前にスキル使ってたに決まってんだろ。」
ふぇ?言葉の意味を少しづつ噛み砕いて理解する。最初っから魔法使ってた…?
「〈嘘発見器〉ってスキル。相手が嘘をついているかどうかを見破るスキルだ。お前は一度も嘘をついてなかったからな。」
えー…魔法使われてたんだ…ぜ〜んぜん、気が付かなかった。
まあそれで信用してくれたならいっか。嘘ついてること何一つないし。
1人で勝手に納得した私を見てまたいつもの呆れた顔になった。
「普通それで納得しねーだろ…」
小声のつもりみたいだったけどごめんね聞こえたよ。納得しちゃったんだから仕方ない!さあお勉強の続きしよ!!
地面にガリガリと木の棒で字を書く。木の棒は折ってもいいように横に何本もストックしてある。
勉強方法は凄く簡単。マイ君が魔法の詠唱を言うので、それを口ずさみながら文字にしていくだけ。
魔法の詠唱をすれば魔法のイメージがちゃんとできてなくても魔法が発動するらしい。それに魔力の消費も少ないんだってさ。
だから最初はみんな詠唱から入るんだって。子供の頃から大魔法をやろうとすると身体が負担に耐えきれなくて、最悪壊れることもあるらしい。詳しく言うと四肢爆散。え、怖い。
私もいつか魔法が使えるようになるのかな。地面にガリガリと線を重ねていく。私は何で魔法使えないんだろうな。
こうやって口ずさんでいれば不意に使えるかなって期待してたけど、全然ダメみたいだし。魔法もスキルも使えない。あーあ、せっかく異世界に来たのにな〜。
「今日はここまでだな。」
長い詠唱をいくつか書いたところで終了宣言が出た。今日はいつもよりちょっと早いな。
まあいっか。火を消して色々と後片付けをする。
「じゃ、おやすみ!」
私は早々に食事部屋を出て自分の部屋に行く。まだちょっと寝れないな〜
ベッドの上でゴロゴロしながら唸る。
「ファイア」
指先に集中して魔法を唱える。やっぱり無理かー。唸ってみても指先には何の変化もない。
火の一つでもつけられたら火起こししなくていいから楽なんだけどな。
ベッドから降りて地べたに座る。今日も木を削ろうかな。
そして無心に目的もなく削ってできたのは長い棒。
んー、杖っぽい?といえば杖だけどどっちかというと歪な野球バット。
振り回してみると風が凄くて木屑が散らばってしまったのでやめた。
もう寝よう。
寝るためにパーカーとズボンを脱ぐ。いつも下着姿で寝ているので服は横に畳んで置いておく。
マイ君が着替えにはなるだろうってシャツとズボン、ワンピースみたいなのを一式くれたので服は定期的に洗えている。
まあ洗うのもマイ君が魔法でやってくれたりするので10分もかからず綺麗になる。やっぱいい子だ。
今度は寝るためにベッドに上がった。寝れないなーとぼーっとしてたらいつの間にか夢の世界に入っていった。
暖かい。花みたいな匂いがして優しい声がする。上を見上げると大好きなゆり先生。
私は膝の上に乗っていた。そうかお人形でうまく遊べなくて泣いていたんだ。
目の前に散らばった人形の破片を見てまた悲しくなる。
「もうお人形で遊ばない。」
幼い私がグズるように先生にしがみつく。
「…好きなものが壊れるのは悲しい?」
優しく頭を撫でながら先生が聞く。
悲しいに決まってるよ。だって私が壊すのは人形だけじゃないもん。私は誰にも触れないんだ。
「私に触るのも怖い?」
ビクッと身体が強張る。先生に触るのも怖い。でも先生に触るのがダメなら他に私は触れ合える人が誰も、誰一人として…
「大丈夫よ。あなたはこんなに優しいもの。
自分の力が上手く使えないからって逃げちゃダメ。あなたが何をしても私は離れないし何を壊しても直してあげる。私がいるうちに少しでも人との触れ合いを覚えなさい。私はいつでも貴女の隣にいるわ。」
私の頬を撫でながら先生が呟く
「…私の愛しい子、貴女に神の光あらんことを。…願わくば…どうか…」
ふっと目が覚めた。懐かしい夢を見ていた。
ゆり先生が触れたところがほんのりと暖かい気がする。
ある日突然消えた先生。他の先生たちには家庭の事情って言われたけど今ならもう理解くらいできる。先生が私を置いてどこかに行くはずがない。先生は、もう。
それでも涙は出ない。頭と心が別物でどこかでまだ信じて居ないから。
てか異世界に来たんだから2度と二人には会えないよね。ゆり先生にもけんじ兄ちゃんにも。
…いや、元の世界にいても会えなかったか。私やっぱ捨てられたのかな。
頭の中で黒い想いがグルグル回る。嫌だ飲み込まれたくない。
私は体に反動をつけて勢いよく飛び起きた。服を着がえて支度をしよう。こんな時は動けばいいんだ。走っていれば嫌な考えも浮かばない。
水場で顔を洗ってから外に飛びだす。
まだ高く月が登っている。この世界でも月はあるし地球と同じように欠けたり満ちたりする。
今日はまんまるな大きな月が真上の空に浮かんでる。欠けのない満月でいつもよりも明るい夜。
外に出て数歩踏み出した瞬間ざわりと背中に何かが上った。何?何なの?
