第43番 歌詞と意味
どれだけ泣いていたんだろう。すっかり空が明るくなって朝が来ちゃった。
オルカとプラティは変わらず慰めてくれてるけどその顔はちょっと呆れ気味。あんまりに私が泣き止まないからなんだろうな。
もしかしたら私の泣き声に反応して飛び掛かってきたお魚さんをおもいきりぶん殴ったからかもしれないけど。半分以上八つ当たりで殴ったけど飛びかかってきた方が悪いもん。
大分落ち着いたけどヒクヒク言うのが止まんない。泣くのなんか久々すぎるから止め方がわかんない。
いつまでもシクシクやってる私をプラティが洞窟に押し込む。そこではさっき私が殴ったお魚さんを捌いて焼いてるオルカがいた。
いつの間にか完成してた朝ごはんをグズグズしながら食べる。大声で泣いたからか案外スッキリしたかも。
「ご迷惑をヒック、おかけっしまして…」
魚をチマチマ齧りながら二人に謝罪をする。本当にご迷惑だったよ、と魚を片手にぼやくオルカをプラティが肘で突いた。いや本当に返すお言葉もございませんはい。
「で?あの喧嘩してた相手がマイくんって人なんでしょ?言いたいことは言えたわけ?」
新しく焼いた魚を渡してくれながらプラティが切り出す。んー、言った…けど…
「多分余計怒らせちゃった…もういいって…私、マイ君に捨てられちゃったかも。」
自分で言っておいてまたじんわりと涙が滲んでくる。私こんなにマイ君に頼ってたのかな。マイ君に見捨てられちゃったらどうしよう。そしたら私、また一人ぼっちになっちゃうかもしれない。
はぁ、ってそんな私を見たプラティがため息を吐く。プラティも私が面倒臭いよね。うぅ、どうしよう。
だけどプラティは私に近づくと頭を両手で挟むみたいに乱暴に撫でた。
「ほら、そんな顔しないの!言いたいことは言ったんでしょ?なら次は向こうの言い分を聞きなさい。そして二人で譲れるものを譲り合うの。人間ってそうやって生きていくものでしょ。」
うわぁ…プラティさん、なんでこんなに大人なんですか。あまりに素敵で思わず感動しちゃった。オルカは空気みたいに存在感を消してる。居ずらいよねごめんて。
「ほら、お腹が空いてちゃ元気がでないわよ。いっぱい食べなさい。」
プラティが自分の手に持っていた魚を私の口に押し込んでくる。その魚をほっぺたいっぱいにモグモグしながら頷く。そうだね、お腹が空くと悲しくなるもんね。
モグモグとひたすら食べて食べて食べているとお魚がなくなったので鞄から干し肉を取り出してそれもモグモグ食べる。
魚ばかりは飽きるかなと思ってプラティとオルカに渡そうとしたら引き攣った顔をしたプラティに断られた。オルカは一応受け取ってくれたけど食べずに自分の鞄にしまった。あれ?お腹空いてないのかな?
まぁ、でも大分気は紛れたしいいや。食べ終わって食後のお茶を音を立てて飲みながら息を吐く。マイ君と次に会ったらどうしよう。とりあえず謝れば良いのかな。
許してくれなかったらどうしようかなって不安にはなるけど、でもサーシャちゃんもいるしダメだったらロゼちゃんに慰めてもらおう。
そう思えば全然一人じゃない気がして少しだけ気が晴れた。
お茶を一気に流し込んでから立ち上がる。とにかくマイ君を探さないと。自分が今どこにいるかわかんないし、何だか変なことになってるみたいだし、まずは誰かと合流しなきゃ。
国の兵隊さん達に私が追いかけられた理由もわかんないし…やっぱリュケのことでなのかなぁ…
私一人じゃ何をして良いのかよくわからなくてそのまままた座りこむ。みんなと合流したくてもどこに向かえば良いのかすらわかんないじゃん。私がポンコツすぎる!
