44.reunion
「・・・はぁ・・」
溜息。3人の青年が去っていった後、保健室前の廊下に響いたのは、1人の少女のソレであった。
そこに含まれた意味は、とても言葉では言い表せない、複雑な少女の心境。
「どうしたのー?」
「・・いや・・何でもない・・・」
エリザは、そんな親友の顔を下から覗き込むように見上げ、心から心配している声で問いかける。
が、それに対し、返ってきたのは素っ気ない・・拒絶の態度と、十全にその意思が乗った対話拒否であった。
「んー・・・もしかしてー、斬っちゃったこと・・気にしてるー?」
「・・・っ」
「その感じだと、ビンゴっぽいねー」
「・・なんで・・」
「何でも何もー、何年一緒に居ると思ってんのー?そんぐらい、予測するのはお茶のこさいさいってねー!」
「・・エリザは・・ズルい・・・」
「えー・・ズルいって何ー?人が折角慰めてあげよーって思ってるのに、その言い方は酷くなーいー?」
「・・・エリザだから・・いい・・」
「何それー?私には何言っても良いってことー?」
「・・・・・」
だんまりである。まるで、甲羅にこもった亀のように、彼女は口端を引き結び、下を向いて押し黙ってしまった。
「・・はぁ。まぁいいけどさー。それよりー、何をそんなに気にしてるのー?いつもだったら、そこまで深く考えないでしょー?」
仕事柄・・というか、生徒会長という役割上、当然、冒険者としても一線級の任務を行わなければならない彼女は、盗賊や極悪犯などの命を奪うような機会も数多くある。
されど、そのほとんど全てにおいて、任務後、彼女が殺害に関して何かを気にしたり、こうやって落ち込むようなことは無かった。
それは恐らく、これまで殺してきた相手が絶対悪であるとか、ろくでもない・・生きている価値もないゴミクズのような人間だったからだろう。
だが、今回は違う。今回、彼女は勘違いで、しかも殺した相手が生き返ったとはいえ、何の罪もない一生徒を殺してしまった。
とても、勘違いで済む問題でも、謝って片付く話でもない。
「・・・エリザ・・私は、どうすればいい?・・・」
問に対して問いで返す。普段の彼女ならばまずしないことだ。
歯切れの悪い、途切れ途切れの口調は相変わらずだが、それでも声音の所々に、隠しきれない怯えと震えが透けているあたり、今回のことが如何に彼女にとってショックの大きいことであったか、容易に想像できるだろう。
「どうもこうも・・・私だって分からないよー。殺した相手が生き返るとか、フツーなら有り得ないからねー」
「・・うん・・・・」
期待していた答えとは違ったのだろう。明確にションボリと、落胆した様子で肩を落とした彼女は、覇気のない声で頷くだけであった。
それを見て、エリザは心の奥底で溜息を吐く。このままでは、彼女はこの先ずっとこの問題に悩み続けてしまうだろう。
それは、彼女の現在の状況的にも、エリザの目的的にもーー何より、エリザと彼女、2人の精神的にも、大変宜しくない。
「・・・でも、私なら・・」
多少面倒ではあるが、フォローぐらいはしておくべきか・・・と、言葉を紡ごうとして・・・。
「やぁ、二人とも。少しお話・・良いかい?」
どこからともなく現れた人影が、その台詞を遮った。
「うん、うん、うん。特に身体に異常も無さそうだし、意識障害とかも起きてない・・・よし。大丈夫そうだね。もう行っていいよ」
入念な検査を終え、身体の至る所を隅から隅まで調べ尽くされた後、ようやく俺は保健室という名の純白の牢獄から解放された。
「あーーー・・やっと出られたァ・・・」
保健室の養護教諭である、メディコ先生はその仕事ぶりが丁寧なことで有名だったが、いざ自分で受けてみると・・成程、あまり言いたくは無いが中々に面倒だな。
今日が休日だということもあるのだろう。かなり不機嫌な様子の彼女に視線だけで長い間詰められるのは結構クるものがあった。
「まさか、起きてから出るのに2時間もかかるとは思わなかったぜ・・・」
起きた時にはまだ沈む直前だった夕日も、もう殆ど頭しか見えないぐらいの高さになっちまったし、ひっきりなしに聞こえてきた色んな部活の掛け声やらなんやらも、もう全く聞こえてこない。
「・・・エイス達や先輩には、悪いことしちまったかなぁ」
これじゃあもう、今日中の事情聴取は無理だろうな。
「今日はもう、大人しく帰るか・・・」
メディコ先生にも安静にしてろって言われたし、そうしよう。うん。
稽古は・・・どう考えても安静とは程遠いし、これは仕方ないってことで、割り切るしかない。ていうか割り切りたい。
「よし!帰ろう!」
さてさて、今日の夕飯はーーー
ーーー数分後
「まぁ、とか言いつつ見に来ちまうんだけどな」
七大国立中央魔術学院敷地内、教室棟の西側、食堂にほど近い場所に、人影が一つ現れる・・つっても、俺の事なんだが。
「いい感じに俺も毒されちまってんのかなぁ」
