第11話 お前がバカな事はわかった
異世界から召喚されたことを差し引いても色々変なやつだとは思ってた。でもまさかステータスが読めないなんて考えても見なかった。
まだこの身体にスキルが馴染みきってないとしても解析鑑定なんて俺の中では中の下のスキルだ。馴染みきってないとしても読めないことなんてあるはずがない。なのにこの俺が、ステータスが読めないなんて、やはり神が関わっていると考えて間違いないだろう。
この俺がステータス読めないんだからな!!
それはともかく憶測が当たっていたとして神がこいつを召喚した理由はなんだ。リズム良いステップを踏みながら洞窟に向かう女を見る。
「アサヒ」という人物を見れば見るほど訳がわからなくなる。ため息が出そうだ。
最初の日からこいつには〈嘘発見器 〉というスキルを使っていた。まだスキルが体に馴染んでないから
"相手に後ろめたい気持ちがあるかどうか"
ということしかわからない。本人に嘘をついている自覚がなければ意味のないスキルっていうことだ。
それでも一度もコイツにはスキルが反応しなかった。本人からすれば何一つ隠していない本心なんだろう。
それがまた気味が悪い。なんなんだろうこの人は。ただの順応能力が高すぎる能天気なバカなのか?
それとも全て計算し尽くした上で行動、振る舞いをしている…いや、流石に考えすぎか。
2日目の時、朝早くまだ暗いうちから森に行ったと思ったら両手いっぱいに魔獣や木の実なんかを採って帰ってきた。
真っ暗な中森に入るなんて命知らずの馬鹿だと思っていたし帰ってこなければ帰ってこないでいいと思っていた。死んだらそこまでだ。本人の勝手な行動で死んだとて流石に神も俺のせいにはしないだろう。多分。
ところがあっさりと帰ってきた上に怪我どころか傷一つなかった。
かと思ったら蔓草を使ってカゴ一つ編めなければ初歩の魔法すら使う様子も見られない。
俺は普段は隠し部屋に篭っているのだが、そのことに気がついているのかいないのか触れてくる様子もない。何か言われればそれなりに対処しようと思って何度かわざと匂わせてみたのだが拍子抜けもいいところだった。
異世界から召喚されたであろう神憑きらしき女。俺と出会ったのは偶然だったのか必然だったのか、なんにせよ俺はこいつと関わらない選択肢はなくなった。
ならいっそ上手いこと使えるだけ使おう。何も言わなくても食べ物の準備をしてくれるだけで今はありがたい。俺は洞窟に篭ってスキル、記憶、魔力、あらゆるものを取り戻さなければいけない。出来る限り早く。
現状、スキルはある程度簡単な物なら戻ったが使うとなれば1割も使えない。魔法も最上位魔法は絶対無理だし極大魔法なんざもっての他。魔力もオドしか使えない。
そして1番の問題は記憶だ。記憶は現状覚えてるものしか分からない。記録は残しているが重要なものは形にはしていないし完全にスキル〈絶対記憶〉頼みだ。全ての記憶を見れるようになるまであと半年といったところか。
覚えている記憶だけでも大した問題はないと思うが念には念をいれなければ。
「入らないの?」
気がつくと洞窟に辿り着いていたらしい。一向に入ってこない俺を見に来たのか女が洞窟から顔を覗かせている。その両手にはキノコと草。呆れた。
こいつはこの世界来て7日目だ。しかも一歩でも足を踏み入れれば生きては帰れないと言われる森の奥の洞窟住まい。日用品など一つもなければ食べ物も自分で獣を狩らなければならない。年頃の女なら泣いて絶望すると思っていた。
それがどうだ。絶望どころか毎日楽しんでいるそぶりすらある。あまつさえ鍋をするからキノコをとりにいきたいだとよ。順応しすぎだろが。
渋々部屋に入ると鍋にどのキノコを入れるか選別している様子だった。しかも鼻歌まで歌っている。そんなに楽しみかよ…
共に食事をすれば嫌でもわかるがこいつの食べる量はすごい。一回で俺くらいのサイズはあるイビルラビットが2匹消える。あれだけの運動をこなす身体を支えるために筋肉などの体組織が物理的にも変化しているのかもしれない。
こいつが今スープを煮込んでいる鍋も大人3人がかりで運べるかどうかの代物だ。この女もすっぽりと入ってしまうサイズだからな。こいつはそれを片手で持つ。まるで重さなど感じていないかのように。
おそらく純粋な身体機能は大人の獣人族を上回っている。見た目は10代後半のようだがどうなのだろう。
固有魔法の効果だろうか。スキルや魔法を使っているならば身体自体は普通のものである可能性が高いがこいつはそれらの類を使っている素振りがまるでない。
身体がどうなっているのか気になるな。調べたい。できれば体組織の一部が欲しい。
「マイくん、ナイフ持ってどうしたの?」
その声で我に返った。慌てて手に持っていたナイフをアイテムボックスにしまって何事もなかったように振る舞う。やべえ、探究心が漏れてた。幼児がナイフをチラつかせながらニヤつくのは世間的に見なくてもやばいだろ。
そんなこちらなど気にすることもなく女はまたスープ作りに戻った。煮込まれれば煮込まれるほどに鼻をつく匂いに違和感がある。料理らしきものをちょっと覗くとナイフなど使わず大量の野草を引きちぎったり肉を引きちぎったり砕いた岩塩入れたり…それ料理って言わなくねえか⁈
鼻歌を歌いながら恐ろしいものを錬成している女。今までは捌いて焼くだけ茹でるだけだったから普通に見えていたのか?