「他にマイ君がいそうな場所ってないの?」
私が頭を抱えているのを見かねてプラティが相談に乗ってくれるけど本当に何もわかんない。自分達が案内されてた宿の方角すら分かんないんだからもうお手上げだよね。半分自嘲気味に笑いが漏れる。
「やっぱもう帰ったんじゃねぇの?」
呆れた顔のまま相談に乗ってくれているわけでもないオルカが呟く。間髪入れずにプラティが頭を叩いたけど私は頭を抱えて落ち込む。
大丈夫、私を置いていくのはサーシャちゃんが嫌がると思うし、マイくんがサーシャちゃんのことを無視してそんなことをするとは思えないし。…ああ、でもマイくん最後に俺一人で行くって言ってたし…
「…一人で行くっていうのはアサヒを連れて何処かに向かおうとしてたってことじゃないの?アサヒをわざわざ探し出すのが必要な大事な要件だったんじゃない?」
あ、そういえば確かにわざわざ徹夜して私を探し出したみたいだった。え、じゃあもしかして本当に適材適所をやるつもりだった…?もしもそうならマイくんがあんなに怒るのも仕方がないのかもしれない。
でもやっぱり言葉が足りないと思うよ。
「なぁ、そのマイってやつ…一度ウチの神子様を誘拐し返しに行ったんだよな。」
あまり話に混じってこなかったオルカがぼそっと呟く。誘拐のつもりでは…うん、はい、本人が同意してるけれども確かに誘拐みたいなものか。
「…神子様が居るって言ったら皇江だが…この国の真ん中には…皇江には…その、魔物がいる…らしい。」
「魔物?何?オルカ何か知ってるの?」
思っても見なかった言葉に頭をかしげるプラティと一緒に私も頭をかしげる。魔物?海にいっぱいいるお魚さんみたいなやつ?
「いや、俺も詳しくは知らねぇんだ。ただ…リーダーが前に言ってた。国の中心には魔物がいる。それは獣ではない。もっと恐ろしく、人の形をしているだけの人ではない化け物だって。皇江は一般の人魚が簡単に近づくことも許されない聖域だが…それでも絶対に近づくなって。もしもマイってやつが皇江で上手く神子様に接触できなかったとして原因が何かあるなら、お前の馬鹿力を借りに来たってことも…いや、まぁただの噂にかこつけただけの憶測だが。」
マイ君が誰かに負けることなんて想像出来ない。でも、前にマイ君が言ってた。
マイ君は魔法を使えれば強いけど、逆に魔法を使うまでの僅かな隙間に攻撃されてしまえばそれはもうどうしようもないって。
勝負ごとに絶対は無い。ってのは何度も言われたことだ。そんなマイ君がもしもリュケを連れ帰れなかったなら、本当になにかあったのかもしれない。
「やっぱりみんなと合流して今の状況を聞くのが一番早いかも。」
おじさん達のところに居たのもあるけど、やっぱり私何も知らない。理解できなくても良いからとにかく今の状況を知らなきゃ何もできない。
「…だから、その皆んなってのに会うのはどうすんだよ。」
呆れたオルカの声にまた頭を抱える。ああ〜、そうだったぁ〜!どうしたらいいの〜!!
その瞬間に何か音が耳を掠めた。急に立ち上がった私を何事かとオルカとプラティが見上げてる気配がするけど私は気にせずに耳を澄ませる。
波の音に紛れて規則正しい音。かなり小さくて聞きにくいけどこの音には聞き覚えがある。すご〜くある。
音を頼りにするように私は洞窟から顔を出す。一体何事かと後ろから二人が声をかけてくるけどそれを抑えて周りを見渡した。
「あ、やっぱりイヌ君!」
一応何かあるかもしれないから警戒したけどほとんど確信をしてた。だって音を殺すような独特な足音は本当に分かりやすいんだもん。
私たちの洞窟からほんの少し降りた波際の岩場道。少し遠いしマントを羽織って顔を隠しているけど間違いなくイヌ君だ。
イヌ君も耳がいいから私の声を聞いてこちらに気がついたみたい。確実に目があったはずのイヌ君は、ひとまず心底嫌そうな顔をして顔を逸らして無視した。
ちょっと!今絶対に気が付いてたじゃん!!
「…何してんだよお前。」
私が文句をブーブー叫んでたら渋々といった感じでイヌ君が私達の方に近づいて来た。その顔は馬鹿にしてるみたいな顔で何だか腹立つ〜!
「イヌ君こそ何やってんの?暇なの?」
馬鹿にされたら仕返してやる。やられっぱなしは性に合わないもん!そんな私にあ゛あ゛っ?と犬の威嚇のようにイヌ君が低く唸る。私に一回も勝てたことないくせによくもそんな強気にできるよね〜。
「…んあ?お前マイラスと一緒にいるんじゃないのか?」
ヤンキーと犬の中間みたいな威嚇をしばし続けてたイヌ君が急に我に返った。この勝負は私の勝ちでいいかな?