前は修練場に来る度にダルさが天元突破してたが、最近・・特に、巨人暴走事件の騒動が過ぎてからこっちは、アイツらと修行するのにそこまで抵抗感が無くなってきたんだよな。
まぁ、1度あんな経験しちまったら、強くなるための努力とかそういうのは、嫌でも惜しまないようになっちまう。
それに、最近は勝率も前と比べて上がって来てるからな。
なんつーか・・一言で言うなら、こういう、段々と自分を強くしていく過程が、楽しくなってきたんだろうな。ボッコボコにされても苦に感じないってのは、それはそれでどうかとは思うが、まぁ、それもまた修行の一貫として捉えれば問題ない。
何より、今は取り敢えず嫌なこと全部忘れて、戦いに没頭してえ。『ヴォイド』も、『黒化』も、『ナニカ』も、『蘇生』も。全部、思考の奥に置き去って、刃を、魔術を、存分に振るいたい。
そんな気分だ。
「つーわけで、いっちょやってやろうじゃねえか!たのもーーー・・・お?」
光魔術ーーー『白閃』
雷魔術ーーー『雷閃芒』
純白の閃光と黄金の雷が視界を上下に二分する。だだっ広い修練場の殆ど中央で激突した2つの魔術は、その内に秘めた魔力を衝撃波と共に周囲へと撒き散らし、およそ最下位魔術とは思えないほどの威力でもって、場内を揺るがした。
が、それだけの威力を内包していて尚、それらはただの前座に過ぎない。ただの牽制、言わば様子見の一撃が済んだだけ。
現に、両者の発射源には既に無数の魔術陣が展開されており、その一発一発に先程と同等かそれ以上の魔力が込められているのが確認できる。
「ッ!」
光魔術ーーー『白閃』
雷魔術ーーー『雷閃芒』
直後、修練場を席巻したのは、荒ぶる二色の弾幕戦。中空に無数の線を描き、もはや何分割かも分からないほどの数、視界を分断していく直線群の様相は、正しく圧巻の一言に尽きる・・・が、生憎と、その美しい光景を前にしたまま、立ち止まることを許してくれるほど、両者の身を置いている場所は甘くは無い。
炎魔術ーーー『飛炎脚』、『烈赫掌』
風魔術ーーー『追疾風』、『堅固風』
衝撃と魔力の爆散によって舞い上がった砂煙を切り裂いて、2つの人影が激突する。
一方はその身に炎を纏い、黄金の穂先を高々と振り上げて蒼炎の轍を大地に刻む。
一方はその身に旋風を纏い、白銀の蛮刀と豪奢な小盾を旋回させながら碧風を廻す。
「オォッ!」
「シッ!」
激突は必至。炎が風を、風が炎を、互いに食い破らんと吹き荒れる魔力の中心で、極みに至った超絶技巧の応酬がこれでもかとばかりに繰り広げられる。
刃が振られたかと思えば穂先が突き出で、拳が振り上げられれば蹴撃がカウンターで襲いかかる。
目まぐるしく攻と防が入れ替わり、剣と槍の間合いから、超至近での肉弾戦まで、その全てにおいて上澄みも上澄みの殴り合いが都合数秒。弾幕飛び交う激戦の最前線で展開される。
「足りん・・足りんなぁ!手数が足りん!もっと撃て!小娘ぇ!!」
「ッ・・・キッツい・・!!」
「アハハハハッ!!させるわけないじゃないかそんなことぉ!!」
「よそ見は良くないですねぇダバーシャぁ!!」
「チィッ!」
台詞と今戦ってる面子から察するに、恐らく今は2対2の実践訓練をしている所なのだろう。エイスとシャールヴィのペアvsダバーシャと・・・ん?誰だ?アレ?
「テンポ捷すぎッ・・!!」
シルクの様に透き通った純白の髪に、獣の様な野性的な攻撃性を秘めた深紅の瞳。若くして鍛え上げられた健康的な四肢を持ち、あの三人に勝るとも劣らない整った顔立ちをしたあの少女は・・・!!
「ホワイト?」
何でホワイトがアイツらと修業を・・というか、そもそも何でここに居る?確か今は家庭の事情とやらで迷宮国家の方に行っていたはずだが・・・。
と、そんなことを考えていた時だった。
ピクッ・・と、ホワイトの耳が動く。
「あ」
マズい・・と、思った時にはもう遅く。
光魔術ーーー『昇華の微光』
「先ぱぁ〜い!!!」
「マズッ・・!?」
避けれねぇッ!!
衝突。唐突にその身を翻し、弾幕戦を放り出した白銀の閃光が、瞬く間に距離を詰め、両腕をこちらに向けて突進してくる。
「グォッ!?」
頭突きィッ・・・!?
あ、ヤバいコレ。意識トビそう。ダイレクトに鳩尾ぶち抜いて来やがったコイツ。
「ク、オォォォオォッ・・・」
呻くことしか出来ねぇ。てか、もう視界の端が黒ずんで来てやがる。
一体どんなスピードしてやがんだよ・・動き殆ど見えなかったぞマジで。
「テメェ・・ホワイト・・・」
「お久しぶりです!先輩!何か色々有ったみたいですね!」
快活な調子で放たれた、悪気の無い声が人中に響く。色々と言い返してやりたい事はあるものの、今はただ、カッスカスの声にならねえ呻きしか発することが出来ねえ。
「先輩達の噂、私の所までバッチリ届いてきてましたよ!巨人の暴走を止めた英雄だとか何とか・・・。良かったら、是非お話聞かせてください!」
すまん・・・今、ちょっと・・無理・・・。




