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45.話す覚悟

夜分遅く+ギリ2週間超過すまねえ・・・。


フゥ〜・・・」


痛みは収まった。急所をぶち抜かれた時の、あの気持ち悪い感覚も、なんなら痛みよりも早く消えている。恐らく、痣とかにもなっていないだろう。一先ずは、大事にならなくて良かったと言うべきだろう。


ゆっくりと深呼吸し、身体に鈍痛が走らないか、視界に異常がないかなど、入念な最終確認をしていく。


・・・よし、大丈夫だな。


「さて・・・」


どうしてくれようか、この小娘。


「すみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみません・・・」


途切れることなく謝罪の言葉を述べながら、その度に腰から上が吹っ飛んでしまいそうな程の勢いで身体を折り続ける少女を睨む。


ホワイト・ルージュ・セーラス 16歳

迷宮国家ラビリンスの数少ない貴族の内、建国当初から代々『赤鞠』騎士団を束ね続けているセーラス騎士爵家の令嬢にして、七大国立中央魔術学院一年五組の優等生である。


「ったく・・・」


そんな、地位も身分もかなり上位の存在である彼女が、何故、俺みたいなただの平民に頭を下げ、しかも敬語を使って話してくれているのか。そこには、深い深い訳が・・・まぁ、無かったりする。


単純な話、唯の幼なじみだ。


セーラス騎士爵家のご令嬢と言えば、幼少の頃はお転婆で、直ぐに屋敷を脱走するお嬢様として有名だった。あらゆる包囲・警護を掻い潜り、従者や騎士の目を欺いて街中を駆け回る様子は、一時期、王都(ラビュリントス)の名物として、国の新聞に取り上げられた程である。


そして、そんな彼女がよく遊びに来ていたのが、当時彼女の身辺警護を担当していた俺の父こと、騎士カリス・ヘカーテの住まいにして、俺の母トリウィア・ヘカーテが運営している、ヘカーテ孤児院だったのだ。


現代は、初等教育やらなんやらの前に、幼稚園や保育園とかいう、異世界産の託児所兼教育機関みたいなのが各国で導入されたため、そんなことは無いのかもしれないが、当時、俺がまだ学院支部の初等部に入る前、子供が一番多く集まっている場所といえば、孤児院だったのだ。


本当に身寄りのない子供から、親が共働きで日中家に1人になってしまう子供まで。多様な理由で独りになってしまう子供達を全員うちで面倒を見ていたからか、その人数は多い時には100人を超えていた・・と思う。


見張りの目から逃げ隠れしながら、都市を飛び回っていた彼女にとってはまさに夢のような隠れ蓑だっただろう。木を隠すなら森の中ならぬ、子が隠れるなら子供の中という訳だ。


まぁ、流石に逃げた先がその見張りの家だったとは、当時の彼女は夢にも思わなかっただろうが。


「本っ当に昔から、お転婆なのは変わらねえなぁ」


その後も親同士の付き合いやらなんやらで親睦を深めた結果、今更敬語で話すのも、話されるのも気持ち悪いとなり、今までと同じように関わっていこうという形に落ち着いたわけだ。