キョロキョロと周りを見渡していたイヌ君が何故か頭の上を気にしている。私達が何かしてたら絶対マイ君が上からお水かけてくるもんね。
「つかソイツらは誰だよ。お前こんなところで何してたんだ?」
私の状況を何一つ想像できないのかイヌ君がひたすらに首を傾げている。いやぁ、まぁ、あはは、色々ありまして〜…
「マイとかいうやつと喧嘩して散々泣き喚いて家出した結果迷子になってんだよ。」
私とイヌ君の様子を後ろから見てたんだろうオルカがテキトーな感じであっさり喋った。
なっ!!ちがっ、いやほとんど違わないけど、いや、なんで言っちゃうの⁈
そんなオルカをプラティが肘で小突いてくれてるけど当の本人は知らん顔をしてる。引っ叩きたい〜!
「はっ、お、お前っヒッ、なんだっハハっ、マイラスに怒らっれ、てっ、へ、臍曲げてんのかよ!んはははは!」
目尻に涙を溜めるくらいにお腹を抱えてイヌ君が爆笑し始めた。顔がすっごい熱くなるくらい恥ずかしい。
それでも割と事実なので言い返せずにぬぐぐと黙っていると、お腹を抱えたまま立ち上がったイヌ君がヒーヒー笑いながら私の周りで馬鹿にしながら笑い転げてる。
ぐぅ〜、ここぞとばかりに馬鹿にしてぇ〜っ!
「お、おま、あははは、が、ガキ、本当にガキだよな!あははははっヘブっっっつっつ!!」
あ。あまりに目の前で馬鹿にされるので思わず右手を振っちゃったー。その右手に 運悪く ぶつかったイヌ君は綺麗な弧を描いて遠く離れた海の中に落ちていく。わーごめーん。
沖には大きな魚さん達も沢山いるのでとりあえず海から引き上げたイヌ君の顔にマイくん特製ポーションをぶっかけておく。
意識は戻ったけどほっぺたが結構腫れてるねー。痛そーだねー、ダイジョウブー?
ゆっくり起き上がったイヌ君はいつかぶん殴ってやるこのアマ…と思いっきり睨みながら悪態をついている。
まずは私を殴っても骨折しない拳でも作ったら〜、と頭をぽんぽん叩くと、んにゃろぅ〜!とイヌ君が飛び掛かろうとしてくる。
「…そろそろ話を進めてくれない?」
イヌ君を馬鹿にし返しているところを割ってプラティの声がかかる。完全に二人を忘れていたことを思い出してとりあえず謝る。
そんな私をニヤニヤ見てくるイヌ君をこっそり睨んだ。イヌ君のせいじゃん。
「で?こいつらは誰なんだ?」
とりあえず洞窟の中にイヌ君を入れてみんなで腰掛ける。それぞれ自己紹介をしてから私の昨日からの流れを説明することにした。
途中何回もニヤニヤするイヌ君にイラッとして話し終わったところで頭を叩く。いてぇ!って文句言ってくるけど自己責任だばーか。
そんな私たちのやりとりを呆れつつ、プラティが話をまとめてくれる。オルカは何故か私が話し終わるまで洞窟の壁を見つめて黙っていた。
「アサヒとイヌ…さん?の話をまとめると、仲間のガイアの神子様を偽物だと決めつけられたあなた達はそのせいで国軍の人達に追われてるのね。国軍の人にアサヒが簡単に見つかったのも仕方ないわ。だってアサヒの夕焼け色の髪はとても目立つもの。」
あー、確かにこの国の人たちってみんな青とか紺とかツヤツヤしてて綺麗な髪の毛してるもんね。高校に行ってた時もこの髪の毛目立ってたけど、金髪に染めてた人もいたしそれほどって感じだったし。
…小学校の時は結構気持ち悪がられたなぁ…髪の毛染めてもほとんど染まらないし、すぐに落ちちゃってどうしようもなくて。なのに硬くて普通のハサミじゃ切れないし…うん、思い出すのはやめとこう。
「…にしては、流石にうちの国の方が短絡的すぎねぇか?お前らのとこの神子様は確かに本物なんだろ?わざわざ大陸を跨いで来た奴らが偽物を連れてくる…いや、大陸を渡るような強行に出たから偽物だと思われてんのか?にしても大陸を跨いで偽物を語りに来る方がリスクがデカすぎんだろ。」
無言だったオルカが急に口を挟んでくる。何か考え事でもしてたのかな。
んー、にしてもやっぱりこの世界の人たちの神様への感覚ってわかりずらいんだよね。私が魔法を使えない分、人間よりももっと凄い人たちが居るってまだ実感できてないのかもしれない。
そもそも私、ガイア様に直接会ってるから貴重な感じが薄れてるのかな。あの不思議な空間にいた事は夢みたいに朧げな記憶。でも、目の前にした時は何をしても敵わないだろうっていう圧倒的な何かは感じた。
「そういえば最初にこの国の神子様ですって会った人魚さんは偽物だったよ?サーシャちゃ…私たちの神子様が言ってたから本当だと思う。」
その事についてオルカはまた難しそうな顔をした。何か知ってるのかな?