うん、まあ見た目は悪くてもそこまで変なものはできないだろう。多分…
まだしばらくかかるだろう鍋を置いて俺は自分の部屋に戻った。仕方ないから皿とフォークでも用意するか。流石にあのスープもどきを手では食べられないだろう。
壁を抜けて入った部屋は山小屋くらいの大きさ。しかし本や紙、印が組み込まれた布や石などが散らばっており足の踏み場は少ない。そろそろ片付けたいがなんかどうでも良くなって放ってある。
なんとか部屋の奥の棚の前まで辿り着く。確かこの辺に食器的なものが…あった。
たくさん積まれた巻物の下からちょっと古いが十分使える木の皿とフォークを手に取る。汚れていたが〈洗浄魔法〉で綺麗にしたしいけるだろ。また鍋の部屋へ戻る。
「お皿とフォーク!」
俺の渡した食器を見て思いの外喜んでいる女。普通はどこから出したの?とか言うけどこいつは言わない。都合がいいからそのままにしとくけど。
でも喜んだ割に差し出した食器を中々手に取ろうとしない。
「使わないのか?」
表情を見ると気まずそうな顔をしているのが尚更わからない。何か言いたげなのでさっさと言えと言葉を促した。
「こ、壊しちゃうかも…」
今までで1番小さいんじゃないかと思うくらい小さな声で呟く。いつもの楽しそうな雰囲気はどこにやったのか珍しくしおらしい。
「木は脆いから…壊しちゃうかもしれない…」
悲しげに言う姿よりも言葉の方が気になる。木は脆い…?壊す?何を言ってんだこいつは。
木製の食器を壊しそうだから使いたくないのか?
「私、力が強いから…うまく物が使えなくて…」
あー、なるほど。こいつは自分の力のコントロールがまだできないのか。…まあそりゃこの世界に来て7日目か。こいつの馬鹿力が固有魔法だとして7日で自分の力を使いこなせるわけがない。
いくら中身がアホで鼻歌歌いながら鍋作るほど順応してるとはいえしおらしくもなるか。俺も配慮が足りなかったかもしれないな。
…もしかしてナイフも使わずに手でちぎって鍋を用意していたのはそのためだったのか?また呆れそうになったが仕方ないので無理やり手に食器を渡す。
「壊してもいいから使えよ。使って覚えねえとこの先一生使えないだろ。」
ビクッと震えた女が不思議なものを見る目でこっちを見た。魔獣を拳でぶん殴る女が木製の食器を怖がるとは、何とも変な話だな。
「…いいの?」
「俺がいいって言ってんだからいいだろ。ほら、スープ煮えてるぞ。」
恐る恐るな様子で食器を手にした後、それを下に置く。そして前に鍋と一緒に渡した大きいスプーンを使って鍋をかき混ぜ始めた。このスプーンは鋼鉄製だったから素直に受け取って使っているのか。今まで重くて誰も使わなかったやつだから初めて利用されてるわけだけど。
そして明確に言うと魔鋼入りの魔道具で、れっきとした武器だが黙っておこう。どうせ使わないし。
出来上がった鍋を皿に入れてもらった。超でかい鍋いっぱいに入ったスープを掻き回す様は魔女そのものだな。
…おい、なんでスープの色、紫なんだ?
手の中の皿を眺めて唾を飲み込む。それはどう見ても人の口に入っていいものにみえなかった。
…《解析鑑定》
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《アサヒ特製鍋》
色々な植物、キノコ、魔獣などを岩塩で煮込んだ鍋。
食べる者によっては美味ではない。
毒はないが運が悪いと腹を壊す。
〈材料〉
・イビルラビット
・デーモンスパイダー
・スネイパーテイル
・ポイズンフロッグ
・ホーンタイガー
・アミガサタケ
・ジャコウタケ
・ハッピーマッシュルーム
・ファイアーフラワーetc…
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ふぅ…見なかったことにしよう。
毒はない…みたいだし、食べ過ぎなければ大丈夫…だろう、多分。
なんでだよおかしいだろ。変なものは採取してないんだが何でこんな鍋になったんだ。
そんなことを考えていると、お構いなしで女が鍋をよそった皿を渡してきたので顔を引き攣らせながら受け取る。
まあ俺、毒耐性持ってるし…いけるだろう…
恐る恐る一口目を運ぶ。食べられないことはない。そもそも味付けが塩しかないのが功を奏していると言えるだろう。
でもなんだろう…エグい。口の中が痺れるんだけど、これ本当に大丈夫か?
隣を見ると女は二杯目に突入していた。見つめていることに気が付いたのかこっちを見てにっこり笑いやがった。
「おいしーね♪」
やばい、こいつ味覚死んでやがる。今までの味のない食べ物のありがたみがすごく身に沁みる。今後こいつに調味料を使わせるのは絶対やめよう。そう心に誓った日だった。