付き合いだけで言うなら、エイスと同等・・いや、エイスとは初等部だか中等部だかの頃に会ったから・・もしかしなくても、この場にいる誰よりも長いな。


「あははは・・・先輩も、相変わらずのようで・・」


「あぁ。久しぶりだな、ホワイト」


なんかやらかした後、誤魔化すみてえに笑うところも、怒られてる時に目ぇ逸らす癖も、何もかも全然変わってねえな。


「お久しぶりです・・先輩・・・」


・・・いい加減、怯えきった兎みたいな反応され続けるのもダルくなってきたな。聞きたいこともあるし、そろそろいつもの調子に戻ってもらうか。


「あぁー・・・えぇっと・・ダメージは割とあったけど、別にそんな怒ってないし、それでホワイトのことを罰したりするつもりもねえから、そこまで凹まなくていいぞ?」


「う、嘘ですね・・!先輩はきっと、今回の事を理由に私にあんなことやそんなことをさせる気なんでしょう?私、分かってますから!」


「は?しねぇよ!何考えてんだお前!?」


「モズ・・流石にそれは・・・」


「見損ないましたよモズ・・・」


「まさかそこまでの愚物だとはな・・・」


「お前らもここぞとばかりにおちょくってくんじゃねえよ!しねえからな?本当にしねえからな!?」


「なんか嘘っぽいなぁ・・」


「私、大丈夫です・・先輩なら、私耐えられますから・・・だから・・・っ!!」


いや、そんな涙目で言われても、そもそもする気すらないからな?やめて?俺そんな、人のこと脅して変なことするような人間じゃないから。そこまで最低じゃないから。


てか、そもそも話聞きたいだけだってのになんで変態扱いされなきゃいけねえんだよ!おかしいだろ!


そろそろマジでキレてやろうか?俺程度がキレてもたかが知れてるし、なんなら多分武器構えようとした時点で一斉に全員から羽交い締めにされるだろうけど、それでも、とりあえずエイスのこの嫌〜な笑顔をちょっと歪ませるぐらいはできんだろ。


「さて・・余興はこれくらいにしておくとして・・モズ、体調はもう大丈夫なのかい?」


やっぱこいつ俺の思考読んでるだろ。今、俺がチラッと顔見たただけで一瞬で止めやがったぞ。

チッ、これじゃあ怒るに怒れねえじゃねえか。


「あぁ、どこも異常はねえよ。あのメディコ先生にもお墨付き貰ったからな」


「なら良かったです。急に倒れた時は何事かと思いましたよ」


「今、こうして立ってはいるが、1度は死んだ身だ。無理もあるまい」


「まぁな・・・」


いや、決して『まぁな』の一言で済ませていい問題では無いんだが・・・って、


「「「「あ」」」」


「え?死んだ?先輩が?・・ど、どういうことですか?」


ダバーシャ・・・。


「どうして君は喋っちゃいけないこととか、やっちゃいけないことをポンポンしちゃうのかなぁ?全く、春休みの頃からなんにも変わってないんだねぇ」


「む・・・しかし、言ってはならんとは誰も・・」


「あぁやって、人目を避けるように生徒会室に呼ばれた時点で、今回の件が他言無用であることは察せるはずです。それに、モズにとって、死んだ事(ソレ)はあまり思い出したくはないこと・・少なくとも、会話の弾みでこんな風に出すべきではないでしょう。当人達の気持ちを考えずに話してしまうのは、あなたの悪い癖ですよダバーシャ」


「むぅ・・・。スマン。どうも、俺は人の心を(はか)ることは不得手なようだ」


そう言って、ダバーシャはこちらに頭を下げる。


俺として、別にもう考えないようにしたことだから構わないんだが・・まぁ、ダバーシャにそういう、人の心の機微とかにちゃんと気付けるようになって欲しいのも事実。


如何せん、半神半人とかいう特殊な生まれだからか、だいぶ思考が浮世離れしてんだよな、コイツ。今に始まったことじゃないけども。


でも、そんなダバーシャがこうやって人に寄り添おうとする、人の心をしっかりと見ようとする顔を見せるのは、ちょっとはコイツが成長した証なのかもしんねえな。


「今に始まったことじゃねえし、気にもしてねえよ。むしろ、そうやって謝ってくれるようになったお前の成長に、ちょっと感動したぐらいだ」


「・・・気色の悪いことを言うな」


「え・・今のキモイか?」


「冗談・・ではないな、今のは本当に気色が悪かった」


「マジかよ・・・」


俺なりに結構イケてる返しというか、割と良い返答だと思ったんだが。

もしかして、エイス達から見ても、今のは結構キモかったり・・?


と、目線をエイスたちに向けたところで、俺の視線から考えていることを読み取ったのだろう。『まぁ、それなりに・・・』みたいな顔をした2人が、気まずそうな表情で目を逸らしやがった。


「・・・・・」


マジか・・・。何がダメだったんだ?表情?口調?セリフ?もしかして、『感動してる』とか調子乗って言っちまったからか?