「…この国は14年前、ニンゲンどもにめちゃくちゃにされたことがあんだよ。それも当時の神子様も皇帝も、もろとも沢山の国民を巻き込んで。俺はそん時まだガキだったから何も覚えてねぇけど、本当に悲惨な有様だったらしい。だから正直ポセイドン様への信仰心が薄れていてもおかしくないかもしれない。この国の神子様が殺されても何も起きなかったからな。」
んあー、複雑。この大陸の神様はポセイドン様で海の神様なことは覚えてる。でもそれ以外はだいぶ抜けちゃった。
ガイアのことも全然覚えられなかったのに他の大陸のことまで覚えられる訳がなかった。こういうことはマイ君かキツネさんにでも任せてしまいたい。さっきしっかり話を聞こうって決意したのにもう折れそう。
こういう所が私のダメなとこか。ちょっとまたブルーになりそう。
「あ、そういえば今サーシャちゃんたちが居る所って近いの?もうこうなっちゃったんだからさっさと合流しようよ。」
難しい話はキツネさんに整理してもらうに限る。それにサーシャちゃんに会いたい。たった二、三日しか経ってないし夢の中でも会ってたのに会いたいのかって声が聞こえてきそうだからこれだけは言わせてほしい。
なでなで出来ないと意味がない!!
イヌ君曰くそれほど遠くはないみたいなので一度話を切り上げて荷物をまとめてここを発つことにした。
「なぁ、お前、イヌとか言ったか。その…俺たちが着いていくことに何も思わないのか?ガイアの神子様が居る場所なんだろ?」
先に洞窟から出ていたイヌ君にオルカが話しかけに行ったのが聞こえた。あの二人って何だか性格が似てる。年が近いみたいだしもしかしたら何かしらのシンパシーでも感じてたりして。
でもそっか、オルカとプラティとはイヌ君初対面だし普通は警戒するよね。イヌ君好戦的だし中々警戒心強いし着いてくんなとか言い出したらどうしよう…。私としては二人がいてくれるだけでかなり心強いのですが。
気になりすぎて焚き火の跡を踏んづけたりなんたりの始末を適当にしつつ耳を澄ませる。
だけど意外にイヌ君の答えはあっさりしたものだった。
「アサヒがお前らのこと信頼してるみたいだからな。俺が言えることはねぇだろ。」
お前ら如きがアサヒに勝てるわけねぇしな!とニヤリと口元を歪めた様子が目に浮かぶような口調で締めくくる。
その言葉が頭の中でグルっと周ってようやくじわじわ染みて来て、なんなのかわかんない感情がブワッと出てきた。ほっぺたが赤い気がする。
恥ずかしいとも嬉しいとも違う。わかんないけど、わかんないんだけどもしかして、イヌ君なりに信頼してくれてるんだろうか。いっつも意地悪を言うくせに私のことを仲間だと思ってくれてるのか。
今まで友達がいなかったからわかんなかったけど…イヌ君ももしかして友達認定していい相手なのかな?私に対しての言葉がムカつくことはムカつくけど。
「お前いつまで時間かけてんだよさっさとしろよ馬鹿力!」
中々準備の終わらない私たちに痺れを切らしたイヌくんが洞窟に向かって叫んで来た。今行くー!と叫び返して止まっていた手をまた動かす。
マイ君に置いて行かれる事を怖がっていたけど、今なら私はひとりじゃないのかもしれない。今度こそマイ君にしっかり謝ってちゃんと話をしないと。
マジックバックを腰につけて今度こそ四人で出発だね。よしっ!目指せサーシャちゃんの元!!




