48.話してみることにした
更新です!
遅れて申し訳ない・・テスト期間で中々思うように小説が書けず・・。
窓から吹き込んでくる爽やかな風を受け、女神の様に美しく長い茶髪がフワリと広がる。
「おかえりー」
神々しさすら感じるその様子から強引に目を離して声の方を向けば、朗らかにそう笑ったエリザ先輩の横顔がイヤに目について離れない。
「・・・どう、なってる・・の?エリザ?・・」
大窓から後光を受けて降臨した女神は、俺の一挙手一投足を見逃さんと警戒するように視線を向けながら、傍らに立ったエリザ先輩に問いかける。
「どうもこうもないよー。昨日は話を聞く前に倒れちゃったから、今日聞こうかなーって思って呼んだだけー・・・ね?」
息を吐くように嘘をつくという言葉の模範解答にでもなりそうなほど平然とした様子で、虚偽の情報を口にした彼女は、念を押すようにこちらに問いかけながら笑っていない目で俺を睨んだ。
「・・・・」
怖い・・・。
反骨心より恐怖心が勝ることなんざ、母親相手以外は有り得ないと思っていたが、どうやらそんなことは無かったらしい。
「さっきのことを話したら殺す」と、目力だけで脅してくる彼女に俺が抗うすべはなく。無意識的に上げていた両手と、ガクガクと痛いほど勢いよく縦に振るった首で、問いかけに必死に同意を示す。
「・・・それで、聞けたの・・?」
「それがさー、彼の方が生徒会長が居ないと話したくないとか言い出してさー、全然聞き出せなかったんだよねー」
そう言ってまたこちらを見遣る目線に、「話を合わせろ」という脅しが宿る。
・・・ここは素直に従っておくべきだろう。
怖いってのも勿論あるが、それ以上に、今ここで俺がエリザ先輩に歯向かうメリットが無いからな。むしろ、前もってあんな事を言い訳された以上、ここで話さないのは支離滅裂で意味不明な行為でしかない。
だが、話したくないのも事実。エリザ先輩の目的が分からない以上、迂闊に「声」と「蘇り」・・そして、『黒』のことを話していいものか、俺には判断がつかない。せめて、エイスかシャールヴィが一緒にいれば、相談することも出来たんだが・・・。
そうやって、思い悩むこと数分。不自然な沈黙が室内に充満し、「脅し」の目線と「疑念」の視線が一際強く、俺を見据えた頃。
「・・・と言っても、俺は大したこと覚えてないんですけどね?」
俺の口が回り出す。
適当な建前を並べながら、身振りで2人に座ることを勧めつつ、自分に落ち着きを促すように深呼吸。舌がよく回りますようにと祈りながら、ゆっくりと唇を舐め回してーーー
「俺が覚えてるのは・・・」
覚悟は決めた。
最終的に俺が選んだのは、全てを、包み隠さず正直に話すこと。よくよく考えたら、既に『ヴォイド』についてはみんなに見られているし、なんなら今目の前にいる先輩方にはその力を行使すらしてしまっている。「蘇り」についても同様に、この2人には、実際に俺が蘇ってくる所を見られている。
「声」については、少し悩んだが、これも話すべきだろうと判断した。今はとにかく情報が欲しいからな。出し惜しみして、あっちが持っているかもしれない情報が吐かれないよりかは、こっちから全面的に開示して、少しでも協力してもらうのが一番理にかなっているだろう。
『黒』は・・昨日の生徒会長の話を聞いて、彼女には話してもいいだろうと確信した。
昨日の彼女の話が本当だとするなら、彼女は『黒』の匂いを知っている。それはつまり、俺以外にも、『奴』との面識がある人間が存在している可能性があることを意味している。
ならば、話さない理由にはならないだろう。『匂い』を嗅いだだけで錯乱してしまうほどの憎悪を向ける相手について、何か情報を持っている者がいたとしたら、それがどれだけ微かだろうと話して欲しい。
少なくとも、俺が彼女の立場にいたらそう思うだろうから。
だから、話そう。全てを。
『奴』について、『黒』について、『ヴォイド』について、「声」について。俺の知っていること、経験したことを・・全部。例え、それをエリザ先輩に聞かれて何か起きたとしても、その時はその時だ。最悪エイス達も巻き込んじまえばどうにかなるだろ。
・・・多分。
「・・『ノワール』と接触?・・『ヴォイド』?・・・『声』?・・・意味がわからない」
「『黒』・・ねー・・・」
巨人暴走事件からこっち、エイス達以外には話していなかった秘密を洗いざらい全部ぶちまけて得られた反応は・・まぁ、当然と言えば当然だが、荒唐無稽な話を整理するための沈黙・・ではなく、自分達の頭の中の情報と符合させていくための沈黙であった。