よく分かんねえな、人間関係ってのは・・・。


「あのー・・・そろそろ、私もモズ先輩が・・その・・死んじゃった云々のことを知りたいなー?なんて・・」


「あ」


すっかり忘れてた。そういや居たな、ホワイト。完全に視界と思考から抜けてたわ。


「すまんすまん、完全に忘れてたわ」


「酷いですよ先輩・・。そこにいることを忘れるとか、女の子にしちゃいけないことどころか、人としてやっちゃいけないことですよ?」


「そうだな。すまんすまん。それで?何だっけ、俺が死んだこととかその辺の話を聞きたいんだっけ?」


「遂に自分から言っちゃいましたよこの人・・・」


「本当に気にしてないんだね・・・」


「謝り方が雑!・・なのはいつものことだから良いとして、まぁそうですね。あと、先輩の近況と、出来れば、巨人暴走事件のことについても聞きたいです!エイス先輩達からは何にも教えて貰えなかったので・・・」


「マジかよエイス、最低だな」


「巨人暴走事件の詳細も、モズの死も、特級秘匿事項。近況に関しては、それらと関わらないことだけ話すと特にいつもと変わらないから割愛・・何か文句あるかい?」


・・・ぐぅのねも出ない程の正論だ。が、確かに道理ではある。無関係の人間には何も教えないというのは、冷たいように見えてその実かなり優しいこと。


他者をトラブルに巻き込まない一番の方法は、トラブルが起きていること自体を教えないことなのだから。


まぁ、そんなエイスの気遣いも、さっきのダバーシャのせいであんまり意味をなさなくなったが。


「でもまぁ、さっきダバーシャが秘匿事項(そのうち)の1つを話しちゃったからね。そっちは話してもいいんじゃないかい?」


もう話しちまったものはしょうがない。ということなのだろう。諦めたように首を振りながら、エイスは肯定の意を示した。


なら、俺もそれに従うとしよう。


「ホワイト」


「はい」


呼びかける。禁忌を犯した(死んで蘇った)なんて、重い事を伝えるのには、俺自身もそれ相応の覚悟がいるのだと、初めて知った。


そして同時に、割り切れたと思っていた感情がもう一度、鎌首をもたげ始めて来たことに呆れそうになる。


怖がられないか、キモがられないか、嫌われないか。このことを伝えたことで、俺に対するホワイトの態度が変わってしまわないか。


わかっている。ホワイトなら恐らく、普段と・・これまでと、何の変わりも無いまま俺に接してくれるだろう。彼女は賢く、同時に、底抜けに優しい人間だからだ。


だから、コレは俺の問題。俺が、俺自身を肯定するために、俺自身がこのまま存在していてもいいと思うために、覚悟を決められるかどうか。


それだけが問題だ。




「・・・・・よし、決めた」


時間にして約3分。それが、呼びかけてから話し始めるまでに・・・俺が覚悟を決めるまでに・・・かかった時間だ。


「エイスからの許可も降りたし、俺も覚悟を決めきった。だから・・話すぞ。俺に、今日、何が起きたか」


その場にいる全員が、固唾を飲む音がした。


頭の中で紡いだ言葉を、神経を伝わせて舌に喋らせ、喉の奥から音とともに台詞を放つ。

行ったのは、ただそれだけの、単純なこと。この世の全ての人間が、言語を会得した瞬間に行う行動。


時間は・・・正直、覚えていない。恐らく、そこまで長い時間は流れてないし、かといって、そこまで短い間しか話していないわけでもない。


それ以外にも、話している間の周りの皆の表情や声色、目線などは何一つ分からない。曖昧なままであった。


が、ただ一つ。


確かに言えることが、一つだけ残っていた。


それは・・・


「大変でしたね!先輩!」


ホワイト(コイツ)は、俺の存在を赦してくれた。


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