何かが来る。わからないけど何かがこっちに向かってるって直感で確信した。
マイ君を呼ぶべき?いや、そんな時間はない。それに悪いものではない、と思う。ただ不思議な感覚が近づいてくる。
とにかくそれに向かって走った。森の中を突っ切るのは難しい。木とか邪魔だし。
でも何故かいつも襲ってくる魔物が今日は襲ってこない。何故かわからないけどその分速く走れるので構ってられない。
とにかく急がないといけない気がする。
どこ?
地上?
いや、違う!!
空!!!!
上を見上げて目を凝らすと青い光が見えた。
さらに目を集中させる。
…見えた!子供…が青い、いや、青く燃えている鳥に乗ってる⁈
全然状況の意味がわからないんだけど…何だか様子が変じゃない?
飛び方がフラフラしてて危ない…っと思っていたら鳥が少女を包むように燃えて消えた⁈あ、落ちる!
考えるよりも先に身体が動いた。
足に力を入れて一歩、二歩、三歩、と前に足を出すたびに世界が消えていく。
最後に大きく踏み出したその一歩で私は空に浮かんでいた。
空中で炎を纏ったその子供をキャッチする。7〜8歳くらいだろうか。幼い女の子だった。
炎で燃えているんじゃないかと思って焦ったけど全く熱くない。むしろ暖かくて優しい感じで安心できる心地よさだった。
空中で女の子を抱き抱えたとき、女の子が来た方向にチラリと白い何かが見えた。
とても大きい…壁…?だろうか。森の先の先の先。また少しだけ胸騒ぎがした。
それは一瞬の出来事で気がつけばまた地面に居た。着地の衝撃で少〜し周りの木が薙ぎ倒されていたけど、そんなこと気にしてる場合じゃない。全部後で薪の材料にでもするから許して欲しい。
女の子は?意識は無いようだけど息はしてる。よかった、キャッチした時抱き潰したんじゃないかと思って肝が冷えたよ。
青い炎が少女の身体から少しずつ消えて、最後は首回りにチラチラと残っているだけになった。何で首だけ?と思っていたら力なくだらんと頭が傾いた瞬間に、乱れた髪の隙間から首元に何かが見えた。それが何かわかった瞬間。私はまたあの勢いで洞窟に向かった。
やばい、これ、あれじゃん。
多分、これは…
洞窟に衝撃が走る勢いで入り口に飛び込んだ。
「マイ君!!!!助けて!!!!!!!」
洞窟が震えるくらい大きな声で叫んだ。マイくんがどの部屋にいるかはわからないけど、これできっと聞こえる。壁にヒビが入ったが気にしてられない。
良かった、どこかの部屋の奥から少し慌てたマイ君がすぐに出てきた。
「何だこんな夜中に。何かあったのか?」
冷静に見えるがいつもと違う私の様子に少し動揺しているように感じる。
でもそんなことどうでもいい。
「今、女の子が空から落ちてきて、火が、青い炎に包まれてて、いや、そうじゃなくて…
これ!首!!見て!」
私はしゃがんでマイ君の目の前に女の子を差し出した。
その傾いた首の裏には紫色の奴隷印が刻まれていた。