予想に反して、エリザ先輩の反応は静かだ。先程まであれだけ殺意を宿し、睨みを効かせていた視線は、今や思考のために俯いた髪に隠れ、その様子をはかることはできなくなっている。
『黒』、「声」、『ヴォイド』・・そして『アイツ』。正直、説明した当の本人である俺も、何が何だかよく分からない・分かっていないってのが現状な以上、今は少しでもそれに関する情報が欲しい。2人にも相談することで、何かわかることがあればと思ったんだが・・・
「「・・・・・」」
こりゃあ駄目っぽいな・・・。特に有益な情報は無さそうだ。まぁ、俺からも2人にとって有益な話が出来たとは思えないから、そこはどっこいではあるんだが。
・・やっぱり、フィロス先生やアスク様に聞いたりした方がいいかもな。
出自的に神様と関係が深いアスク様や、神学・神話学も専門にしてるフィロス先生だったら、『アイツ』について、何か知ってるかもしれねえし。
どう考えても、出会った時とこの前再開した時に感じた『アイツ』の威圧感や雰囲気、魔力は『神』に匹敵・・・いや、【ロキ】や【トール様】と会うとかいう異次元の体験談を踏まえた上で言うなら、間違いなく『神』に類する者達の一種だと言っていいだろう。
でも、アスク様は『ヴォイド』については何も知らないって言ってたんだよなぁ。
『アイツ』について知ってるなら、『ヴォイド』についても知ってるはずなんだが。
・・・あれ?そういや俺、アスク様に『アイツ』のこと話したっけ?なんなら、『ヴォイド』の事も、見せただけで名前とかも伝えてなかった気が・・。
一瞬で、全身から血の気が引いていった。
ヤバい・・やらかしたなコレ。ほぼ唯一のまともな情報源にその情報の手がかり話してないとか、マジありえねぇ。
今度会う機会・・は多分絶対に無いだろうから、シャールヴィとかエイスの貴族・王族的な人脈を頼ってどうにか聞いてもらうしかない・・か。
てか、これはしょうがないだろ?だってアスク様に『ヴォイド』見せたのなんか、【トール様】とか【ロキ】に会う前だぞ?そんなん気付けるわけねえだろうが。
・・・いや、とりあえず、今はこんな頭クルクル回しながら百面相してる場合じゃない。先ずは早急にエイス達に連絡を取らないと・・って、
「・・ムゥ・・・」
「・・んー・・」
「な、なんでしょう?」
百面相しながら思考を回している最中、ちょうど自分の失敗を悔いる様な顔をしている時。どことなく視線を向けられている様な気がしたのを直感し、意識を現実に引き戻せば。
そこには、悩ましげな呻き声を上げながら、眉根を寄せてこちらを見ている二対四個の瞳があった。
「・・・どうする?エリザ?」
「うーん・・正直、あんまり話したくはないんだけどー」
「・・でも、話さない訳には・・いかない・・よね?」
「そうなんだよねー・・」
・・・へぇ。あんまり有益な情報は出ないだろとか思ってたが、案外、そんなことは無いかもしれねえな。
コソコソ小声で話してる内容を盗み聞きした感じ、話すのを悩むレベルってことはそんだけ重要な事・・つまり、問題の根幹に関わる話である可能性が非常に高いってことだ。
これは期待できそうだ・・が、問題は話してくれるかどうかだな。生徒会長の方は話してくれそうな雰囲気だが、エリザ先輩はあんまり話したくなさそう・・てか、話したくないんだろう。
さっきまでの彼女の態度や、俺の置かれてる状況から見れば、当然の判断だろう。
実際、俺がエリザ先輩の立場だったら、俺みたいな信用出来ない、不気味な存在に重要なことを話そうとは思わねえ。
ただ・・・
「・・話そう、エリザ・・私達は彼に借りがある・・それを、返さないと・・・」
「そ、それはそうだけどー」
「エリザが・・言いにくい・・・なら、私が・・は、話す・・から・・・」
「うー・・そこまで言うなら・・・」
エリザ先輩は生徒会長の押しに弱いのだろうか・・弱いんだろうな。ちょっと上目遣いで懇願されただけで、顔が緩みまくって、目が垂れてきてやがる。さっきまで俺の事睨んでた奴と同じ目とは到底思えねえぜ。
てか、何だこの眼福な雰囲気。美少女どうしがイチャイチャしてるとこんな甘い雰囲気んなんの?心做しか花みてえな良い匂いすらしてきてんだけど。
すげぇ・・勉強と身体のことで悩み荒んでた心がすげえ勢いで満たされて丸まってく。何だこれ。癒やしの奔流?的な?最新の空気清浄魔道具ですらここまで空気綺麗に出来ねえぞ?
「・・・ちょっとー、見世物じゃないんだけどー?」
甘い空気にひたすらつけ込まれること数分。とても眼福な、癒しのイチャつきあい(実際は至近距離での言い争い)の雰囲気を吹き飛ばしたのは、恥ずかしさに少し頬を染めた、プラチナブロンドの美少女の一段低い非難の声だった。
「・・あ、すいません。つい、先輩方の出している空気に当てられてしまって」
「キモ・・セクハラじゃーん」
いや、半分ぐらい冗談で言ったんだが?そんなガチの反応しなくてもいいじゃん。泣くよ?いい年した男が大の字になって泣くよ?
「・・エリザ、あんまり、意地悪するの・・良くない・・・」
優しいな・・やはり女神だったか。どっかの先輩とは大違いだぜ。
「はいはい。分かりましたよー」
「・・・わかってくれれば・・良い」
「(全く・・アンタは・・・)」
「・・・何か、言った?・・」
「うーうん!何もー。それより、話すんならさっさと話しちゃおうよー。時間は有限だからねー」
確かに、昼休みは残り40分ほどと時間に余裕はあるものの、無限に時間があるわけではない。
生徒会長やエリザ先輩だって一生徒だ。三限に授業があるなら、余計なことに費やしている暇はないだろう。これから長話をするなら尚更だ。
それに何より、俺はまだ昼飯を食ってねえ。三限は空きコマだから殊更に時間に余裕はあるが、だからと言って、健康的な男子学生がそんな長く昼飯を食わないで活動出来るわけはない。
つまるところ、腹が減ったからさっさと昼飯を食いてえってことだ。
ただまぁ、今は別に、言うほど酷く腹が減っているわけではない。どちらかと言うと、今の俺は情報に飢えている。
「死」という、普通なら一度しか経験しない・出来ないような事象を3度も行い、自分の屍を3個も積み上げて、やっとたどり着いた手がかりなんだ。ここで、空腹なんて言うしょうもない理由で、その手がかりを離すわけには行かない。
その意思が、覚悟が、瞳に宿って伝わったのだろう。見据えた2人の顔が、弛緩から緊張に強張った。
「・・これから・・話すこと・・は、誰にも・・言わないで・・・」
「先生方やー、あの『英雄』君達にも、話しちゃダメだからねー」
「・・・」
コクリと、無言で首肯を返し、いつも以上に張り詰めた神経を耳に全て集中させる。準備は出来た。覚悟も決まった。どんな話でも、聞き入れる用意はできている。
ピン・・と、空気が張り詰める音がした。小説で言うところの、物語の核心に触れる時のような緊張が、全身の至る所を這い回る。
視線の先。ゆっくりと開かれる生徒会長の唇に全神経を集中させ、喉奥から放たれる声と、口内で動く舌によって意味を成した言葉に、張り詰めた鼓膜が・・・穿ち貫かれた。
「・・・モズ・ヘカーテ君、君は・・『ノワール』・・を、知っている・・?」




